五十八歳になるおじさんが、パソコンで文章を打つためにワープロ入力の練習に必死な人がいる。
その人曰く「ローマ字入力は頭の中でいちいち考えなければならないので時間がかかる」といって嘆いていた。
私は「かな入力」をいつも人に勧めている。いちいち西洋式のアルファベットを頭に浮かべる必要はないからだ。
だが、かな入力で打つ人というのは極めて少ない。
入力するプロフェッショナルの場合は別だが、一般にはあまりないようである。
私はローマ字入力はできるが、ほとんどかな入力している。他人のパソコンを使うとき、いちいち設定を変更するのが面倒な時はローマ字でやるが、九割以上かな入力だ。
かな入力できる人間は、100%ローマ字入力はできる。逆にローマ字入力できる人間のほとんどはかな入力ができないといっていいだろう。かな入力する人間も英文字は打つから、全員が全員、かな・ローマ字の両方で入力できる。
私がかな入力を勧める理由は、「日本人としての感性を大事にできるから」である。
民族主義者や理論右翼の人ですら、かな入力ができない。それで愛国などとのたまっている。
人と話しをするとき、いちいち、自分の言葉をローマ字で置き換えることはしないだろう。
ところがワープロで文字をうつとき、知らず知らずのうちにそれが文章に表れる。だから、とくに文学的文章や芸術的なもの、音楽・映画の批評を記すとき、ローマ字入力ではその思いが、微妙に伝わらないのである。
ローマ字でいったん置き換えることは、きわめて機械的に脳を使うことになる。したがって右脳で感じたことでも、いったん左脳を通してしまうのがローマ字入力である。
そこで、今こみあげられた思いは、機械的に生産工場でできた製品と化してしまうのである。
かな入力をいったん覚えてしまうと、ローマ字入力などというのはかなり無駄な労力をしていたと気づかされる。
中国などは漢字しかないため、それをすべてこのキーボードに表示することはできないゆえに、いったんローマ字で入力し、音声によって変換せざるをえないことから比べると、わが国は実にもったいないことをしているのである。
この一見でたらめな配列に見られる五十音でも、覚えてしまえば楽だから面白い。
私がかな入力にするきっかけとなったのは、そもそもは民主党国会議員にもらったワープロでローマ字入力を覚えたが、それにはあきたらず一応かな入力の練習もした。その後、ある若手改革派市長が、市議会に速記をパソコンでやろうと言い出した自治体があり、そのためにはローマ字よりもかなで打つ方が断然に速度が早いため、そういう人間が欲しいということで私に依頼があり、さらに特訓を重ねた経緯がある。結局、その市議会は実現できなかったが、物事を考えて文章を書くには、この方法が一番、自然な形であると今、気づかされている。
わたしは以前から、このことを言っていたが、友人が最近かな入力を覚えたらしく、やっと私の言っている意味が理解できたと話してくれた。
「美しい」はあくまでも「うつくしい」であり、決して「utukusii」ではない。日本の伝統・文化を守れという立場の人であるのなら、まずはかな入力を覚えていただきたい。
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