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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

黒海緊張!ロシア軍ウクライナ海軍三隻拿捕-アゾフ海を海上封鎖,日ロ首脳会談影響必至

2018-12-01 20:03:38 | 国際・政治
■ウクライナ東部停戦破綻懸念
 ウクライナ海軍哨戒艇など3隻がロシアにより拿捕、アゾフ海が海上封鎖、緊張続く黒海に新しい緊張です。この緊張は大規模紛争に発展しかねない火種といえる。

 日ロ平和条約締結と北方領土問題へ向けた日ロ首脳会談がG20サミットに併せアルゼンチンで間もなく始まりますが、世界の耳目はウクライナ東部地域における大規模武力紛争の懸念へ集まっています。北方領土問題、択捉島と国後島を省いた歯舞諸島と色丹島に交渉の焦点となる見通しですが、現在ウクライナ東部で進む緊張を見ますと楽観視できません。

 北方領土返還となれば帯広の第5旅団が警備隊区となります。実際、冷戦時代には当時の第5師団司令部に北方領土返還後の警備計画も貼られていたという。ロシア政府は色丹島と歯舞諸島の返還後に米軍が駐留しない日米間の正式な協定を必要としていますが、クリミア半島とケルチ海峡で進む現状を視れば、返還後、ロシアが武力奪還を行う可能性も。

 ウクライナ海軍のグルザM級哨戒艇ベルジャーンシクとニーコポリの2隻と曳船がロシア海軍により拿捕されました。グルザM級哨戒艇は満載排水量54tの哨戒艇で2015年より6隻が建造、更に20隻を取得する計画があります。BM-5M.01-カトランM遠隔操作銃搭2基を搭載、はやぶさ型ミサイル艇よりもかなり小型、すずかぜ型巡視船に近い哨戒艇です。

 国際海峡において事件は発生しました。拿捕されたウクライナ海軍艦船は黒海に面したオデッサを出航し、アゾフ海と黒海を結ぶケルチ海峡へ航行中でした。ケルチ海峡はクリミア半島と本土とでアゾフ海と黒海と隔てる地点にあり、クリミア半島は2014年にロシアにより武力併合されましたが、ロシアはこのケルチ海峡へ橋梁を建設、開通させています。北方領土問題の珸瑤瑁海峡と共通点がある。

 黒海は緊張が続いていました。黒海の要衝クリミア半島がセバストポリ海軍基地周辺確保へウクライナからロシアが割譲した事で欧米とロシアの対立が決定的となり、G8先進八カ国からロシアが除名、そして黒海上空では米軍機への異常接近やNATO艦艇上空を飛行隊規模のロシア軍機が示威行動を実施する等、武力衝突一歩手前の状況が続いていたところ。

 クリヴァク3型フリゲイト、ウクライナ海軍には外洋航行可能な大型艦はこのソ連時代の一隻のみ。自衛隊のような海上防衛力はありません。かつては建造中のミサイル巡洋艦や航空母艦がありましたが、ミサイル巡洋艦は建造中止、航空母艦は中国へ売却しており、ロシア黒海艦隊へ対抗できる戦力はありません。そしてウクライナ主力艦はカスピ小艦隊のカリブル身巡航ミサイルへも対抗不能だ。

 ケルチ海峡にはロシア船籍タンカーが海峡を塞ぐ形で停泊しています。ケルチ海峡橋梁と合せロシアはケルチ海峡を事実上封鎖状態へ置いていた訳ですね。国際海峡での停船は国連海洋法条約違反となります。ウクライナ艇隊はアゾフ海マリウポールへ航行中で、アゾフ海沿岸はウクライナ領土ですが、黒海へ出るには必ずケルチ海峡を航行せねばならない。

 11月25日、ケルチ海峡へ航行中のベルジャーンシクとニーコポリ及び曳船はロシア国境警備隊のソボル級巡視艇10隻に包囲され、停船と臨検を命じられたのが事件の発端です。ウクライナ艇隊指揮官が公海上であるとして拒否すると、巡視艇よりロシア特殊部隊員が攻撃を開始、同時にロシア軍Su-25攻撃機とKa-52攻撃ヘリコプター4機が飛来しました。

 ソボル級巡視艇からの銃撃と共にSu-25攻撃機とKa-52攻撃ヘリコプター4機による威嚇行動を受け、ウクライナ艇隊は退避行動を採りましたが、回避出来ず、クリミア沖14浬の公海上で3隻が拿捕されています。ロシア側の言い分は、海上衝突によりケルチ海峡橋梁の一部が破損したといい、また、ソボル級巡視艇数隻が臨検と友軍相衝突により損傷した。

 ペドロ-ポロシェンコ大統領はウクライナ国家安全保障国防会議を招集、オレクサンドル-ティルチノフウクライナ国家安全保障防衛会議長官はロシアによる拿捕を戦争行為であるとして強く非難すると共にウクライナ東部地方へ戒厳令を提唱します。ウクライナ東部紛争は現在停戦中ですが停戦であり、ドンバス自治共和国等紛争要因は解決されていません。

 プーチン大統領はウクライナ戒厳令に対し、深刻な懸念を表明しており、ラブロフロシア外務大臣はウクライナの行動を挑発行為であると非難し、この行動は深刻な結果を招くとし、ロシア国境警備隊当局もウクライナ艇拿捕はウクライナ海軍による領海侵犯への対処であり、拿捕された哨戒艇はロシア統制下に置かれる、としてその行動を正当化しました。

 国連は本事案発生以降その進展を注視しており、26日に先ずロシアが安全保障理事会に対し、ウクライナ艦艇によるロシア領海侵犯事案を扱う緊急会合を招集、ウクライナ国連代表部もロシア軍によるウクライナ海軍艦艇拿捕に関する緊急会合を要請しました。ウクライナの要請に米ヘイリー国連大使は賛同し、ウクライナ領土への干渉を批判しています。

 国連総会は、上記国連安全保障理事会での紛争調停に関する議事と並行し、今月十二月中にもアゾフ海に関する軍事問題を決議する方向で調整中です。一方、ロシア軍は国連での調停と並行し28日にケルチ海峡封鎖に着手、現在アゾフ海沿岸のウクライナ港湾は黒海へ通行する航行の自由が阻害されています。こうした中、クリミア半島では火種がもう一つ。

 S-400地対空ミサイル、ロシア軍は28日、近くクリミア半島へ広域防空用のS-400を配備すると発表しています。このS-400は射程400kmという超長距離防空システムであり、ロシア軍がアメリカ製ペトリオットミサイルへ対抗し開発したS-300地対空ミサイルをさらに改良したもので、輸出用公表資料によれば射程に併せ同時6目標対処能力を有するとも。

 射程400kmのS-400地対空ミサイル、部隊配備開始は2007年とまだ配備開始より十年少々を経ているのみの最新鋭ミサイルであり、最終的に23個部隊へ配備させる計画です。広大なロシアに23個部隊配備という部分から分かる通り、ロシアにとり重要なミサイルシステムであり、急遽配備出来る程普及していない、即ち事前から計画された配備の可能性も。

 ロシアウクライナ国境地域へ配備されたロシア軍戦車部隊が短期間で三倍に増大した。これはウクライナのポロシェンコ大統領がウクライナ軍情報部報告として発表したもので、勿論ウクライナ政府が欧米諸国へ防衛協力と対ロシア経済制裁強化を呼びかける際に示したもので、短期間の具体性と兵力集結度合いの検証は必要ですが、緊張度は高まっている。

 ウクライナ東部紛争停戦が破綻する可能性はあるのか、最大の懸念でしょう。今回のウクライナ艦艇によるアゾフ海への展開は停船中のウクライナ東部紛争において、戦況悪化の際にはアゾフ海の要衝マリウポリ港近郊まで戦火が拡大しており、ウクライナ海軍はクリミア半島へのロシア軍進攻と同様のマリウポリへのロシア軍侵攻を真剣に警戒しています。

 マリウポリ侵攻懸念、そのロシア軍口実はロシア系住民保護、もともとウクライナ系とロシア系はソ連建国当時にこそ明確な線引きがありましたが、今日的にはロシア人保護ではなくロシア系住民保護の名目で有ればウクライナ全土へも適用できる、こうした懸念がウクライナにはあり、ロシア海軍侵攻にも備え、マリウポリへの防備強化を進める最中の事態です。

 NATOのストルテンベルグ事務総長はロシア軍の行動は重大な結果を招くとして拿捕したウクライナ艦と抑留している乗員の解放を要求、G7外相も一致して同じ要求を示しています。一方、ポロシェンコ大統領がNATOへ要請した艦船派遣については回答を保留しました。こうした中、アルゼンチンで予定の米ロ首脳会談が突如中止されることとなりました。

 トランプ大統領は予定された米ロ首脳会談をウクライナ艦拿捕を受け、アルゼンチンG20サミットへ向かう大統領専用機の機内で突如中止を決断、ウクライナでの緊張が世界危機へ至らない為の超大国同士の首脳会談が突如中断した事は驚かされましたが、一方、批判する声も受け、トランプ大統領はプーチン大統領と立ち話形式の短時間対話を行う見通しで、自由主義圏の指導者として行われる日ロ首脳会談はこうした意味でも世界から注目を浴びる事でしょう。

 ウクライナでの事態は現在進行中であり勃発して間もない事案です。しかし、欧州とロシアはクリミア併合とウクライナ東部紛争を契機とした対立、これを契機とした飛び地カリーニングラードへのロシア軍増強、イギリス国内元ロシア情報局員への神経剤ノビチョク使用による暗殺事件と緊張が高まる最中での新しい危機であり、今後の進展に憂慮します。

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1 コメント

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Unknown (平和国民)
2018-12-02 07:20:26
 西側諸国やキエフ(ウクライナ西部、ネオナチ)が何をしてきたかがこれほどスッポリと抜け落ちていると、流石にどうかと思います。ブログ主さんのエントリが経緯を詳しく述べているのにも関わらず、ミンスク和平合意について一切言及がないのは完全にアウトです。ウクライナ問題に関しては、欧米メディアの偏向ぶりはあまりに酷いです。CNNやロイター、AFP、ブルームバーグよりスプートニク(笑)やRTの方がまだマシだとすら思えます。この問題の根底にあるのは(ロシアではなく)欧米による『現状変更』であり、それに対するロシアにとっての深刻な『安全保障上の脅威』です。

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