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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ホルムズ海峡海上護衛戦の検討【4】機雷テロ!イラン正規軍関与不関与と難易度の多寡

2019-08-26 20:03:14 | 国際・政治
■現代機雷掃討戦の状況
 タンカー護衛か機雷処理か。タンカー護衛任務の有志連合がアメリカにより提唱されイギリスや豪州などが参加を表明していますが、先ずは安全保障関連法国会討議で想定された機雷戦の視点から。

 ホルムズ海峡機雷敷設、この懸念が最大の課題です。実行のリスクも低いが影響は大、自衛隊を派遣する場合、前提として脅威が国籍不明武装勢力による機雷敷設のみである場合には、掃海艇の派遣が現実的でしょう。掃海母艦と共に掃海艇を派遣し、各国掃海艇と共同、機雷掃討を展開します。もっとも、イラン沿岸部からの正規軍妨害が無い場合に限る。

 機雷掃討は機雷掃海と異なり、機雷探知装置により海底や海中の機雷を一つ一つ探知し、水中ロボットである機雷処理弾薬や機雷処分具を海中へ展開させ、一つ一つを爆破処理する方式です。時間を要しますが、掃海器具による従来型の掃海は機雷の高性能化により掃海を免れる機雷が生じ、一つ一つ文字通り虱潰しに掃海を行う方式が現在では確実です。

 機雷敷設を行う側からみた場合、実は攻撃側に有利な条件があるのです。ホルムズ海峡は33kmの幅がありますが、タンカーなどが航行可能である海域は中央部3kmほど、機雷であれば小型船でも敷設が可能ですが、処理となりますとペルシャ湾とアラビア海を結ぶ海峡は潮流が速く、機雷処分具の航行が制限されるほか、イラン沿岸に近く、掃海は難しい。

 安全保障法制定において、ホルムズ海峡の機雷掃海は実際に考えられた具体的事例の一つです。そして多国間機雷戦訓練において想定されている機雷掃海の一つともされ、上記の通りもう一つの重要航路であるスエズ運河機雷テロ事件、国籍不明勢力によるスエズ運河封鎖事件とならび、アジアと欧州と中東を結ぶシーレーンへの重大脅威とされてきました。

 ホルムズ海峡機雷封鎖は、潮流とともにイラン沿岸部に近く、機雷封鎖がイランにより行われた場合、機雷掃海を妨害するために地対艦ミサイルや火砲による妨害が想定されることも懸念すべき点で、場合によっては掃海艇の派遣にとどまらず、掃海艇の護衛へ、例えばイージス艦による艦隊防空や艦砲を用いた妨害対処という任務も想定せねばなりません。

 ホルムズ海峡でのタンカー襲撃事件、イラン孤立化を企図する第三国勢力の関与の可能性があた時点では、機雷敷設はテロ的手段として行われる可能性が高かったのですが、問題はコクカ-カレイジャス襲撃事件以降のタンカー攻撃は、例えばイラン産原油を国連制裁に反して第三国に転売しようとしたためにイランが出動するという新展開となっています。

 イギリスタンカー拿捕事件は、イギリスタンカーがイラン漁船に当て逃げを行った為にヘリコプターを派遣し拿捕した、と主張しており、これは船舶位置情報AIS記録によれば、イラン革命防衛隊による拿捕を受けるまで速力を維持し航路も維持している為、漁船への当て逃げが事実であるのかが疑わしいのですが、爾後イランが正面出でるようなりました。

 例えば機雷敷設が行われた場合、イランは機雷敷設を正当な自衛権行使として正当化し、第三国による機雷掃海を拒否する可能性も否定できず、問題は複雑化します。具体的に言うならば、掃海艇にはCIWS等の防空火器は勿論のこと、対空レーダーも電波妨害装置さえも搭載していません。掃海が実力で妨害された際への備えがほぼ、無いという実情が。

 掃海艇は特に機雷掃海任務の際には全乗員が甲板上に作業を行う、機雷触雷の際に艦内は危険である為なのですが、これは砲弾やミサイルに対して乗員が甲板上に露天状態で有る事を意味する。冒頭に掃海艇が最適と記述した上で、その前提として国籍不明勢力による機雷敷設任務の場合、と但し書きした背景には掃海艇のこうした状況が在るのですね。

 掃海艇を派遣し、この掃海艇による機雷処分を開始した時点で、例えば高速艇などによる妨害がなされた場合、掃海艇には機関砲、新型の掃海艇えのしま型からは管制式20mm機関砲が搭載されており、その脅威排除は可能です。しかし、地対艦ミサイルなどによる妨害は対処不能、この場合は自衛隊や米海軍の運用する掃海ヘリコプター等が有用でしょう。

 掃海輸送ヘリコプターMCH-101は掃海艇による掃海に先だって航路掃海を行う装備で、航空機であれば触雷した場合でも墜落に至ることはありません、掃海艇を機雷から守るためにもおおまかな掃海を航空機で行うことは有用なのですが、その取得費用は掃海艇よりも高い。自衛隊とアメリカ軍は前者は機雷戦重視、後者は機動力重視から導入しました。

 MH-53やMCH-101であれば、ホルムズ海峡が機雷封鎖され且つ掃海艇に対する妨害攻撃が行われるという最悪の場合であっても、対艦ミサイルはヘリコプターを照準出来ませんので、陸上からの妨害が一段落するまで掃海任務継続可能です。もっとも、これは最悪の状況、対艦ミサイル脅威が現実となった場合は一定期間、タンカーは航行不能となります。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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