北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

広島瀬戸内海阿多田島沖、輸送艦おおすみ・遊漁船トビウオ衝突事案に関する一考察

2014-01-18 23:53:23 | 防衛・安全保障

◆詳細は海上保安庁捜査の進展を期待 
 広島県大竹市阿多田島沖において15日、海上自衛隊輸送艦おおすみ、遊漁船とびうお、が衝突する事故が発生しました。今回の事故で二名の遊漁船の方が亡くなっています、最初に今回亡くなられた方のご冥福を祈りましょう。
Img_3132 こちらは呉基地の航空写真です。事故発生海域ですが、この場所は神戸空港から福岡空港へ向かう航空路線機上から良く見える海域で、江田島基地と岩国航空基地を結んだほぼ中間点、厳島神社の宮島から直ぐ南側にあります。阿多田島沖での衝突事故、と報じられますが報道地図では場所を詳細に示すべく陸上が殆ど映らない拡大地図が示されるため開けた地形での事故、と印象付けられますが、広島や呉から大型船が瀬戸内海に出るための水道にあり、浅瀬と潮流を確認しなければならない海域と言えるでしょう。
Img_3139 航空写真の通り、呉から外海に出るときには水道を通らねばなりません、これは此処に軍港が置かれる際、外海に面していない港湾の方が敵の艦砲射撃を受けにくいためでした。呉基地周辺を散策された方や広島湾展示訓練などに足を運ばれた方はご存知と思われますが、呉基地から瀬戸内海や豊後水道に向かう航路にあり、瀬戸内海ですので多島海域という地形特性があり、当然航路は浅瀬を避けるため、喫水の少ない小型遊漁船は直進できる洋上でも大型艦は座礁を避ける航路を航行せねばなりません。
Img_3141 おおすみ、は今回、呉基地において必要資材以外を陸揚げし、岡山県玉野の造船所にて定期整備を受けるべく瀬戸内海へ向かっていました。呉基地周辺にも造船所はありますが、おおすみ、は玉野造船所にて建造されたため、という背景があります。輸送艦のみならず、海上自衛隊艦艇は一定期間ごとに造船所のドックに入渠し、定期整備を受ける事となっており、これは自動車の車検に相当するものです。 玉野へ向かう途上、0800時頃、おおすみ、は瀬戸内海阿多田島を過ぎた海域において遊漁船との衝突事案を発生させています。今回、おおすみ、は衝突事案を未然に回避するべく相互位置情報を表示する船舶自動別装置AISを作動させており、航行情報は我が国での主管官庁である海上保安庁へ随時供されていたため、その航路は明確に判明しています。
Img_3154 写真は岩国航空基地と右端に阿多田島の位置関係です。残念ながら、事故海域は欄外になってしまっていますが、位置関係は概ねわかるでしょうか。その情報によれば、輸送艦おおすみ、は0800時まで阿多田島と江田島の中間航路を真南に航行しており、0801時に減速、0803時に完全停止、0805時まで潮流により変位し機関を再始動、0816時に現場海域へ戻っています。これは海上自衛隊側の事故発生後の対応、機関停止と搭載艇展開による捜索救助作業開始、事後輸送艦も現場海域へ航行し救助活動を指揮、という発表と合致するでしょう。
Bimg_5062 事故。遊漁船トビウオ号は乗員1名と釣り客3名、うち乗員と乗客各1名の2名が重態で収容されました。遊漁船側の生存者証言は二転三転しています。遊漁船側の証言を幾つか列挙しますと、おおすみ航路が蛇行していた、衝突まで輸送艦を確認していなかった、おおすみ進路上を追い越した、二回追い越したところで輸送艦が変針した、おおすみ観察へ遊漁船側が近づいた、事故直前に輸送艦進路がタンカーの横断により変針した、衝突直前に輸送艦側が一回だけ警笛を鳴らした、追い抜いて減速中に衝突された、等など、報道インタビューへの回答では以上のような証言が為されていました。

Gimg_5290 証言に在った、“おおすみ航路が蛇行していた”、という部分は直進が記録されるAIS情報と矛盾します、ただ、嘘を吐いていたとは考えにくいため記憶違いかもしくは遊漁船側が蛇行していたため自分が変位している状況を輸送艦側が変位している、と勘違いした可能性があります。小型船はAISを搭載していなかった模様で、航路からこれを裏付ける事は出来ませんが、この点は今後の海上保安庁の捜査を待たなければ判明しません。証言の“衝突まで輸送艦を確認していなかった”、ですが、満載排水量14000tの大型船を確認できないことはあるのか、という素朴な疑問が生じますが、その後の証言である“おおすみ進路上を追い越した”、という証言は、認識しなければ追い越し前に艦尾に激突しますので、矛盾があり、少なくともどちらかが虚偽であると考えます。また続く証言に“二回追い越したところで輸送艦が変針した”、というものがあり、どっちなのだ、と疑問は積もるばかりで二転三転、と言わざるを得ないところです。ところが、“おおすみ観察へ遊漁船側が近づいた”、とありますので、自分から近づいたという視点を証言は示唆しました。

Gimg_9346 続いて証言の“事故直前に輸送艦進路がタンカーの横断により変針した”、についても海上保安庁や周辺航路船舶のレーダー情報、AIS情報に当該船舶の記録は無く、証言は“事故前に対向するタンカーを見た”、という、非常に曖昧なものとなっています。見ただけでは航路に影響があったのかが分かりにくいですし、レーダーに映らないタンカーという可能性はなかなか理解できないものがあります。また証言の“衝突直前に輸送艦側が一回だけ警笛を鳴らした”、ですが、衝突直前での警告は警笛五回と法令で定められているため事実であれば問題という余地は無くもありませんが、海上自衛隊側の公表で五回鳴らした、とあり、何よりも沿岸の住民目撃情報で五回警笛を聞いた、周辺船舶乗員からの証言で五回の警笛を聞いた、とあります。“追い抜いて減速中に衝突された”、という部分はある意味何故減速したのかという疑問符が大きいもので、理解は難しいところでしょう。

Aimg_4120 なかなか矛盾点が多く、少なくとも大型艦の航路上での無理な追い越しを繰り返したのは何故か、直進中の輸送艦が急変針したと錯誤するような急激な蛇行を行った遊漁船の意図は何処にあるのか、自ら近づいたという証言が事実であればその意図は何か、追い越した後に減速すれば後続船舶から衝突される可能性がる事実を無視した背景は何か、分かりません。ただ、ここまで二転三転し曖昧模糊とした証言では信憑性も低く、AIS情報以外を信頼できないのではないか、という印象も無いではありません。
Mimg_6609 なお、マスコミの過熱報道は、あたご事故における報道を思い出します、イージス艦あたご、との衝突事故が東京湾で発生した際、当時のマスコミは情報を精査することなく一方的に流し続けましたが、海難審判により当時の船舶位置関係や航行状況が専門捜査機関である海上保安庁により明確に判明すると、海上自衛隊側に落ち度が無かったことが明白となり、マスコミは完全に報道被害を出したこととなっていますが、今回に活かされたのでしょうか。あたご事故の際の事実関係を精査せずGPS情報などの検証も欠き、加えて当時の石破防衛庁長官が事実確認を充分行わず関係者を処罰した事実から非は自衛隊側と類推し、一方的な過熱報道を実施しました。今回は当事者の間で遊漁船側からの証言が比較的得やすかったことから延々と上記情報を流し続け、その後矛盾点を自ら認識すると、一転して今回事故の報道を大きく縮小しています。過熱報道という言葉はありますが、得やすい情報ばかりを精査することなく重宝する姿勢を改め、報道の原点、というものを認識する必要はあるのではないか、とも考えた次第です。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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16 コメント

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こんばんわ。 (ウルトラマン)
2014-01-19 01:08:15
こんばんわ。

付け加えるならば、潜水艦『なだしお』やイージス艦『あたご』の時と同じで、漁船(遊魚船)側のお客や船乗り側がまたしてもライフジャケットを着ていなかったことですね。そのあたりを報道では指摘(非難)しないのは、やはり自衛隊憎しなのでしょうね。本当に悔しいですね。まともなマスコミはいないのでしょか?
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少し飛躍した推理ですが、新年早々のニュースで ... (まっしい)
2014-01-19 05:19:09
少し飛躍した推理ですが、新年早々のニュースで おおすみ型護衛艦の大規模改修を2014年度から始める。というのがありました。
目的は水陸両用車搭載の為のスロープ滑り止め処理、船体を後方に傾ける機構の追加(目的わかりません)、オスプレイ搭載に対応する改修、となっています。ん?オスプレイ 何か匂いません!?
あれだけ左翼が大騒ぎしたオスプレイ騒動を考えると、オスプレイ繋がりでイヤーな想像してしまいます。
当局は多角的に検証しているとは思いますが、こういった可能性も検証する必要があると思います。
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海保の調査待ちとはなりますが、自衛隊が悪い、い... (Unknown)
2014-01-19 10:05:00
海保の調査待ちとはなりますが、自衛隊が悪い、いやあのプレジャーボートの乗組員らは反日のテロリストだなどと両極端というか飛躍した意見が散見されるのは残念です。
しかし海外派遣時などに自爆ボートや武装工作船の接近を許してしまうのではないかと思うと、再発防止とともに、そういった面での対策も研究していってもらいたいものです。
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これが、遊漁船ではなく、有事や海外派遣時の自爆... (アポジカ)
2014-01-19 11:11:58
これが、遊漁船ではなく、有事や海外派遣時の自爆テロや無人船攻撃だったら、、、と考えると、今回おおすみ側には非はなくても、自衛艦としては(特に大型艦は)、防げるような仕組みがあるべきだろうと思います。
RWSのカメラで監視したり、警報装置を付けたり、何か対策してほしいと思います。
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コメント欄の中には、自衛隊擁護のために釣り船側... (市民の目)
2014-01-19 11:48:14
コメント欄の中には、自衛隊擁護のために釣り船側を非難したり、テロ行為と類推させるような悪意あるコメントが散見されます。今回の事態では釣り船側に死者がでているのです。ハッキリとしているのはどちらに法的な非があろうとも、自衛隊によって無辜の民間人が殺害されたという点です。この一点にのみ集中して、再発防止と反省を自衛隊に求めることでが必要ではないでしょうか。それ以外については静観するべきです。釣り船の死者を愚弄するコメントは削除ないし規制するよう管理人には求めます。
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 船の動きは、急激な機動の際中でもない限り、舵... ()
2014-01-19 19:38:54
 船の動きは、急激な機動の際中でもない限り、舵を握ってる人以外は自船の航跡を見ないと意外に分からないものです。 多分このプレジャーボートの乗客もそんな感じだったんだろうなぁ、と思います。かなり好意的に努力して解釈すれば、ですが。
 海保の捜査を混乱させまいとする、海自の抑制された広報姿勢には頭が下がります。
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アポジカ さん (まっしい)
2014-01-19 20:59:22
アポジカ さん
何でその様な解釈をするのが残念なの? テロ行為という可能性など口に出すのは失礼だ。という意見ですか?
何故?
そもそも生存者が訳わからん供述をしたりするからそういった見方をする人も出てくるんでしょ、実際一人の目撃者は「小型船はおおすみの方に真っ直ぐ走行していた、速度は優速に見えた」と言っています。
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まっしいさん (アポジカ)
2014-01-19 23:16:49
まっしいさん

残念云々のコメントは、小生ではありません。
名無しの方(投稿 | 2014-01-19 10:05)です。
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市民の目様 (ドナルド)
2014-01-19 23:23:37
市民の目様

>自衛隊擁護のために釣り船側を非難したり、テロ行為と類推させるような悪意あるコメントが散見されます。

申し訳ない。私の視点では、「事件の真相に蓋をして、自衛隊が乗員を殺害した」と決めつけている貴方の意見が、一番、死者を愚弄しています。

#テロ云々を言っているご意見は、「テロ小型船を防ぐ装備があれば、それを利用して釣り船と衝突しないように出来るのに」とおっしゃっているだけだと、私は理解します(私は違う意見ですが:後述)

真相を待ちましょう。それに、法治国家に生きているのですから、司法の判断を待つべきです(遵法は「市民」を名乗る最低限の資格。貴方の意見はしばしば「非市民的」です)。当然ですが、自衛隊が悪いのなら、きっちり裁いてもらいましょう。漁船に落ち度があったのなら、はっきりしてもらいましょう。そして、海上交通の事故を減らす上で、貴重な教訓があれば、それを海上交通の制度にすぐに反映しましょう。これこそが、亡くなられた方に対する誠意だと、私は考えます。


まっしいさま、アポジカさまほか

テロの小型船と、本件はほとんど関係ないと思います。テロは排除するのが基本ですから、事故対策は異なります。

港湾でのテロ対策であれば、大型船の周囲に高速警備艇を多数走らせるのがよいかと。海上でのテロ対策は、RWSでもいいですが、この場合、音響攻撃をかけるか、銃撃するかですから、港湾内での事故対策とは無関係です。

個人的には、自衛艦に周辺監視用のモニターをもっと多数つける(自動車にもついていますし、コストも嵩まないはず)とか、釣り客が運動を制約されずに装着可能な、新しい救命胴衣を開発するとか、小型船にもAIS的な装備を義務づけるとか(データを取って、海上交通安全予防に役立たせる)、とかが必要かと思います。

自衛隊側の問題候補としては、人員不足で運航していた可能性もあります。

海自だけでなく、商船と漁船の事故もしばしば起きていますので、直接的原因、間接要因を明確にし、抜本対策から、対症療法的な対応まで、きちんと対応して欲しいですね。
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ウルトラマン様。 (通りすがりの者)
2014-01-19 23:59:35
ウルトラマン様。

マスコミにまともな姿勢を期待するのは、無理かと思います。それ故、マスコミがマスゴミと揶揄されるんですがね。
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