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防衛省平成二九年度予算概算要求の検証【4】 統合機動防衛力整備へ中期防四年目

2016-09-26 22:24:07 | 北大路機関特別企画
■統合機動防衛力整備へ
 統合機動防衛力整備へ中期防衛力整備計画四年目という節目となる概算予算要求です。

 平成29年度概算要求の考え方としまして、本文では“「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」(平成25年12月17日閣議決定)及び「中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)」(平成25年12月17日閣議決定)に基づく防衛力整備の4年度目として、統合機動防衛力の構築に向け、引き続き防衛力整備を着実に実施。”と明示しています。中期防衛力整備計画は後半に入り、新しい防衛施策の実現への転換事業が続いています。

 中期防、中期防衛力整備計画とは、防衛計画を五年単位で中期的に整備を計画しているものです。これは年度ごとに防衛計画を構築する場合、毎年の防衛計画が迷走する事を防ぐためのもので、まず、十年二十年単位の防衛政策の方向性を、防衛計画の大綱、として画定し、その上で五年単位の中期防衛力整備計画として、主要装備の調達計画や部隊編制を防衛計画の対抗が示す防衛政策を具現化するため、順次改編や増勢減勢を行ってゆく、というもの。

 統合機動防衛力の構築は、自衛隊創設以来最大の改革と位置づけられており、中期防衛力整備計画ではその整備へ必ずしも十分とは言い難いものの着実に転換が進められています。統合機動防衛力が我が国防衛政策最大の転換となったのは、そもそも我が国の防衛計画は専守防衛に依拠した基盤的防衛力整備を念頭に、基盤的、つまり全国に防衛部隊を均等に配備する防衛基盤を構築する施策を展開してきました。これが転換しようとしている背景には、第一に弾道ミサイル防衛能力整備、第二に北方脅威に加えた西方脅威の現出、があります。膨大な新任務に伴う所要費用と脅威の多極化に基盤的防衛力が維持不能となった。

 専守防衛政策は平和憲法の観点から維持されますが、基盤的防衛力整備が弾道ミサイル防衛及び西方脅威の顕在化により維持できなくなった事から、自衛隊の全部隊を機動運用部隊とすることで、防衛力の希薄な地域が平時から生じている事を是認しつつ、必要に応じて自衛隊を緊急展開させる事で防衛力不均衡という現実に合わせようとしている訳です。この施策が従来実施できなかった背景には、例えば北海道から沖縄へ緊急展開する能力は北へ転じればカムチャツカ半島へ、南に転じればヴェトナムまで展開できる距離に匹敵しますので、緊急展開能力の転用が濫用に繋がらないよう、かつては自粛されてきました。

 平成29年度概算要求の考え方、“各種事態における実効的な抑止及び対処並びにアジア太平洋地域の安定化及びグローバルな安全保障環境の改善といった防衛力の役割にシームレスかつ機動的に対応し得るよう、統合機能の更なる充実に留意しつつ、特に、警戒監視能力、情報機能、輸送能力及び指揮統制・情報通信能力のほか、島嶼部に対する攻撃への対応、弾道ミサイル攻撃への対応、宇宙空間及びサイバー空間における対応、大規模災害等への対応並びに国際平和協力活動等への対応を重視するとともに、技術優越の確保、防衛生産・技術基盤の維持等を踏まえ、防衛力を整備。”と続く。

 ここで述べられています、各種事態における実効的な抑止及び対処並びにアジア太平洋地域の安定化及びグローバルな安全保障環境の改善といった防衛力の役割、という部分は、北東アジア地域における不安定よそが、冷戦時代においてはソ連の軍事圧力に対抗するものへ、アメリカを中心とした価値観を共有する諸国の連携がその圧力が均衡を超えた武力紛争へ展開する事を回避するという視点から進められてきましたが、アジア太平洋地域の安定化、というものは具体的には東シナ海及び南シナ海においての情勢が反映されている。

 我が国防衛政策は、警戒監視能力、情報機能、輸送能力及び指揮統制情報通信能力、島嶼部攻撃への対応、弾道ミサイル攻撃対応、という施策を以て我が国防衛を具現化してゆく事となりますが、警戒監視能力とは広大な南西諸島などへの陸海空による警備部隊と監視部隊の配置というものを想定しているのでしょう。情報機能、これについては電子偵察や宇宙からの監視を含め有事を未然に察知する機能、というものを示唆しているのでしょう。

 輸送能力及び指揮統制情報通信能力、この施策は情報RMA等今世紀初頭から本格化する軍事通信技術に対応するべく、自衛隊統合通信基盤やや連隊指揮統制システムを筆頭に情報連携による少数部隊の有効利用への共同作戦展開能力構築を示唆しているとかんがえます。島嶼部攻撃への対応、これは新しい限定侵攻という脅威に対処するものです。弾道ミサイル攻撃対応、この整備は従来進められているものの延長ですが、質と量双方が増大する弾道ミサイル脅威へ更なる増勢が求められます、ただ、巡航ミサイル脅威が顕在化しつつある今日、将来的に包括的なミサイル防衛として統合化される可能性もあります。

 技術優越の確保と防衛生産技術基盤の維持、これについては、自衛隊任務の多様化、弾道ミサイル防衛を筆頭とする新防衛事業へ、限られた防衛予算が微増微減を繰り返す中で比率の少なくない部分を投じている為、装備品の調達数が減少し、民間企業である防衛産業への継続的な発注を行えず、防衛生産基盤と防衛装備開発基盤が危機に曝されており、この内なる危機に際して対応しようとしている、こうした施策が重点政策として提示されました。

北大路機関:はるな くらま
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