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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

熱海市土砂災害,RF-4&OH-6全廃の現実となった航空偵察能力欠如の弊害と将来への課題

2021-07-08 20:05:56 | 防災・災害派遣
■悪天候により飛行出来ない
 大規模な土石流が発生した熱海市では懸命の捜索活動が続いています、死者7名、行方不明者22名、しかし同時に山陰地方での新たな土砂災害も発生し災害は待ってくれない現実を突き付けています。

 熱海土砂災害に際して、悪天候によりヘリコプターやドローンによる情報収集ができない、発災翌日に菅総理大臣の発言があり、悪天候をいいわけとせず、現在の偵察機全廃、観測ヘリコプターが最盛期の八分の一、小型ドローン以外の無人機運用岩盤規制を政治がどうにかすべきではないか、という危機感を改めて感じました。次の災害は待ってくれない。

 RQ-4グローバルホーク偵察機、航空自衛隊向けのRQ-4が四月にようやくアメリカで初飛行を迎えました。2019年に航空自衛隊からはRF-4戦術偵察機が除籍されてのち、偵察機というものがありません。RF-4は悪天候に万能ではありませんが夜間偵察能力もレーダー偵察能力もありましたが、老朽化と後継機の開発失敗により、偵察機が区分廃止された。

 F-2戦闘機にも搭載可能であるF-16戦闘機用のMS-110広域空中偵察システムがありまして、夜間はもちろん、悪天候下でもカラー映像による映像情報収集が可能で、その画像情報はデータリンクによりリアルタイムで司令部、必要であれば首相官邸の危機管理センターへも伝送可能です。国産偵察装置開発失敗ならばこうした装備を導入すべきと思う。

 OH-6観測ヘリコプターの全廃、OH-6JやOH-6Dと200機以上が調達された小型ヘリコプターは災害発生時に即座に離陸できる軽快さがあり、観測手段は肉眼などに限られていましたがその分低空まで降りることができ、後継機となるOH-1観測ヘリコプター調達を試作機含め31機に削られ、現在保有数は30機、運用部隊も限られ活躍できていません。

 映像伝送装置搭載ヘリコプターが自衛隊には方面隊単位で配備されています、大規模災害では自衛隊の映像伝送は定石となっているようですが、この装備の導入は1995年の阪神淡路大震災を受けての装備であり、基本的にその性能は報道ヘリコプターのスタビライザー付カメラを超えるものではなく、情報収集用としては性能が若干古すぎるのではないかと。

 災害で焼け太りするのか、と批判はあるかも知れませんが、OH-6の後継機は真剣に検討されるべきでしたし、必要ならばAH-64Dアパッチロングボウ戦闘ヘリコプターのセンサーを情報収集用に転用してでも、そのためには13機で中断された機数を当初計画の62機に戻す必要があるが、即座に離陸し情報収集に当てる航空機の不在は問題視されて然るべき。

 法整備さえ行えているならば、富士駐屯地からスキャンイーグル無人偵察機を発進させる選択肢もあったように思う、スキャンイーグルならば富士の須走から熱海市までは十分行動圏内ですし、自律飛行可能ですので第一報の東海家屋20軒というような情報の安易な災害ではないことが自明であったはずですが、航空法が岩盤規制となっており現状、難しい。

 スキャンイーグル、全国の情報隊へ徐々に配備が開始されている装備です。もともとは遠洋漁業の魚群探知用にオーストラリアで開発された無人機で、巡航高度が旅客機とヘリコプターの運用空域と重なるものがあります、また日本国内の演習場でも何度か墜落事故を起こしていますが、もともと着陸に滑走路ではなく網を用い、墜落は織り込みの設計です。

 ただ、人口密集地域上空を飛行する場合には当然不測の事態は有得るものでして、この当たりの法規制が在るのでしょうか、また報道ヘリコプターや防災ヘリコプターとの衝突回避技術にも発展余地がある為でしょうか、飛行出来れば情報収集に有用な航空機ではあると思うのですが、実現できていません。一方で自衛隊は航空情報収集へ無人機依存が進む。

 航空法の岩盤規制は、無人航空機がラジオコントロール機と同一視されており航空航路を飛行させるものが難しく、ようやく東日本大震災後にガーディアン無人機などが飛行場から運用できるように実証実験が行われ、長崎県の五島列島での試験、海上保安庁の八戸航空基地での試験が行われていますが、法的には実証実験という特例を出ていません。

 ガーディアン無人機はMQ-9リーパー無人攻撃機の海洋偵察型です。もし法整備が出来、また自衛隊に広範に、とは言わないものの陸上自衛隊が八戸駐屯地と八尾駐屯地と高遊原分屯地に配備でき、災害に際して即座に飛行計画を提出でき運用する体制を構築できたならば、滞空時間が36時間に昇る為、被災地上空を延々と飛行し情報収集が可能となります。

 スカイレンジャー70無人機のような、携帯可能な無人機でも数が在れば、例えば低空まで降りれる特性を活かし、複数を同時管制する方式を構築したならば、地上部隊の災害派遣に先立ち、情報収集に数十機を先行させるという方策も可能となるのかもしれませんが、2021年6月から導入されたドローン飛行士資格もこうした長距離運用は想定していない。

 法整備は必要である。そして自衛隊としてはもう少し情報収集へ無人航空機の多用を考えなければならないようにも思う。これは自衛隊でもドローン飛行専門教育を開始してはいますが、この種の装備は災害時の情報収集以外、防衛出動でも当然必要となる点であり、実際のところ法整備の遅れと共に自衛隊の能力整備が遅れている現状もまた、否めません。

 連隊本部管理中隊単位で複数の無人機を装備し、災害派遣要請を受領した際には即座に情報収集へ発進させる、此処までは派遣地域まで距離がある倍には難しいのかもしれませんが、米陸軍が装備し始めた携帯ロケット砲の代替ともなる徘徊式弾薬のスイッチブレード無人機の非弾頭型や、40mm擲弾銃から撃てるニノックス無人機等、便利な装備は多い。

 災害派遣にしか用いられない装備、と考えるのでは無く、今回、悪天候で空からの情報収集が出来ない事を首相が弁明した、これを重大な問題として認識し、情報収集の為の航空機を有人機と無人機併せて、整備すべきと考えるのです。実際、災害は悪天候の際に起こる事を現実問題として突き付けたのですし、防衛出動も悪天候下で起こり得るのですから。

 盛り土問題。さて、災害発災当初、黒い土砂の映像からクロボクという火山性堆積物であると理解し、ラハール災害であると認識していました。しかし調査が進むにつれ、土砂災害の基点は不法な盛り土が行われていた、熱海市に届け出が在った総量を遥か上回る盛り土が高地で行われ、これが崩落したという、開発業者による人災の可能性が出てきました。

 無人航空機、警察などは不法投棄監視用にヘリコプターを飛行させる事例はありますが、これをガーディアン無人機のような滞空型無人機に担わせる事は出来ない物でしょうか。衛星写真などよりも遥かに鮮明ですし、何より滞空時間が30時間以上ある為にヘリコプターよりも広範囲を監視可能です。ガーディアン無人機を自衛隊が導入するという仮定で。

 盛り土等不法な森林伐採などを、仮に陸上自衛隊がガーディアン無人機を導入した場合に民生支援の形で協力するならば、大手を振って内陸部での飛行訓練が出来ますし、情報収集訓練にもなる。そして何よりも、広範囲の情報収集では寧ろグレーゾーン事態の徴候を捜索するのと不法開発の捜索は重なるものがあり、画像情報処理能力の演練に寄与します。

 ここまで大きな災害となったのです、再発防止措置は必要なのかもしれませんが、不法開発などは自治体が特に非正規公務員割合を増やすほどに予算不足のなかでは出来る事は限られています。無人航空機の多用と航空情報収集、今後想定される南海トラフ地震など、数十万の人命が脅かされる巨大災害の前までに、整備完了できるよう、政治の努力が必要だ。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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1 コメント

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Unknown (北京亭すぶた)
2021-07-08 23:59:00
日本は航空機にしろロケットにしろ、飛翔体に関しての規制が異常なまでに厳しいですね。かつて極左な集団とかがロケット弾飛ばしてたことが今だに尾を引いているんでしょうかね?もしそうだとすると、為政者的には周辺国の侵略なんかよりその手の集団の方が今だに脅威だ、と考えていることになりますが…
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