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T-38練習機米アラバマ州で墜落し航空自衛隊2等空尉が殉職,T-4練習機不具合回復中の最中

2021-02-20 20:14:25 | 防衛・安全保障
■戦闘機要員派米養成の現状
 日本時間今朝、アメリカアラバマ州で訓練中の練習機が墜落し航空自衛隊2等空尉が殉職しました。先ずは殉職した方々のご冥福を祈りましょう。

 飛行訓練中の航空自衛隊2尉とアメリカ空軍の教官が殉職したという痛ましい事故が発生しまして。殉職した2尉は2019年から戦闘機操縦要員を目指しアメリカへ留学していたとNHK報道にありました、防衛省では現在アメリカ空軍に派遣している連絡官を通じて情報確認中とのこと。航空自衛官がアメリカで練習機を飛行させていた、その背景について。

 墜落したのはT-38とのこと。何故アメリカでT-38の操縦訓練を、と思われるかもしれませんが、これは2019年のT-4練習機エンジン不具合問題で、一時全てのT-4が飛行停止措置となり、順次飛行再開となっていますが2019年には千歳航空祭でブルーインパルスが2機しか飛行できないなど、問題が顕著化していました、今も影響しているのでしょうか。

 事故は日本時間の20日0800時ごろ、現地時間の19日1700時頃に発生しました。訓練に運用されたT-38はコロンバス基地のアメリカ空軍第14飛行教育航空団に所属し、航空団にはT-6を運用する第37飛行隊、第41飛行隊、T-38とT-6等の機種転換を担う第43飛行隊、T-1練習機を運用する第48飛行隊、そしてT-38練習機を運用する二つの飛行隊が。

 ミシシッピ州にあるコロンバス基地を離陸後、アラバマ州モンゴメリー空港に着陸する途中、空港3km手前の森林に墜落、航空自衛隊の隊員とアメリカのパイロット教官はいずれも殉職したとの事です。モンゴメリー空港は官民両用空港で、空港にはアラバマ州兵空軍第187戦闘航空団が展開、F-16を運用中、2023年にはF-35へ機種転換を予定しています。

 コロンバス基地のT-38飛行隊は戦闘機操縦課程の訓練を行う第49飛行隊と、T-38の飛行訓練を行う第50飛行隊が置かれていますので、報道を観る限り高等戦闘機操縦訓練を実施する第49飛行隊のT-38でしょうか。意外に思ったのは、航空自衛隊の派米訓練は数多く行われているのですが、初級操縦課程から戦闘機操縦課程まで、基本的に日本でも行える。

 航空教育集団には静浜基地の第11飛行教育団、防府北基地の第12飛行教育団、芦屋基地の第13飛行教育団、ここに初等練習機T-7やT-4練習機が配備されていまして、続いて浜松基地の第1航空団にT-4練習機が戦闘機操縦課程等を実施、また松島基地第4航空団にはF-2B戦闘機の第21飛行隊、新田原基地にはF-15戦闘機の第23飛行隊が教育に当たる。

 アメリカでの操縦訓練は行われているとは聞いていたのですが、航空教育集団の体系化されたカリキュラムの下での航空自衛隊全体で独立した訓練教育課程を有しており、今回の事故がレッドフラッグ等への参加というような教育訓練やアメリカ空軍指揮幕僚学校への留学というものでなく、単純に戦闘機操縦士を養成する為、とは勉強不足か、意外でした。

 T-7練習機での操縦課程を完了しますと、そのまま日本国内でT-4練習機へ進み操縦課程を完了させる訓練課程と、そのままアメリカに派遣しエンジン出力の強力なT-6練習機とジェット機であるT-38練習機の課程に進む方式と、現在航空自衛隊の戦闘機搭乗員養成は二分化しているとのこと。もっともどう区分けしているのかは、ちょっと分り難いのですが。

 T-38,これは優れた航空機なのですが、航空自衛隊では2006年に引退したT-2練習機が国産開発される際に、このT-38を国産案に代えて提案されたという、要するに古い航空機なのですね。初飛行は1959年、いや実は航空自衛隊でまだ運用が続くF-4EJも原型の初飛行が1958年、C-130原型に至っては1954年ですので一概に古いとは言えないのですが古い。

 T-38,製造終了は1972年ですので最も新しいT-38でも49年を経ていまして、1981年までライセンス生産で製造継続されたF-4EJよりもかなり古いものでして、しかも自衛隊のF-4は間もなく運用終了ですが、T-38は後継機T-7Aへの置き換えが2023年から、これまでに延命改修に延命改修を重ねて実施してきた、非常に老朽化が進んでいる機体なのですね。

 T-4練習機、さて。思い出されるのは2019年4月に発生したエンジン不具合問題です。三沢基地を離陸したT-4練習機が異常に気づき緊急着陸へ引き返し、結果、エンジンタービンブレード部分に異常が確認されました。これは単一の問題では無く全てのT-4改修が必要となり、一時日本全国のT-4が飛行停止となった事がありまして、大きな影響が出ました。

 T-4エンジン不具合はなにしろ双発機、しかも212機が製造された国産機ですので交換に時間を要し、2019年にはブルーインパルスもT-4飛行停止の例外ではなくが夏まで飛行停止に追い込まれ、飛行展示再開では2機しか飛行出来ませんでした。また2019年の岐阜基地航空祭にはT-4練習機が異機種編隊に参加しないという椿事を御記憶の方も多いでしょう。

 第1航空団のT-4も飛行できない状況が続きまして、文字通り航空教育の屋台骨が機能不随となってしまった状況、ブルーインパルスよりも教育第一線の要員を優先するという姿勢の裏返しでもあるのですが。さて、今回の事故はT-38練習機というかなり古い航空機による事故と云う事ではあるのですが、同時に我が国T-4の老朽化も無視できない問題です。

 T-4練習機はエンジン不具合、という部分が大きく思い出されるところではありますが、同時にT-4練習機そのものも老朽化は進んでいる一方、その後継機開発は防衛予算の装備調達がF-35戦闘機やミサイル防衛にC-2輸送機やE-2D早期警戒機など正面装備の調達に重点が置かれた結果、そろそろ本格化しているべき後継計画に着手さえしていない状況にある。

 T-4練習機後継機の問題は棚上げとなっている一方で、従来は日本国内で完結していた戦闘機搭乗員の養成が、アメリカに要員を派遣しなければならなくなっている状況、これは正面装備に配分するだけではなく、もう少し国産練習機もしくはT-7AやM-346等の海外製航空機を含めて、航空教育というものを真剣に考えねばならないようにも思うのです。

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1 コメント

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Unknown (軍事オタク)
2021-02-22 14:03:43
T-4練習機は現在何機が改修終わっていて、
今後のスケジュールはどうなんでしょうかね?

新型練習機は、T-4の機体はそのままで、アビオニクス関連を中心に新型にして川重をプライムに生産できませんかね?
エンジン問題も新規製造なら問題ないだろうし。
まあT-4はあまりかっこいいとは思わないから、
新規でもいいけどF-3開発と時期が被るから大変だろうしね。

それとも機体寿命が大幅に残っているのなら、アビオニクスまわりだけ改修ですませるとか。
それとか、主翼交換で後8000時間追加OK
とかならないのかな?
F-15みたいに。

米軍のT-7のライセンス生産だと、
エンジンが単発で航空自衛隊のお好みではない?
かもしれないしね。(;^ω^)

今回墜落したT-38は単発だしね。
エンジンが問題化は?だけど、双発の方が安全性は増すでしょうし。

でも単発F-2の事故は少ないね。

単発の方が整備性はいいのだけども・・・
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