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北大路機関

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東部ウクライナ上空マレーシア航空MH17便ボーイング777-200ER型旅客機撃墜事件

2014-07-19 23:38:34 | 防衛・安全保障

◆墜落現場はロシア国境から40km地点

 2014年7月17日、オランダのスキポール空港を離陸しマレーシアのクアラルンプールへ向かったマレーシア航空MH17便ボーイング777-200ERがウクライナ上空で消息を絶ちました。

Jimg_3521  ボーイング777-200ER型旅客機、我が国でも日本航空や全日空が国内線主要路線や国際線の主力旅客機として運用し、世界中で運用されている傑作ワイドボディ双発旅客機で、航空自衛隊の次期政府専用機としても導入が決定している航空機です。

Db_img_9747 機体はウクライナ東部のドネツク州グラボベ村に墜落、ロシア国境から約40kmの距離に或る村に墜落したものとされ、上空で破損し機体の多くの残骸が発見されています。乗員乗客は283名の乗客と乗員15名が登場していましたが、全員生還が絶望視されています。

Db_img_9750 MH17便はウクライナ空域上を高度10058m(33000ft)の高高度を飛行中、西欧夏時間1415時にロシアウクライナ国境から50kmの位置にて消息を絶った、とのこと。MH17便の墜落の瞬間などは周辺住民により目撃されていまして、直後の映像などが報じられています。

Db_img_9741 MH17便が飛行していた東部ウクライナ上空ですが、同地域はウクライナ政変後に親ロシア派の勢力圏となっており、一部で戦闘が続いています、が、危険な空域ではありません。事実、撃墜事案発生の同時刻にはシンガポール航空がSQ351便として同型機ボーイング777-200ERを25km離れた空域で飛行させていますし、エアインディアAI113便もボーイング787型機をSQ351便と同距離の空域で飛行させていました。

Dgimg_3425 ただし、東部ウクライナ上空は緊張状態にあり一部航空会社では万一に供え念のため迂回航路を飛行する事例もあったとされています。MH17便を運航していたマレーシア航空は、欧州とマレーシアの最短経路という事もあり、燃料費節約の意味を含め飛行していたとのこと。

D_b_img_9702 今回の疑問は、いったい誰が撃墜したのか、という事です。ウクライナ政府は親ロシア派の武装勢力が撃墜したと主張し、ロシア政府はウクライナ側が撃墜した可能性を指摘しています。親ロシア派の武装勢力が、という論調が報道では大きく扱われているのですが、MH17便は前述の通り高度10058m(33000ft)の高高度を飛行、撃墜は容易ではありません。

Himg_2667 武装勢力による航空機攻撃と言いますと肩に担いで個人で運用出来る携帯地対空誘導弾、所謂MANPADSを想像する方が多いでしょうが、有効射高は精々3000m、MH17便の飛行高度10058m(33000ft)へは届きません、もともとMANPADSは低空に飛来する攻撃機やヘリコプターに対する装備ですので、10000m級の高高度は想定外であるわけです。

Gimg_5925 我が国の自衛隊は多数の地対空誘導弾を装備していますが、高度10000m以上の上空を往く目標へ対処できる装備は、陸上自衛隊のホーク改善Ⅲ型、03式中距離地対空誘導弾、航空自衛隊のペトリオットミサイルPAC-2とPAC-3のみです。そして、これらの装備は個々人での運用は不可能で、索敵と脅威評価に数十人、照準と射撃に数十人、補給に数十人、システム化しなければ対応できません。

Iimg_9311  今回の撃墜事件では、SA-17グリズリー/9K37ブークミサイルが使用されたという分析が幾つかの報道機関で為されています、旧ソ連製のミサイルでロシア軍とウクライナ軍が使用、海上自衛隊のスタンダードSM-1と形状や射程等が似たミサイルです。そしてソ連でも艦載の艦対空ミサイルとして開発されました。

Img_0921  SA-17グリズリー/9K37ブークミサイルは元々関西洋、射程は33kmで有効射高25km、というもの。どの国でも、10000mの高高度、10kmといえば京都駅から大津駅や比叡山の距離ですが、これだけの高度を往く目標の彼我敵味方を識別し対処するには、システム化された警戒部隊と防空部隊の協力が必要です。それでは誰が撃ったのか。

Abimg_5467 正直なところ、武装勢力の手に余るものがあります。仮に入手したとしても、索敵と識別、照準と射撃、整備と補給、これら三分野の専門要員を一定人数揃える必要があります。ウクライナ政府は、MH17便墜落地点近くでウクライナ軍機が2機撃墜されていると発表していますが。

Dimg_9923 この発表ですが、ウクライナ政府によっての機種は発表されず、3000m以下を飛行していた輸送機やヘリコプターが攻撃されたのか、高高度を往く戦闘機が狙われたのかも発表していません。ロシア側から武器が供給されている可能性を示唆し、事実ウクライナ軍からの強奪や寝返りでは説明しにくい装備なども一部地域で散見されるのですが、MANPADSならばともかく中射程の地対空ミサイルを供与することは考えにくい。

Himg_3061  こういいます根拠は、ウクライナ空軍が中距離地対空誘導弾の装備が無ければ対応できないような装備を投入していないためです。そして高度10000mから攻撃する手段はウクライナ空軍はかつて旧ソ連よりTu-95爆撃機やTu-22M超音速爆撃機、Tu-160超音速戦略爆撃機を少数継承しましたが、ロシアへ返還するか用途廃止としていますので、現状在りません。

Eimg_9071 親ロシア派を警戒するために米軍の電子偵察機や無人機がウクライナ政府の支援要請を受け飛行していた可能性も考えられなくはないのですが、そんなものが飛行していれば、情報収集能力の高さとともに政治的な大きな問題ですので発射位置を米軍が発見し発表しているでしょう。

Gimg_7807  ウクライナ政府の報道は票としてロシア軍が極秘裏に東部ウクライナ領内に地対空ミサイル部隊を展開させた可能性があり、同型ミサイルの証拠写真がある、と示されたものがありますが、前述のとおり地対空ミサイルで、中距離を射程とするものの装備は大きく嵩張り、持ち込める斧なのか、と共に仮に持ち込めるとして、持ち込む意味があるのか、と。

Dgimg_3160 SA-17のような中距離地対空誘導弾は持ち込むには大きすぎますし、ウクライナ空軍を相手とするには性能が大きすぎ、ロシア側が持ち込んだという事実上の軍事介入が露呈した場合の政治的リスクと比較すれば無理を通して国境を越える危険にみ合いません、なにより万一持ち込んだミサイルがウクライナ軍特殊部隊により鹵獲されたならば、これまで部隊を展開させていないというロシア側の主張を根底から覆す事となりますから。

Img_4310  他方、ウクライナ政府は自国軍の車両デポから武装勢力により奪取されたT-64主力戦車をロシア地上部隊侵攻と勘違いし報道したことがあります、アメリカの報道関係者が74式戦車をT-62と見間違えた方がいるそうですからT-64とT-80を見間違えることはあると思いますが、兎に角ことは重大ですので確認が必要です。

Dg_img_3519  武装勢力がウクライナ軍のSA-17を奪取し運用した可能性が指摘されていますが、前述の通り武装勢力に一定数のSA-17を運用可能な人員が確保され集団行動をとっているのか、採っているとすれば武装勢力の統制が正規軍並のものとなっていることを意味しますし、このあたりの検証も必要でしょう。

Eimg_6025 さて、凡そ300名もの人命が一度に奪われた今回の事態、この原因を究明し責任者を処罰しなければなりません、この為には現場の検証が何よりも重要となるのですが当該地域は親ロシア派武装勢力の勢力圏であり、調査は容易ではありません。ウクライナ政府支援下での米ロ共同やウクライナにOSCEとロシアを交えた、国連中心の調査団派遣など原因究明が求められます。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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7 コメント

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はるな様 (通りすがりの者)
2014-07-20 02:54:44
はるな様

読売新聞の記事だとペンタゴン発表でSA-11ギャドフライになってますね。確定出来なさそうなんで何とも言えないですがウクライナ側は、過去に黒海上空で民間機を誤射しているんですよね。
親露派にしては、米の批判のトーンが微妙ですね。
返信する
・過去ボスニア紛争でセルビア民兵などがゲッコー... (BUK)
2014-07-20 06:31:50
・過去ボスニア紛争でセルビア民兵などがゲッコー等のSAMを運用していた
・事件前、Twitterで親露派民兵みずからドネツク駐留の宇A1402連隊から3K37を鹵獲したと喧伝していた
・事件前、宇軍のIL-76を撃墜するのに使ったとも喧伝していた
・事件直後も「宇軍の輸送機を撃墜した」と喧伝していた
・マレーシア空港の民間機であったと判明した途端それらの書き込みを削除
・民兵側の高位幹部が突然、解任される

これだけ情報が出揃っていて本記事のような論調になるのは何故でしょうか
返信する
ウクライナは2013年に廃止されるまで徴兵制があっ... (月虹)
2014-07-20 09:42:44
ウクライナは2013年に廃止されるまで徴兵制があったことや親ロシア派構成員には退役軍人も多数いるとの情報もあることから9K37の取り扱いに慣れていてもおかしくはないと思います。通常は監視レーダーと追跡迎撃レーダーを組み合わせて運用しますが今回は片方のレーダーだけという不完全な状態で運用されたことから撃墜が起きた模様です。

ロシアは近年の経済復興から軍事装備近代化が進んでいますが装備の多くは旧ソ連時代の物を継承しておりかつての冷戦の様にアメリカと正面から対立するには時期尚早と思いますが元KGBのプーチン大統領のことですから親露派をダシに使うことでウクライナ東部への影響力行使を依然として狙っているかも知れません。

あと9K37ブークは2K12クープの後継として開発された地上発射型のミサイルでそれを艦載化したのが3K90ウラガーン(SA-N-7、輸出型がSA-N-12)です。3K90は中国の広州級駆逐艦やインドのタルワー級フリゲートが採用するなど輸出にも力が入れられているようです。
返信する
記事の主旨は、そこまで大事になっているのか、と... (はるな)
2014-07-20 10:06:33
記事の主旨は、そこまで大事になっているのか、というものです、だからこそ慎重に分析しなければ、と

インタファクス通信を産経新聞が引用した記事として、東部ウクライナではロシア領内からのミサイル攻撃により7月16日にSu-25攻撃機が、14日にAn-26輸送機が撃墜、と報じられています

>ボスニア紛争でセルビア民兵

ただ、民族浄化などを起こしたサソリとは違い、交戦団体扱いされたものユーゴ軍部隊であったと記憶します、逆に言えば、東部ウクライナでは少なくとも中隊規模で地対空ミサイル部隊が民兵部隊に参加しているのか、という視点で、仮に参加しているのであれば、かなり深刻な内戦状態にある事を示します

>3K37

9K37、でしょうか、仮に奪取したとしても動かすのは、というのが主旨でして、懐疑的に見ているのではなく、組織的に9K37を運用できるのならば、かなり脅威的な状況だ、という論点です、実際、民兵が高高度を巡航飛行する旅客機を爆弾テロ以外で破壊する、ということがこれまでありませんでしたし

逆に、ウクライナ国内でT-64等のソ連時代の保管装備、これらを民兵が奪取している、という報道がありますが、20年以上放置された戦車であっても、中距離地対空ミサイルを組織的に運用できる武装勢力、それだけの指揮系統があるのならば、保管装備をデポで重整備し、本格的に再編成、機甲旅団程度の部隊を構築しかねない状況にあるのではないか、という危惧にも繋がる訳でして

無論、追尾機能などを考えず、取り敢えず発射する、という機能が9K37に備わっているのならば、話は別なのですが

>宇軍のIL-76を撃墜するのに使ったとも喧伝

ううむ、当該ツイッターを知りませんので申し訳ないのですが、事件直後の削除という話、当方知りませんでした

別件ですがウクライナ東部ルガンスクで14日にIl-76が撃墜されています、が、着陸直前でした

>民兵側の高位幹部が突然、解任

報道は確認しているつもりでしたが知りませんでした

当方はモスクワでドネツク人民共和国の共和国議会議長デニスプシリン氏が辞任、という記事には目を通していたのですが、この事例でしょうか

この場合、指揮系統がモスクワから東部ウクライナの民兵部隊へ通るものが確立している、という視点になりますが、確証が立てば、国際法上の武力行使を越えて武力攻撃ということになり、ウクライナとロシアが戦争状態に入っている、ということになり、また話が大きくなる、とも

一方で、指揮系統が大きい組織であれば、少なくともフライトレーダー24のような公開情報として、もちろん昼間であれば双眼鏡で肉眼でも確認できますが東部ウクライナ上空を旅客機を飛行していることは確認できるのですし、発生しうる事態なのか、という疑惑よりは懸念があります

だからこそ、関心を以て情報を集めてゆきたいですね
返信する
BUK様 (通りすがりの者)
2014-07-20 10:22:21
BUK様

サイバー戦、心理戦が現在進行形で行われてるからとウクライナ政府側の発表の信憑性が低いからです。
返信する
>ロシア政府はウクライナ側が撃墜した可能性を... (BUK)
2014-07-20 16:33:12
>ロシア政府はウクライナ側が撃墜した可能性を指摘しています。

記事本文のこれはVOR辺りが典拠でしょうか?
ウクライナ側の主張を疑うのであれば、あれも大概なのでは?
「宇軍のSu-25が当該機を撃墜するのを目視した」という内容でしたので私など苦笑してしまったのですが…

コメント中の3K37は御指摘の通り誤りです。
9K37には確かレーダー機能不全下の補助として光学誘導もあったと思います。
これはそれなりの解像度ですから今回の事件で使用できたかもしれません。

A1402連隊がドネツク駐留であり襲撃されて装備を失ったことも事実のようです。
民兵が9K37を運用できるかといえば小規模(1ユニット程度)なら可能でしょう。
元軍人も多く、「デジタルフローラを着た正体不明の民兵」も大量流入してますからね。
ロシアから物心両面の支援も陰に陽に受けているようですから軍事顧問くらい居るでしょうし。
ヒズボラがイランやシリアの顧問つきでSSMを運用していたこともあります。

ウクライナ及び欧米の宣伝戦を疑うのはいいですが、ちとロシア側の主張にメス入れられては。
返信する
なにより事実関係が錯綜していますので、本文末尾... (はるな)
2014-07-21 01:10:50
なにより事実関係が錯綜していますので、本文末尾に記したように、兎に角調査団を派遣、リットン調査団のような正統性ある機構に基づいての調査が必要だ、ということにつきます

被疑者不詳のまま、ハーグの国際刑事裁判所に提訴する手続きなどがあれば、利用するべきですし、忘れてはならないのは安全であるべき高高度の国際航空航路の旅客機が撃墜されたのですから

しかし謎が多い

今回の事件、仮に“博物館から強奪した52-K 85mm高射砲を再整備し使用”、と報道されていたならば、弾薬をどうしたんだ、有効射高ギリギリじゃないか、一門で命中するものか、と反発しつつも、そういえば博物館からIS-3重戦車も奪取されたし、と、まだ、もう少し納得はできたと思うのですが・・・

なにぶん、短SAMやホークの展開要領の煩雑さを知っているだけに、武装勢力に出来るのか、と。それともロシアのSAMはもっと展開が簡単な構造なのか、とも知りたくなるところですが、予備役の方々で運用できる方を集めれば、射撃する事は出来るものなのか、これは言い換えれば今後もこうした事案は続き得るのか、など

あと、ご存知ならばお教えいただきたいのですが、光学TV照準能力はVLS方式で知られる短SAMの9K330トール/SA-15ガントレットだったと記憶するのですが、ブークにも備えられているのでしょうか
返信する

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