goo blog サービス終了のお知らせ 

Kanaheiのデンマーク生活

糖尿病の勉強をしたくてきたデンマークでの紆余曲折な生活を日記として残しています。

がんばれガイジン講師(私)

2010年05月27日 | デンナースのお仕事
  日本帰省の前までは英会話に通ったりしていた関係で、あまり準夜勤(15~23時)をしていなかったのですが、最近また準夜勤をとることになりました。

 準夜勤のメインイベントといえば、「患者さん向け糖尿病教室」での授業。約1時間半にわたって、「糖尿病とは?1型と2型の違い」「検査値をどう治療に反映させるか」「正しい自己注射手技とインシュリンの保存に関して」「旅行時の注意」「血糖と運動」「フットケア」「糖尿病性眼病変」などのテーマで授業を毎日やっていくわけです。

 だいたいデン語もよちよちな私は、この授業で講師を勤めるのが超苦手。今までの授業では、講義というよりは、ソファーにこじんまりと集まって、私が投げたテーマに関して和やかに話し合いつつ、情報を交換し合いつつ、という感じだったので、なんとか切り抜けてきました。
 しかし最近、病棟で糖尿病教室用のスタンダードのパワーポイントが作られ、それを使って授業をすることが多くなってきました。別に使わなくてもいいものだけど、やっぱり視覚的に訴えるマテリアルというのは効果的なこともあり、私も今週はそれを使って授業をしています。

 が、パワーポイントでの陥りやすい罠として、見ている人に常に注意を向けていかないと、かなり退屈な授業になってしまいます。私も一昨日は慣れないパワーポイント、しかも30ページ以上に及ぶ長いものだったこともあり、このパワポの流れに沿ってひたすら授業を進行させてしてしまったので(ページの少ないパワポだともっと自分の中で進行の流れを作りやすい)、ハッと気がついたときには患者さんがアクビをしている状況…。

 さらに、そのクラスの雰囲気というか、毎週月曜日に一斉にやってくる患者さんはその時々様々で、まとまりのいいグループもあれば、てんでバラバラに言いたいことを言う人達や、授業をかき乱す患者さんもいたりで色々。
 で、今週のクラスは平均年齢50歳くらいのおばちゃんが多く、まとまってはいるんだけど、ちょっと静か。退屈なパワポで患者さんのリアクションの薄さに気まずくなってどもる私のデン語、重い沈黙、もっとしどろもどろになる私…。
 久々の、そしてパワポを使った授業は自分的に超ダメダメでしたが、その後優しい患者さんが「大丈夫よ、デン語が難解な言語だってことはみんなわかってるから。十分理解できる授業だったわ。」と励ましてもらいましたが(励まされてどうする!)、翌日の超ベテランスーパーナースのTが授業をしたところ、授業後の患者さんの表情の生き生きしていることったら!!「すばらしい授業だったわ。たくさんの役に立つ情報ありがとうね!」ってわざわざナースステーションにお礼を言いにくる患者さんまで…。

 どどーんと、落ち込むどころか、地面にめり込む自信。そらー、ポルトガルの忙しい糖尿病外来で14年間バリバリ働いていたTと比べられたら、どうしようもないんですけど…。
 しかも間の悪いことに、今週は拒食症で長いこと入院している若い女の子の患者さんを私が担当しているのですが、彼女、私の言うこと(決まった量の炭水化物を食事から摂るという治療)に対し、まるで「どうでもいいね」というティーンエイジャーのように反抗的に振る舞い、約束をやぶり、しかしTが話すと素直に聞くという…。
 まあ、この子はいつも誰かしらに対してそうなんですが(その時々で話を優しく聞いて甘やかしてくれそうな人に媚びる。ボーダーラインという精神疾患との境目)、どん底に自信をなくしている状態だったので、もう悲しいやらなんやら。

 このスーパーナースのT、昨年私より後に入ってきたのですが、その後彼女の素晴らしいキャリア欲しさに上が仕掛けた、契約社員3名の中で契約をめぐるややこしい騒動があったり、それほどスーパーな彼女。
 そんな彼女と比べるのはバカらしいことだけど、でもあまりに優秀な人と対等に働くのもつらいものがあります…。

 準夜勤も終わり、どん底なムードで帰ろうとしたのですが、ふとしたことで深夜勤の、これまた大ベテランナースSと糖尿病教室の授業について話し、初日の授業がうまくいかなかったこと、沈黙があるとテンパってしまうこと、患者さんにTと比較されているようでつらいことなどを打ち明けると、色々親切に相談に乗ってくれました。

 Sの授業は伝説というほどに素晴らしいと評判なのですが、そんな彼からまず、授業のポイントをいくつか。
 「パワーポイントは確かに患者さんが置いてかれやすいから、もし自分で使いにくい長いようなものだったら、いっそのこと無視して自分で流れを作った方がいい」「授業に患者さんを引き込みたいんだったら、常に患者さんに質問を投げかけること。自分で質問して自分で答えていってもいい」
 そして、「Pause(間)を怖がらなくていいんだよ。デンマーク人ってのは他の外国人に時々、会話の中で”間”が多いから変だと言われるんだけど、僕らにとっては普通だから。質問されてすぐに答えられなくても、ここではそれはそんなに恥ずかしいことじゃないんだ。だからパニックになる必要ないし、じっくり考えてるんだ、っていう音(うーん)とか出してもいいし、出さなくてもいい。もしかしたら患者さんの沈黙も、ただ考え中ってだけかもよ?」と。これは超意外な発見。
 さらに「他の人のやり方を聞くのはすごくいいことだけど、みんなそれぞれ違ってて、授業にだって個性がある。だから比べる必要はないんだよ」と。そっか、私は無理にみんなと同じようにする必要はないのね。ていうか、そもそもネイティブで大ベテランのようになんて出来ないんだけど、がんばってどうにかしなきゃ、と思ってたから失敗したのね、と。

 Sは数年前にステノのプロジェクトでインドへ行って、50名以上のインド人の医療関係者に対して講義を行ったそうで「死ぬかと思った」そうです。ひたすら長い沈黙、パワポ、そしてある意味ネイティブなんだけど決して聞き取れない「印グリッシュ(インド人の英語)」で次々投げかけられる質問。「いやーあの時は最悪だったね。本気で帰ろうかと思ったよ」と。なるほど。ありがとうS!これからは「インド人50人に比べたら大したことないわ」って、乗り越えていけそうよ!

 そんなわけで、Sのお陰でめり込んだ自信も少し立ち直り、私は私で今後も「ガイジンKanahei的なヒュゲリな授業」をしていくことを心に決めたのでした。がんばるよー!

トップ写真:ベテランナースSが深夜勤のお供に連れて来た愛犬。一応病院ですが…。のんきなSと犬に癒されました。

やっと半人前

2010年05月17日 | デンナースのお仕事
 先日、念願だったInsulin kompetance kursusを受け、無事、Halv diabetes sygeplejerske(半糖尿病認定ナース)として認められることになりました。

 このInsulin kompetance kursusは、デンマークの糖尿病専門認定看護師の教育のうちの一部で、糖尿病に関する療養基礎知識と、インシュリン種類と効果、またカーボカウンティングという、食品に含まれる炭水化物量を計算してその人に必要なエネルギー量、またはインシュリン量を割り出す栄養療法などを学び、それによってドクターが処方したインシュリンのうち前後25%までを看護師の診断で処方できる権限が与えられるというものです。
 現在このInsulin kompetanceは各公立病院の糖尿病科で独自に設けられているもので、国によって定められた基準というか、そういうものはありません。なので私が日本で取った、地方団体による糖尿病療養指導士認定と似たような感じです(私のは西東京糖尿病療養指導士認定)。

 でもデンマークの場合、ほぼすべての大きな病院というのは公立で、各科の運営というのは独立しており、しかも病院個体としてのつながりというよりは、他病院であっても「糖尿病科」として横のつながりの方が強いので、たとえその病院オリジナルのInsulin kompetanceであっても、科での横のつながりでスタンダードができているため、だいたい全国共通として使えるということになるようです。
 というのも、デンマークでもまだこういった認定システム自体が新しく、私の働くステノが最初にそういった認定をはじめたこともあり、まだまだデンマークの厚生省や国に認定の普及を働きかけている段階だとのことで。

 糖尿病専門認定看護師である、Diabetes sygeplejerske(この表記ってなんか看護師自身が糖尿病みたいに聞こえるけど…)になるためには、このInsulin kompetanceを持っていること、さらに外来において最低2年間の経験を積み、さらに最終的に論文を提出しそれが認められると、デンマーク看護協会(たぶん)あたりから認定が与えられるそうです。
 ステノには今のところ40人くらいのナースがおり、そのうちこの認定を持っている人は1/4ほどでしょうか(修行中の人を含めると1/3くらい)。
 私はやっとこのInsulin kompetanceを取ることができたものの、まだ正規雇用ではないので、外来に修行に出るというようなプランもありませんが、本来このInsulin kompetanceというのは正規雇用の人が受けることができるコースなので、いずれは正規として雇ってくれるの?!という希望もチラホラ。正規雇用になって病棟もスタッフ的に安定してきたら、そして外来に空きが出来たら、きっと私も「認定取得への外来修行」に出してもらえるとは思うのですが…。先は長そうです。

 さて、じゃあこのInsulin kompetanceを取って、今のところ具体的に業務のなにが変わるかというと、ずばり週末やステノが閉まっている間の電話番ができるようになります。
 ステノは金曜の午後16時から週末は毎週閉まり、また国民の休日なども閉まりますが、ステノ患者さんは緊急電話相談になにか困ったことがあったらかけることができます。その電話対応をするのがこのInsulin kompetanceを持ったナースで、一回につき24時間(7時~翌7時まで)交代で行っています。
 平日の夜間帯などは、病棟がこの電話相談を引き受けているので、私も今まで何度もやってきていることですが、週末の電話番の場合、自宅に職場のノートPCと専用携帯電話を持って帰って、24時間ずっと、待機をしていなければならず、なかなかハードです。
 場合によっては一日に400件近くの相談があったり、真夜中にも重症の患者さんの対応を電話越しにしなければならなかったりと、精神的プレッシャーが大きいのもこの電話番の特徴。
 
 なので、みんなナース達もあまりこの電話番をやりたがらないわけで、これからバケーションシーズンで人手が足りなくなることもあり、正規雇用の話はまだないけど、とりあえず私にInsulin kompetanceを与えて、電話番もやらせよう、という上の魂胆もチラホラするわけで。微妙っちゃー微妙ですが、まあ、やるしかありません。

 記念すべき第一回電話番は、7月。まだまだ先のことですが、それまで積極的に病棟でも電話を取って、来る番の日に備えたいと思います。

写真:
先週行われた、フットテラピストによる糖尿病足病変に関する勉強会。
日本にはこのフットテラピストというのがいないので(看護師などが独自に講習会を受けて療養にあたってはいるけど)、糖尿病専門のフットテラピストに授業をしてもらえて、すごく勉強になりました。
ステノはこういう勉強会がちょくちょくあるので、本当にすばらしい。

記念写真1

2010年05月10日 | おもしろい人・おもしろいもの
 明日はいよいよ、insulin kompetance kursus(このコースを受けるとドクターの指示無しにプラスマイナス25%までナースがインシュリンの量を調節できる)の日なのに、ヨナスからまた変なリンクをもらってしまい、爆笑、そして気になって眠れません。
 Ankward familly fotoという、色んな記念写真のおもしろいのを集めたもの。微笑ましいのやら、恥ずかしいのやら、理解できないのやら、なんだかすごいものまで色々です。

 以下、私のお気に入りをいくつか。



「レーザーキャット」。80年代な背景がたまりません。



イースターのウサギが恐過ぎる!



タイトルは「You are not too late to learn」




 
 もういい加減に寝ます。あと60ページくらい残ってるので、続きはまた後日みて、またおもしろいのがあったらアップしていきます。

男って…

2010年05月09日 | おもしろい人・おもしろいもの
 ヨナスが男友達とコンサートにいってるので、久々に一人で週末の夜を楽しんでいます。もうすぐコンサートは終わるころだけど、きっとどこかでしこたまビールでも飲んで、ついでにケバブでも食べて、彼のささやかな「男の楽しみ」を満喫して帰ってくることでしょう。(でもしこたまビールを飲んで、ってところは私も彼以上にやってることですが)

 まったくなぜ、そんなことに…ということに夢中になったり、アホっぽさ全開だったりして、女としてあきれてしまうor理解できないのが男の人というもので、でもそんなところをちょっとうらやましいと思ってしまうのも、確か。

 以下はそんな「男ってバカ?」と思いつつ、ちょっぴりうらやましくも思えてしまう、おバカさん映像。

 まずは、デンマークのサッカーチーム、FC Nordsjælland(FC北シェラン)とFC Midtjullandのおバカさん達。

Football Crazy Danish Goal Celebration

ナレーターの男達も笑いすぎです。


 そして毎回いいCM作ってくれるハイネケンの新CM。これぞ男と女の「夢」の違いです。

NEW Heineken Commercial - verry funny



 やっぱ男の子はコンクリートなんかかち割ってしまわないと、です。

ご近所さんの話パート2

2010年05月06日 | おもしろい人・おもしろいもの
 以前、私達の住むアパートの奇妙な隣人達についてお話ししましたが、今回はその後の彼らです。

 うちの下の階に引っ越してきた、左翼系DJの彼。相変わらず、昼過ぎから重低音でレゲエや60年代R&Bを爆音で流しており、夜勤明けで寝ていると、耳栓をしていてもズンズンという振動?で起こされております。
 そんな彼、最近はホームシアターを設置したようで、これまた爆音で上映中。どんな映画を観てるのかわかりませんが、「崖の上のポニョ」とか突然流れてきたらウケるのに。

 「魅惑のチキルーム」こと、歌うオウムがドアベル代わりのおじさん家は、やっぱり人が出入りするたびに鳴るオウムにクレームが来たのか、それともオウム好きな人にでも盗まれたのか、いつの間にかオウムがいなくなっていました。あったらあったでうるさかったけど、無くなるとちょっと淋しい気も…。

 さて、3年ほど前アパートの住人で結成したお庭グループのメンバーとなり、裏庭の手入れに精を出している私とヨナスですが、気がつけばメンバーは私とヨナスの二人だけとなっていました。
 どユースク(ユラン人)のヨナスは、田舎育ちの血が騒ぐのか、植えたブドウの木をせっせと手入れしたり(去年は初めて収穫があった!)、芝生を刈ったり、黙々と楽しんでおります。
 そんな彼、今年はアパート管理組合の役員もやっているため、職権乱用?で、管理費からお庭改修費としていくらか引き出し、さらに2株ブドウの木を購入予定だとか。目指せ、ノアブロ初のワイナリー。

 私もあまりに緑ばかりで花がない庭が淋しい(というのは言い訳で、実は隣のアパートの裏庭がとってもヒュゲリでうらやましい)ので、花壇作成などプランを起こし、これから夏に向って張り切って庭仕事に取り組んでいく予定です。
 それにあたって、2階に住んでいる仲良しルイーザ(獣医学生)と、その向かいに最近引っ越してきた、田舎育ちで緑が恋しいという姉妹も巻き込んで、「新お庭グループ」を結成予定です。

 そんなわけで、これからの季節が楽しみです。

*トップ写真はうちのアパート外観。1階左のパブは、朝7時から営業中(モーニングビア?)。

**本日の晩ごはん(久々)
・グリーンアスパラとフレッシュローズマリーのポタージュ
・鶏ささみ、ベビーリーフ、アボカド、トマト、オリーブ、ゆで卵のサラダにフレッシュクリームにディルとケッパーのドレッシング
・もちもちEmerysの黒パン
・オーストラリアのシャルドネ(またヨナスのジャケ買いが当たった、35krでおいしいワイン)

プロ、ベテラン、恥知らず

2010年05月04日 | デンナースのお仕事
 たまには仕事の話でも。

 うちの病院にはよく、新しく糖尿病、特に1型と診断された患者さんが転送されてきます。
 おもに、高血糖症状が続き、または何か検診や別の病気の検査を受けた際に高血糖が発見され、ホームドクターなどで糖尿病と診断されて、インシュリン注射の導入、生活指導などのため専門施設であるステノにやってくるわけですが、中にはものすごいショックを受けて、診断に打ちひしがれてやってくる患者さんもいるわけです。なのでその精神的ショックを受け止め、療養に前向きにもっていけるように手伝いをしていくのも、私達ナースの大事な仕事です。

 ちなみに先日やってきた16歳の女の子は、ものすごい針恐怖症。わけがわからないまま、ホームドクターから転送されてきて、うちで糖尿病と診断された瞬間に「この先一生インシュリン注射」のイメージがついたのか、病室を訪れたナースはベッドの足下にうずくまってパニックになっている彼女を発見。
 その彼女は「一切注射の話はしないで!糖尿病って一言も絶対言わないで!」と泣いてわめいて、それでも上がり続ける血糖を抑えるために、どうしてもインシュリン注射をせねばならず、ナースが注射をすると(思いっきり目をつぶってお父さんに抱きしめてもらいつつ)、なんと注射針を抜いたその直後、洗面所に走っていって嘔吐!ものすごい拒絶反応です。
 それでも、うちの超超ベテランのナースの、そのへんの心理カウンセラーよりも全然きめ細やかかつ温かいサポートの甲斐あって、たった2週間でなんと自己注射ができるようになり、今では自分で低血糖にも高血糖にもきちんと対処できるようになりました。

 私はまだナースとしてのキャリアも、人としての厚みもまだまだで、正直この彼女のようなケースは荷が重すぎるので、今はまだ担当を外してもらっている状態です。関わり方ひとつ、言葉ひとつ、仕草のひとつで、彼女のような患者さんは病気の受け入れがうまくいくかどうか決まるので、かなり慎重にスタッフも当たらなければならないからです。
 担当を外れている時は、ちょっとホッとする反面、なかなか恥ずかしいというか、情けないというか。でも患者さんにとってはそんなことよりは一生に関わる問題なので、恥ずかしいとか言ってる場合じゃないんですが。
 まあとにかく、早く私もこういう患者さんの力になれるよう、今度は一緒に悩みとか分かち合って、一緒にがんばっていけるよう、言葉が少しまずくても、そんなの忘れさせるほどプロとしての糖尿病の知識も経験もあるナースになりたいな、と。
 つまり、こういう情けなさや無力感、恥ずかしさが、次の一歩になるんだ、と、向いてる方向がはっきりしていれば、人生に無駄なことってないんだなーと思ったりしたのでした。で、その正しいというか、良い方向にいつも向かせてくれるのが患者さん達で。

 つい先週もまた忘れられない患者さんに出会い、あー看護師やっててよかった、とふるふるしていました。

 その患者さんNさんは、やはり彼のホームドクターから紹介で入院してきたのですが、それがまたもう、ステノに来るまでが本当に気の毒で信じられない話でした。

 Nさんは2年前にホームドクターのもとで2型糖尿病と診断され、内服療法を続けていたのですが、この7ヶ月ほどで急に糖尿病が悪化。内服薬の量が増やされたり、別の薬に変えてみたりしても血糖は上がる一方。もともと肥満でもないし、運動もほぼ毎日しており、食生活だってとっても健康的なので、とても悪い生活習慣からの糖尿病という感じではありません。
 今年に入ってからはますます血糖が上がり、この1~2ヶ月には体重が8kg減少。4月に入って血糖はさらに高くなり、もうどうにもこうにも身体も限界なのに、主治医はまだ内服薬を変えたり、さらにはなんとノボから新しく発売されたVictoza(GLP-1ホルモン製剤)を処方するという暴挙に。
 
 まず、Nさんの生活習慣からして、体型からして、血糖の上がり方からして、なぜ1型糖尿病を疑わなかったのか、体重8kg減少でガリガリなのにメトフォルミンとか、挙げ句にVictozaを処方するに至っては、医師免許を本当に持っているのかと疑いたくなります。だいたいVIctozaなんて、2本で1000krくらいの超高価な新薬で、「本当はNさんで試しに使ってみたかったんじゃ…」と。

 そんなホームドクターのせいでNさんは心身ともにボロボロ、娘さんが「おかしい!」とステノをみつけてきて、やっと入院してきたときには、不安で表情も固く、とても弱々しく「彼(ホームドクター)には、ゆっくり殺されるような感じだったよ…」と。
 彼の気の毒な話を聞いて、自宅で計っていた血糖値をみて、なんの迷いもなく「一型糖尿病(IDDM)!」と思い、すぐにステノの担当医と話してもらい、入院後1時間後にインシュリン療法をスタート。
 するとです、超即効型のインシュリンを2時間毎3回打ったところで、それまで30mmol/l (約500mg/dl)くらいあった血糖が、すぐに正常範囲に戻ったのです。もうなんの迷いもなくインシュリン依存型糖尿病、つまり1型です。

 初めて血糖値が正常値になったとき、Nさんがものすごいシリアスな焦った様子でナースステーションの私のもとに駆け込んで来たので、どうしたのかと思ったら、Nさん、自分の血糖がこんなに”正常”になったのが信じられず、びっくりして飛んで来たのだそうです。
 そのとき血糖値を聞いて「Yes!!!」と、思わず叫んでしまったのですが、それを聞いてNさん、これまで我慢に我慢を重ねて苦しんできたのから解放されて、嗚咽しながら泣いていました。「ありがとう、ありがとう、一番恐ろしかったのは、もう僕に効く薬はないんじゃないかってことだった」と。

 Nさんのホームドクターの最初の診断が間違っていたのかどうかはわかりません。緩徐に進行していく1型だったかもしれないし、膵臓からのインシュリン自己分泌が短期間のうちに無くなっていって、最終的に一切分泌されなくなる2型のタイプだったかもしれないし(1.5型とか呼ばれ、最近特に有色人種に多い)、その辺はわからないけど、でも自分の手に負えない、わからないことをどうしてわかる人に聞かなかったのか。
 聞くは一瞬の恥かもしれないけど、自分の未熟さやバカさを認めるのはつらいことだけど、でもその自分の一瞬のために、ここまで患者さんの心も身体もボロボロにさせて悲しませてしまったというのは、医療者としてなにより愚かで、本当に許されないことだと思います。
 全部の分野にプロフェッショナルであれ、なんていうのは無理なことだし、日進月歩の医療でわからないことがあるのは当然です。でもできる限り自分の分野について努力してトッププロフェッショナルであり続けること、わからない分野に関してそのプロと協力していくこと。「ベテラン」と呼ばれるようになればなるほど、難しいかもしれませんが。

 とにかく、復帰早々、患者さん達には教わることがたくさんです。