








今回、柚木麻江(有吉ひとみ)、寺岡理江(真野響子)に続く殿下(小野寺 昭)3番目の恋人=三好恵子(香野百合子)が初登場。
殿下ファンたちの嫉妬によるクレームを避ける為、過去の2人みたいにいきなり恋人として登場させず、ファーストコンタクトから恋愛に進んでいく過程を丁寧に描くというコンセプトで、今回はサブタイトル通り両者の「出逢い」のみが描かれます。
この殿下と恵子の恋は、同じ脚本家(後に小野寺さんが主演する『毎度おさわがせします』も出掛けた畑嶺明さん)による連作となり、#306『ある決意』、#311『ある運命』、#316『ある人生』、#335『ある結末』、そして#414『島刑事よ、永遠に』と続いていきます。
☆第299話『ある出逢い』(1978.4.21.OA/脚本=畑 嶺明&小川 英/監督=竹林 進)
七曲署管内の中学校で、三年生の女子生徒=矢沢美代子が屋上から転落死します。
生徒とのコミュニケーションに人一倍熱心な担任教師である三好恵子が「自殺はあり得ない」と断言し、また美代子の頬に殴られた形跡があること、制服のホックが外れかけていたこと等から、藤堂チームは他殺の疑いが濃厚と見て捜査を開始します。
すると学校の屋上で「優勝記念」という文字が刻まれたボールペンが発見されます。それは恵子のクラスがコーラス大会で優勝した時、生徒たちに配られた物。死んだ美代子のボールペンは遺品の中に含まれており、他のクラスメイトの誰かが立入禁止の屋上に上がった=今回の事件と関わってる可能性が高い。
自分の生徒を信じる気持ちが強い恵子は、ボールペンの持ち主をあぶり出す捜査に最初は反対しますが、殿下の熱意に根負けします。
結果、クラス委員の優等生=遠藤信夫(宮田 真)だけがボールペンを無くしてることが判明。殿下が密かに採取した指紋と照合し、現場にあったペンが彼の物であることも確定します。
何のために信夫は屋上に上がったのか? いくら尋ねても答えない信夫を、殿下とボン(宮内 淳)はさらに追及しようとしますが、恵子に止められます。
普通なら非行に走っても仕方がないような環境に育っていながら、信夫は自分に打ち勝って勉強しているんだと恵子は言います。
「家庭が複雑なだけに、あの子のことは人一倍心配して来ました。でも、腐らずにクラス委員としても立派にやっていますし、みんなの模範と言ってもいいような生徒なんです。あんな子を疑うなんて!」
ところが、そんな恵子の想いを打ち砕くかのように、信夫が言います。
「僕、やりました。矢沢さんを屋上から突き落としました」
「そんな……なにを言うの? あなたみたいな生徒がそんな事する筈ないでしょ?」
「僕はそんな立派な生徒じゃないですよ」
「遠藤くん!」
「ほっといて下さい!」
「!?」
二人のやり取りを聞いていた殿下の脳裏に、ある青年の言葉が甦ります。殿下はかつて逮捕したヒロシという青年に就職先を紹介し、何かと親身になって世話を焼き、すっかり立派に更正させたと思ってたのに、彼はつまらないことで喧嘩騒ぎを起こし、一体どうしたんだと問い詰める殿下に「ほっといてくれ!」と叫んだのでした。
「ボス。遠藤信夫は、殺しとは何の関係も無いのに、あんなことを言ったんじゃないでしょうか」
遠藤家を訪ねた後、殿下はボス(石原裕次郎)に言いました。
「なんて言うか、先生とか親とか、周りの期待があまりに大きすぎて、自分ではどうしょうもなくなって……それで思わず、自分でやったと」
殿下は同じことを信夫にも言いますが、彼は「僕がやった」の一点張り。死んだ美代子が事件当日、チンピラ風の男と一緒にいたという目撃談もあり、そいつが屋上にいたことを信夫が証言すれば事件が解決しそうなのに、信夫は口を閉ざし続けます。
「なぜ隠さなきゃならないんだ? キミだって嘘を言い続けるのはツラいだろう? ここで本当のことを言う勇気を持たなかったら、キミは一生ダメな人間になってしまうよ?」
そこまで言っても口を開かない信夫にブチ切れた殿下は、いよいよ彼を留置所に放り込んでしまい、恵子にこっぴどく叱られます。
「それじゃ私のせいだと仰るんですか? 私に反発して、遠藤くんがあんなことを」
「彼は模範生という鋳型に押し込められるのがたまらなかったんです。あまりに心配したり、何でもしてやろうとするのは、相手を信頼してないことになるんじゃないでしょうか」
「…………」
「僕もそういう失敗をしましてね。もっと相手を信頼して、ありのままの一人の人間として付き合うべきでした」
「いいえ、私はそうは思いません。何でも、どこまでも相談に乗り、力になるのが教師です。いくら心配しても心配のし過ぎということはありません」
譲らない恵子は、子供を留置所なんかに入れてタダじゃ済ませないと脅しますが、殿下は動じません。
「僕のことは構いません。僕は彼を一人前に扱いたいだけです。ここで信夫くんを突き放さなければ、彼は一生ダメな人間になってしまいます」
かくして一夜が明け、信夫は全てを殿下に打ち明けます。死んだ美代子は信夫と同じように優等生で、やはり周囲の期待に押し潰されそうになり、不良グループと付き合うようになった。それで一度だけ犯した万引きをネタにチンピラから金品を要求され、その悩みを信夫にだけ打ち明けたのでした。
信夫はそんな脅しに負けずにきっぱり断れとアドバイスし、その事実は絶対に誰にも言わないことを美代子に約束した。だから彼女がチンピラに屋上へ連れて行かれる現場を目撃しながら、約束を守るために口を閉ざしていた。だけど殿下なら、彼女の秘密を守ってくれると信じて打ち明けたのでした。
お陰で真犯人は逮捕され、信夫は釈放されます。
「三好先生のことだけど……先生は、キミのことを親身になって心配してくれる。それはそれで有難いことじゃないかな?」
「…………」
「どんなことでも自分のことみたいに心を痛めてくれる人なんて、一生のうち何人逢えるかな……そう思うけどな」
殿下にそう言われた信夫は、徹夜で自分を待ってくれた恵子に頭を下げ、明るい笑顔を見せるのでした。そして学校へと向かう彼の後ろ姿を見て、恵子は涙を流します。
「あんなに明るいあの子を見るの、初めてで……嬉しくて」
自分が知らず知らず信夫や美代子を追い詰めてたことを知り、恵子は教師としての自信を無くしていたのでした。
「あなたはいい教師です。少なくとも、僕はそう思ってます」
「……島さんに教えて頂きました。教師として、一番大事なことを」
「完全な教師なんていませんよ。僕だって失敗ばかりしてます。でも、刑事を続けていく中で、僕はその失敗を取り返すつもりです」
「そうします、私も」
人を正しい道へと導いていく点では刑事と教師は近しい職業で、何より学園青春ドラマは岡田チーフプロデューサーの故郷ですw 今回のエピソードはまさに本領発揮と言えましょう。
かくも似た者どうしの殿下と恵子が惹かれ合っていくのは必然で、だから嫉妬に狂ってクレームなんかよこさないでねっていうメッセージを込めたエピソードなのに、やっぱり殿下ファンたちは日テレに抗議の電話をかけまくり、連名の抗議文を送りつけ、カミソリ入りの封書で香野百合子さんを脅迫しまくるのでした。
そのせいで三好恵子は殿下の身代わりで車を爆破され、半身不随の障害を負い、手術を受けるため単身渡米することになり、2年経ってやっと全快して帰国したら、空港まで迎えに来る途中で殿下が事故に巻き込まれ爆死!という、チョー悲惨な人生を送る羽目になります。げに恐ろしや、殿下ファンの呪い!
そんな運命を知った上でこの出逢いのエピソードを観直すと、リアルタイムで観た時には感じなかった切なさがこみ上げ、涙が出そうになります。
ちなみに、最初の恋人である麻江さんは交通事故で亡くなられてます。もう一度言いましょう。げに恐ろしや、殿下ファンの呪い!
あまりに悲惨なので、今後このカップルのストーリーを追うのはやめておきます。気が滅入っちゃいますから。
香野百合子さんは当時26歳。デビュー作が『ウルトラセブン』第37話のマゼラン星人=マヤ役(当時の芸名は吉田ゆり)なのは、そのスジのマニア間じゃ有名な話かと思います。
'73年に俳優座へ入団し、香野百合子に改名されてから時代劇を中心に活躍、'77年にTBSポーラテレビ小説『文子とはつ』で藤真利子さんとダブル主演を果たし、『太陽にほえろ!』への出演はその翌年のこと。
殿下殉職後も#425、#665に登場し、三好恵子のその後(殿下ファンの呪いからようやく解放され、新たな恋人と出逢います)を演じておられます。
ほか、刑事ドラマは『明日の刑事』『大空港』『Gメン'75』等にゲスト出演。2000年代からは活動の場を舞台に限定されてる模様です。