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航空防衛作戦部隊論(第三七回):航空防衛力、航空戦に勝ち抜くための航空基地の理想像と現実

2016-05-28 21:21:51 | 防衛・安全保障
■防空作戦と拠点基地機能
 航空戦に勝ち抜くための航空基地の理想像と現実について、少し触れる事としましょう。

 拠点航空基地、その理想図について考えてみます。お断りしておくのは一例であると共に我が国の地形には必ずしも合致するものではなく国土の七割が峻険な山岳地帯にあり僅かな平野部は一億二千万の人口密集地と農業地帯に島国を支える工業地帯にあり、その平野部の多くは扇状地や河岸段丘となっています。その上で、理想形を提示しますと、滑走路に並行し副滑走路をそれぞれ離隔し配置すると共に滑走路と副滑走路は共に補助滑走路として充分な舗装厚を有する補助滑走路を置く。

 その上で離隔した主滑走路と副滑走路間の誘導路は各所に臨時掩体を有する、また、滑走路と副滑走路とはさらに離隔し胴体着陸路を配置し航空機は胴体着陸した際にも摩擦などでの火災を逃れる緑地帯として配置する、その上で航空機については強化型格納庫を充分滑走路群から離隔し配置し、各航空掩体はこれらも十分に離隔し一撃での損耗を局限化する。

 これら掩体群は飛行中隊ごとに配置すると共に滑走路延長上や航空経路には陣地を構築し高射機関砲及び基地防空用装備を配置し特殊作戦部隊の浸透に備える、というもの。かなり理想的なものを列挙しましたが、イスラエル空軍の戦闘機部隊はこのような基地に配置されており、これによりイスラエル空軍は奇襲を許した第四次中東戦争に際し、航空戦力を温存し得た、とのこと。

 基地の機能は、空軍戦力が戦闘機数や支援要員の数的規模から産出されるものが多く、実のところ空軍基地の規模や機能というものは防衛力を考える場合に正確に計算する事は出来ません、一方で正確に計算できる、若しくはできてしまうのが地価というもので、飛行場を広範囲に拡大する場合、確実に民有地を圧迫するほか、その取得費長が防衛費に大きくのしかかる事となるでしょう。

 生存性は充分な離隔により成り立つもの、というべきでしょうか。航空基地の脆弱性を払拭するには延々と各施設を離隔し、配置しておくことが重要となります。しかし、我が国では、例えば全国の基地を嘉手納基地と同程度に拡張するだけでも、その用地取得費用だけで、アメリカ海軍の航空母艦を取得できる程度の費用を要してしまうでしょう。

 例えば、我が国では住宅街に航空基地が浮かぶような立地は珍しくありません、空港そのものも伊丹空港や名古屋空港等を見ればわかる通り民間航空機の発着は、空港敷地から100m圏内に住宅街が並びます。戦前や戦時中から存在する基地や空港であっても、戦後の住宅不足から住宅街が拡大し、気付けば基地がそのまま住宅街に囲まれていた、という事例は、例えば厚木航空基地や岐阜基地等、挙げられるでしょう。

 一方で、飛行場施設が離隔できない実情と同等に基地近くへ隣接する住宅街などへは有事の際、重大な付随被害が生じる可能性が出てきます。近年、国際法は大都市への無差別攻撃を禁じるジュネーヴ文民保護条約が強行規範となり、国際慣習法としても大きな規範性を示す事となっていますが、飛行場等防衛上の施設が集中する地域での市街地が隣接する場合、防守都市という理解が交戦相手に対し成立する可能性が高くなります。

 その上で精密誘導兵器が普及した昨今ではありますが、巡航ミサイルや弾道ミサイルを戦力投射手段として用いる諸国が我が国周辺には非常に多く、この為、拠点航空基地の脆弱性の払しょくという視点は、周辺地域への付随被害をどのように回避するのか、という視点も今後十分考慮しなければなりません。軍事的には、という視点だけではなく主権国家は自国民からの信頼による支持を背景に成り立っている為です。

北大路機関:はるな くらま
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