■特報:世界の防衛,最新論点
砲兵戦とは高等数学の瞬間計算が砲弾に込められる科学の世界でしたが、今回の新技術は精度次第で新しい一歩となるでしょう。
特科火砲の行進間射撃は、自衛隊にとり、いや恐らく全世界の砲兵にとり一つの理想でした。映画のように火砲が陣地を動かず延々射撃を加えるのは第二次世界大戦までの話、砲弾は対砲レーダーに映ります、延々といわず十数分射撃を続けるだけで、どこから射撃しているかが標定され、その陣地に誤差50mで数十発の効力射が撃ち込まれるでしょう。
フィンランドのパトリア社はNEMO自動迫撃砲システムについて行進間射撃能力の獲得を発表しました。NEMO自動迫撃砲システムはパトリアAMV装輪装甲車などに搭載する後装填式120mm自動迫撃砲で50発から60発の120mm砲弾を搭載し、連続して射撃が可能、パトリアAMVの他に各種装輪装甲車や哨戒艇へも搭載が可能となっています。
NEMO自動迫撃砲システムについて行進間射撃能力は、従来の間接照準射撃砲兵システムへゲームチェンジャーというべき能力を意味します、何故ならば迫撃砲や火砲は直接照準の戦車砲や機関砲と異なり標定が必要である為、行進間射撃には向かず、逆に対砲兵レーダ装置に砲弾が捕捉され射撃位置が暴露する事から、迅速な陣地変換が必要とされてきた。
行進間射撃能力を有するという事は、常に射撃位置を移動しつつ火力支援が必要であり、仮に対砲兵レーダ装置に砲弾が発見された場合でも、自走迫撃砲の生存性が根本から飛躍的に向上する事を意味します。アメリカなどではXM-2001クルセイダー自走砲等が将来の可能性として行進間射撃能力を構想しましたが、発展以前に開発中止、実現していません。
一効力射3発30秒、陣地変換完了3分。75式自走榴弾砲の時代などは特科部隊が陣地変換に必死となっていまして、特科教導隊ではこの水準を普及させるために操砲技術研究を続けていました。1970年代、ソ連軍の北海道侵攻が現実的脅威であった時代は、膨大なソ連軍火力から特科部隊が生き残るには素早い陣地変換こそが唯一の選択肢だったのです。
99式自走榴弾砲の時代もこの能力は継承され、第7師団が派米訓練を実施した際、仮設敵との激しい模擬戦闘に際し、90式戦車などの装備が次々と損害を重ねる中、第7特科連隊の派遣中隊は実に200回も効力射と陣地変換を繰り返し、第一線を支え続けたというお話もある。しかし、行進間射撃を出来るならば、今後は戦車に随伴し火力支援ができる事に。
NEMOは1990年代にスウェーデンが開発したAMOSを単装化、最大射程は10km、この射程をみますと自衛隊の採用したフランストムソン社の120mmRT迫撃砲の射程延伸弾が誇る13kmよりも短いものの、NEMOとAMOSは直接照準により150mから1550mまで火力支援や対装甲戦闘も可能で、最大射撃速度毎分10発と持続射撃でも毎分7発という。
パトリアAMV,この自走迫撃砲システムを含めて一つの武器システムとして考えますと、実は陸上自衛隊の次期装甲車として非常に有用な選択肢となるのではないか、こうかんがえるのです。もともと自走迫撃砲は陸上自衛隊が96式自走迫撃砲を第7師団に限定して運用していますが、火砲の自走化が進む北部方面隊でも第7師団に限定されたものでした。
120mmRT重迫撃砲は陸上自衛隊普通科部隊の標準的な装備ですが、全般的に自走化せずとも、もともと機動力は高いものであり、高機動車の派生型である重迫牽引車で牽引するだけでも十分機動力は高く、CH-47J/JA輸送ヘリコプターによりつり下げ空輸も可能ですので、寧ろ機動性は96式重迫撃砲よりも高いとさえ言えたものですが、これが一新する。
96式自走迫撃砲は機甲師団に随伴する装備であるための、"贅沢な"装備品であったのですね。当たり前ですが行進間射撃はできません。しかしNEMOの行進間射撃は、贅沢云々ではなく、敵に標定を許さない撃破されにくい火力投射手段というもので、いわば贅沢ではなく別物の装備となったといえます。この有無は陸上火力体系を大きく左右するでしょう。
パトリアAMV、これ単体であれば非常に優れた装備ではあるのですが、三菱重工の提案した機動装甲車が、16式機動戦闘車と車体が同一で整備整合性の観点から非常に有利でした。しかしもしNEMO迫撃砲システムを搭載したパトリアAMVが即応機動連隊の火力支援中隊へ配備されるならば、火力支援中隊と普通科中隊の車種を統合できる為、話は別だ。
NEMO自走迫撃砲システム。もちろんこの装備は自衛隊に提案されたものではありません、そして共に同じパトリア製ですのでNEMOはAMV車上にて試験されているのであって、極論ですがNEMOを16式機動戦闘車に搭載し自走迫撃砲とすることも当然可能です、メーカーも様々な車両に搭載できることを強調しています。なかなかに興味深い装備ですね。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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砲兵戦とは高等数学の瞬間計算が砲弾に込められる科学の世界でしたが、今回の新技術は精度次第で新しい一歩となるでしょう。
特科火砲の行進間射撃は、自衛隊にとり、いや恐らく全世界の砲兵にとり一つの理想でした。映画のように火砲が陣地を動かず延々射撃を加えるのは第二次世界大戦までの話、砲弾は対砲レーダーに映ります、延々といわず十数分射撃を続けるだけで、どこから射撃しているかが標定され、その陣地に誤差50mで数十発の効力射が撃ち込まれるでしょう。
フィンランドのパトリア社はNEMO自動迫撃砲システムについて行進間射撃能力の獲得を発表しました。NEMO自動迫撃砲システムはパトリアAMV装輪装甲車などに搭載する後装填式120mm自動迫撃砲で50発から60発の120mm砲弾を搭載し、連続して射撃が可能、パトリアAMVの他に各種装輪装甲車や哨戒艇へも搭載が可能となっています。
NEMO自動迫撃砲システムについて行進間射撃能力は、従来の間接照準射撃砲兵システムへゲームチェンジャーというべき能力を意味します、何故ならば迫撃砲や火砲は直接照準の戦車砲や機関砲と異なり標定が必要である為、行進間射撃には向かず、逆に対砲兵レーダ装置に砲弾が捕捉され射撃位置が暴露する事から、迅速な陣地変換が必要とされてきた。
行進間射撃能力を有するという事は、常に射撃位置を移動しつつ火力支援が必要であり、仮に対砲兵レーダ装置に砲弾が発見された場合でも、自走迫撃砲の生存性が根本から飛躍的に向上する事を意味します。アメリカなどではXM-2001クルセイダー自走砲等が将来の可能性として行進間射撃能力を構想しましたが、発展以前に開発中止、実現していません。
一効力射3発30秒、陣地変換完了3分。75式自走榴弾砲の時代などは特科部隊が陣地変換に必死となっていまして、特科教導隊ではこの水準を普及させるために操砲技術研究を続けていました。1970年代、ソ連軍の北海道侵攻が現実的脅威であった時代は、膨大なソ連軍火力から特科部隊が生き残るには素早い陣地変換こそが唯一の選択肢だったのです。
99式自走榴弾砲の時代もこの能力は継承され、第7師団が派米訓練を実施した際、仮設敵との激しい模擬戦闘に際し、90式戦車などの装備が次々と損害を重ねる中、第7特科連隊の派遣中隊は実に200回も効力射と陣地変換を繰り返し、第一線を支え続けたというお話もある。しかし、行進間射撃を出来るならば、今後は戦車に随伴し火力支援ができる事に。
NEMOは1990年代にスウェーデンが開発したAMOSを単装化、最大射程は10km、この射程をみますと自衛隊の採用したフランストムソン社の120mmRT迫撃砲の射程延伸弾が誇る13kmよりも短いものの、NEMOとAMOSは直接照準により150mから1550mまで火力支援や対装甲戦闘も可能で、最大射撃速度毎分10発と持続射撃でも毎分7発という。
パトリアAMV,この自走迫撃砲システムを含めて一つの武器システムとして考えますと、実は陸上自衛隊の次期装甲車として非常に有用な選択肢となるのではないか、こうかんがえるのです。もともと自走迫撃砲は陸上自衛隊が96式自走迫撃砲を第7師団に限定して運用していますが、火砲の自走化が進む北部方面隊でも第7師団に限定されたものでした。
120mmRT重迫撃砲は陸上自衛隊普通科部隊の標準的な装備ですが、全般的に自走化せずとも、もともと機動力は高いものであり、高機動車の派生型である重迫牽引車で牽引するだけでも十分機動力は高く、CH-47J/JA輸送ヘリコプターによりつり下げ空輸も可能ですので、寧ろ機動性は96式重迫撃砲よりも高いとさえ言えたものですが、これが一新する。
96式自走迫撃砲は機甲師団に随伴する装備であるための、"贅沢な"装備品であったのですね。当たり前ですが行進間射撃はできません。しかしNEMOの行進間射撃は、贅沢云々ではなく、敵に標定を許さない撃破されにくい火力投射手段というもので、いわば贅沢ではなく別物の装備となったといえます。この有無は陸上火力体系を大きく左右するでしょう。
パトリアAMV、これ単体であれば非常に優れた装備ではあるのですが、三菱重工の提案した機動装甲車が、16式機動戦闘車と車体が同一で整備整合性の観点から非常に有利でした。しかしもしNEMO迫撃砲システムを搭載したパトリアAMVが即応機動連隊の火力支援中隊へ配備されるならば、火力支援中隊と普通科中隊の車種を統合できる為、話は別だ。
NEMO自走迫撃砲システム。もちろんこの装備は自衛隊に提案されたものではありません、そして共に同じパトリア製ですのでNEMOはAMV車上にて試験されているのであって、極論ですがNEMOを16式機動戦闘車に搭載し自走迫撃砲とすることも当然可能です、メーカーも様々な車両に搭載できることを強調しています。なかなかに興味深い装備ですね。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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