北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

戦闘機スクランブル発進、平成23年度は425回で前年比39回増加

2012-04-30 23:51:44 | 防衛・安全保障

◆防衛省、平成23年度緊急発進実施状況を発表

 防衛省は昨年度に当たる平成23年度の航空自衛隊対領空侵犯措置任務緊急発進の実施状況を発表しました。 

Img_9151a 対領空侵犯措置任務は、国籍不明機が全国に配置されている防空監視所のレーダーに確認され、我が国領空へ接近した場合、領空から一定の距離を隔てて設定されている防空識別圏を基点とし、領空侵犯を抑止するために発進命令が全国の航空方円隊より発動、全ての戦闘機基地には五分待機の戦闘機が搭乗員と整備員と共に24時間体制で備えており、全国の基地より戦闘機を緊急発進させ、警告を行う任務です。

Img_9632 緊急発進へは航空自衛隊戦闘機には空対空ミサイルや機関砲弾を搭載し、任務に当たっています。写真は訓練展示における模擬弾ですが、対領空侵犯措置任務には実弾が即応して発射できる態勢をとり任務に当たっています。相手は戦闘機であれば超音速飛行が可能でもあり、文字通り寸秒を争う緊張の連続となるもの。

Img_7836 この緊急発進ですが、平成23年度の実施回数は425回、この回数は22年度386回、21年度299回、20年度237回と急増する傾向にあります。緊急発進のピークは東西冷戦が激しい1984年の944回で毎日数回の平均値で戦闘機が緊急発進を行っていました。これはソ連崩壊の1991年まで800回以上という水準で推移していましたが、冷戦時代終結後には150~200回という水準で推移していたのに対し、ここ数年不気味に上昇し続けています。

Img_8645_1 緊急発進の回数は1968年の小笠原返還と1972年の沖縄返還ののち、1970年代半ばから急激に増加へと転じましたが、それ以前の水準で見ますと300回の水準にあり、米空軍から任務の移管を受け対領空侵犯措置任務を開始した1958年から1975年までの間、400回を超えたのは1967年の一年間のみ、その時が425回でした。

Mimg_2498 最も緊迫しているのは那覇基地。航空自衛隊は、北日本においてロシアに向き合う北部航空方面隊の戦闘機四個飛行隊、首都防空を担いつつ日本海側からの侵攻に備える中部航空方面隊の戦闘機四個飛行隊、朝鮮半島情勢を睨みつつ九州全域の防空を担う西部航空方面隊の戦闘機三個飛行隊、そして沖縄南西諸島を一個飛行隊により防空する南西方面航空混成団が任務に当たっていますが、件数は南西方面航空混成団が最大だったのです。

Img_90_00 回数の概要は、北部航空方面隊158件、中部航空方面隊54件、西部航空方面隊47件、南西方面航空混成団166件。平成20年度までは南西方面航空混成団の緊急発進件数は40回程度で中部航空方面隊と同程度の回数であったのですが、平成21年度から一挙に100件を超え、中部航空方面隊と西部航空方面隊の同数に匹敵もしくは凌駕する規模となり、今年、北部航空方面隊の緊急発進回数を凌駕しました。

Img_8460_1 緊急発進回数における各国の内訳は、ロシア機に対するもの247件、中国機に対するもの156件、台湾機に対するもの5件、北朝鮮機に対するもの0件、その他の国籍機に対するもの17件となっています。最大勢力はロシア機に対する緊急発進ですが、中国機に対する緊急発進は156件。ロシア機の全体に占める規模は例年と同程度ながら中国機による割合は急増傾向と言わざるを得ません。

Img_2631 中国機によるもの156件ですが、19年度では43件、20年度31件、21件38年と推移している一方で22年度には96件と急増、こうした上での23年度の中国機への対領空侵犯措置任務が23年度、初めて百件を凌駕し、一挙に156件と増大したわけです。五年前と比べればどれだけ増大したか、ということがこの数字から読み取れるように思います。

Img_1150 特に重要なのは、南西方面航空混成団には一個飛行隊の戦闘機が配備されているのみであり、一個飛行隊で北部航空方面隊四個飛行隊と並ぶ負担を受けているわけです。これも、我が国の防空体制は主として北方からのロシア機の侵攻に備えたもの、現在の南西方面航空混成団が編成された当時では中国空軍に戦闘行動半径として沖縄まで飛行できる機体が皆無であったことに起因しているということを忘れてはなりません。

Img_8859_1 しかし、他の航空方面隊から引き抜くとしても、ロシア機の多きは中国機とは異なり長距離飛行を行い日本海沿岸に沿って京阪神地区近くまで、太平洋沿岸に沿って京浜地区沖合まで進出する事例があることから、首都防空を二個飛行隊に充てることが必要性もあり、日本海方面は朝鮮半島北部の情勢が悪化した場合には緊張を正面から受ける事となってしまうこともあり、ひき抜くことも難しく、当面は機動運用による抑止力に依存するほかないのでしょう。

Img_2129 西部方面航空隊としても、元々この地域の防空は朝鮮半島情勢の激化を想定して重視したものであり、過去の演習想定は1960年代までは朝鮮半島情勢が激化し、九州地区北部への影響が増大することを対処するという視点であったようです。こうしますと、引き抜ける飛行隊は、日本海の北朝鮮への備えを引き抜くか、首都防空を縮小するか、九州南部の防空を北部に統一して展開させるか、どれも難しい。

Img_0402f なお、沖縄方面への接近ですが、日中間の摩擦となっている先島諸島方面への直接の接近は非常に少なく、九州西方空域から南下し沖縄本島近くで大陸へ反転するという経路となっています。これは先島諸島への最短進路をとった場合、台湾空軍の警戒を買うことが背景にあるのでしょう。言い換えれば先島諸島防衛と台湾海峡の安全はそのまま我が国の防衛にかかわっている重大事案ともいえるかもしれません。

Img_83810_1 唯一楽観的な要素は中国機による航空機の進出は主として情報収集機によるもので、接近も防空識別圏ぎりぎりに飛行させるという己で、件数は増大していますが早期警戒機や超音速爆撃機などを進出させ、日本列島を一周させる長距離飛行を行うロシア軍機と比べ、脅威度合では北部航空方面隊と比べた場合、楽観的な要素があります。もっとも、回数が多いということは機体の稼働数に影響が生じてしまうことは忘れてはならないのですが。

Img_1654 こう考えますと、戦闘機数が充分であるのか、また那覇基地一か所だけという南西方面航空混成団の基地ですが、弾道弾射程外である沖縄本島に必要ではないでしょうか。冷戦構造終結後、緊急発進の回数減少に伴い航空自衛隊の戦闘機定数は縮減を続けてきましたが、現状の戦闘機定数で十分な防空態勢を維持できるのか、というところは一層慎重に検討されるべきでしょう。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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6 コメント

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ドナルド 様 こんばんは (はるな)
2012-05-05 19:21:13
ドナルド 様 こんばんは

選択肢ですが、F-15Jが配備開始となったころは定数を16機として、飛行隊数を充足することで対処していたようにも。しかし、あの時は確かF-4の飛行隊定数を24機として航空団全体の能力を維持していたようにも。

こうなりますと、将来的に空対空ミサイルを運用可能な高等練習機を教育訓練と場合によっては補助戦闘機として運用する展望が出され、開発か導入に向かっていく基点になるのかもしれません。

防衛費ですが、これ、転換点があると思うのですよね、平和主義を半世紀継続してきたが逆効果であった、として転換する可能性はあるのでは、とも考えられます。この場合の政軍関係がどうなるのかは慎重に考えねばならないことなのですが。

防衛費ですが、そもそも防衛費の要求背景となる部隊規模、基幹部隊は、第四護衛隊群設置が石油危機直後でしたし、沖縄返還後の防衛体制確立も同様、不景気下での計画ですので、逆に不景気でも維持しやすくなっているといえるやもしれません。
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慎太郎 様 どうもです (はるな)
2012-05-05 19:13:50
慎太郎 様 どうもです

ううむ、なんとかF-16Cでもいいので三個飛行隊ほど増強しなければ、冷戦時代の北海道の防空体制と比較し、南西諸島は明らかに手薄なのですよね。
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鷲 様 こんばんは (はるな)
2012-05-05 19:12:42
鷲 様 こんばんは

現有装備で、と言われても、F-4の延命改修を再度実施しなければどうにもならないのですよね、訓練飛行が出来ない。

これならば、小牧基地でモスボール保管されていたF-4EJ戦闘機20機を、廃線腐食などの理由で廃棄してしまったことが悔やまれます。

F-2ですが、戦闘行動半径がF-15よりもかなり小さいので、那覇配備では対艦攻撃に能力を発揮できても航空優勢確保には不十分ではないでしょうか。
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はるなさま (ドナルド)
2012-05-02 01:21:34
はるなさま

沖縄の2こ飛行隊化には、いくつかのオプションがあると思います。

1:元々戦闘飛行隊であった第23飛行隊を解体して、機体を確保する。ただし、震災で失われたF-2Bの教育過程を、一部第23飛行隊でできるとすれば、このオプションは実行不可能。

2:F-15の減耗予備機を投入する(全体の寿命は縮まる)。1フライト4機+1エレメント2機程度捻出。

3:「1」の代わりに、小松基地の第306(F-15)飛行隊を18機-->14機編成とし、1フライト(4機)を1つ確保。

4:那覇基地の第204飛行隊飛行隊を、18機-->14機編成とし、1フライト(4機)を1つ確保。

「2」「3」「4」により、14機編成の飛行隊を新設し、那覇基地を 14機編成のF-15飛行隊2ことする。

防空圏が広いので、F-15でないと航続距離の視点から苦しいかもしれないと思います。また基地が狭いので、合計28機に押さえています。

戦闘機の定数は、おっしゃる通り非常に厳しいものがありますが、ならばスイスのように「グリペンNG」を採用するかというと、そうも行きません。「平時対応」は、グリペンNG(航続距離もかなり長いしスーパークルーズもできるくらい抵抗が低い機体であることも魅力)でほぼ完璧かと思いますが(スイス空軍もそう言う判断ではないかと、、)、実戦となるとそうはいかないでしょう。

もう少し予算を増やしたい所ですが、プライマリバランスの確保がまず優先と考えます。何度も言いますが、「5年後よりも、20年後、40年後の方が、中国との国力差は開いて行く可能性が高いのだから、今、借金を増やして、将来の戦闘機購入費用を利子付きで先食いする気にはなれない」、という気持ちがあります(もちろんこれはあくまで、防衛予算を固定で考えるとすれば、です)。そもそも、消費税を上げるのだから、世論として防衛費の増大に支持が得られないだろう、とも思います。しかし、プライマリバランスさえ達成すれば、防衛費の増加にも目処が立つでしょう。(それ以外の歳出圧力もすごいことになるでしょうから、そのときこそ、正念場ですが)

#でも、みみっちく、年0.5-1% (200-400億円)くらいの増大は、そろそろ考えたいですね。。


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はるな様 (慎太郎)
2012-05-01 12:29:51
はるな様

私も戦闘機の定数見直しに同感です。出来れば、現在のF-15/7個飛行隊を、2000年以前の8個飛行隊に戻すべきだと思います。
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お疲れ様です。 ()
2012-05-01 01:22:51
お疲れ様です。
那覇基地への飛行隊増加の検討ですが、結局のところ定数が足りないの一言に尽きるでしょう。にもかかわらず防衛省はF4引退にF35が間に合わない場合は「現有装備で対象する」との破天荒。部隊の純減が現実的になる現状では教育部隊である21・23飛行隊を戦闘部隊に改編するのでしょうか[E:#xE483]ただでさえ、津波で役半個飛行隊分の戦闘機が失われ、国内整備基盤すらなくなりつつある今。F35の夢想に取り憑かれていることこそが、最大の脅威であると思えてなりません。
ちなみに、那覇基地配備はF-2が戦略的に妥当でしょう。上記のような状況では無理かもしれませんが…。
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