江戸中期というから18世紀後半の作家、上田秋成の「雨月物語」は怪奇幻想小説で、全五巻九編から成り、作者43歳の時に刊行された。 これは中国の怪異説話集「牡丹燈記」を典拠とする翻案で、こんな内容:
年来の好色のこの男。遊女と駆け落ち、純情な新妻を裏切る。すると病に罹った新妻は亡くなってしまう。遊女もまた、死んだ妻の霊に取りつかれ病死する。
そうこうするうちに、男はまた別の美女に出会う。ところが、この美女というのは妻の亡霊、女は恨みつらみを延々と述べる。すると男は陰陽師のところへ駆けつけ、言われた通り、呪符を戸毎に張って 妻の死後四十九日が過ぎるのを待つ。 その間、夜毎に死人の霊による凄まじいばかりの怒りの声。 こうして竟に、この怨霊によって夫もまた、亡くなってしまうのである。・・
「雨月物語」には他に、「菊花の契り」や「浅茅が宿」や若き北面の武士で、後に出家した歌人・西行と崇徳上皇の、1168年の秋、崇徳凌での対話によって描かれた「白峰」などがある。
これによって、それまでの怪異説話が文学の高みへと引き上げられた傑作集である。