北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

砲焔撮影

2005-11-23 13:25:44 | コラム
 陸上自衛隊の実弾訓練や空砲を用いた訓練展示にあって最も見せ場となるのは発砲の瞬間を撮影した時である。まさに砲口から発砲の際に発射ガスが空気と交じり合った瞬間に明るい焔となるのを砲焔という。
IMG_2460 写真は伊丹駐屯地における訓練展示の際の写真だが、文字通り砲から焔が吹き出ている様子が撮影できている。一見、実弾射撃のようにも思われる写真であるが、使用しているのは空砲だ。
 こうした写真はマスメディアなどでは多く誌面紙面を飾る為一見撮影が容易に思われるが、それは誤りである。この砲焔の撮影を試みた人だけが分る内容かもしれないがこれは極めて困難な技術的ハードルと、何よりも運が必要となる。
IMG_3891 写真は、守山駐屯地における訓練展示の様子を写したもので、先に掲げたFH-70榴弾砲と同じく空砲発射の瞬間を撮影したものであるが、先ほどのような砲焔は写っていない。タイミングを間違えた訳ではない、というのもこの写真は連写で撮影したものであり、10枚以上撮影したうちの一枚である。
IMG_0217 対して、これは今年度富士総合火力演習における写真である。90式戦車の120㍉滑腔砲が実弾を発射する光景を我ながら見事に収めている。
 ここで思い出していただきたいのは、カレンダーや雑誌のグラビアを飾る砲焔の写真は演習場などで撮影されたものであり、イラクで今日続くイラク治安作戦やイスラエル軍の守りの壁作戦といった状況ではマスコミは砲焔の写真を紙面に置く事は殆ど無い。
IMG_0205
 その最大の理由というのは流れ弾や至近弾が想定される実戦的状況下ではどうしても落ち着いて構えて撮影する事が出来ず、結果、撮ろうにも撮れないという状況があるわけだ。
 それもその筈、砲焔は1/1000の間しか満足に姿を現していない為、落ち着いてパチリパチリと連写できない状況では撮影は不可能ということだ。
IMG_0386 それでは如何にすれば砲焔を写す事が出来るのだろうか、様々な機会を得て会場に居るアマチュアカメラマンの方々やカメラを抱えるミリタリーファンの方と話を重ねてきたが、究極的には運ではないか?というのが、結論として固まりつつあった。
 しかし、初詣の伊勢神宮や熱田神宮、伏見稲荷といったところで景気良く五百円玉を賽銭箱に投擲しパンパンッと手を合わせ砲焔撮影成功を願うのでは余りにも芸が無いしナンセンスである。
IMG_1083 ここでいの一番に思うのは、カメラの性能と考える人が多い。秒間5コマ以上を撮影可能なNikon D50やCanonEOS-1DSMarkⅡといった高性能カメラも確かに存在するが、価格は三十万以上し、また連写性能が高くとも連写枚数に限度があるため、中々手が出しにくいのではなかろうか。
 しかし、砲焔を撮影するには連写性能は必要では有り、価格と比較考量すれば価格が十万前後で毎秒2コマの連写が可能なCanon EOS Kiss Digitalあたりに機種が絞られるだろう。
IMG_3880 では、どうするか。
 これに関して素晴らしい助言をしてくださったのが第十通信大隊写真班の方である。砲焔が写せるのは1/1000の確率だという事は既に述べた。したがって、シャッター速度が1/90とか1/125というのでは撮影のチャンスは著しく失われる、という事をアドヴァイスしていただいた。
 つまり、シャッター速度が1/20よりも1/10、1/10よりも1/4秒の方が成功のチャンスは増加するという事だ。毎秒2コマであれば1/4のシャッター速度の場合0.5秒はシャッターが開いており、それだけ写る確率は増加するということである(ただし、富士の90式戦車や装甲車などの機銃は走行間射撃をするものが多い為、注意が必要だが)。
IMG_4100 しかし、こう書かれると、諸兄が第一に想像するのは、果たしてそんなに遅いシャッター速度で手ブレが起きないかという事だ。
 これはもっともな事で、折角の写真もブレてしまうと台無しである。口の悪い人は『感光したんじゃないの?』と言うかもしれない。
 これに関して唯一の解決方法は、三脚を用いる事である。トライポットに載せリモートシャッターで撮影すれば地震か台風並の突風でも吹かない限りまずブレることはない。地面さえブレなければ、車体そのものが多少ブレていても躍動感につながるけれども違和感にはならない、と写真班の方は教えてくれた。結果として、三脚を備えるだけの場所を確保する事が重要となるのだが、航空祭と異なり駐屯地祭では人入りが一万を超える事は稀で、撮影場所の確保は(富士総合火力演習を例外とすれば)不可能ではない。
IMG_0178 さて、最後に誘導弾の撮影である。
 誘導弾の撮影は、訓練展示ではまず発射はしないため、一般公開演習での撮影は富士総合火力演習に限定される。
 ここで重要なのは、発射直後ブースターを用いている段階では撮影は可能だが、ロケットモーターに点火すると、誘導弾は亜音速から超音速で飛翔する為、真後ろからでなければ撮影は不可能となる。従って、発射直後の瞬間を撮影しなければならないという事だ。
 ただ、64式対戦車誘導弾は旧式であり、秒速80㍍という非常にゆっくりとした速度で飛翔する為撮影は容易で、標的に命中する瞬間も望遠レンズさえあれば撮影は可能だ。
IMG_0358
 また、ミサイルではないが92式地雷原処理車のロケットは、比較的飛翔速度が遅い為さまざまな写真が撮影可能である。また、海上自衛隊の護衛艦では、近年装備する艦艇が減少してきているが、観艦式などで発射するボフォース対潜ロケットも飛翔速度が低く、撮影は容易である。
IMG_2447
 では、所持しているデジカメはコンパクトであるため撮影は無理か?という疑問が生じよう。確かにコンパクトデジカメでは性能が限定されるが、悲観する必要は無い。夜景撮影モードかフラッシュOFFモードであればシャッター速度は遅くなっている為、チャンスはあるし、何より一眼デジカメとは異なり動画モードが内臓されているものが多く、画質は落ちるがチャンスはある。
IMG_0367 砲焔は撮影が困難であるが、成功した際には何物にも変え難い喜びがある。
 また、シャッター速度を落としても、少しの“運”は必要である、が、不可能ではない。
 皆さんも、一度挑戦してみられては如何だろうか?

 HARUNA

コメント
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