北大路機関

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自衛隊観艦式2006 護衛艦あぶくま

2006-12-12 15:20:42 | 海上自衛隊 催事

■舞鶴地方隊第24護衛隊

 観艦式に関する記事は、訓練展示編にて一通り終了したが、三年に一度の行事でもある訳で、そう簡単に終わるわけには行かない。いろいろと写真を観ると、写真を基にして、もしくは写真から幾つかの記事が書けそうであるし、お付き合い願いたい。さて、今回は護衛艦“あぶくま”について特集したい。

Photo_212  前回の観艦式の記事よりかなりの時間を隔てて恐縮であるが、北大路機関は240近い記事の内、最新の20をトップに掲載しており、陸海空自衛隊に関する行事と京都観光などの写真記事などがトップに配置されている。

 さて、トップ部分の最後尾にある観艦式に関する前回の掲載では訓練展示を終了後、艦隊は速力を上げ横須賀、横浜、木更津、川崎の港に向かうところで一段落している。

Photo_213  乗艦した“あぶくま”は、観艦式では列の後部に位置していた為、次々と追い抜かれていたが、帰路は向かう港が横浜と遠く、1600時の帰港に間に合わせるべく24ノットの速力で航行、次々に艦艇を抜いていった。同行のShin氏などは「やればできるじゃないか!」と軽口、しかし24ノットはかなり早く、突風が吹く為に前甲板からは見学者退去、後部甲板でも水飛沫飛ぶ迫力だ。

Img_0850  観艦式の展示が終了し、0750時までに横浜港より乗艦した一般見学者は、この時既に1400時をまわり、疲労困憊もあってか虚脱状態に近く、護衛艦“あぶくま”はまさに難民船の様相を呈していたが、貴重な機会とあり、小生一行は至って元気で、艦内を歩き回っていた。

 さて小生一行を観艦式にいざなったこの護衛艦“あぶくま”は、舞鶴地方隊所属の護衛艦であり、三日をかけ関門海峡をまわり日本海から太平洋へ、東京湾に入港している。

Img_0719_2  “あぶくま”は、小型護衛艦を意味するDE229、“あぶくま”型のネームシップで、1989年から1993年にかけ6隻が就役し、現段階で舞鶴地方隊に1隻、大湊地方隊に1隻、佐世保地方隊に3隻が配備されている。基準排水量2000㌧、満載排水量2900㌧、全長109㍍、幅13.4㍍、喫水は3.8㍍、27000馬力をひねり出す二基のガスタービンと二基のディーゼルエンジンは、速力27ノットを出す。乗員は120名で、現段階では海上自衛隊が最後に建造したDEである。

Img_0765  後部甲板から前を望む。“あぶくま”型の武装は、76㍉単装砲1門、アスロック対潜ロケット発射機1基、324㍉短魚雷三連装発射管2基、ハープーン対艦ミサイル四連装発射機2機、20㍉近接防御火器(CIWS)1基を搭載し、後部甲板にはヘリコプターの発着は出来ないものの、ヴァートレップ(ヘリコプターによる物資輸送)用のスペースが配置されている。更に、舞鶴地方隊の艦艇として1999年の日本観不審船侵入事案に出動しているが、この戦訓から12.7㍉機銃二門を艦橋ダビット横に後日装備した。

Img_0734  艦橋部分から上を見上げた。マスト部分には“はつゆき”型や“あさぎり”型護衛艦の初期型に搭載されていた対空レーダーOPS-14が搭載され、その下には76㍉砲を管制する皿型の射撃指揮装置2型22が装備、手前の球状のものは恐らく光学式射撃管制装置と思われる。武装などを見れば、ヘリコプターや対空ミサイルを除き第一線の護衛艦隊用汎用護衛艦に匹敵する装備であるが、CIC(戦闘情報室)や射撃管制装置OYQ-7などでは沿岸警備に当たる地方隊用とあり、要求性能はやや低いものが充てられている。

Img_0737  艦橋部分。浦賀水道は船舶の往来も多く、衝突回避には細心の注意が必要となる。計画としては、艦橋と76㍉単装砲の中間部分に後日装備を計画していたRAM21連装発射機用のスペースがある。赤外線誘導方式の簡易SAM連装発射機であり、多目標同時対処が可能、軽量で超音速対艦ミサイルに対しての防御力も米海軍の試験で確認されているが、このRAMは目下、,装備しようという計画が無い。装備するならば“あすか”あたりで試験を行うこととなろうが、当面の装備計画がないならば、このスペースに用途廃止艦のボフォース対潜ロケットなどを装備してはどうかと考えてしまう。

Img_0742_1  機関室の様子。あぶくまには二つの機関室があり、各機関室は、高速航行用のガスタービンエンジンと巡航用ディーゼルエンジン、減速装置を装備し、二つの煙突が外見上の特色となっている。これは被害を受けた際のダメージコントロールの観点から為されたものである。低いとはいえ、OYQ-7を搭載しDEでは初のシステム艦となり、更に機関室にはダメージコントロールを盛り込んだ設計、加えて船体は7°のV字型船体を採用し、海上自衛隊では初のステルス船体設計を用いており、先進的な部分も多い。

Img_0744  “いすず”型、“ちくご”型、“ゆうばり”“いしかり”型と続いた地方隊用DEであるが、基準排水量1000㌧台の護衛艦では、冬季の波浪が厳しいことで知られる日本海を任務地域にもつ海上自衛隊にあって、2000㌧台の大型化が必要と考えられ、能力発揮を担保させる為にこの大きさとなった。ちなみにこの大きさは、かつてのDD、“やまぐも”型の2050㌧に匹敵し、満載排水量の2900㌧は、諸外国の大型フリゲイトに匹敵する規模を有している。

Img_0851  対潜水艦作戦(ASW)を主柱とする海上自衛隊にあって、写真のアスロックSUM発射機は小型の“ちくご”型護衛艦以来の標準装備であり、10km先の目標上空に短魚雷を投射できるこの装備は潜水艦の天敵ともいえ、更にヘリコプターよりも全天候運用性能がある。対潜装備のもう一つ、ソナーは艦首ではなく船体に装備するハルソナー方式であるが、艦首に近い位置に置かれている為、凌波性能を高くするべく艦首部分は鋭角となっている。

Img_0746  船体の大型化は、航洋性能の他、居住性も充実し、護衛艦としては初めて、幹部自衛官のみならず曹士居住区のベッドも二段ベット(満載で4900㌧の“あさぎり”型でも三段ベットである)が採用されている。特に、“ちくご”型と比較し乗員が45名も減っており、この分一人当たりの居住性は向上していることを意味する。写真は科員食堂で、動揺に備え、見た目よりも重い椅子などが採用されており、聞いたところ、揺れるときは揺れるとの事。

Photo_214  ちなみに、揺れるといえば、“あぶくま”は航行時に艦尾が振れることで有名、といわれた。

 即ち、「全艦、あぶくまに続けッ!」と命令されると、困惑するのだとか。ホントかウソか不明ながら、まあ、外国の艦艇の裏話にもっと凄いのが幾つも聞いた事があるので、それに比べれば事実としてもそんなに問題はあるまい、マクロ的視点からはまっすぐ航行しているのであるから。

Img_0779_1  ちなみに、舞鶴地方隊の第24護衛隊を始めとして、地方隊隷下の護衛隊は全て来年度の計画で護衛艦隊に編入となり、舞鶴地方隊第24護衛隊も護衛艦隊第14護衛隊として改編される見通しである。沿岸警備には、本艦のようなDEの必要性が高いとされるものの、目下海上自衛隊にはDEは9隻となり、写真の“はつゆき”型や“あさぎり”型といった大型のDDが地方隊に配属されるという近年の趨勢から改編が為されたといわれる。

Photo_215  来年度の改編では、タスクフォース体制を採る護衛隊群の三個護衛隊をDDHかDDGを基幹とした更に区分した二個護衛隊に再編する構想のようだが、柔軟性を持たせるべくタイプ編成に移行するべき、と専門誌などでは識者やOBが論述しており、この来年度に行われる改編の有用性に関しては多分に疑問符が付く、何故ならば完全なタスクフォース編成を採れば、一隻でも定期整備や補給となった際に部隊稼働率に深刻な影響が出るからである。

Img_0945  一方、緊縮財政がこのまま続くことは、護衛艦定数そのものの圧迫を意味し、将来的には2000~3000㌧クラスのウェブピアサー型、若しくはモノハル型、ないしSES船型の沿海域戦闘艦への移行が必要となる可能性も出てこよう。

 話が逸れたが、あぶくま型は非常にまとまった艦艇であり、発展性の内包など先進的部分も多い、たった一日ではあったが、見学は過去にも経験はあるものの航海は初めてであり、有意義な時間であった。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

コメント (4)
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