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北朝鮮、人工衛星搭載の長距離弾道ミサイル試験 自衛隊の迎撃準備進む

2009-04-02 23:26:42 | 防衛・安全保障

◆4月4日~8日に実施予定

北朝鮮は、4月4日から8日にかけて咸鏡北道花台郡の舞水端里ミサイル試験場から、人工衛星を搭載した長距離弾道ミサイルの試験を行うと表明している。これについて、本日は特集したい。

Img_1184  日本への落下に備え、政府は破壊措置命令を発令。これに応えて、航空自衛隊、海上自衛隊が展開中である。海上自衛隊は、佐世保基地から、イージス艦ちょうかい、こんごう、を日本海に展開させており、横須賀基地から、イージス艦きりしま、を太平洋上に展開させている。この中で、ちょうかい、こんごう、には弾道ミサイルを迎撃するスタンダードミサイルSM-3が搭載されており、イージスシステムも弾道ミサイル迎撃用のソフトを搭載している。

Img_2836  きりしま、にはSM-3は搭載されていないものの、弾道ミサイル迎撃用の改修が行われており、SPY-1レーダーにより、弾道ミサイルを探知、航空自衛隊と海上自衛隊の迎撃を支援するためのデータを提供する。なお、イージス艦は、1998年の北朝鮮ミサイル試験に際して、弾道ミサイル迎撃用の改修を受けていない、イージス艦みょうこう、が弾道ミサイルの追尾に成功している。

Img_5925  航空自衛隊のペトリオットミサイルPAC-3による迎撃部隊は、現在、弾道ミサイルの切り離した落下物などが飛来する可能性がある東北地方、そして首都圏に展開している。東北地方では、秋田県の陸上自衛隊新屋演習場、岩手県山中演習場の二ヶ所に展開。首都圏では、防衛省本省が置かれている市ヶ谷、東京都の朝霞駐屯地、そして千葉県の習志野演習場に展開している。

Img_3756  政府の試算によれば、弾道ミサイルが落下した場合、仮に弾頭に爆発物が搭載されておらず、人工衛星の打ち上げであったとしても、燃料として用いているヒドラジンは毒性が高く、地上で爆発炎上した場合、半径900㍍以内が危険にさらされ、9km以内は屋外において健康を害する程度の悪影響を被る可能性があるとして、地上に影響が及ばないよう、迎撃を行うという根拠としている。ヒドラジンは燃焼しつつ飛翔するので、果たして日本に落下した場合、これだけの範囲に被害が拡大するかは疑問であるが、落下する場合に破壊措置を行わなければ、被害が生じることだけは間違いない。ただし、日本の領域に落下する可能性が無ければ、迎撃は行わない。

Img_2890  PAC-3は、弾道ミサイルに対して、直撃することで弾道ミサイルの弾頭を含め機能を無力化させる方式の迎撃ミサイルで、ペトリオットミサイルPAC-2が航空機などの目標近くで爆発し、その破片により目標を無力化させる方式が、湾岸戦争では弾道ミサイルに対し、有効に機能しなかったため、開発された装備である。

Img_1949  このように、弾道ミサイルに対してPAC-3が直撃するため、ミサイルは小型に造られており、PAC-2一基分のキャニスターに四発が装填される。その一方で、ミサイル本体がPAC-2と比べ、小型化したことにより、射程はPAC-2の100kmから15~30km(迎撃する高度により射程が異なる)となっている。

Img_8270  ペトリオットミサイルPAC-3は、航空自衛隊では、現在、順次配備中の装備であり、首都圏の防空にあたる入間基地第1高射群に配備が完了、現在は、京阪神と中京地区の防空にあたる岐阜基地の第4高射群に順次配備中の段階で、今回の東北地方へのPAC-3配置にあたっては、教育訓練部隊である浜松基地の高射教導隊から派遣される、というかたちでの展開となっている。

Img_9822_1  射程が短い、との指摘があるが、もともと、PAC-3は、湾岸戦争においてサウジアラビア国内の物資補給拠点がイラク軍のスカッドミサイルにより攻撃された事が開発を加速させた装備である。つまり、米軍が世界に展開するにあたって、航空基地や港湾などの前進基地を弾道ミサイルの攻撃から防護する目的で開発されたミサイルが、PAC-3、ということだ。

Img_48672 弾道ミサイルの迎撃で、最も難しいのは、弾道ミサイルは、宇宙空間を経由して落下してくるため、撃墜したとしても、結局は落下してくる、という問題にどう向かうか、ということだ。撃ち落としても、弾頭部分が機能する状態で落下してきた場合、弾頭がHE弾頭であった場合は地上で爆発し、NBC兵器が搭載されていた場合は、より深刻な結果をもたらす。

Img_4883  このため、PAC-3は空中で直撃し、起爆できない状態にまでバラバラに分解させることを目的としている。また、海上自衛隊がイージス艦より運用する迎撃ミサイルスタンダードSM-3は、対航空機用の艦対空ミサイルスタンダードSM-2を元に、弾道ミサイル迎撃用の弾頭を搭載したもの。射程は、SM-2の約100kmから400km以上とされている。迎撃にあたるSM-3の弾頭には、キネティック弾頭という、空中で迎撃対象の弾道ミサイルの進路上に立ち塞がるような機動が可能な弾頭が搭載されており、迎撃対象の弾道ミサイルがキネティック弾頭に衝突することで自らの速度を破壊力として無力化する方式を採用している。

Img_5694  弾道ミサイルへの警戒態勢について。もっとも頼りになるのは、米軍が宇宙に展開させている早期警戒衛星・防衛計画衛星(DSP衛星)からの情報である。このDSP衛星は、静止衛星軌道に展開、一定以上の高度を超えて上昇する飛翔物体(ロケットやミサイル)が発する赤外線を感知する地球規模の早期警戒網を構成している。

Img_9222  もともと、全面核戦争などを想定して敵の核攻撃を即座に把握し、核攻撃を行った策源地へ、第二射が行われるまでに米軍が大陸間弾道ミサイルなどで即座に報復攻撃を行う為の警戒網であり、精度は高い。日本独自の警戒態勢について。現在、自衛隊は、イージス艦のSPY-1レーダー、そして航空自衛隊は、弾道ミサイルをレーダーサイトから感知する事が可能とされるFPS-5レーダーを稼働させ、全国のレーダーサイトに配備されているFPS-3などのレーダーも弾道ミサイルに対して警戒態勢を取っていると報道されている。

Img_6343_1  産経新聞が2日報じた内容によれば、海上自衛隊は新潟沖にミサイル艇を派遣する検討を行っているとのことで、これは、ミサイル試験と共に観測任務などで北朝鮮海軍の行動が活性化する可能性を受けての措置とのことだ。派遣されるミサイル艇は、舞鶴地方隊、はやぶさ型ミサイル艇の2隻とみられている(写真は、現在、大湊地方隊の、わかたか)。

Img_9271  弾道ミサイル迎撃の流れについて。ミサイルが発射された場合、上昇段階で、まず、DSP衛星と海上に待機するイージス艦により探知される。DSP衛星からのデータは、第一にアメリカコロラド州のコロラドスプリングスに所在するピーターソン空軍基地の北米防空司令部戦略軍早期警戒センターに送られる。

Img_9312  その情報が、横田基地の第五空軍司令部を通じて航空自衛隊に知らされる。この情報は、日本政府の内閣府に送られるが、同時に破壊措置命令が発令されている自衛隊は、現在の自衛隊法に定められている手続きに従い、指揮官の独自の判断により迎撃を行うことができる。

Img_1813  他方で、今回の実験を平和的な人工衛星の打ち上げであると主張する北朝鮮は、日本が今回の試験を迎撃などにより妨害した場合、報復措置を執る、として朝鮮中央放送などを通じて声明を発表している。この報復措置について、詳細な情報はいまのところ無い。

Img_1042  ただ、長距離弾道ミサイルの試験と同時に、中距離・短距離ミサイルの試験を行うのでは、という情報について、米軍筋からの情報では、北朝鮮のミサイル基地では目立った動きはない、として否定的な情報がある一方、短距離弾道ミサイルや中距離弾道ミサイルは、移動式発射装置に搭載することができるため、即応状態に置かれている可能性も否定できない。一方で、韓国の聯合ニュースが伝えた情報では、弾道ミサイルの試験場に近い空軍基地にミグ23を展開させたとの情報もある。ミグ23の戦闘行動半径と、航空自衛隊の小松基地などの要撃体制を比較した場合、脅威ではないが、逆に北朝鮮は、過激な発言を繰り返しているところをみると、航空自衛隊による空爆を警戒しているのではないか、とも思えてしまう。

Img_9902  さて、陸上自衛隊は、現在、方面隊直轄の高射特科群や高射特科団向けの新装備として、03式中距離地対空誘導弾、通称中SAMの装備化を実施中である。この中SAMは、限定的な弾道弾対処能力を有するとされ、これが落下速度が遅い短距離弾道弾への対処能力であるのか、それとも、中距離弾道弾に対しても対処が可能であるかが未知数である。

Img_9826_1  弾道弾は、射程が延伸すればするほど、対処までの猶予時間は長くなるものの、その分高高度を飛行するため、中間段階での迎撃は難しくなり、加えて、落下速度も速くなる。この脅威に対して、陸上自衛隊の装備は、どの程度、補完的な役割を果たせるかについては、興味がある。

Img_0201  なお、今回の事態を受けて、陸上自衛隊も一部部隊が待機態勢に入っているものと思われ、四月上旬の陸上自衛隊公式行事は、大幅な変更が行われている。特に、弾道ミサイル迎撃とは関係のない駐屯地でも行事も中止となっていることから、落下物により万一の被害が生じた際には、即座に災害派遣が可能なよう、待機しているものと思われる。

HARUNA

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2 コメント

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今回の北朝鮮によるロケット発射は、搭載物が人工... (Unknown)
2009-04-03 18:49:11
今回の北朝鮮によるロケット発射は、搭載物が人工衛星であったとしても、弾道ミサイルの技術を用いている以上、国連安保理決議1718に違反するもの、国際社会への挑戦といってもいいだろう。

建国以来、朝鮮戦争、青瓦台襲撃未遂、ラングーン事件、大韓航空機爆破事件、拉致事件、国民の貧困飢餓を引き起こしている北朝鮮の歴史は、まさに悪の枢軸と呼ぶにふさわしい暗黒史そのものである。

その元凶ともいえる金日成、正日親子による王朝体制とともに、北大路機関としても強く非難してほしいところである。

それと記事中に総合火力演習のものと思われる画像があるが、直接関係ない画像を貼るのはどうかと思う。

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こんばんは (はるな)
2009-04-03 22:34:53
こんばんは

もともと、人工衛星は、アメリカの人工衛星計画の端緒に、アトラスICBMを転用した人工衛星打ち上げロケットなどが使用されていましたし、弾道ミサイルを開発している国が実施するロケット試験というのは、別の意図を疑われても仕方ないように思えます。

しかも、今回の実験は、弾頭がHEか別のものか、という違いを除けば、ミサイルそのもので打ち上げているのですからね。

安保理決議までつながるか、今後の情勢は予断を許しませんが、穏便に収束することを願います。

あと、ご指摘の富士での写真ですが、模擬空爆、という想定の写真ですし、ミサイルによる攻撃と、重ならないことも無いのかな?と。実のところ、見栄えのいい写真ということで選んだというのも少しはあるのですが。
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