北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】M-1戦車延命とT-72改修,CV-90延命とM-2新規採用に躍進の装輪自走砲自走迫

2021-01-18 20:04:11 | インポート
■週報:世界の防衛,最新12論点
 今回は陸軍関係で12の話題を。アメリカのM-1戦車は年々改造が続く最中に余りその動きが無い90式戦車は寂しいところだ。

 アメリカ陸軍は12月17日、第一騎兵師団において評価試験中であったM-1A2-SEP-V3戦車について46億2000万ドルの量産契約をジェネラルダイナミクスランドシステムズ社との間で成約したとのこと。M-1A2-SEP-V3 のSEP-V3とはシステム強化プログラムバージョン3型を意味します。生産は既存のM-1戦車部品を再集成した際に実施されます。

 戦車はハネウェルAGT1500エンジンやM256滑腔砲といった部分は変更は無いものの列線整備方式を採用、IFLIR前方監視装置や簡易爆破装置を阻止するRCIED電子戦システム、M829A4ADL弾薬データリンク装置、CROWS遠隔操作銃搭を搭載しています。戦車の改修は2028年6月までに実施され、アメリカ陸軍全ての機甲旅団戦闘団へ配備される計画だ。
■M-1戦車のエンジン換装計画
 90式戦車の初期の車両はエンジンがかなり限界が来ているという事ですが、個のように思い切って交換する選択肢もあるのですね。

 アメリカ陸軍はハネウェル社との間でM-1戦車近代化改修に関わるエンジン調達で11億ドルの契約を成立させました。これはハネウェルAGT1500エンジンに関する契約であり、12月17日に国防総省が発表したもの。M-1はM-1A2-SEP-V3への改修が進められますが、これに先立ち、先ず全てのM-1A2戦車とM-1A1戦車へ新造エンジンを搭載するとのこと。

 ハネウェルAGT1500エンジンは、エンジン寿命が車体寿命よりも短い事を受けての交換であり、アメリカ陸軍とアメリカ海兵隊及び州兵が装備するM-1戦車が対象です。なお、アメリカ海兵隊は再編により2030年までにM-1戦車を全廃する計画がありますが、現役期間においてはエンジン換装を行い、必要な能力の維持を引き続き行う構図が考えられます。
■スイス,CV-90を延命改修
 自衛隊の89式装甲戦闘車も延命というものを真剣に考えるべきだったところですが車体を更新する方向で進んでいる。

 スイスのCV-90/ Schützenpanzer2000についてBAEランドディフェンスシステムズ社スイス法人は2040年までの車体延命に関する契約をスイス連邦国防調達庁との間で締結したとのこと。スイス軍は30mm機関砲搭載型のCV-9030装甲戦闘車を186両近代化改修により延命する方針です。既にスイスのCV-90はエンジン出力などが老朽化に曝されている。

 CV-90の延命はエンジンの延命と共に車体電機システムや電子システムの刷新、また車体情報表示装置の追加や車内からの360度全周監視システム等の追加も盛り込まれているとのこと。一方でスイス政府はライフサイクルコストの徹底的な圧縮を求めており、CV-90開発メーカーであり現在はBAE参加となったスウェーデンヘルグランド社も参画します。
■クロアチア,M-2IFVを導入
 ブラッドレーの生産が再開したために各国への新しい選択肢となっているようですね。

 クロアチア軍はM-2A2ODSブラッドレー装甲戦闘車76両を7億5700万ドルにて取得する事でアメリカと合意しました。この7億5700万ドルにはブラッドレー車体に加えて1700発のTOW対戦車ミサイルや84丁のM-240/7.62mm機銃及び通信機の費用も含まれており、これはクロアチア軍のT-72/M-94デグマン戦車と共同運用されることでしょう。

 M-2A2はアメリカ陸軍に大量調達され、1991年の湾岸戦争後には中東諸国に一定数が販売されましたが、その後の調達は一段落、しかし車体部分を汎用装甲車としたものがM-113後継としてアメリカ陸軍へ納入されています。組立は旧ユナイテッドディフェンス、BAEシステムズランドアーマメント社アメリカペンシルベニア州ヨーク工場が実施しています。
■米海兵隊,M-1ABVを全廃
 アメリカ海兵隊はM-1戦車の全廃を計画していますが、先行してM-1戦車派生型の戦闘工兵車輛が廃止されました。

 アメリカ海兵隊では海兵隊再編計画に基づきM-1-ABV戦闘工兵車輛の運用を順次終了し始めています。今秋にはその第一段階として第一海兵師団第一戦闘工兵大隊に配備されているM-1-ABVのモスボール保管が開始されています。M-1-ABVはもともと陸軍がグリズリーCMV戦闘工兵車として開発され中止されたものを試作車量産し取得したものです。

 M-1-ABVはのM-1A1戦車の車体部分にマインプラウやM-58-MICIC爆導索を装備した戦闘重量72tの工兵車輛で海兵隊は2009年にアフガニスタンヘルマンド州の安定化作戦に投入、この種の車両の有用性を誇示しました。この成功を受けアメリカ陸軍はM-1150戦闘工兵車として187両を発注しています。保存される海兵隊車輛の今後は未定となっています。
■トルコ,PARS3自走迫撃砲
 トルコは近年装甲車両などの国産化を大車輪で進めており、比較的抑えられた費用と手堅い設計により新しい地位を固めつつあります。

 トルコのFNSS社は同社が開発したZHA-PARSⅢ装輪装甲車について新型の120mm自走迫撃砲型を開発しました。PARSⅢ装輪装甲車は八輪式の装輪装甲車でモジュラーベース車両コンセプトにより車体後部に様々な兵器システムを搭載できる設計で、自走迫撃砲型は車体上部を開放、ラファエル社製120mm後填式迫撃砲とともに砲弾42発を搭載します。

 PARSⅢ装輪装甲車、今回、自走迫撃砲とされているのは八輪駆動型ですが、PARSⅢ装輪装甲車には四輪駆動型と六輪駆動型が開発されており、四輪駆動型は自走対戦車ミサイル型を、六輪駆動型は偵察警戒車型等を提案しています。全長8mと車幅3mに全高2.4m、特別仕様型として水陸両用に改造でき、水面上を3km/hの速度で浮航させることも可能だ。

 PARSⅢ装輪装甲車、戦闘重量30t、水冷ディーゼルエンジンにより最高速度100km/hを発揮し超堤能力0.6mに越壕能力2mと60‰の塔反力を有し、また全車軸操行装置により8mという小さな旋回半径を有しています、現在採用しているのはオマーン軍で装甲輸送型やこの自走迫撃砲など各型172両が5億ドルで契約、2020年内に納入が完了する見込みです。
■フィリピンの軽戦車計画
 痛い目に合うと真剣になるものなのですが、案外日本の共通戦術車輛車体に16式機動戦闘車の砲塔を載せても良かったのか。

 フィリピン国防省は10月24日、選定を進める将来軽戦車交渉についてイスラエルのエルビット社製サブラシュ砲塔を採用する方針を発表しました。この軽戦車選定にはトルコよりオトカ社製ARMA105砲塔と韓国ハンファ社製K-21装甲戦闘車105mm砲塔型が参加しました。サブラシュ砲塔はジェネラルダイナミクスヨーロッパ社製車体に搭載されます。

 エルビット社製サブラシュ砲塔の搭載車輛はスペインオーストリア共同開発のASCOD装甲戦闘車軽戦車型、オーストリア製パンドール2装輪装甲車の機動砲型が予定されており、この砲塔技術にはエルビット社がトルコなどに提供したM-60戦車サブラ改修キットの技術が応用されています。フィリピンには主力戦車が無く、貴重な機甲戦力となりましょう。
■ウクライナ軍,ダナ自走砲採用
 ダナ自走榴弾砲、本格的な自走榴弾砲の砲塔をそのまま大型装輪車両にのせたもの。

 ウクライナ軍は将来火砲としてチェコ製ダナ装輪自走榴弾砲の取得を検討している、ウクライナ国内報道に報じられました。ウクライナ軍には現在、旧ソ連時代の2A36 ギアツイント152mm榴弾砲、2A65ムスタ152mm榴弾砲、2s19 152mm自走榴弾砲、2S5152mm自走榴弾砲といた多種多様な自走榴弾砲や火砲が存在しており、これを統合するのが狙い。

 ダナ自走榴弾砲は1977年にチェコスロバキアにて開発され全長11.1mで全幅3mと重量は29tという巨大な装輪自走榴弾砲です、口径はNATO標準の155mmではなくロシア系152mmとなっていますが砲部分は砲架を装甲化された砲塔に収容しており全周旋回が可能となり、現在は標定装置や計算機等を自動化した最新型のダナM2が量産されています。
■最新型M-109A7試験開始
自衛隊の99式自走榴弾砲の様に新型に置換えるのは王道なのですが近代化改修を重ねるという手はある。

 アメリカ陸軍はM-109A7自走榴弾砲の更なる近代化改修を模索しているとの事、これはグレイウルフ旅団として知られる第1騎兵師団第3装甲旅団戦闘団第82砲兵大隊がこのほど実施した実証試験によるもので、データリンクで結び、一両単位で分散されるM-109A7榴弾砲の運用を防衛産業関係者を中心に広く分析に供し、改善点などを発見するのが狙い。

 グレイウルフ旅団は近代化実験旅団的な位置づけに在り、2020年にはM-1戦車最新型のM-1A2SEP2-V3主力戦車を初めて受領した実戦部隊となり、またハンヴィー高機動車の後継にいち早くJLTV統合汎用機動車輛を配備している旅団です。1960年代に開発されたM-109は如何にも旧式ですが、更に改修し性能向上を行う事で陸軍は乗切りたい構えです。
■モロッコ,カエサルHSP採用
 カエサル簡易自走榴弾砲は車体部分を改良する事で搭載する野砲とは別方向で進化していますね。

 モロッコ陸軍は陸軍砲兵近代化へフランス製カエサル簡易自走砲システム30門と各種弾薬を2億ドルで調達する方針です。モロッコ陸軍には13個の砲兵大隊が編成されており、M-109自走榴弾砲やMLRS多連装ロケットとともに旧式化の進む牽引式榴弾砲が装備されており、カエサル簡易自走砲システム30門は幾つかの砲兵大隊に分散配置される見通し。

 カエサル簡易自走砲システムはトラック車体に52口径155mm榴弾砲を搭載したトラック機動野砲システムで、車体部分には汎用性の高いウニモグU2450L車体を利用したもののほか、ルノーシェルパ10軽装甲車の車体を利用し一定程度の防御力を付与した装甲型なども開発されています。砲システム30門で1億7000万ドル、3000万ドルが弾薬とのこと。
■T-72戦車最新のT-72B3
 ロシアは色々と開発されていますが90式戦車の天敵といえる戦車の近代化はまだまだ続くようです。

 ロシア軍は11月、最新型のT-72B3戦車2020年度分の納入を開始します。現在ロシア軍に配備されているT-72は原型に新型火器管制装置1A40-1と主砲発射型ミサイルシステムを搭載し正面装甲をスーパードリパートン複合装甲へ強化しエンジンを840hpに強化したT-72B、T-72B2としてエンジンを1000hpとし主砲を55口径の2A46M-5としたもの。

 T-72B3はT-72Bを改修したもので、これはT-72B2の改修費用が大きく、クリミア併合やウクライナ東部紛争介入による欧米諸国経済制裁により大量取得する事が出来なかった事を受け、T-72Bを原型としてT-90戦車と同じ2A46M-5戦車砲や1000hpエンジンに換装した改良型で、取得性に優れ現在ロシアはT-90戦車量産を停止し改良を重点化しています。

 T-72B3戦車の外見上の最大の特色は履帯にT-72シリーズとして初めてダブルピン方式を採用したところですが、更に砲塔にコンタクト5爆発反応装甲を採用、戦闘重量は46tで航続距離を500kmとしており、ソスナU車長用照準装置等新世代の装備も搭載していて、2016年に量産開始、2018年より順次ロシア軍へ引渡が本格化し数の上で主力を目指します。
■2S42-Lotos自走迫撃砲
 ロシアの自走迫撃砲は数も多く普及している為に中々侮りがたい脅威でもあり、自衛隊にもAMOSの様なものが欲しいとおもうところ。

 ロシア軍はBMD-4M空挺装甲戦闘車派生型の2S42-Lotos自走迫撃砲評価試験を開始しました。これは125mm戦車砲を搭載し既に配備されているSDM-1スプルート空挺軽戦車の車体部分を応用し、モジュール方式の120mm後装填式迫撃砲を搭載、このモジュールは2S9Nona-S自走迫撃砲の派生型で、2S9Nona-S空挺型というような運用を見込んでいます。

 2S42-Lotos自走迫撃砲は戦闘重量18t、エンジン出力は450hpで最高速度は70km/h、車体は浮航方式の水陸両用車となっておりシーステート3の海上でも走行可能であるとともにロシア空軍のIl-76輸送機に2両を搭載可能、最大射程は13km、最低射程は1kmといい、対戦車用SDM-1スプルート空挺軽戦車とは対照的に間接照準射撃専用となるもよう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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