ジャンヌは司祭を見やり、どぎまぎして云った。 「あの女中と主人の一件以来、主人とはベッドを別ですわ」
だが、この田舎司祭は田舎の男女の乱れと締まりのない風習に慣れていたので、彼女の告白に驚いた。そして、この若妻が本心は何を望んでいるのか分かった。 「なるほど、わかりました。奥さまは まだ、若い。孤閨を守りたいことは分かります。ですから、当然のこと・・」 こう云いながら、司祭は にやりとしてジャンヌの手を軽く叩いた。
「実際、十戒に照らしてみて、それはもう、・・。男女の交わりは婚姻においてこそ許されますな。 奥さまは結婚しています。それは何のため。まさかとは思うが・・・・」 ジャンヌは一瞬、司祭の言葉の裏を解しかねた。が、すぐに、気づき真赤になり、泪まで浮かべた。 「まあ、何を仰います。わたしは誓って、・・・」と云うや、言葉を詰まらせた。すると司祭は慌て宥めた。 「まあまあ、奥さま・・」
モーパッサン「女の一生」より