◆新曲技飛行“クリスマスツリー”登場!
ブルーインパルス飛行展示、前回の第13回につづき今回も特集です。会場の来場者も熱気も最高潮、ブルーインパルスだ。
新田原基地は南九州の基地ですが、もともとこのブルーインパルスは東北松島基地の第4航空団に所属しています。そしてこの年、九州新幹線開通行事への祝賀飛行へ北九州芦屋基地へ展開している最中、松島基地を東日本大震災の津波が襲い、基地は機能喪失に陥ったことは御承知の通り。
しかし、松島基地復旧までの期間を北九州芦屋基地へ一時の拠点とし、全国の航空祭へ全力投球していたのもご存じの通りで、そして松島基地の嵩上げ工事完了を以て三月末、芦屋基地の記念フライトを以て松島基地へ全機帰還となりました。そういういみで、ブルーインパルス帰還も進まない復興の一つのシンボルと言えるのやも。
T-4二機が高速で行き違う瞬間。EOS-7Dの毎秒8枚という連写速度を以てしても、完全に重なることは難しい。ただ、EOS-Kiss-Nの毎秒3枚という連写速度でほぼ重なることもあったので、これは運というべき描写なのか、いや、単に撮影者の技量稚拙というべきか。たぶん、後者の方だろうなあ。
ブルーインパルスは思い切り引いて、そう広角ズームレンズで撮ると地上の様子がともに入る、白レンズの単焦点超望遠レンズとはまた一味違った一枚になるのも確か。ただ、300mmF-2.8単焦点、所謂サンニッパに1.4倍テレコンを装着して撮りたい情景もあるのも、たしかだけれど、ね。
キューピット、超望遠レンズで機影を負っていた御仁が太陽を直視してしまい、目がッ目がッ、と唸っているのを傍らに、ハートの形が大空に完成する。そして上空に描かれたハートの中心部を一機のT-4が射ぬく展示だ。ちょうど太陽の逆光となり、スモークが影として逆にくっきりと存在感を示してくれる。
アクロバット飛行船員の舞台となったブルーインパルスだけれども、今後万一航空自衛隊の広報と予算の事業評価で別の視点が投げかけられた場合、かつて空戦機動の戦技研究班であった出自に鑑み、例えば近接航空支援や航空阻止任務飛行の低空戦技研究部隊へ戻し、併せて飛行展示を継続する、という方式も考えられるのかな、と思ったりもしました。
ブルーインパルスと比較される米空軍のF-16を用いるサンダーバーズ、米海軍のF/A-18Cを用いるブルーエンジェルスが当面の期間、米予算均衡法強制歳出削減措置により展示飛行訓練を出来なくなっている実情を見ますと、戦技研究という側面を強調するかつてのブルーインパルスの方式もあり得るのではないか、と。
特に航空自衛隊は我が国土が海洋を隔てて周辺国との国境としている国情から、先の大戦において敵爆撃機の侵入を許したことにより国土を灰燼に帰した最大の反省を元に航空優勢維持を最大の任務としてきました。しかし、弾道ミサイル脅威の拡大と周辺国空軍戦力の巨大化は策源地攻撃の選択肢を考えなければならない状況に我が国が追い込まれつつあり、新しい戦技が必要となっているのが現状です。
T-4練習機は亜音速機ですので、航空阻止や近接航空支援に必要な機動性を備えており、もちろんT-4を爆装させる、という意味ではなく、F-2やF-4EJ改に活かせる戦技研究へ繋がる可能性をもとに、現状で未知の分野と言って差し支えない戦力投射、特に防空網制圧や地形追随飛行を越えての研究を行う部隊へ、考えられないものでしょうか、ね。
ブルーインパルスの意義、もう一つは友好国への航空関連行事への積極参加を元に、ブルーインパルス外交、といっては言い過ぎですが首脳間交流の成果の一つとして、例えば東南アジアを含む世界を舞台としたブルーインパルスの海外での飛行展示を行うことで、航空自衛隊の技術と能力、能力には展開能力も含めてですが、示して友好関係を深めることも出来るやもしれません。
海外での飛行展示ではブルーインパルスは米空軍創設50周年行事にて北米展開を果たしましたが、支援の輸送機に航続距離の大きいC-2輸送機が完成しつつあり、日本国内での航空祭における展示飛行を介した国内向けの自衛隊への理解増進という任務を越えて、日本国を代表する飛行隊として日本との友好関係を増進させる飛行隊という任務もあっていいのではないでしょうか。
ブルーインパルス外交、少しばかり語彙の限界を感じる表現ではありますが、ブルーインパルスを関連機材込みで海外へ展開させる能力は、防衛力として我が国の友好国が他国からの脅威に曝された場合の頼る友好国として認識させる成果に繋がりますし、飛行能力の高さもこの効果を増進させることが出来るでしょう。
T-4後継機、初飛行から間もなく30年が経つT-4は遠からず後継機の研究が必要となります。特にT-4はグラスコックピットやフライバイワイヤ時代の航空機の要員養成を想定した練習機ではありませんので、将来練習機はこうした配慮も為されるでしょう。導入費用は増大するやもしれませんが、併せてそういった機体での機動飛行展示の意義も大きくなるのでは、と。
我が国ではP-2改造機とT-2CCV研究機の時代からフライバイワイヤ研究を進め、その技術に依拠して飛行ソースコードプログラムを研究してきました。特に空力特性と機体形状が一致しないステルス機の時代に入り、今までのように操縦桿の操作に忠実にフラップを駆動させても望む飛行姿勢へ繋がらない、飛行に向いていない形状となるステルス形状の機体を動かすには、上記研究が不可欠となります。
F-2で培ったフライバイワイヤ技術を元に、我が国はATD-Xへ一歩踏み出そうとし、逆に応用が利かないこの分野を安易に外国技術協力に頼った隣国のステルス機は一応飛べて旋回できる、という範疇を抜け出ることが出来ないため、例えばATD-Xを原型とした練習機をブルーインパルスに採用させた場合、飛行制御のソースコードプログラムという、低バイパス比高出力エンジンに並び困難な技術を克服した、という技術的示威に繋げられるでしょう。
もっとも、技術的抑止力という観点からは、我が国の技術と行政の在り方から、未だにF-4に搭載する半世紀前のJ-79エンジンさえも超えるエンジンを開発することが出来ないのですけれども。ただ、技術開発の成果主義を求める財務当局の在り方が背景とはいえ、これを批判する方にも、即座に技術的に国産戦闘機は可能と叫ぶ方がいるあたり、拙速な評価主義は根底で双方共通しており、この克服は非常に難しいのかもしれませんが。
ブルーインパルス、新演目、クリスマスツリーの編隊が見えてきました。この編隊はこの年から開始されたもので、芦屋基地時代のブルーインパルスの新技術です。そして見ての通り、これは海上正面からでなければ編隊の形がクリスマスツリーの形状とはならないため、会場こそが主役、といえる編隊です。
会場の歓声も最高潮で、ちょうど十二月の航空祭にクリスマスツリーとぴたりの展示、改めてこの日の新田原基地航空祭が快晴に恵まれて良かった、と感激もひとしお。当方はこの会場の熱気を収めるべく、超望遠ズームから広角中望遠ズームへ持ち替えて良かった。
こうしたかたちで、ブルーインパルスは最後の演目を展示完了、官制と共に新田原基地航空祭は全てのプログラムを完了したのでした、お帰りはこちら。と、なるところなのですが、最寄駅へのシャトルバスへは延々と行列が広がり、一方、外来航空機は帰投の準備を開始します。この様子は次回紹介することとしましょう。
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