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アメリカのリスク 大統領選にみる変容と国際公序再構築【9】 ロシア懐疑派クリントンの「強硬姿勢」

2016-09-27 22:45:07 | 国際・政治
■ロシア関係をどう展開させるか
 アメリカ大統領選、共和党民主党両候補テレビ討論会が行われました。

 論点の一つに、日本は日本を防衛しているアメリカ軍に対価を支払っていない、という、恰も自衛隊の存在とアメリカが自衛隊と協力する恩恵を知らないような発言があり、少々不安を再確認させる主張と、批判だけの政治屋に政策立案と具現化の調整を担える政治家では、場合によっては大衆迎合主義に徹する事が出来る前者へ支持が集まる実情があり、不安を感じました次第です。こうしたなか、ロイター記事に“焦点:ロシア懐疑派のクリントン氏、垣間見える「強硬姿勢」”というものがありました、クリントン国務長官時代のロシア政策のリセット頓挫と、ロシアにとりトランプ氏が御しやすい存在だ、という視点です。

 ロシアとアメリカの関係、第二次世界大戦後の東西冷戦以降の古典的でありながら最も新しい国際政治の命題ですが、大統領選において、果たしてロシアとの宥和派と強硬派、どちらをアメリカ国民が選択するかについて大きな関心があります。民主党のクリントン候補は、この中でロシアとの厳しい外交戦を永らく戦い抜いたという実績とともに、ウクライナ介入とクリミア併合を受けてのロシアへの警戒感から、強硬姿勢を執るものと考えられています。

 オバマ政権での反省は、アメリカは中東地域からイラク撤兵を筆頭公約としたアメリカは引いたアメリカ軍をクウェートやサウジアラビアへ駐屯させるのではなく、中東から米本土へ撤収させることとなりました。無論、これは前のブッシュ政権時代からの米軍再編、地域紛争が増大する冷戦後の国際情勢へ対応させるべく、本土へ米軍を集中させ世界に少数の戦略拠点を配置し、緊急展開により紛争を迅速に鎮静化させるとの、米軍再編、を受けての改編にも沿ったものですが、紛争地へ出る、ということはイラク戦争の戦訓から大きな出血を覚悟しなければならず及び腰となり、結果的に中東からアメリカが引いた部分を、ISILの台頭とロシアの展開が埋め、地域不安定が増しただけでした。

 クリントン候補は、ロシアからすれば国務長官時代、ロシアのクリミア介入に強硬に反対し、対ロ強硬派という強い印象をロシア側へ植えつけていますが、グルジア戦争後のロシアへの様々な圧力をブッシュ政権からオバマ政権へ受け継いで以降継続しており、ロシアに対し、関係改善を試みた事はあるものの、基本的にロシアに対しては圧力しかかけていない、政治家としての実績を有しています。他方、共和党候補であるトランプ氏は対照的といえるかもしれません。

 トランプ候補は、ロシアと宥和的な発言を繰り返していまして、元々、アメリカ第一主義を掲げるものの対外政策からはアメリカの関与度合いの低下により負担の軽減を掲げています、いわばアメリカの本土防衛主義、アメリカ孤立主義への転換を進めると理解できる施策を呈示していますので、オバマ政権時代以上にアメリカが中東や欧州とアジア地域からの撤収を進める事は必至とみられ、引いた部分にロシアが逆に入れ替わる余地を示すわけでもあり、ロシア側からはトランプ氏の引きこもり政策は歓迎するでしょう。

 その一方で、対ロ政策について、アメリカが中東からの関与度合いの低下、軍事力を前面に出した力強い外交政策というものから距離を置く政策へ転換したオバマ政権の一員であったクリントン氏には、ロシアへの融和的な、もちろん、これはクリミア併合などロシアの周辺国への軍事行動が表面化する以前の、グルジア戦争後における関係悪化の回復、という意味ですが、ロシアへの歩み寄りを試みた、という実績と云いますか、過去の経緯があります。

 宥和政策の失敗という実績を以て、オバマ政権時代からは脱却し、ロシアへの強硬姿勢を強調することとなるのか、場合によってはトランプ氏が政権をとった場合、ロシアの周辺国への影響力拡大、東部ウクライナ地域へのロシア正規軍大規模介入、シリア領内へのロシア軍部隊戦略拠点構築と中東全域への影響力拡大、東欧カリーニングラード周辺地域への回廊確保を期した軍事行動、こうした次の段階へロシアが行動をすすめた場合、この抑止へ軍事的強硬選択肢を執る際に、時機を逸する可能性、本土撤収を進め過ぎ緊急展開能力では対処できなくなる可能性、否定できない。

 クリントン候補は、国務長官時代にロシアとの関係を、ロシアの強硬路線を止められなかったという意味で失敗している訳なのですが、宥和か強硬か、難しいのは、クリントン政権においてはロシアとの関係の再構築、ロシアの軍事行動を止められなかった、という反省を持つ現在の民主党政権の流れをくむクリントン候補に対し、伝統的にロシアに対しては強硬路線を採ってきました共和党が共和党本流ではなく、ロシアへの融和的な、しかし朝令暮改の様に政策が一定とならない共和党候補へ決まってしまったことから、対ロシア政策に決め手を双方ともに持っていない、という実情を、ロシアとの国際関係を有する諸国は認識すべきでしょう。

 アメリカ大統領選は、今後の世界の流れを決める非常に重要な大統領選挙人の選挙であるのですが、現在のところどうしてもポピュリズムの応酬に陥ってしまっているという印象から脱する事が出来ません。アメリカの世論調査では支持率は言葉と共に上下し、文字通り選挙戦の投票日の時機、というものが大きく反映されるところです。運も政治家の実力、とはよく聞かれる言葉ではあるのですが、ポピュリズムの揚げ足取りで政権が決まってしまう状況は、運不運というよりも、この運不運の結果の政権に振り回されるアメリカ国民と世界の安定に恩恵を得る諸国民の、不運といえるのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
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2 コメント

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Unknown (人民の目)
2016-09-28 12:08:48
米国の知日派は、日本が所謂「自主防衛」に動くことの危険性を熟知しております。東アジア諸国の中で軍事的に日本が自立することを望む国はありません。
日米安保条約は、関係する諸国が日本をコントロールするための大事な道具です。トランプ氏が大統領になったとしても、この路線は変更されないでしょう。
日本はあくまで経済国家としてのみ存在を許されます。
これこそが東アジア国際秩序なのです。
日米防衛用力の強化 (はるな)
2016-09-29 22:11:45
市民の目 様

ようやく、日米防衛協力の重要性を理解していただけたようで、幸いです

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