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ISIL掃討イラクシリアと戦車部隊【前篇】自衛隊の重戦力軽視へ警鐘鳴らす治安戦と戦車威力

2017-10-26 20:14:22 | 防衛・安全保障
■高練度戦車部隊の能力再確認
 2014年から続くISILによるイラクとシリアでの騒擾がようやく終止符が見えてきました。そして、この治安作戦を顧みますと、重戦力軽視の我が国防衛政策への考えさせられる戦訓を痛感します。

 ISILが中東とアジアからほぼ駆逐されました。非常に長い期間を要しましたが、ISILは現在、新しい拠点としてアフリカ地域にて再編成を企図している段階です。ISILは一時期はバクダッド攻略やシリア全域掌握へと向かう勢いでしたが、イラク軍が戦車部隊を中心とした防衛戦を展開し阻まれ、ISILとの戦闘では対非正規戦への戦車の有用性を示しました。

 シリアでもロシア軍の軍事援助により機甲部隊の稼働率を維持したことで、ISILの前進を最終的に阻止できたようです。シリアのISIL最後の拠点ラッカがシリア軍により奪還され、イラクにおけるISIL最大拠点ティクリート奪還完了に続き中東のISIL拠点制圧作戦がほぼ完了、市街地は廃墟となりましたが飢餓状態にある市民多数が漸く解放されたようです。

 ラッカ市内にはまだ百名程度のISIL戦闘員が降伏を拒み潜伏中であり、その掃討作戦が展開中です。ISILの拡大を支えた外国人戦闘員は500名程度がラッカ市外へ遁走しましたが、現在のところISIL戦闘員が再編成を可能とする策源地は、シリアとイラクには残っていません。イラク軍は若干数が残る西部のカイムとラワでの村落解放へ転進を開始しました。

 フィリピンではマラウィ市内のISIL戦闘員を実に半年間もの長期間を掛けようやく掃討完了、ドゥテルテ大統領による勝利宣言が行われました。マラウィでのISIL攻撃は市内警察署への武装勢力攻撃により始まりました。当初は鎧袖一触と見られていたフィリピン軍の治安作戦は非常に難航し、市街地の錯綜地形での彼我混交の状態が戦闘を長引かせます。

 マラウィ市内のISIL勢力は中東からの戦闘員とフィリピン国内のイスラム過激派組織との合流により最盛期800名を数えましたが、フィリピン軍は一つ一つの建物を順番に攻略し包囲網を狭める伝統的な市街地戦闘を展開し、遂に市内全域の掃討を完了しました。ただ、半年間近い戦闘の被害は非常に大きく、戦闘長期化が復興長期化へ至る実情を示しました。

 イラクでのISIL掃討に関する海外報道でよく耳にする部隊名は第9機甲師団というイラク軍部隊です。この第9機甲師団はバクダッド北方に主力を駐屯させており、実はISILのバクダッド攻略に際して師団はアメリカより供与されたM-1A1戦車を緊要地形に緻密に配置、夜間と白昼を問わず接近するピックアップトラック攻撃を遠距離で正確に阻止できました。

 ISILの攻撃は市街地の治安部隊中枢地域へ自爆トラック攻撃を行う事で攻撃の端緒に付くため、戦車の火器管制装置により遠距離の監視と打撃力が最大限威力を発揮できました。またロケット弾攻撃をM-1A1戦車は確実な防御力で被害を回避し、ISIL部隊による近接戦闘を巧みに回避、この戦果を積み重ねることでイラク軍全体の反撃へつなげた、とのこと。

 シリアではシリア軍は陸軍が大量に保有した戦車が大きな損耗を受けつつもロシアより供与されたT-72戦車と整備基盤、また整備支援をもとに着実な戦車部隊の運用を展開、市街地へも禁忌とされる戦車部隊を中心としての攻撃前進を、歩兵部隊では確実に損害を受ける状況下で投入し、仮に撃破された場合も訓練された戦車兵は弾薬庫爆発前に脱出できた。

 中東戦争を繰り返したシリア軍機甲部隊の練度は世界的に視て、イスラエル軍程ではないものの高い水準にあるといえます。僚車が市街地で撃破された場合でもシリア軍戦車部隊は小隊単位での連携により脱出乗員を即座に収容、攻撃を続行する運用が報じられています。戦車が確実に支援しているからこそ、歩兵による掃討も持続できたといえるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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