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【防衛情報】オーストラリアSEA1000計画アタック級潜水艦建造中止,そうりゅう型退け採用

2021-04-19 20:09:25 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 オーストラリアがフランスからの500億ドル規模の潜水艦建造計画の中止をは票しました。

 オーストラリア海軍SEA1000計画アタック級潜水艦建造500億ドルの建造計画が中止となりました。これは現在オーストラリア海軍が運用する1990年代のコリンズ級潜水艦の後継として12隻を導入する事になっていました、フランスのナーバル社製通常動力潜水艦で、フランス海軍が導入する最新バラクーダ級攻撃型原潜を通常動力潜水艦とした潜水艦です。

 SEA1000計画はオーストラリア海軍が当初、海上自衛隊の潜水艦そうりゅう型を導入計画としてアボット政権時代に入り開始されました、これは前のラッド政権の親中政策が豪州安全保障基盤へ悪影響を受けた反省からでしたが、アボット政権から同じ自由党のターンブル政権に代わると、国内産業重視機運が高まり、日本の技術移転抑制姿勢が影響します。

 アタック級潜水艦は、そうりゅう型と異なり豪州国内での合弁企業による建造が認められ、ここが評価された形ですが、実物はペーパープランのみ、当初250億ドルの計画は12隻500億ドルに拡大、巨費は現在の自由党モリソン政権に代わりますと逆に批判されると共に更に800億ドルにまで拡大する懸念が指摘されており、遂に一旦白紙となった構図です。

 コリンズ級潜水艦、水中排水量3350tの通常動力潜水艦でスノーケル航行時の航続距離は9000浬という長大な航続距離を有しており広大なオーストラリア大陸周辺海域の防衛を任務としています、乗員は45名で恐らくは2交代制、6隻が建造されており一番艦コリンズは1996年就役、6番艦ランキンは2003年に竣工、現在も全艦が運用中の潜水艦です。

 自衛隊の潜水艦そうりゅう型に決定していたならば、もう2021年には竣工が始っていたように思うのですが、また一隻当たり戦闘システムをオーストラリア仕様とした場合でも10億ドル前後で実現したでしょう。12隻で500億ドルとか800億ドル、という事にはならなかったはずです。勿論これは建造も重整備も神戸の、日本の施設で行った場合、ですが。

 オーストラリア海軍、アタック級導入断念の代替案にスウェーデン製潜水艦継続調達の可能性が急浮上しているようです。これはオーストラリアンファイナンシャルレビューの発言を3月1日付インディペンデントオーストラリア紙が報じたものですが、現行のコリンズ級潜水艦は1990年代の潜水艦であり、2020年代には後継艦を建造せねばなりません。

 コリンズ級潜水艦はスウェーデンより技術協力を受け建造された潜水艦で、オーストラリア海軍では導入当初、深刻な騒音問題に悩まされていました。この為、ドイツ製214型潜水艦、日本製そうりゅう型潜水艦、スウェーデンコックムス社製潜水艦が後継艦に提案された際に、スウェーデン案は採用されにくいものと考えられていた訳ですが一転しました。

 そうりゅう型潜水艦輸出、ここに一旦決まりかけたものの、システムが2030年代に建造するには古くなり、また豪州国内での建造に日本が難色を示した事でフランス製潜水艦が採用された形ですが、コストが制御不能となり中止となりました。コックムス社が再浮上した背景、最早再度一から選定する時間が無く、既存の提携関係を活かす為かもしれません。

 スウェーデン製潜水艦は性能としては欧州では高性能潜水艦という評価がありますが、これを元としたオーストラリア海軍コリンズ級潜水艦については、竣工当初こそ世界最大級の通常動力潜水艦と云う事で話題とはなりましたが、騒音問題の発生、そして稼働率などの面で本型のオーストラリア海軍における評価は芳しいとは言い難いものがありました。

 コリンズ級はオーストラリア国内でのノックダウン生産が行われており、組立の問題もあったのかもしれません。組立くらい、と思われるかもしれませんが日本も1960年代に国産うずしお型建造当時、僅かなシャフト部分の歪から“ガタピシ音”という固有の騒音問題を発生させてしまい、この解決までに十年以上を必要とした事例があり、難しさが分る。

 ヴェステルイェトランド級潜水艦、コリンズ級はこれを改良したものなのですが、オーストラリア海軍の運用とヴェステルイェトランド級潜水艦が合わなかった可能性は、あります。具体的にはスウェーデン潜水艦は浅いバルト海での運用を想定しています、潜航性能はあっても運用水深が浅海域を重点的に考えている可能性はあり、合わなかった可能性も。

 アタック級潜水艦は、しかし設計の時点で無理なものがありました、フランス海軍が建造するバラクーダ級攻撃型原潜を通常動力潜水艦とするものでした。オーストラリアはラロトンガ条約に批准しており、オセアニア非核地域を形成している事から原潜を保有する事は出来ません、しかしオーストラリア国土は広大である為に大型潜水艦が求められます。

 バラクーダ級攻撃型原潜を通常動力化する、文字にするのは簡単ですが、原潜はディーゼル発電機のような吸排気系統を必要としない設計ですので、全く異なる通気系統を増設せねばなりません、そしてバラクーダ級攻撃型原潜はポンプジェット推進方式を採用していますが、静粛性は高いもののエネルギー効率が低く、これも航続距離を低下させてしまう。

 実際のところ、そうりゅう型を導入していれば、と考えるところなのですが、なにしろ途中から配備計画が2010年代を2030年代に延伸され、そうりゅう型は2030年代には陳腐化するという、唐突な評価が出されてしまいます。実際その頃には自衛隊も潜水艦たいげい型、その次あたりの潜水艦の時代となっているでしょう。ある意味不満もあるのですが。

 オーストラリア海軍は、しかしアタック級潜水艦こそ当初の250億ドルの予算が800億ドルまで高騰しつつある状況で急遽中止とした構図ですが、コリンズ級潜水艦後継計画そのものは中止していません。更にホバート級イージス艦やキャンベラ級強襲揚陸艦、空軍のF-35A戦闘機導入等防衛力強化を進めており、何れは最適な潜水艦も導入するのでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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1 コメント

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本当ですか? (ドナルド)
2021-04-19 23:43:41
これまで噂は何度も出ていました。しかし、今のところ、どこにもキャンセルの確報は出ていないようですが。。。
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