北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

令和三年-新年防衛論集:ポストコロナ時代の防衛安全保障(4)本土防衛に不可欠の二つの装備

2021-01-05 20:20:56 | 北大路機関特別企画
■陸上自衛隊の強みを活かす
 陸上防衛に関する重要な話題であるもののCOVID-19影響によりホビーショップ巡りが出来ずガルパン関連の写真をお届けできないのは残念です。

 自衛隊の装備について。機械化が遅れていることは事実です、装甲戦闘車の配備の遅れは現実ですし、AH-64D戦闘ヘリコプターの配備数も13機というのは、AH-1S対戦車ヘリコプターの配備が96機にわたったことを考えれば如何にも少ないことは事実です。しかし、これをもって自衛隊の装備水準が低い、と考えるのは余りに早計といえるでしょう。だが。

 強みはある。空中機動能力が冷戦時代における自衛隊の強みでした、NATO第一線部隊に対して、確かに73式装甲車の数は少なすぎました、1980年代後半に大きな改良なく74式戦車の量産を続けていた点も今考えるならば、第一線の戦車乗員への背徳ではないか、と考えます、実際問題、当時ソ連軍との間で北海道にて戦車戦の可能性は充分ありました。

 そうした中において、対戦車ヘリコプターAH-1Sを充分配備したことは評価といえましたし、もう一つ、航空自衛隊のナイキ地対空ミサイル部隊とはべつに陸上自衛隊が大量にホーク地対空ミサイルを保有し、しかも一個群を近代化するのに一個普通科連隊に73式装甲車を充足できるだけの費用を8個群に3回、装甲車24個連隊分を投入し改修したのです。

 当時と比較した場合、日本の防衛予算はそれほど縮小していません、インフレ率が低かったですので、それほど装備調達費用も減っていない訳でして、もっとも、73式装甲車と96式装輪装甲車は同額でも89式装甲戦闘車は取得費用が五倍も違い、AH-1Sの最終調達費用が48億円ですのでAH-64Dの取得費用72億円というのは、確かに高くなっていますが。

 地対艦ミサイルと地対空ミサイル。それほど防衛予算が減っていない中で、それならばどこに予算は流れているか。端的には1兆円以上を要したミサイル防衛に挙げられるのですけれども、陸上自衛隊はなかでも地対艦ミサイルと地対空ミサイルの予算にかなり注力しています。実際、この水準のミサイルを有する陸軍は世界中を見回しても中々ありません。

 陸上防衛について、個の個性は大きな強みなのですよね。しかし、その上で、装甲戦闘車か重装甲車というものを最低限、戦闘ヘリコプターも最低限、確保しなければならない最低限を割り込んでいるように見えまして、ここはもちろん、取得に費用は一定程度必要となるのですが、思い切って配備する必要を考えるのですね。そう多くはないのだけれど。

 戦闘ヘリコプターなどは、一定以下の配備数では、そもそも戦術研究を行えません、対外試合が出来ない学校が2チームを組めない為に練習試合ができないような状況、というものでしょうか。陸上自衛隊は当初62機の取得を検討していたとされますが、AH-64D、最低でも48機を取得し、例えば中央に集約し各方面へ分遣隊を派遣する規模が必要だ。

 AH-64D、戦闘ヘリコプターの装備射程は延々と延伸しており、これは対戦車ミサイルで射程100kmに上る射程の遠大な装備品がロシア軍などで開発されているために世界的な潮流といえるのですが、例えばAH-64Dでも強力なレーダーの一つの運用方式として、無人機の管制は元々盛り込まれていたのですが、AH-64E,その強化が更に進んでいる現状がある。

 戦闘ヘリコプターは時代遅れ、という錯覚が、一部にあるとは聞くのですが、無人偵察機と徘徊式弾薬と長射程の対戦車ミサイルを搭載し、100km以遠に無人偵察機を派遣させ、いわばフリゲイトとLAMPSヘリコプターのようなセンサーノードとしての運用を無人機に委ね、アパッチがいわばフリゲイトの役割を担うという、そんな時代が近いのですね。

 今の日本ならばAH-1Sの乗員も多い。無人機の時代といわれる昨今ですが、錯覚なのかもしれません、無人機は必要で必須ですが、それだけで成り立つ時代でもない、RQ-4グローバルホークの時代でも未だにU-2偵察機が飛行しているように、ね。U-2が生きながらえる背景にはセンサー搭載能力がRQ-4よりも遙かに大きい為です。そしてこれはAH-64Dにも当てはまるのかも知れないのです。

 MQ-8ファイアスカウト、海上自衛隊が導入する無人ヘリコプターでヘルファイア対戦車ミサイルを搭載できます。自衛隊も対戦車ヘリコプター隊16機をMQ-8の8機程度で置き換えることは可能かもしれません、しかしそうした場合でもAH-64Dは必要です、その論拠としてAH-64DやAH-64Eはエンジンが違うのですね、エンジン出力は汎用性がたかい。

 AH-64Eのエンジン出力を応用し、レーザーを搭載する計画がある。レーザーといいますと大げさに見えますが、例えばクワッドドローンと称される数kg程度の無人機のカメラ素子やモーター駆動部を焼ききれる程度のものです。しかし、近年新しい脅威となりつつある徘徊式弾薬などには、ロングボウレーダーで捕捉しレーザーにて連続攻撃を加えられる。

 もちろん、そんなものMQ-8の改良型にT-700エンジンを双発して十分な出力を持たせてロングボウレーダーを搭載するか、SH-60Kを無人化してレーザーとレーダーを搭載すれば良い、と無人機万能論からは反論されるかもしれませんが、無人機の利点に安価というものが考えられる限り、AH-64DやAH-64Eの必要性は不変とも言いうるのでは、と思う。

 装甲戦闘車も、実のところ自衛隊の規模を考えれば430両程度は必要だと思う、今が68両ですので430両は多すぎる、とおもわれるかもしれませんが、73式装甲車が350両、60式装甲車が428両量産されているのですから、せめて21世紀、長らく世界第二位であり中国の台頭で世界第三位とはなってもまだ日本は経済大国、多すぎる負担ではありません。

 60式装甲車並の数が必要だ、それも早急に、と考える。こう考える背景には装甲戦闘車の交戦距離は30mm機関砲の場合で2000mにも達し、74式戦車の交戦距離に近い水準です。陸上自衛隊は短期間で戦車を大量廃止しましたので、戦車乗員は大量に、しかし戦車に乗ることなく勤務していますが、装甲戦闘車の運用には74式乗り、彼らが不可欠といえる。

 AAV-7,戦車の乗員が不可欠といえるのは普通科部隊が水陸機動団創設に際しAAV-7両用強襲車を検討した段階で、96式装輪装甲車で手一杯という九州の普通科部隊には手に負えないという現実に直面し、当面が第4戦車大隊に委託した事例が。そのために一時期、第4師団祭は10式戦車にAAV-7にと式典が大迫力だった、という椿事もあったのですけれど。

 40mmCTA機関砲でAP弾を用いた場合は第一世代戦車の75mm徹甲弾や90mm粘着榴弾よりも貫徹力が大きい、第三世代戦車であっても側面ならば貫徹しうる性能です、この運用には戦車乗員が必要で、しかも一朝一夕には養成できません、装甲戦闘車の増勢は今まさに急務という段階なのですね。そして装甲戦闘車が必要という背景にはもうひとつ。

 3P弾、所謂調整散弾ですが、これは今後無人機体策で必須の装備となります、実際アメリカ海兵隊ではハンヴィーの後継となるJLTV統合戦術車両に30mm機関砲を搭載したものを大量に配備し、無人機狩りに用いる構想があります、無人機は安価な脅威ですが、正規軍がまじめに対策を進めるならば、技術的奇襲に留まるという一例といえましょう。

 一方、言い換えるならば無人機による脅威を正面から考えると、こうしただ一線火力の強化は必要です、しかし思い切った人員の削減を是認してでも、機械化へ梶を切るならば、コンパクトではありますが遊兵の存在しない機動打撃に重点を置いた部隊体系へ転換することが可能となるでしょう。実際、これ以外の装備はほぼ揃っているのですから、ね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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コメント (1)
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