デンマークには沢山の中東系移民がおり、宗教も文化も違うそれらの人々が、どうやったらデンマーク社会に馴染んでいけるのかと、毎日のようにTVや新聞で取り上げられていますが、看護業界でもどうやってムスリム患者を受け入れていくか(看護の質)、また人手不足な医療福祉業界で、移民および移民2世(デンマーク育ちだが、母国の文化および両親の影響を濃く受け継いでいるため、デンマーク社会に馴染みきれてない人も多い)などの雇用を増やすために、どう現場を整備していくか議論されています。
その中でもユニフォームについてですが、イスラム系移民の中でも、けっこう柔軟にデン社会や習慣に対応している人なら問題もないのですが、敬虔な信者の場合、特にムスリムの女性では頭にかぶるスカーフや、肌を隠す洋服(身体の線が見えてもいけないので、タイトなズボンもダメ)が絶対であり、雇用する側と職を求めるムスリム女性との間でユニフォームについて議論が起こっています。
写真はデンマークの看護雑誌でこのテーマについて取り上げられた時のものですが、右はデンナース白衣、で、左がムスリムナースが求める白衣です。頭のスカーフと身体のラインが見えないダボッとしたワンピース、腕までしっかり隠れるようなデザイン(まるで修道女のよう)ですが、これでは衛生第一な病院では不衛生、かつ動きにくいという問題が。
デンマーク側としては移民の人にも仕事を得てどんどん社会参加していって欲しいし、ましてや医療福祉現場では人材が足りなくて仕方ないので(景気のいいデンマーク、最近のデン若者にはビジネスの方が人気)なんとかこの辺、折り合いをつけていきたいところなのですが…なかなか話し合いが進みません。
数ヶ月前、イスラムとの問題をとりあげる番組の中で、ムスリム側のコメンテーターとしてある若いムスリム女性がよくTVに出演していました。彼女はムスリムのスカーフを巻いて堂々とハキハキとコメントし、その当時は何をくわしく話しているのか聞き取れませんでしたが、でもその話しっぷりはとても知的な感じでした。きれいな人だったし、ハキハキ答えるし、その当時のTVやニュースでは本当によく見かけたのですが、その後「ムスリムのTVキャスターがスカーフを巻いてTVに出演するのはどうか」というテーマ(だったと思う)が囃されだしたあたりから姿を見なくなってきました。
この議論に関しても賛成派は「メディアに携わる人であっても、その人個人の宗教などには敬意が払われるべきだ」と、そして反対派は「メディアから得る情報、イメージというのは大きなものなので、ある宗教のシンボル的なものを流すのはよくない」として議論されましたが、結局そのムスリムな彼女の姿がメディアから遠のいていったことから、反対派の意見が勝ったように見受けます(詳しい事情はわかりませんが)。
しかしこの手の「他文化をどこまで受け入れていくか」という問題でのデン人達の反応を見るたび(白衣の問題はまた別として)、ああ本当にこの小さな国の人達は、他文化に飲み込まれてしまうんじゃないかということに神経質になっているなあと感じます。
デンマーク人が愛する言葉で「Hygge(心地いい、気持ちいい、温かい、和やか)」というものがあり、大切な家族や友達、恋人などとまったり楽しく過ごす時などによく使う言葉なのですが、デン人はこのHyggeのために生活しているといってもいいほど、Hyggeは彼らにとっては大切な状況、空間です。
しかしこのHygge、取りようによっては「慣れ合っているもの同士が作り上げられる空間」でもあり、デンマークで同じような文化習慣伝統の中で育ち、それを分かち合える人が使える、というニュアンスもある気がします。
もちろん、最近の人ではそんなことは関係なく「へ~いい感じだね」みたいに軽く言う時にでもHyggeを使いますが、高齢の方やちょっと保守的な感覚のデン人と話すとき、「これが本当のデンマークのHyggeというものよ、わかる?(って言ってもあなたにはわからないだろうけどね)」と”教えられる”ことや、私がHyggeという言葉を使うと「へ~Hyggeがわかるの?」と若干驚いたようにリアクションをとる人もいます(なので私自身がデン人の前でHyggeという言葉を使うとき、自分で若干空々しさを感じます)。
外国人にとってこのデンマーク人のHyggeがわかり、自然に使えるようになるまで、そしてそれをデンマーク人も自然に受け取るようになるまでは、思った以上に長いのかな、なんて思ったり。きっとその時というのはデンマーク社会と文化に溶け込んだ時なのでしょう。
そんなこんなで話は戻りますが、みんなそんなこと言わないけど、きっとデンマーク人、ムスリムの女性がTVでニュースを読んだり、そういうことはHyggelig(Heggeの形容詞)じゃないんだろうな、なんて。若い世代の中でそういうことも今後変わっていくんだろうけど。
ナースの白衣もお互い歩み寄りつつ、擦り合わせて、いいものが出来るといいなあ、と思います。