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【防衛情報】エクスカリバー誘導砲弾のPzH-2000&M-109&M-777採用と英AS-90後継

2021-07-19 20:12:22 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 今回は砲兵装備について重点的に最新情報を纏めてみましたが新旧火砲へ誘導砲弾が一挙に採用されている印象です。

 スペイン陸軍はM-109A5E自走榴弾砲用にアメリカのレイセオン社よりエクスカリバー誘導砲弾を導入します。契約金額は914万ドルとのこと。M-982エクスカリバー誘導砲弾はARLアメリカ陸軍研究所とARDECアメリカ陸軍技術開発センターが共同開発し、イギリスのBAEシステムズ社が製造するGPS誘導方式の155mm誘導砲弾となっています。

 M-109A5Eは1963年にアメリカ陸軍が導入を開始したM-109自走榴弾砲の改良型で砲身を33口径から39口径に延伸した輸出型で通常砲弾でも20km以上の射程を確保、アメリカ陸軍向けのM-109A6の原型ともなりました。スペイン軍では96両を導入し、スペイン陸軍の主力火砲となっており、弾薬やデータリンク装置等は継続的に改良されています。

 エクスカリバー誘導砲弾は、2013年に開発され、精密誘導により友軍陣地から250フィート、即ち75mまで近接した敵に対しても投射可能という精度を有しており、これは市街地や競合地域での民有地付近での火力戦闘にも威力を発揮します。今回供与されるのはM-982A1であり、大量生産により製造費用を大幅低下させたもの、2020年に完成しました。
■インド軍エクスカリバー導入
 M-777にも採用されるとのことで考え方によっては本邦のFH-70も検討すべき様にも。

 インド陸軍はアメリカのレイセオン社との間でエクスカリバー誘導砲弾に関する900万ドルの契約を締結しました。インド陸軍はアメリカ製M-777超軽量榴弾砲を運用しています。M-777は中国インド国境の山岳地域において有用な装備と考えられていて、エクスカリバー誘導砲弾ことM-982砲弾はGPS誘導方式採用の極めて有用な155mm砲弾です。

 UFH超軽量野砲としてイギリスで開発されたM-777は39口径の155mm榴弾砲ですが、チタン合金とハニカム構造砲架など徹底した軽量化構造を採用したことで重量が3.175tと同世代の155mm榴弾砲と比較し、半分から三分の一程度と軽量であり、UH-60多用途ヘリコプター等での空輸が可能、米軍やカナダ軍、オーストラリア軍にも採用されています。

 M-777超軽量榴弾砲はインド陸軍ではアメリカを通じイギリスのBAEシステムズ社との間で先ず25門が供給、更にインドのマヒンドタディフェンスシステムズリミテッド社が120門をライセンス生産する計画で、インド軍ではM-777超軽量榴弾砲18門からなる7個砲兵連隊を創設する計画、この為にエクスカリバー誘導砲弾の増強が行われる構図でしょう。
■オランダ軍エクスカリバー導入
 オランダのPzH-2000はアフガニスタンで通常榴弾を用い民生被害多発が指摘されたのが2007年頃でした。

 オランダ陸軍はアメリカのレイセオン社との間でPzH-2000自走榴弾砲用のエクスカリバー誘導砲弾に冠する2000万ドルの契約を結びました。これは2021年3月から導入に向けての交渉を進めており、6月に入りアメリカ国務省のFMS対外有償軍事援助の対象となりました。今回導入されるのは量産型で安価におさめたM-982A1エクスカリバーとのこと。

 エクスカリバー誘導砲弾はGPS誘導方式であり緒元入力装置も併せて必要です。レイセオン社とオランダ軍の契約では199発のM-982A1エクスカリバー砲弾と関連機器で4055万ドルとされており、関連機器を除いた砲弾199発の取得が今回の契約であると考えられており、一発当たり10万ドル超、対戦車ミサイル並の高価な砲弾であることが計算できます。

 PzH-2000自走榴弾砲はドイツが1990年代に開発した52口径長砲身を有する近代的な自走榴弾砲で、開発国ドイツやオランダのほか、イタリアやギリシャ、ハンガリーやカタール、クロアチアにおいても運用されています。オランダ陸軍では2021年現在、57両を運用中です。この長砲身から発射した場合、その射程は50kmに達し誤差は数十mという。
■AS-90後継機動砲兵計画
 AS-90は開発当時世界最強と評されたものですが52口径砲時代の過渡期に生まれた39口径砲で何か155mm時代に乗りきれなかったアボット自走砲を思い出す。

 イギリス陸軍の機動砲兵プログラムへ韓国のハンファディフェンス社がK-9-UKを提案しています。K-9-UKは韓国軍が運用しオーストラリアやインドとトルコやフィンランドとノルウェーにエストニアなど、世界各国へ輸出されている52口径155mm自走榴弾砲のイギリス軍仕様で韓国軍向け最新型にあたるK-9A2の技術が広く応用されているとのこと。

 K-9-UKは自動装填装置の採用による砲塔システムの無人化や静粛性と整備性に優れるゴム製履帯の採用などが盛り込まれています。イギリス陸軍の機動砲兵プログラムは2022年にも車種を決定したい方針で、現在イギリス陸軍運用しているAS-90自走榴弾砲の52口径主砲搭載延命改修型やドイツ製PzH-2000自走榴弾砲などが他の候補として考えられます。
■台湾,HIMARSとHCDSで契約
 台湾は火砲よりも射程の長いロケット弾を重視するようで島嶼部戦を考える日本への一つの参考点となるのでしょうか。

 台湾政府はアメリカ政府との間でHIMARSとHCDSに関する17億5000万ドルの契約を成立させました。HIMARSはM-142高機動砲兵ロケットシステムでATACMS陸軍戦術ミサイル運用型、HCDSはハープーン地上発射型沿岸防備システムで、台湾ではHIMARSを64両、RGM-84L-4ハープーンブロックIIミサイル400発などを導入する計画です。

 HIMARSとHCDSに関する契約は2020年10月21日にアメリカ政府がトランプ製塩時代に締結したもので、バイデン政権は攻撃的兵器の海外供与に消極的と考えられてきました。しかし、今回の契約は2021年6月17日、バイデン政権下のアメリカ政府が輸出許可を示したものであり、中国海洋進出へバイデン政権の取り組みが垣間見える事例といえます。
■時事:英艦隊訪日は4基地へ
 ここからは時事です。クイーンエリザベス空母戦闘群は日本中に入港する事となると全部回るのはかなり過酷ですね。

 空母クイーンエリザベス戦闘群九月の日本寄港について四カ所の基地へ分散入港する方向で最終調整に入った、クイーンエリザベスは横須賀基地へ入港する、日本政府関係者からの情報として共同通信が報じた。クイーンエリザベス空母戦闘群はクイーンエリザベスと駆逐艦ディフェンダー、ダイヤモンド、フリゲイトケントとリッチモンド等からなる。

 空母戦闘群にはアメリカ海軍巡洋艦ザ・サリバンズとオランダ海軍フリゲイトエヴェルトセンが参加し、補給艦も2隻随伴する。この為、横須賀基地だけに全艦入港する事は難しく、横須賀基地、佐世保基地、舞鶴基地、呉基地に分散入港するとのこと。7月20日に開かれる岸防衛相とウォレス国防相の日英防衛相会談において、正式に決定する見込みだ。
■時事:英空母戦闘群で集団感染
 クイーンエリザベス空母戦闘群の日本寄港前に心配なニュースです。

 空母クイーンエリザベス空母打撃群において新型コロナウィルスCOVID-19感染拡大が続いている、7月15日までに艦内感染者数は100名を超えた。ただ、今回の艦内COVID-19感染拡大において異常であるのは、2020年のアメリカ海軍原子力空母エイブラハムリンカーン艦内クラスター感染と異なり、空母クイーンエリザベスは航行を継続中であることだ。

 クイーンエリザベス空母打撃群は初の作戦航海として極東方面への長期航海にあたっており、今世紀最大の海軍パワープロジェクションとなっている。もっとも、クイーンエリザベス空母打撃群乗員は例外なくCOVID-19感染対策にワクチンを接種、重篤化リスクは低いともいえる。しかしながら感染防止よりも国威発揚を優先する構図は不思議に思える。

 COVID-19感染拡大について、100名の感染者数はクイーンエリザベス空母打撃群全体での感染者数であるのか、空母クイーンエリザベス艦内だけで100名の感染拡大が生じているのか、イギリス国内報道では分かれている。ただ、クイーンエリザベス空母打撃群からミサイル駆逐艦ダイヤモンドが離脱している、イギリス海軍は機関部の問題と発表した。
■時事:ロシア新戦闘機開発か
 Su-57戦闘機の量産も本格化していないのに気が早いようにも思える、本邦の戦闘機開発よりは進んでいるのですけれども。

 ロシアのロステック社はMAKS-2021国際兵器展に先立ち新戦闘機の発表を示唆した。これは系列のUAC統一航空機製造社が構想しているとされる次世代戦闘機で最新型のSu-57とは別の第五世代戦闘機と考えられており、UACはこのイメージビデオを動画配信にて公開している、ただ、肝心の戦闘機についてはCGに不鮮明化処理が掛けられていた。

 MAKS-2021国際兵器展は7月20日よりモスクワのジューコフスキー基地にて開催される。UAC統一航空機製造社は新型戦闘機をアラブ首長国連邦やインドとアルゼンチン等への輸出を期待している旨発表しており、政治的にアメリカ製のF-35戦闘機を取得しにくい諸国やアメリカおよびその同盟国との緊張関係に在る諸国等への輸出も想定しているようだ。
■時事:独西部水害へ連邦軍
 自衛隊の熱海土砂災害への派遣は継続しているようですが、世界中の軍隊が自衛隊の様に災害派遣に長けている訳ではないもよう。

 ドイツ連邦軍は7月16日からの記録的な豪雨により激甚化している西部の大洪水に対し連邦軍派遣を開始した。洪水被害はドイツ西部と隣国ベルギーで発生、16日時点で死者120名と安否不明者1300名という記録的水害となっており、ラインラントプファルツ州と乗るとラインウェストファーレン州、そしてケルンなどの都市部でも被害が発生している。

 ケルンの当局者が発表したところによれば被災地域では携帯電話網などの通信インフラや道路網が完全に破壊されており、16日にドイツ連邦軍より500名を越える部隊が派遣され、18日には派遣規模は700名を超えた。欧州では軍隊の災害派遣は障害除去などに限られ、人命救助は消防のレスキュー隊が任務にあたる、この規模の派遣は異例ともいえるものだ。
■時事:仏革命記念パレード
 日本の中央観閲式と異なりシャンゼリゼで実施できるのですね。

 フランスではフランス革命を祝う七月十四日、二年ぶりに革命記念パレードがパリで実施された。革命記念日はフランス軍の精鋭による軍事パレードも実施されるが、本年は国内のテロ対策任務部隊や感染拡大へ立ち向かった衛生部隊も脚光を浴びたかたち。2020年は新型コロナウィルスCOVID-19感染拡大を受け革命記念軍事パレードも中止されている。

 パレードではテールドフランス新迷彩が今回初公開となった、海老茶色の単色迷彩で一定以上の長距離において効果を発揮するという。ルクレルク戦車はマクロン政権下一度も参加しておらず、本年もパレードに参加していない、ただ輸送部隊の行進に際し1両だけ戦車輸送車の車上に固定されていた。ルクレルク戦車もテールドフランス迷彩となっていた。

 革命記念パレードであるが、しかしCOVID-19感染影響は色濃く残り、シャンゼリゼ通り付近ではフランス政府が発行したワクチン接種証明書か有効期限内の公的陰性証明書が無ければ立ち入り禁止となった。フランスではマクロン大統領が非ワクチン接種者の公共交通機関や商業施設利用を大幅に制限する事となるワクチンパスポート制度を発表している。
■時事:コロナ禍ジャカルタへ支援
 新型コロナウィルスCOVID-19感染拡大は日本でも深刻ですが世界最大の感染拡大がインドネシアで広がっています。

 シンガポール海軍は7月18日、COVID-19感染爆発下のインドネシアへ揚陸艦エンデヴァーを派遣しました。インドネシアでは一日感染者3万5000名、死者800名、現在世界でも最悪の感染爆発が発生しているとされ、医療崩壊が深刻化しています。特に医療用酸素と酸素ボンベ及び酸素吸入器の不足が深刻で呼吸困難患者に対し呼吸器を装着できません。

 エンデヴァーはエンデュアランス級揚陸艦の一隻で、今回のインドネシアへの支援では液体酸素40t、酸素ボンベ500個、酸素濃縮装置570個となっています。エンデヴァーは首都ジャカルタの医療支援物資輸送とジャワ島への医療支援物資輸送を実施しました。また、シンガポール政府は17日にインドネシアとの国境入国制限強化措置を発表しています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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