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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

フランス徴兵制再開と日本徴兵制再論【2】SMV制度と軍事的合理性に乏しい一ヶ月徴兵

2018-02-02 20:09:24 | 国際・政治
■SMV登録制徴兵制の基盤
 徴兵制に軍事合理性は無いので日本でもその可能性は無いとしていたがフランスは徴兵制を再開する、この点をもう少し見てみましょう。

 マクロン大統領のフランスでの徴兵制再開表明について。マクロン大統領は2017年の大統領選挙における公約に徴兵制再開を明確に表明していました。2002年まで維持されていた徴兵制を再開するという形ですので、フランス社会に徴兵制は近年まである馴染み深い文化でもあった訳です。そして登録制徴兵制度SMVというものが徴兵制停止後続いていました。

 Service militaire volontaire、SMV。何故フランスが、と思われるかもしれませんが、一つは失業対策があります。冷戦時代に42万名を数えたフランス陸軍は2015年には9万2000名まで縮小し、パリ同時テロ後治安作戦支援の関係から定員増を行い、2017年に11万7000名に拡大しています。失業対策とは、最盛期の四分の一程度の陸軍をこれ以上減らさず、また若年層失業対策の意味合いも。

 若年層失業対策としての陸軍SMV、フランスは2015年の段階で35%が義務教育終了後の高等教育、後期中等教育を履修しません。その救済手段として実施されているのが登録式徴兵制度です。これは義務教育期間中に後期中等教育へ進学を希望しない児童や後期中等教育退学の生徒を、学校側と本人及び家族が協議し、半年から一年程度、延長も出来るようですが、短期間を陸軍へ入隊させる救済制度です。

 学校ではない軍隊ですが、全ての部隊が担当する訳ではありません、それでもSMVでは入営中に自動車免許や各種免許を取得する機会がありますし、陸軍除隊と同時に退役軍人として、少なくとも義務教育修了のみの若年労働力よりは社会的信用度を得る事が出来ます。そして陸軍は冷戦後削減した30万名分の施設が、かなり閉鎖され売却や転用されているとはいえ、受け入れる余裕と人員が残っており、活用できた。

 日本にもその可能性はあるのか、例えば陸上自衛隊が冷戦時代の四分の一程度、五万名以下に削減され駐屯地が余る状態となったうえで、中国が民主化し、南北朝鮮が平和統一を経て防衛力の重要度が低下、その上で現在問題視されている子供の貧困が拡大し、数割程度の生徒が中学校卒業後に高校進学せず、中卒労働力需要が低賃金労働と不安定雇用に直結し大量の若年失業者が発生した場合、公務員経験と共に若年失業者に労働訓練と就業機会を、とフランス式が考えられるかもしれない。

 SMVに続いての今回の徴兵制、一か月間の徴兵制度という枠組みですが、マクロン大統領が構想する制度の場合は18歳から21歳までの4年間に一か月間の徴兵を行うという方式ですので、毎年夏季休暇かクリスマス休暇の一週間を分割で出頭し軍事訓練を受けるのか、18歳から21歳までに一か月間をまとめて訓練するのかは不明確です。ただ、個の期間ではほぼ体験入隊という水準で、専門的な訓練は勿論のことトラックの運転さえ難しい、当然と歩兵や工兵等兵科教育を受けるには短すぎる。

 徴兵制再開でも一か月の徴兵制では基本的に兵力増強を念頭に置いたものとは考えられません、一ヶ月徴兵を経験したとはいっても退役軍人としての資格を得る事は難しいでしょうし、予備役で登録し有事の際に現役を補う事も難しいでしょう。体力錬成を一か月で実現できるならば地球上から肥満は消えて居る筈で非現実的、最大の基本装備であるFA-MAS小銃の分解結合も熟練は難しく、精々体験し射撃するのが限界、分隊長に従い、軽歩兵として行動する事さえ一か月では無理でしょう。

 マクロン大統領は徴兵制再開を公約に明示し、これを実際に行う構図となっただけなのですが、実のところ一か月間で実施できる徴兵制の期間が今一つ見えてきません、テロの脅威に備え国民の団結を図る、テロ対策の一ヶ月訓練を行っても、国家憲兵の支援さえ難しく、しかも今回の徴兵では予備役登録や戦時動員の可能性と年次集合訓練にも触れられていない、国民の団結が狙いと、1月19日の演説では徴兵制再開にこうした軍事以外の理由を述べていますが、一か月、海軍では一か月以上の航海も多いですし、中々思い当たらない。

 軍事的な意味以上に、社会の団結を軍隊を使わなければならないほどの事情、考えられるのはアフリカからの大量の地中海難民です。フランスは近年に旧植民地以外からの大量の移民流入を迎え社会の変容に曝されており、一か月でもフランス国旗とフランス国家へ忠誠を誓わせる儀式に徴兵制を応用しようとしているのかもしれません、国軍に社会の価値観への防衛を担わせる構図なのでしょう、また一か月の徴兵では訓練費用も僅少、恩給も最小で安価に済みます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2018-02-02 22:09:08
フランスでは中卒救済も軍の任務なのか
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