2021年冬シーズン、テレビ朝日系列の土曜深夜「土曜ナイトドラマ」枠でスタートした、橋部敦子さんのオリジナル脚本による30分の連続ドラマ。我が地域では (全国的にも?)『モコミ』→『書けないッ!?』と続けて30分ドラマが放映されてます。
原作の知名度に頼らないオリジナル企画、そして30分枠の連ドラが増えて来たような気がしますが、とても良い傾向だと思います。1話完結だと正味20分は尺が足りないかも知れないけど、連続物だと1時間(正味45分)はちょっと長すぎると、以前からずっと思ってました。
というか、テレビ鑑賞にあまり時間が割けなかったり、歳を重ねるにつれ集中力が保てなかったりで、個人的に30分の方が観易いんですよねw 実際、これまで「30分なら毎週観るのになあ」って思いながら視聴をやめた番組が沢山あります。
アニメ番組は昔からそうだし、30分で充分なんですよホントに! たぶん業界の人達もそれを薄々分かっていながら、1時間枠をやめるにやめられない何か事情があるんでしょう。
それならそれで『俺の話は長い』みたいな2幕構成、『女子高生の無駄使い』みたいな3幕~4幕構成といったやり方もあるし、もっと色んな形があって良いと思います。
そう言えばNHKの正月番組で、これから配信ドラマが盛んになるにつれ定型の時間枠は無くなっていくだろう、みたいな話をしてました。私はパソコンやスマホで映画やドラマを観ようとは思わないけど、旧態依然としたテレビ番組の形が崩れていくのは歓迎したいところです。
さて『モコミ』ですが、私がどハマリした『トクサツガガガ』以来、怒濤の快進撃を続ける小芝風花さんが主人公の萌子美(もこみ)に扮します。
感情を持たない筈の静物や植物の気持ちが読み取れちゃうという、特殊な能力を持ってるため幼い頃から世間に変人扱いされ、誰より理解して欲しい母親(富田靖子)の理解も得られず、他者とのコミュニケーションがすっかり苦手になっちゃった萌子美が、自由人の祖父(橋爪 功)が同居することになったのをキッカケに殻を破り、やがて自立していくまでの成長過程が優しい目線で描かれる、ほっこり温かいドラマになりそうです。
これは決してファンタジーじゃなく、世間のいわゆる「同調圧力」に息苦しさを感じてる普通の人々、つまり私たちへの応援歌だろうと思います。特殊能力はあくまで「みんなと違うこと」のメタファーですよね。
でも実際、植物の声が聞こえちゃう幼い女の子が『探偵!ナイトスクープ』に登場したりしてましたけどねw 無数にあるクローバーの中から瞬時に四つ葉を見つけちゃう不思議な能力だけど、それはたぶん大人になったら無くなっちゃう。もしかしたら萌子美も、自立したら静物や植物の気持ちが解らなくなるのかも?
いや、それだと「みんなと違うこと」を否定することになるから、そうはならないですね、きっと。これも個性の1つなんだと受け入れなきゃ意味がない。
いずれにせよ、これは超能力者の話じゃなくて、私やあなたのストーリー。世間の眼などいっさい気にしない強者は別だけど、そんなヤツはこんなブログ読んだりしないでしょうw
萌子美の父親に田辺誠一、兄に工藤阿須加、初恋の人に加藤清史郎、これから萌子美が勤めることになる花屋さんの店員に水沢エレナ&内藤理沙と、魅力的なキャストが揃ってるし、『書けないッ!?』とセットで是非とも完走したいと思ってます。
2021年冬シーズン、テレビ朝日系列の土曜深夜に新設された30分枠「オシドラサタデー」でスタートした、福田靖さんのオリジナル脚本による連続ドラマ。
売れない脚本家の吉丸圭佑(生田斗真)はここ数年ほとんど執筆依頼を受けておらず、売れっ子小説家の妻=奈美(吉瀬美智子)に代わって家事をこなす日々。
そもそも欲が無い佳佑はそんな生活に満足してたんだけど、ある日突然、ゴールデンタイムの連ドラを全話書いて欲しいという夢のような依頼が舞い込んだもんだから、さあ困った!w
引き受けはしたものの、書けない! アイデアが浮かばない! それでも無理して頑張って書き上げた脚本が、主演スター(岡田将生)のワガママであっさりボツにされてしまう!
いつもノープランで無責任なプロデューサーに北村有起哉、やる気がないアシスタント・プロデューサーに長井短、やる気しかないディレクターに小池徹平、佳佑&奈美の娘=絵里花に山田杏奈が扮するほか、小野武彦、梅沢昌代、野村麻純、濱野謙太etc…といったレギュラーキャスト陣。
なにを隠そう、私の親友の前職が「売れない脚本家」だったもんで、このドラマは「あるある」に溢れてて他人事とは思えませんw
それが「売れない」脚本家だけの「あるある」なのか、売れたとしてもやっぱり「あるある」なのかは、売れた経験が無い彼には分からないそうですw
だけど恐らく福田靖さんの実体験が元ネタになってるでしょうから、今やチョー売れっ子の福田さんでもこんな時代があったんだ!と思えば、今まさに売れっ子脚本家を目指してる方々には心の支えになるんじゃないでしょうか?
ただし、脚本家時代は風呂なしアパートに独りで暮らし、将来への不安と孤独と不摂生で体調を崩しまくってた私の親友から見れば、裕福な生活と美人の奥さんに恵まれてる佳佑くんがいくらストレスで幻覚を見ようが「それくらい何やねん!」って思うだけ。別に売れなくたって充分幸せやん!って。
まぁしかし、そこはやっぱりフィクションだし、売れない脚本家が現実にどんな生活をしてるかなんて、大多数の視聴者は興味ないでしょうから、殊更リアルに描く必要もないと思います。
視聴者が見たいのは脚本家の私生活なんかじゃなくて、連ドラ制作の裏側とテレビ業界の実態ですよね、きっと。その点、経験者である親友の眼から見るかぎり、このドラマは(多少のデフォルメはあるにせよ)相当リアリティーがあるみたいですw
売れてない佳佑に突然ビッグな仕事が舞い込んだのは、本来そのドラマを書く予定だった有名脚本家が降りてしまったから。降りたくなる理由がそのプロジェクトにはあるワケで、しかも撮影開始が間近に迫ってるもんだから時間がない! そんなリスクばかりの仕事を名の売れた脚本家が引き受けるワケないから、ヒマを持て余してる売れない人にお鉢が回って来るワケです。
似たような経験が私の親友にもあったそうですw 元プロレスラーで当時国会議員だった、仮称「ミスターX」が町興し企画の映画を監督(兼 主演)することになり、他のライターさん(どなたかは不明)が脚本を引き受けたものの、途中で放り出して逃げちゃった。
で、当時マイナーな特撮ヒーロー番組の脚本を書いてた親友がピンチヒッターとして雇われるワケだけど、プロデューサーから渡された企画書を読んで、彼は前任者がなぜトンズラしたかを瞬時に悟ることになりますw
そこには監督=ミスターXがその映画でやりたいことが箇条書きで色々書かれてたんだけど、テーマはおろかジャンルもバラバラで支離滅裂、1本のストーリーには到底まとまらない!
そもそも元プロレスラーの国会議員さんなんて、住む世界も生き方も180度ぐらい違いますから、オタク気質の我々とは趣味がまったく合わない! やれヤクザだの元ロックスターだの純愛だの人情だのと、俺にはそんな資質が無いんだよベイビー・ロケンロール!
で、ちょっと強気に出た親友は、ある程度は企画書に沿いながらも、使えないと思ったネタはことごとく排除し、かなり自分の得意分野に寄せたプロット(あらすじ)を書いてプロデューサーに提出。それが面白ければ文句は無いだろうと、ミスターXを甘く見てたワケですw すると……!
「よくぞ上手くまとめてくれた!」って、プロデューサーは褒めてくれたのに、その翌日、夜中の0時近くに親友のケータイが鳴るワケです。えっ、まさか?と思いながら電話に出たら、ドスの効いた低い声が聞こえて来るワケですよ!w
「先生……こりゃ一体どういう事っスか?」
自分の要求を半分近く無視されたミスターXは、完全にお怒りモード。ちなみにこの時点まではプロデューサーが仲介役だったもんで、親友はまだミスターXと対面してません。
「先生……今すぐ議員宿舎に来て下さいよ、タクシーで」
この「先生」っていう呼び方に絶望的な恐怖を覚えた親友はw、20発ほど殴られる覚悟を決めて議員宿舎に向かったそうです。逃げるよりもこの際、よく話し合ってクビにしてもらう方がすっきりラクになれると判断したんですねw
で、宿舎1階の喫茶店で初対面したのが深夜2時ぐらい。ミスターXは仏頂面ではあるものの、逃げずにやって来た私の親友に敬意を払ってくれたそうです。電話でお怒りモードだったのは、たぶん親友がどう出るか試したんでしょう。
そしてミスターXの部屋に招かれた親友は、謎の美女にコーヒーを煎れてもらったりしながらw、朝方までミスターXの注文をみっちり聞かされたそうです。
その注文はやっぱり支離滅裂ではあったけど、直接話を聞いたお陰で親友は2つのことを悟りました。1つは、ミスターXが本気でいい映画を創りたいと思ってること。そしてもう1つは、要するにロックスター版の『ロッキー』をやりたいんだな、ということ。
ちゃんと映画創りに対して情熱があるなら協力したいし、『ロッキー』なら俺だって好きだから何とかなるかも? そう思った親友はいよいよ覚悟を決め、ミスターXの注文を100%取り入れた脚本を書くことにしたそうです。
期限は1週間後。映画のシナリオを書くにはあまりに短かいけど、親友は必死に頑張りました。途中、ミスターXから電話で「先生、主人公の妹を出したいんですけど」とか「先生、自民党の○○議員が出てくれるから、役を作って下さい」とかw、おいちょ待てよ!(先に言えよ!)って言いたくなる注文がバンバン入って来たけど、親友は文句を言わずに全て受け入れ、自分がこれを面白いと感じるかどうかは置いといて、とにかくミスターXがやりたいことを全て盛り込んだストーリーを、なんとか破綻させずにまとめた脚本を書き上げるのでした。
彼はそれまで、アクション映画や特撮ヒーロー物など、幸いにも自分が好きなジャンルの脚本しか書いて来なかったんだけど、このとき初めて、全くそうじゃない脚本を四苦八苦しながら完成させて、ホントに死ぬほど苦しかったけど、やっと自分が本当の「プロの脚本家」になれたような、それまでの仕事とは違う充実感があったと言ってました。
映画は全くヒットしなかったけどw、ミスターXは後から親友に「先生。次、こんな企画があるんスけど」って、ドスの効いた声で電話して来たそうです。残念ながらその企画は流れてしまい、親友は心底ホッとしながらもw、あのミスターXが自分をプロとして認めてくれたんだなって、ちょっと誇らしい気持ちになったそうです。
……長くなってしまいましたm(__)m ドラマ『書けないッ!?』に話を戻すと、第2話で佳佑のライバルとなる若い脚本家が登場し、メインライターの座を奪いかけるんだけど、彼は主演スターの勝手な注文に難色を示すんですよね。「ぼくの世界観とは違う」「そんな話になるなら引き受けなかった」とか言って。
そしたら、北村有起哉さん扮するスチャラカ・プロデューサーが、顔を馬みたいに長くしながら言いました。「これはプロの仕事だから。キミの世界観なんかどーでもいいんだよ」って。
アーティストの立場からすると聞き捨てならない台詞だけど、プロの現場で働いてるクリエイターからすれば、それは実に真っ当な言葉じゃないでしょうか?
勝手な注文にさんざん振り回されてる佳佑は、一見気弱で頼りなく感じるけど、「自分に合わないから」って逃げちゃうヤツよりよっぽど闘ってるんですよね。
だから、彼は必ず最後に勝つと思います。次回から撮影が始まっていよいよシッチャカメッチャカになりそうだけどw、佳佑ならきっと大丈夫。
そんなワケで、私はこのドラマを楽しみにしてます。脚本家とかドラマ制作の裏側に興味がない人はどう感じられるか分からないけど、とにかくリアルなのは確かですから、興味ある方にはオススメしておきます。
セクシーショットは山田杏奈さんです。
2020年11月22日にNHK総合「NHKスペシャル」枠で放映された73分の単発ドラマ。このところNHKさんが力を入れておられる「#こもりびとプロジェクト」の一環で、深刻な社会問題の1つとなった「8050問題」の実態が描かれてます。
皆さんご存じでしょうが「8050問題」とは80代ぐらいの親が50代ぐらいの子供を養う、つまり中高年の「ひきこもり」がどんどん増えてる実態と、その親が亡くなった後も社会に出られずに餓死したり自殺しちゃう人もたくさんいる現実を指してます。
このドラマでは、松山ケンイチくん扮する40歳の「こもりびと」をずっと理解できず、理解しようともして来なかった父親の武田鉄矢さんが、ガンを患って余命宣告を受けてしまい、自分が死ぬ前になんとか息子を自立させようと奮闘する姿が描かれました。
この問題にはとても興味があります。私自身、もう10年以上前になりますが、ひきこもりをテーマにした映画の脚本を書いたことがあり、その為にいろいろ取材してみたら、ひきこもってる人たちと自分との違いがほとんど無いことに気づかされました。
むしろ、私なんかよりずっと真面目で、仕事を一生懸命やるタイプの人がひきこもりになり易かったりする。今回の松山ケンイチくんもそういう人物として描かれてます。
私はたぶん、彼らより少し不真面目で、彼らほど一生懸命に仕事しないから、ひきこもらずに済んでるのかも知れません。
武田鉄矢さん扮する父親は元教師で、教育熱心であるがゆえにケンイチくんを追い詰めてしまった。人は努力さえすれば何でも出来る、出来ないヤツは努力しない怠け者なんだ、ダメ人間なんだっていう価値観を悪気なく植え付けてしまった。
私の父親も教師だったけど、良く言えば放任主義、悪く言えば無関心で、そういうプレッシャーはほとんどかけて来ませんでした。私がひきこもらずに済んだのはそのお陰かも知れません。
いや、私がこれまでの人生で最も落ち込んでた20代後半の頃、もし実家にいたら「こもりびと」になってた可能性は充分にあります。その時は独り暮らしで、実家に戻る気はさらさら無かったもんだから選択肢が死ぬか働くかの2つしか無く、実は死ぬ気満々だったけど結局そんな勇気もなく、嫌々ながらまた社会に戻ったといういきさつがありました。ひきこもるか否かは、その時の状況にもよるワケです。
あの頃、何故そんなに落ち込んでたかと言えば、理想の自分と現実の自分とのギャップですよね。自分はもっと仕事が出来る人間だと思ってたのに、もっと人とうまく付き合えると思ってたのに、恋人もそのうち出来るだろうと思ってたのに、ことごとくそうじゃなかった。ドラマでケンイチくんがSNS上で「カチナシオ」と名乗ってたけど、私も自分のことを「生きる価値なし」とその頃は思ってました。
なのに今も生きてて、いちおう社会人でいられてるのは、どこかで「ああ、俺はこんなもんなんだ」「だからこの程度しか出来なくて当たり前だし、仕方がない」って、開き直ることが出来たからだろうと思います。
明石家さんまさんが「俺は何があっても落ち込まない。そんな立派な人間じゃないと諦めてるから」みたいなことを仰ったらしいけど、多分それと同じ心理です。
あんな「自分大好き人間」が自分を諦めてるの?って、矛盾を感じる方もおられるでしょうが、ダメな自分も全面的に受け入れた結果「自分大好き」になってるワケだから、実はちっとも矛盾してない。
私はさんまさんほど自分好きにはなれないけどw、今は別に嫌いでもない。あの頃は本当に自分を嫌ってました。たぶん「こもりびと」たちは皆、そういう状態から脱け出せないんだろうと思います。
ドラマでは、そうしてケンイチくんがずっと苦しんでることを知った鉄矢さんが、自分の死を目前にして、もう無理しないでいいから、そのままでいいから「とにかく生きてくれ!」と言い遺し、それを受けてケンイチくんが小さな第一歩を踏み出し……そうだけど時間はまだまだかかるだろうっていうw、そんな結末でした。
簡単に変われるようなもんじゃないにせよ、ケンイチくんに多大な影響を与えて来た鉄矢さんが「そのままでいい」って言ってくれたのは物凄く大きいと思います。ケンイチくんはきっと、少なくとも今までよりは生き易くなるでしょう。
だけど「こもりびと」が50代とか60代になると、たとえ一歩を踏み出す気になっても自力で社会復帰するのは難しい。そういう場合は支援団体を頼る道があるんだけど、こもりびとは「自分にそんな資格はない」って思いがちだから、親が亡くなったあと誰にも頼らず孤独死しちゃうケースが多いんだそうです。なかなか開き直れないんですよね。
世の中、人に迷惑をかけるヤツ、自分がトクするために人を陥れるヤツ、暴力や圧力で人を屈服させようとするヤツ等、クズ人間は無数にいますよ。そんなヤツらにだって生きる権利が与えられてるんだから、こもりびとがそんな遠慮する必要ないんです。頼れるもんはどんどん頼ればいい。
どうせこんな世の中です。人間なんてこんなもんです。それでも生きなさいって言うんだから、堂々と生きてればいいんじゃないでしょうか?
劇中、就職活動でさんざんパワハラやセクハラを受けたケンイチくんの姪っ子(北 香那)が言いました。「こんな社会でフツーに働いていられる人たちの方が、よっぽど異常かも?」って。ホントそうかも知れません。
というワケでポートレートは北香那さん。2009年から活動されてる若きベテラン女優です。
これも最近になって日本映画専門チャンネルで初めて観ました。大林宣彦 監督! 早坂暁 脚本! 沢田研二 主演! こんな作品があったとは!
フジテレビ&テレパックの制作で、大林監督としては珍しいビデオ撮りの作品。1983年9月に放映された単発2時間スペシャルです。
'83年と言えば角川映画『時をかける少女』が公開された年で、大林監督が乗りに乗っておられた頃。沢田研二さん=ジュリーもまだバリバリのトップアイドルだったし、早坂暁さんも昭和を代表する名脚本家のお1人。ヒロインは大竹しのぶさんに小川真由美さん。さらに風吹ジュンさん、泉谷しげるさん、ハリウッドスターのトロイ・ドナヒューさん、刑事ドラマでお馴染みウイリー・ドーシーさんもご登場という豪華布陣。
しかし内容は超シリアスで、舞台は終戦から僅か1ヶ月後の広島。日系アメリカ人で軍人でもあるジュリーが、行方不明の姉を探して広島を訪れ、被爆者の大竹さんと出逢って恋に落ちる。
だけど大竹さんも見つかった姉も放射能に冒されており、原爆を落とした側の立場にいるジュリーは苦悩した末、軍を裏切って大竹さんと駆け落ちし、射殺されちゃうという反戦メロドラマ。
晩年は戦争をテーマに映画を撮られることの多かった、実に大林監督らしい企画……かと思いきや、すでに内容もキャスティングもほぼ決まった段階でオファーを受けた、言わば雇われ仕事だったみたいで、与えられた脚本をほぼ忠実に映像化されたんだそうです。
それでも、何も知らずに数分観ただけで「あ、これ大林さんだ」って判っちゃう独自の世界観は健在。特に、焼け野原となった広島の町をマットペインティング(絵画)との合成で見せちゃう力業は、大林監督にしか出来ないマジックかと思います。
キャストにはいわゆる大林組の面々が見当たらず、後に常連となられる泉谷さんや『漂流教室』に出演されるドナヒューさんも今回が初登板。しかもビデオ撮りでスタッフの顔ぶれも違う、完全アウェイな環境に放り込まれても一切ブレない作家性。
それは大林監督が頑固だからじゃなくて、逆に何でも受け入れて面白がっちゃう柔軟性があればこそ。当時の町をセットで再現する予算が無いなら、いっそ絵に描いちゃえ!っていうフットワークの軽さですよね。もちろんCGなんか存在しない時代です。
第2ヒロインの小川真由美さんは、打ち合わせで衣裳は和服で通すと決めたにも関わらず、勝手に変更していきなり洋装で撮影現場に現れちゃうワガママぶりで、黒澤明監督なら即クビにしそうなもんだけど、大林さんは面白がっちゃうんですよねw むしろその傲慢さが役柄に合ってるからって歓迎しちゃう。
一方、主役のジュリーは、そんな大林監督に全幅の信頼を置き、とても誠実に日系アメリカ人を演じておられます。唯一、ステージに上がって唄う場面だけは衣裳への強いこだわりを見せたけど、それ以外は「素材」に徹して大林カラーに染まることを喜んでおられたみたいです。トップ中のトップに君臨するスターでありながら、なかなか出来ることじゃないですよね。
戦争については観る人それぞれがそれぞれのスタンスで考えるとして、本作でしか観られない大林宣彦X沢田研二の組み合わせによる華麗なる映像マジックと歌声、若き大竹しのぶの切ないメロドラマに酔いしれるべし。今となっては本当に貴重な作品です。
2020年夏、日本テレビ系列の日曜夜10時半「日曜ドラマ」枠でスタートした、福田雄一演出による学園コメディードラマ。
娘が大好きすぎて、悪い男に騙されるのが心配で一緒の大学に入学しちゃった父親=ガタロウにムロツヨシ、大事に育てられすぎて世間を知らない箱入り娘=さくらに永野芽郁、亡くなった母親=幸子に新垣結衣、親友=寛子に今田美桜が扮するほか、小野花梨、中川大志、戸塚純貴、谷口翔太、野間口徹、濱田めぐみetc…といったキャスト陣が脇を固めてます。
演出の福田雄一さんは『勇者ヨシヒコ』シリーズや『コドモ警察』『スーパーサラリーマン左江内氏』『今日から俺は!!』等のユルユルコメディーで知られる方なので、内容は推して知るべしw 好き嫌いが岐れるでしょうが、私は好きです。
ただ1つ、ムロツヨシさんが主役のドラマを私は1時間も観てられるんだろうか?(別に嫌いじゃないけど積極的に観たい役者さんでもない)っていうのが気がかりだったけど、ガタロウのキャラクターがとても魅力的に描かれてるので大丈夫でした。役者さんが輝けるか否かはやっぱり、スーパースターでない限り役柄次第ですよね。
その魅力が集約されてるのが、以下のセリフ。まさにガタロウが心配してた通り悪い連中に騙され、あやうくレイプされそうになったさくらを、腕力じゃなく落語研究会(さくらと一緒に入部)ならではの猿芝居で救った太郎が、スマホのGPSでその居場所を突き止めたと聞いて、仲間たちがドン引きしちゃう。
初めて共学の学校に入って、初めて自分が世間と著しくズレてることに気づいて来たさくらが「お父さん、やっぱりウチ普通じゃないって!」と抗議するんだけど、ガタロウは全く動じずにこう言いました。
「あのな、さくら。よそはよそ、うちはうち。お父さんは、さくらが大大大大大大好きなんだぞ!? 普通じゃない? 上等だよ! そのお陰でこうやって、大事な娘を守れた。だったら俺は、全っ然普通じゃなくていい! 普通なんてクソ食らえだっ!!」
その意見に私は全面的に賛成だし、それを堂々と貫いてるからこそガタロウが魅力的に感じるんだと気づかされました。たとえ演じてるのがムロツヨシさんであろうともw
もちろん、それ以上に永野芽郁さんや今田美桜さんが魅力的であることが大前提なので、ムロさんはじめ男優陣はくれぐれも勘違いなさらず、調子に乗らないようお願いしますw
男優陣が調子に乗りさえしなければ、どうやら毎週楽しみに出来そうな作品です。今季はコメディーが豊作かも?