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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】ロシア兵器展モスクワ陸軍2020フォーラム最新情報とロシア海軍原潜最新情勢

2020-09-08 20:20:24 | インポート
■週報:世界の防衛,最新10論点
 今回はロシア国内で一斉に行われた兵器見本市、特にモスクワ陸軍2020に重点を置いて最新のロシア情報を紹介しましょう。

 モスクワ陸軍2020フォーラムにてロシア国防企業バルトBMK社は新型のドロズド水陸両用装輪車両を発表した。ドロズドは四輪駆動のソフトスキン車で車体重量は2t、260hpのエンジンを搭載している、特筆すべきは通常の水陸両用車輛が車体底部を船型形状とした上でスクリューを設置するのに対してドロズドは車輪を車内に内蔵し水の抵抗を減らす。

 ドロズド水陸両用装輪車両は四輪駆動車として陸上を100km/hで疾走するとともに車輪を格納しウォータージェット推進とする事で水上を70km/hときわめて速い速度で航行する。なお、ドロズド水陸両用装輪車両は最大1.5tまでの人員や機銃などの武装、貨物及び増加装甲を装着可能だ。なお、開発中で、満載状態での速度などについては公表されていない。
■T-14戦車無人操縦改修
 自衛隊は90式戦車と10式戦車という正統進化を続けていますがロシアは戦車の無人化という新しい試みを拓こうとしています。

 モスクワ陸軍2020フォーラムにおいてウラルヴァゴンザヴォート産業社は新型戦車T-14アルマータの無人型についての開発進捗状況を発表しました。T-14は2015年に発表された新戦車で重量55tとソ連ロシア戦車としては非常に重量級で全長10.8m、全幅3.5m、全高3.3m、全幅こそT-90より抑えられているが重量は9t、全長と車高は1m以上大きい。

 T-14アルマータの無人型は、同戦車が完全無人砲塔を採用し車体部分に戦車長、砲手、操縦手全員が乗車しており、これは砲塔を遠隔操作できる可能性を示しています。乗員は車体の硬質装甲カプセルに守られていますが、ロシア軍はチェチェン紛争やシリア内戦介入から乗員防護に積極的、センサーに依存し損耗に際し乗員を失わない戦車を模索中です。
■新型自動僚機グロム
 高価な第五世代戦闘機を編隊で飛行させず一機の第五世代機をもう一機が自動僚機で対応する試みがアメリカや豪州で進みますがロシアも加わろうとしています。

 ロシアモスクワ陸軍2020フォーラムにおいて新型自動僚機グロムが発表されました、クロンシュタットグループにより開発され第五世代戦闘機Su-57や主力戦闘機Su-27戦闘機に随伴し戦闘を支援します。フライングウイングマン、忠実な僚機と訳される無人機は有人戦闘機に随伴する新区分で定訳が存在しない事から“自動僚機”と訳する事としました。

 グロムは有人戦闘機を掩護する機体であり自重7t、ハードポイント4箇所にKAB-500TV誘導爆弾や重量22kgのMAM無人機用レーザー誘導爆弾、KAB-250S-E衛星誘導爆弾にIzdelie85対戦車ミサイルなど2000kgまでの各種兵装を搭載、空対空ミサイル等は搭載せずステルス機の生存性を脅かす敵防空網制圧や敵レーダー施設破壊を任務としています。

 Su-57戦闘機は第五世代戦闘機としては安価ですがロシア国防費からは高価でグロムはその補完が期待される。戦闘行動半径は700km、最高速度は1000km/hと亜音速発揮可能で飛行高度は12000mを想定しておりエンジン部分や機体主要部は可能な限りYak-130高等練習機と共通化されていることから練習機整備能力を有する基地からの運用が可能という。
■滞空型無人機シリウス
 自衛隊はグローバルホーク導入を再評価していると伝わるところですがこの種の無人機は必要である事に代わらず、ロシアも同様の様です。

 モスクワ陸軍2020フォーラムにおいてロシアは最大の無人機シリウスの開発進捗発表しました、これはモスクワ航空ショーMASK2019において展示されたものと同型、シリウスは対空型無人機であり全幅30mにも達し、前著13m、最大離陸重量は5t、ターボプロップエンジン双発です。アメリカのグローバルホークが全幅39mであることからこれに準じる。

 シリウス無人偵察機、高度12000mにて40時間滞空が可能という。展示されたものはモックアップであり試作機は2021年に完成するとのこと。開発はクロンシュタットグループが担当、ロシアはソ連時代から超音速無人偵察機など多種多様な無人機を開発しており、ソ連崩壊後の経済破綻などはありましたが、ソ連遺産というべき技術的蓄積は非常に大きい。
■ホーカムにAESAレーダー
 AH-64D戦闘ヘリコプターはミリ波レーダーによるデジタル戦場対応がその要諦でしたが、ロシアもこのほど追随しようとしています。

 エアウルフを思い出す並列複座攻撃ヘリ、ロシア軍のKa-52Mホーカム戦闘ヘリコプターへAESAレーダー搭載改修が開始された、ホーカムを製造するAAKプログレス社、旧カモフ社により発表されました。AESAレーダー搭載型はホーカムと区別しアリゲーターと称されており、ホーカムは単座型でしたがアリゲーターは並列複座型を採用しています。

 ヘリコプター搭載火力の長射程化は着実に進んでいます、攻撃ヘリコプターの搭載ミサイルと云えば一頃まではTOWが3750m、ヘルファイアミサイルの射程が8kmに延伸した際には長射程と注目されましたが、厳密にはシーホークに搭載するペンギンミサイルは25km、フランスのAS-332哨戒ヘリコプターには射程40kmのエクゾセミサイルが搭載できました。

 ロシア軍は将来的に100km程度までヘリコプター搭載ミサイルの射程を延伸させる構想があり、今回のAESAレーダーの搭載はこうした長距離運用を視野に索敵能力を付与したのか、超長距離索敵は無人機等に任せ、AESAレーダーそのものは20km圏内程度を索敵する構想なのか、肝心のAESAレーダーの性能そのものについては、触れられていません。
■防弾チョッキ貫徹の新拳銃弾
 自由主義圏では拳銃に対する歩兵の防弾装備普及へ4.7m弾や5.7mm弾と小型弾薬を開発し対応していますがロシアは強力な新型拳銃弾で臨むもよう。

 ロシア軍はボディーアーマーを貫徹する新型9mm拳銃弾を開発したとのこと。9mm拳銃弾を用いる短機関銃、所謂サブマシンガンは1930年代から1960年代にかけ歩兵火器の主力装備を担ったものの、アサルトライフル、小銃の性能向上とともに低い貫徹力と短い交戦距離が問題点とされ、軍事機構では指揮官や憲兵隊や対テロ部隊以外置換えられた。

 新型9mm拳銃弾これはカラシニコフを製造するロステック社系列のツニートチマッシ社が2014年から製造するウダヴ拳銃や7月に発表されたばかりのカラシニコフPPK-20短機関銃等から射撃が可能とされる。拳銃の短銃身からクラス2のボディーアーマーを75mの距離で貫徹するとのこと。ウダヴ拳銃に用いられるという事は既存弾薬へ適合を意味する。
■ロシア版ペトリオット新型
 ロシアの地対空ミサイルは長射程化が続いていますが、このほどそのデジタル型が開発されたようです。逆にペトリオットミサイルの陳腐化が進んでいる。

 ロシアのアルマース社は八月末に実施されたモスクワ陸軍2020フォーラムにおいて新型地対空ミサイルS-300-V4の構成車輛を発表した。これはロシア版ペトリオットと称されるS-300グランビルのデジタル型であり、9A83M-2E発射装置と9A84M-1E弾薬車両を展示した、ミサイルは9M83MEおよび9M82MEで対航空機用と弾道ミサイル迎撃用である。

 S-300-V4は主として輸出用という位置づけで、最大射程400kmとロシア製地対空ミサイルの近年著しい射程延伸を象徴する装備であり、デジタル化により24目標への同時交戦能力を有する。9A83M-2E発射装置は巨大な装軌式で背負い式に発射装置4基を有すると共に射撃管制レーダーを車体前部に配置、射撃統制装置からの独立運用も可能となっている。
■射程100kmのエルメスATM
 ATM対戦車ミサイルといえば96式MPMSのような10kmも射程が在れば長射程、そんな時代はいよいよ過去のものとなるのでしょうか、それとも使い難く普及しないのか。

 モスクワ陸軍2020フォーラムにおいてロシア軍の新型エルメス対戦車ミサイルが発表されました、開発したシプノフによれば西側の全ての戦車を撃破し得るとのこと。如何なる対戦車ミサイルでも同じ販売表現が為されるが、エルメスは射程100kmと対戦車ミサイルとしては破格の長射程を誇りマッハ4により目標に肉薄する、命中まで一分半程度である。

 エルメス対戦車ミサイルは無人偵察機、6連装発射装置六両と弾薬車及び指揮通信車より構成され、無人機の情報に基づきミサイルを発射する、ミサイルには20kgのTNT弾頭が搭載されており、対戦車ミサイルというよりは小型の地対艦ミサイルを精密誘導にて戦車へも命中させる精度を付与したもの。発射装置は大型トラックを改修しており整備性は高い。
■ヤーセン級攻撃型原潜8番艦
 ソ連時代のヴィクター級攻撃型原潜は過去のものとなり世代交代が急速に進んでいます。

 ロシア海軍のヤーセン級攻撃型原潜七番艦と八番艦が7月20日に起工したとのこと。艦名は七番艦がヴォロネジ、八番艦がウラジオストク、艦の命名式にはプーチン大統領が自ら出席し発表している。この二隻は885M型潜水艦として建造されるが、建造を担うセヴマシュのミハイルブドニチェンコ総取締役によれば、幾つかの仕様変更が行われるという。

 885M型潜水艦との最大の相違は、ヴォロネジとウラジオストクには新開発の極超音速兵器が搭載される事であり、これにより攻撃型原潜であるヤーセン級にも戦略ミサイル原潜を補完する長距離打撃力が付与されることとなる。ヤーセン級は一番艦セヴェロドヴィンスクが1993年に起工したがソ連崩壊の経済破綻で建造が遅れ、就役は2014年となっている。

 ヤーセン級は初期型の885型と改良型の885M型が存在し、水中排水量13800t、OK-885加圧水型原子炉を採用し水中速力は31ノットを発揮、553mm魚雷発射管10門と魚雷及びミサイルを30基搭載するとともに船体にVLS8セルを有し、従来の巡航ミサイル原潜任務も担う。ロシア海軍はヤーセン級に続く新型攻撃型原潜としてハスキー級も計画している。
■ボレイ級戦略ミサイル原潜四番艦
 ロシアは冷戦時代のタイフーン級戦略ミサイル原潜の後継艦を急速に建造中です。これらは日本の潜水艦とは根本から大きさも任務も異なる。

 ロシア海軍最新戦略原潜クニャージウラジミールの竣工後完熟訓練は順調に進む。クニャージウラジミールはボレイ級戦略ミサイル原潜の四番艦、五月末に公試を完了し六月中旬にセブマッシュ造船所にて竣工した最新鋭潜水艦で、三番艦ウラジーミルモノマーフまで旧ソ連圏より部品を調達したが本艦は初めてロシア国内部品だけで建造された。

 ボレイ級戦略ミサイル原潜は水中排水量24000tとアメリカのオハイオ級戦略ミサイル原潜の18500tよりも大きく中国海軍最新の晋級戦略ミサイル原潜の12000tと比較し二倍の規模を誇る、搭載するSS-N-30 ことR-30/3M14ブラヴァ潜水艦発射弾道弾は通常6発で最大10発の多核弾頭を有し射程10000kmで、タイフーン級戦略原潜にも搭載されている。

 クニャージウラジミールとともにロシア海軍は現在4隻のボレイ級戦略ミサイル原潜を建造中で、ロシア国防省は更に2隻の建造計画があり、10隻のボレイ級により旧式化したタイフーン級戦略ミサイル原潜を御子買えるという。R-30/3M14ブラヴァ潜水艦発射弾道弾は各16発を搭載するため、一隻当たり通常96発、最大160発の核弾頭を投射可能だ。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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