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北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

安保法制への最大の誤解、徴兵制(第3回):師団を新編する装備と駐屯地の費用

2015-08-09 21:25:44 | 防衛・安全保障
■師団新編の膨大な費用
前回、第一線の普通科隊員一人の装備であっても非常に大きな費用を要する事を説明しました、そして火力の発展と電子機材や監視器材の発展により、歩兵の任務は広がるばかりで専門性が求められます。

そしてさらに、そもそも、師団、これは7000名くらいの部隊で地域を占領し攻撃と防御両方を熟す普通科部隊を中心に、装甲防御と打撃力を持つ30両くらいの戦車部隊、大砲を30門程度装備し長距離攻撃と敵の長距離攻撃部隊を撃破する特科部隊を中心に一つの方面で作戦を行う事が出きる部隊を師団というのですが、これをまるまる一個増設する場合、各種装備と車両の調達費用だけで6800億円程度かかります。

師団一つ増設する費用をゼロから揃えれば6800億円、13万の陸上自衛隊を韓国並みの徴兵期間で徴兵するとして150万まで増えるわけですから、本当に単純計算した場合195個師団増設することになってしまいます。正直に195個師団分の装備をゼロから揃えれば、戦車5850両と火砲5850門、必要な費用は133兆857億円、と。

一気に買えば量産効果で安くなるでしょうが、装備は25年で老朽化しますので最低5兆3200億円が老朽化対策で毎年必要となる。景気の良い話ですが、さすがに現実味がありません。自衛隊が現在の予算で成り立っているのは、徐々に装備を更新している為なのですが、いきなり拡大できないのです。逆説的にだからこそ一個師団に十分な予算を掛け編成する必要があり、その結果論として第一線の要員は専門性を持つ要員でなければならない。

徴兵制により拡大した場合、駐屯地も足りません。現在陸上自衛隊は155の駐屯地と分屯地を全国に置き、基盤的防衛力としていますが、これを人員が10倍となるならば1550まで増やさなければなりません。むしろ、都市部に広大な土地を購入し駐屯地とした場合、地価の関係上装備よりもこちらの方が高く成り得ます。

単純計算ですが、1000名くらいの部隊の駐屯地、隊舎に車両置き場、隊本部と会計隊などの庁舎に基地通信部隊用施設、グラウンドと食堂などの業務庁舎を含めれば概ね500×400m程度の土地が必要でして、この取得と造成の費用もままなりません。地方ならば多少土地があるやもしれませんが、駐屯地と展開のための道路網建設を行う必要があり、こちらも高くつく。

演習場も徴兵制により拡大した場合やはり足りません、最低限射撃訓練を行う必要がありますし、射場を確保しなければならないのですが、現時点で演習場と射場は不足しています、海外の演習場を探せば、豪州や米本土等、国土が狭い諸国が演習場を借りる事例はあるのですが、そうしますと、移動のための費用が高い。

もちろん、演習では大量の燃料と資材を必要としますし、糧食費用なども当然考慮せねばなりません、演習と云いますと、あくまで一例ですが小銃弾一発が220円、89式小銃は連射しますと30発入り弾倉を2.5秒で撃ち切ってしまいます。迫撃砲弾、無反動砲弾、榴弾、戦車砲弾、各種ミサイル、どれも費用が無視できません。

そして徴兵は若年労働力を一定期間軍務に就かせるわけですので、労働人口が一時的に低下します、これは大きな税収低下につながりまして、費用面だけで、あくまで純粋に費用を見ただけでも非現実的に他ならず、このように、無理に拡大する徴兵制の必要がないことは理解できるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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費用が高いと言う旨が分かりましたが (香港からの客人)
2015-08-09 23:38:01
二回と三回の論旨はスレでないではないでしょうが?

これは徴兵への反対と言うより、大軍を持つに対する反対ですね。だが、徴兵と言っても必ずしも全員徴兵型でしょうが?例えば、米国でもSelective Serviceが有り、現在は運用停止中で有って、登録自体は行っている。中国も確か徴兵制を維持しますが、徴兵するのは飽くまで全体の一部に限る事で、軍の規模を維持しています。

若年労働力の低下についてですが、実際はちょうど良いという考え方も有るではないでしょうが?以前に比べて、現在卒業生の展望は暗い。以前は社員。現在は臨時契約。条件の引き下げは一部に置いて、供給の過剰によるものとも考えます。もしこれを絞れば、過剰が無くなり、会社も良い条件を出さなければならなく成る。

それに、労働力の損失の件は未だ徴兵より大軍に対する反対ではないでしょうが?仮に、自衛隊式の志願制で同規模の軍を維持する場合、経済から取られる人数は結局同じで、若年労働力を取らない代わりに、熟年労働力を取る。生産力は熟年の方が高いなので、結局取られるのGDPは寧ろ高くに成る。

志願制と徴兵制、或いはこの併用を論じるに際し、普通は規模が、予算が同じにして、優劣を比較する。例えば、同じ予算なら、徴兵制の方が人事費の節約により多くの兵を集められる。一般論として、質は低下するが、節約出来た金を量ではなく質(装備が、兵站が、或いは訓練の質)に投入すれば、相対的な勝負は未だ測り辛く成る。

一例を挙げると、陸自普通科の小銃弾配給は毎年120発と言われています。これは連射も年中一回切りの程度の配給ですし、それを見たら他の弾丸の配給もたかが知れている。仮に徴兵制にし、給料を今の160000円(2等陸士)から100000まで低下すれば、一月に次概ね小銃弾300発分の予算が浮いています。これを訓練費に回せばどうなるがのは面白いですね。
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偵察能力用 (kikkousidan)
2015-08-10 02:09:07
このサイトを見ている皆さんであれば、個別的自衛権=徴兵制という現在の軍事的常識はわかっていますので、大丈夫かと思いますが、問題は一般の国民が敵と内通している可能性が非常に高い大手新聞やテレビ関係者などの垂れ流す「集団的自衛権=徴兵制」という事実と正反対のデマゴーグを信じる場合もあるという事です。本当にはるなさまに国会で答弁して頂きたいぐらいです。最初は半信半疑でしたが、最近は私も反対するマスコミやその関係者が「外患罪」に相当すると確信した次第です。ネットには彼らの発言を一言一句記録して保存するサイトも登場していますのであまり心配はしていませんが、もはや「テレビや新聞は日本の敵にのっとられている」と言っても過言ではないですね。残念ですが多方面の情報から総合的に考えて、この敵との内通及び外患誘致行為はどうやら事実のようです。

さて陸自の偵察能力についてお聞きしたいのですが、現在偵察軽武装ヘリなどが活躍している前線での偵察任務について、UAVなどへの移行も研究されているようですが、これはどうなんでしょう、正直RF-4偵察機のような固定翼偵察機の時代ではないのは確かだと思いますが、それだからとスキャンイーグルなどのUAVに全面的に頼る事も電子攻撃などを考えると危険性が高いです、おそらく偵察回転翼機との併用になると思案しますが、ある程度は現在の比率よりも無人機や偵察衛星及びグローバルホークを使用しての偵察に振り替える事が可能だと思います。それに従って偵察ヘリの定数を武装ヘリ調達枠として活用するのはいかがでしょうか、専任の武装ヘリでなくてもヴェノムのような輸送兼威力偵察業務を増やす事で全体としての機動性や即応性を向上せしむる事が可能ではないでしょうか。

やはり欧州などのNATO諸国の状況が気になりますね、偵察能力に関しては西側全体で、なるべく方向性が似通っていた方が大規模紛争の際に有効かと思われます。職業軍人を基本とする志願制軍隊の地上兵力をどのように活かすかは、やはり偵察能力の向上にかかっていると思います。海上の場合であってもやはりヘリAEWという事になるのでしょうか、E-2Dが着陸するのは仏国シャルルドゴールですらギリギリのようですし、ティルトローター機AEW.verがあれば理想的ですが、それまではやはり艦載ヘリによる哨戒と限定的な無人機運用ですかね。もしよければはるな様の考察する陸と海の偵察能力向上についての記事を希望したいところです。
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大規模陸軍が不要であるからこそ (はるな)
2015-08-13 21:47:39
香港からの客人 様 こんばんは

主旨の重要な部分は、大軍が不要であるからこそ、徴兵制に頼る必要はない、と帰結します

もちろん、専守防衛の施策として軍事効率を無視し国民皆兵制のスイス型フィンランド型永世中立国を施行するならば、施策としてやってやれない事はありませんが、合理性から乖離しているといわざるを得ません

当方、広域師団構想として他の連続記事を掲載していますが、こちらが想定する防衛力水準は10万名強(10万1000名~11万5000名)の陸上防衛力に抑える試案を示していますし、八八艦隊の日で提示しました独自防衛に必要な独自防衛力でも、戦車大隊を増強し海兵航空団型部隊を新編する提案を行っていますので、陸上自衛隊規模は14万5000名程度で収まる規模となります
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無人機は航空法の問題 (はるな)
2015-08-13 21:54:58
kikkousidan 様 こんばんは

無人機の点については、航空法上の位置づけが不明確である点で普及が遅かったという印象です

そして、衛星通信やGPSをどの程度依存するかで独立性を重視しすぎた点が、陸上自衛隊の遠隔観測システムの装備肥大化を生んでいまして、電子妨害などが想定される戦域では、必ずしも云われるほど使えない装備ではない、といえるでしょう

他方、スキャンイーグルは、戦時よりも平時の警戒監視任務、そして2008年のグルジア戦争で電子戦能力が高いロシア軍に対しグルジア軍の初歩的無人機が威力を発揮していますので、最悪の状況を想定しすぎるよりは冗長性を持たせる装備として、敢えて脆弱性のある装備でも対応できる分野は拾うのかもしれません

一方、武装ヘリコプターと偵察ヘリコプターですが、武装ヘリコプターが必要となる状況は、かなり本格的な戦闘を想定する必要があり、安易に中途半端な機体を導入するのは不安がのこるもの

・・・、この論理から欧州は戦闘ヘリコプターを武装ヘリコプターの後継に導入し、あまりに高い調達費用と運用費用で苦労している状況もありますが

海上でのヘリAEWですが、運用する場合はAEW機は母機が相当規模、AW-101規模の機体が必要となり、ローテーションを考慮した場合、一個護衛隊で3機必要になります、すると哨戒ヘリコプターの機数を圧迫してしまいますので、イージス艦の警戒監視能力をもっと信頼する選択肢、陸上基地から近い場合はAWACSの支援を念頭としてもいいのではない孔、と考えます
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