仔羊の回帰線

詩と散文のプロムナード :Promenade

*ホメロスとウエルギリウス: バース「酔いどれ草の仲買人」より

2023年02月20日 10時28分27秒 | ギャラリー:世界の文学 Ⅰ

     チャールズ閣下、貴殿は先刻、詩人とは何か、詩人には いかなる仕事が任せられるかと お訊ねなされました

エベニーザー・クックは パイプ煙草に火をつけてもらうと 続けた。

  怖れながら、閣下に、お伺いしたい。・・

 アガメンノンにせよ、英雄アキレスにせよ、オデュッセウスにせよ、総じて、ギリシア人とトロイとで やらかした戦争が なかりせば、 そして  ホメロスが詩に書かなければ、世間は あの騒動のこと 知りえたでありましょうか。・・

どんなに重大な戦争でも、歌い伝えられなければ 歴史の塵に埋もれてしまったでありましょう。・・

すると チャールズは笑いながら云った。

  ならば 詩人が 国王の随員として 役に立つというのだな                                 

その通りでございます  

エベニーザーは自分の弁舌に感激し続けた。:

   ギリシアに栄光を歌い残したホメロスなく、ローマに威容を歌い残したウェルギリウスなかりせば、二国は 如何でったことか。・・

 英雄は 滅びて消え、彫像は崩れ去り、帝国も 崩壊の運命にあったことでしょう。・・ 

ですが、「イリアス」然り、ウェルギリウスの詩句もまた、真実を伝え残しておるのでございます。

  詩人のほかに 美徳も悪徳も 真実に描く者はおりますまい。

教訓も実例も 伝えるのは 詩人のみ。・・

叙情詩のごとく歌い、頌詩のごとく讃え、哀歌のごとく嘆き、風刺詩のごとく刺す、これができるものは 他に何がありまするか。・・

   John Barth ; The sot-weed Factor

   ジョン・バース「酔いどれ草の仲買人」より

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