北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

海上自衛隊地方隊への一考察③ 護衛艦及び航空機の基地機能を如何に警備し維持するか

2012-06-07 21:54:59 | 防衛・安全保障

◆地方隊の任務としての基地維持
 我が国の海上防衛を考える上で護衛艦部隊や航空部隊について、その能力は非常に高い水準にあります。しかし、基地機能についてはどうでしょうか。
Yimg_5733 海上自衛隊の基地は東日本大震災の津波を見ればわかるように、大湊基地、横須賀基地ともに外洋に面していません。舞鶴基地は入り江の奥深くにあり、呉基地は瀬戸内海の奥、佐世保基地も狭い水道を通って基地へ到達します。これは出入港には不便ですが外洋からの艦砲射撃を避ける最適な立地で、津波さえも通さない天然の良港という一言に尽きます。
Timg_8707 しかし、警備は、となりますと錯綜地形にあるため、特殊部隊が迫撃砲や対物狙撃銃により電装品などに攪乱攻撃を加える場合、また水中コマンドーを展開させ艦艇に爆発物を設置する攻撃に対し脆弱性を抱えていることを忘れてはなりません。旧海軍時代ならば、要塞法に基づき民間人の行動を大きく制約し、憲兵隊を巡回させていましたが、今日ではこれは不可能でしょう。
Timg_1483 最初に誤解の無いように記載しますが、軍港というものは一部の国では全く近寄れない場所に設置されています。しかし、米海軍を見ますと、横須賀や佐世保はもちろんのことですがパールハーバー基地などは外から見える場所に基地が設置されており、ノーフォーク海軍基地も民有地に隣接、警備厳重という印象がある中国でも海水浴場の対岸に水上戦闘艦桟橋等が配置、台湾海軍でも湾口での入港艦艇の撮影が可能です。
Img_9383 もちろん、戦略ミサイル原潜基地などは一般では確認できない場所に基地を用意していますけれども、NATOでもイギリスでは軍港めぐり遊覧船が運航されていますし、ドイツでは潜水艦桟橋が国道から見える場所もあり、艦船ファンを喜ばせています。これは見せてはいけない場所とそうではない場所というものを区分している、ということになるのでしょうね。他方、シンガポール海軍のように撮影すれば射殺、と看板を掲げている基地があることは忘れてはなりません。
Timg_6801 しかし、有事の際、艦艇基地は絶好の攻撃目標となります。航空攻撃の標的となることはもちろんのこと、ゲリラコマンドーの攻撃にさらされ、危険ということです。相手からは多少防備があったとしても、水上戦闘艦や潜水艦が展開する前に叩くことが出来るのは、能力が限定される基地内だけですし、外洋に展開した水上戦闘艦、特に護衛艦隊と正面から戦闘を展開するのは非常に危険が伴います一方、停泊中であればコマンドー部隊で対応が可能でしょう。
Timg_7341 こうした脅威から、地方隊は基地を防護しなければなりません。地方隊の任務ですが、護衛艦隊への補給支援という任務があり、この点、基地機能を維持しなければなりません。このため各地方隊には一個中隊に相当する規模の警備隊を置いています。ミサイル艇も警備隊の所属で、哨戒任務に加えて有事の際には護衛艦入港に際しての沿岸の護衛警備任務を行うことになると考えます。
Img_7318 ただし、現状の規模で基地を警備できるのか、と言われれば、これは人員不足が背景にあるのですが、少々心配な面があります。整備中の護衛艦から陸戦隊を編成する、ということは少々無理があり、精々護衛艦の見張員を増強して個艦防御を充実させる、手空き要員に64式小銃を携帯させ、警備強化する、というところでしょうか。
Timg_0667 陸上自衛隊から普通科中隊の支援を受ければ、人員が必要な補給施設や燃料弾薬貯蔵地区、桟橋と通信設備、発電施設などの警備が多少は改善するのでしょうけれども有事の際に普通科部隊を抽出するだけの余裕が陸上自衛隊にあるのか、という点は平時から警備計画として可能か否かを作成する必要があり、この点は非常に重要というところ。
Timg_6470_1 ただし、可能ならば警備隊を強化し、陸上警備中隊と湾内警備中隊に拡充し。陸上警備中隊は陸上自衛隊の普通科中隊に準じ、軽装甲機動車を配置、対戦車小隊と迫撃砲小隊は野戦を行うのではないため、機関砲を運用する小隊に置き換えることなどが考えられるのですが巡回と警備を実施、湾内警備中隊は小型哨戒艇を複数運用する、というのが望ましいでしょう。
Timg_7392 この中でも陸上自衛隊へ警備を依頼できるものとそうでないものがあります。特に水中コマンドーの接近対処は水中処分隊の支援が不可欠ですが、同時に沿岸部からの浸透を警戒するためにどうしても基地へ繋がる水道の部分の警戒監視任務が必要となるわけです。車両巡回班を複数準備し、水上においても哨戒艇、無ければ交通船でもいいのですが恒常的に警戒しなければ、対応は難しい。
Timg_3888 もちろん、凄そうに見えるコマンドーは発見されれば過酷な運命が待っています。我が国へ持ち込める装備は、輸送機などが接近することが難しいため非常に限られ、哨戒艇の重機関銃一丁が浸透準備を行う部隊にとっては壊滅的な打撃を与えます。特殊部隊の天敵は訓練された歩兵部隊である、というのは世界的な常識で、一見凄そうに見えますが、実態は偵察と奇襲攻撃専門の軽歩兵部隊であるという本質はお忘れなきよう。
Timg_6306 基地警備訓練では多用途支援艦に重機関銃を搭載し支援に充てています。これならば哨戒用のボート母艦機能がありますし、湾内の中央部に位置すれば機関銃でかなりを制圧できます。1000t以上の船体ですので、対戦車火器でも機能は喪失しても簡単に沈没することはありません。これに加えて、巡視艇程度の湾口付近の警戒と護衛艦の入港支援に随伴し警戒する哨戒艇は必要と考えます。
Timg_0554 他方で、陸上自衛隊の移動監視隊が使用するような光学監視機材が複数台が配備されたならば、警戒は非常に厳重なものとなります。広域監視装置通称千里眼は270°の範囲内において移動物を自動検知し追尾する機能があり、沿岸監視のほか海外派遣では宿営地警備に用いられています。特殊部隊の浸透でも動いた瞬間い発見されるということ。
Timg_7521 こうした光学監視装置と、一部には暗視装置などを外洋までの水路を警戒する位置に警備班と共に配置し、特殊部隊の接近を警戒、少数部隊での警備は襲撃対象ともなり得ますが、秘匿すれば攻撃対象となる可能性は限られます、なにより機動性を以て迅速に移動できる点も重要でしょう。そして発見したらば少数ならば警備隊を以て制圧、強力な攻撃ならばミサイル艇から艦砲で粉砕すれば制圧できるでしょう。
Timg_1083 もう一つ、航空攻撃にいかに対処するか。護衛艦の戦闘能力は偉大ですが、基地周辺を山岳地に囲まれた場合、レーダーを充分に機能発揮させることはできません。基地が攻撃される可能性ですが、航空自衛隊では戦闘機部隊とペトリオットミサイルによる高射隊を配置していても、更に航空攻撃の可能性があるからこそ基地防空隊を置いています。
Timg_7457 大湊地区では冷戦時代に編成し配置していましたが、航空自衛隊は海上自衛隊の舞鶴基地近傍の小松基地第6基地防空隊、佐世保基地近傍の築城基地には第5基地防空隊、大湊基地近傍の三沢基地には第3基地防空隊、横須賀基地近傍の百里基地にも第7基地防空隊を置いています。呉基地近傍の美保基地には基地防空隊は置かれていませんが、ほかには備えがあり、航空自衛隊の基地は危険でも海上自衛隊の基地は大丈夫、とは考えられません。
Timg_7354 基地警備には同じことが言えるのですが、対空防空を考えた場合でも、艦艇基地のほか、八戸航空基地、厚木航空基地、鹿屋航空基地、那覇航空基地には哨戒機部隊が展開しており、回転翼哨戒機部隊を含めれば航空群は館山航空基地と大村航空基地、航空隊を含めればさらに多く厳しいことは確かなのですけれども、航空攻撃やコマンドー攻撃で無力化されることだけは避けなければならない。
Timg_0158 陸上自衛隊へ、支援要請、と思うところですが、対空レーダ装置や低空レーダ装置は各師団や旅団の高射特科部隊に各一基のみで、これを海上自衛隊基地支援に充てた場合、師団防空が不可能となってしまいます。ここは高射機関砲と地対空ミサイルを置かなければなりません。代替案に湾口付近に常時ミサイル艇を配置し、対空警戒に充てる、可能ならばミサイル護衛艦がいいのですが、データリンクを行えばこの必要はないのでしょうけれども、余裕はあるのか、ということ。
Img_0401 人員不足の海上自衛隊予算は限られ、非常に苦しいことは現実なのですが基地が機能していなければ、護衛艦はじめ潜水艦や掃海艇といった装備の能力は大きく制限されてしまうことは間違いなく、如何に基地を護るのか、ということは地方隊の任務として真剣に検討されるべきだろう、と信じます。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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警備は手薄になることが予想されますね。 (軍事オタク)
2012-06-08 11:29:11
警備は手薄になることが予想されますね。

予備役の充実を図り、少なくとも15万人できたら30万人程度の予備役が必要ですね。

諸外国も予備役が同数もしくは倍くらい準備してますしね。

正規兵は、警備のまとめ役・教育・防御で2段目以降の受けとして構えるのがいいのではないでしょうかね。
返信する
 陸上自衛隊の駐屯地の業務隊も人員不足、 (久我山のチ那ッピー)
2012-06-11 11:23:55
 陸上自衛隊の駐屯地の業務隊も人員不足、
この不況で、優秀な人材が採用できる時に、防衛予算を削減することが必要なのか?
 災害が起きると、霞目駐屯地の様に、通常の3倍の応援で、業務隊が寝ずに食事や風呂を準備することなる。
 自衛隊で、採用して、任期が明けたら、民間企業に再就職できるように、資格なり技能を身に着ける
ことが出来る。
 昨日のNHKの政治討論会でも、共産党の議員が、予算で戦車買わないだろうななんてほざいていましたが、災害出動用に、軽トラ改造の専用車両も
山岳地帯でのゲリラ対応にも必要ではと思ってしまう。
 海上自衛隊の基地警備専門の部隊も必要ですね。陸上自衛隊で養成してもらうしかないでしょうが。ジブチでも、基地警備は陸上自衛隊から、応援してもらっているのですが、それぞれの海軍基地を熟知した基地警備隊は必要。
 まして、日本はスパイ防止法がない。
返信する
軍事オタク 様 こんばんは (はるな)
2012-06-15 00:02:52
軍事オタク 様 こんばんは

警備ですが、特に車両を用いたゲリラの強行突破に対抗する対戦車火器が海上自衛隊に皆無であるのは、かなり問題だと考えます。

予備海上自衛官の充実は必要ですが、十五万となりますと海上自衛官現役定数の三倍、そこまでは、必要なのですかね?、ちょっと多すぎるように思うのですが。

陸上自衛隊と異なり、海上自衛隊の任務は、予備自衛官に対応できる部分は確かにあるのですが、艦艇乗り組みや整備補給には、一応現役程度に準じる程度の能力が無ければ厳しいと考えます。
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久我山のチ那ッピー 様 どうもです (はるな)
2012-06-15 12:54:42
久我山のチ那ッピー 様 どうもです

不況時の公共事業、フランスのミストラル級三番館などは公共事業的な意味合いでも建造されたようですが、この点は少し真剣に見てゆく必要がありますね、我が国では防衛産業の雇用面からの波及効果があまり真剣に考えられていないようなので。

戦車ですが、正直なところ、監視装置としての能力や、戦車がいれば工作員の装備で破壊することは困難で、先に発見され、先に撃破されてしまうリスクから、戦車の防護する施設への攻撃は避けるだろうと考えます。

基地警備専門の部隊としては、地方隊の警備隊があたるのですが、規模が少々少なく、米海軍の横須賀における対テロ中隊の編成と、場合によっては基地周辺部の防衛警備を担う程度の部隊というものは考えられるべきか、とも。少なくとも大型車両の突破に備えて対戦車火器程度は必要だろう、と考えるところです。
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予備自衛官を15万や30万人としたのは、当然陸... (軍事オタク)
2012-06-28 10:00:10
予備自衛官を15万や30万人としたのは、当然陸を中心にですよ~
返信する
軍事オタク 様 (はるな)
2012-07-01 14:57:55
軍事オタク 様

陸上自衛隊の予備役については、他の記事に該当記事がありますので、そちらにコメントしていただければ、と。何分、海上自衛隊の記事ですので。
返信する

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