ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『Mr.ノーバディ』

2022-03-20 00:00:35 | 外国映画

2020年に公開されたイリア・ナイシュラー監督によるアメリカ映画。『ジョン・ウィック』の脚本家デレク・コルスタッドと製作デビッド・リーチが再タッグを組み、人気TVシリーズ『ベター・コール・ソウル』のボブ・オデンカークが主演したハードアクション物です。

配給会社が発信した宣伝用のあらすじは、こんな感じ。↓

「一見ごく普通の中年男が、世の中の理不尽に怒りを爆発させて大暴れし、やがて武装集団やマフィアを相手に激しい戦いを繰り広げる姿を描いた、痛快ハードボイルドアクション!」

あおっ、それなら私の大好物! きっと’90年代にマイケル・ダグラス氏が主演した『フォーリング・ダウン』をもっと派手にしたような映画に違いない! ……って予想してたんだけど、観たら驚いた!

そんな話と全然違うやん!w けど、これはこれでめっぽう面白い!

最近『007』や『マトリックス』の新作を観ても全然ワクワクしなかったもんで、私はもうアクション映画に飽きてしまったのかと思ってたけど、そんな事はなかったです。久々にワクワクしたし手に汗握りました!

以下、ネタバレになります。まだこの作品を観てなくて、私と同じように「ちゃんと面白いアクション映画」に飢えてる方は、とりあえずここで読むのをやめて、観てから続きを読んで頂ければと思います。

上にコピペした粗筋と一体どう違うのか? そこに本作の面白さが集約されてると私は思います。



確かに主人公のハッチ(ボブ・オデンカーク)は一見ごく普通の中年男で、勤め先の工場では過小評価され、家庭では妻(コニー・ニールセン)に距離を置かれて息子からも尊敬されず、単調で冴えない日々を送ってる。

で、そんなある夜、家に男女2人組の強盗が押し入って来て、息子が果敢に男を取り押さえるんだけど、ハッチが女を殴ることを躊躇したせいで逃げられちゃう。

駆けつけた警官には「手を出さなくて正解だったけど、俺なら(家族を守る為に)戦ったね」なんて言われて、ますます居場所が無くなっちゃう。

ところが! まだ幼い娘が大切にしてたキーホルダーが、お金と一緒に無くなってることに気づいた瞬間、ハッチの顔つきが変わります。

「ちょっと、出かけて来る」

なんとハッチは、介護施設で暮らす元軍人の父親(クリストファー・ロイド)から拳銃を借りて、実に手際よく強盗2人組(夫婦)の居場所を捜索し、キーホルダーを取り戻しに行くんですよね。

だけど彼らに産まれたばかりの赤ちゃんがいたもんで、仕方なく退散する。その帰りにバスに乗るんだけど、見るからにタチの悪そうなチンピラたちが後から乗って来ちゃう。

なるほど、ここで我がもの顔でバスを占拠するチンピラどもにブチ切れて銃をぶっ放し、タガが外れて「フォーリング・ダウン」して行くワケだな。よっしゃ、やれ!

……って思うじゃないですか、上の粗筋を事前に読んでれば。けど、違うんですよね! いや確かに、乗客の女の子が襲われそうになった時、ハッチは立ち上がるんだけど、なんだか妙に冷静なんです。

私だって拳銃を持ってれば立ち上がるかも知れないけど、たぶんアドレナリンが出まくって手も足も声も震えるだろうと思います。

だけどハッチは落ち着いてるどころか、なんとわざわざ銃から弾丸を全部抜いて見せちゃう! で、一言。

「お前ら、ブチのめす」



ここまで読んで、皆さんはもう察しがついておられるかも知れません。で、こうも思われたかも? またそれかよ!って。

そう、ハッチはただの冴えない中年男じゃなかった。『Mr. ノーバディ』っていうタイトルは「ヒーローでも何でもない名も無き男」っていう意味かと思いきや、そうじゃなくて「三文字の組織」(つまり諜報機関でしょう) によって存在を無かったことにされた、たぶん元特殊工作員。

「映画秘宝」流に言えば「ナメてた相手が実は殺人マシーンだった」ムービーで、このブログでも『96時間』や『イコライザー』『ジョン・ウィック』等を取り上げて来た、もはや1つのジャンルになっちゃってるお馴染みの設定。

なんだけど、この『Mr.ノーバディ』は一味違うワケです。そうでなきゃレビューしてません。

これまでの「ナメてた相手が実は殺人マシーンだった」ムービーと決定的に違うのは、主人公がそうであることを我々観客に悟らせない工夫がハンパない!っていう点。

まず、リーアム・ニーソン氏やデンゼル・ワシントン氏みたいな大男じゃなく、全然強そうに見えないボブ・オデンカーク氏を主役に据えたこと。

そして何より、先の押し入り強盗のシーンです。ハッチが反撃しなかったのは「相手が女性だから」っていう明確な理由があるもんだから、我々はてっきり彼を優しい人間だと思い込まされちゃう。

けど、後から思えば違うんですよね! 確かに「相手が女性」ってのも理由の1つなんだけど、ハッチはそれ以前に「彼らは素人」だから抵抗さえしなければ「家族に危害が及ぶ心配は無い」って、冷静に判断したからこそ手を出さなかった!

で、赤ちゃんを見てキーホルダー奪還を諦めたのも、優しいからというより、それ以上やると自分が赤ちゃんの両親を殺しちゃうのが分かってたから。

そのあと1人になってアパートの壁を殴りまくるのも、何も出来ない自分が情けなくて自暴自棄になってるように見えるんだけど、実は火が点いちゃってる暴力欲求を抑える為だった!

それもこれも「後から思えば」解ることで、リアルタイムでは気づかない。1つ1つが「ハッチは優し過ぎて戦えない男」だと思い込ませるミスリードになってる。

私なんか事前に件の粗筋を読んでたもんだから見事に騙されましたw 配給会社もそれを狙ってあえて間違った記述をしたんでしょう。

言わば二重構造の作品で、あの『カメラを止めるな!』(憶えてますか?) と似たような仕掛け。だから前情報なしで観た方が絶対面白い。この映画を紹介して下さったキアヌさんもきっと、今頃ほくそ笑んでおられる筈ですw

バスでハッチがチンピラどもをブチのめしてもなお、私は「人間、あそこまで自暴自棄になったら強いよね」ってw、まだ思ってましたから!

だって、この場面でのハッチはまだ、リーアムやデンゼルみたいに圧倒的に強いワケじゃなく、けっこう打撃を食らってるんです。なのに全然ひるまないし、反撃にも躊躇がまったく見えない。

これもその時は「ヤケクソだから」「打たれ強いから」って解釈しちゃうんだけど、後になってハッチには20年間のブランクがあったことが判り「ああ、なるほど」ってなる。まだ半分しか覚醒してなかったワケです。



で、ブチのめして重傷を負わせたチンピラの1人が、実は非常にヤバいロシアン・マフィアのボスの息子で、当然ながらマフィアに命を狙われる羽目になるんだけど、ハッチは全く動じない! ここらでようやく私も気づくワケです。ガッデム、作者に騙されてたよ!ってw

そうして徐々に正体が明かされるにつれハッチは強くなり、アクションの描き方もリアルからファンタジーへと変遷していく。だから飽きが来ない!



老人ホームにいたお父さんも実はノーバディで、親子でドンパチし始めちゃうクライマックスに至っては完全にコミックの世界w だからクリストファー・ロイド氏なんですよね!(言うまでもないけど『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクさんです)



92分という短めの尺もまた素晴らしい!(昨今のアクション映画は2時間超えが当たり前でそもそも長過ぎる!)

もちろんアクションだけでなく、ハッチが奥さんとの絆を取り戻すラブストーリーの側面もあり、だけどお涙頂戴には走らない絶妙なバランス感覚。大いに気に入りました。ハリウッド映画のDVDを久々に買う事になりそうです。

というワケで、セクシーショットは奥さん役のコニー・ニールセンさん。『ワンダーウーマン』シリーズでヒロインのお母さんを演じておられる方です。


 

コメント (4)
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