1976年秋、老若男女に愛されたテキサス(勝野 洋)が壮絶な殉職を遂げ、その後釜として配属された刑事は彼とまったく正反対の男でした。『太陽にほえろ!』5年目のシーズン(#217~#255)における藤堂チーム=七曲署捜査第一係のメンバーは、以下の通り。
☆☆☆☆☆
ボ ス=藤堂俊介(石原裕次郎)
スコッチ=滝 隆一(沖 雅也)
ボ ン=田口 良(宮内 淳)
ゴリさん=石塚 誠(竜 雷太)
殿 下=島 公之(小野寺 昭)
長さん=野崎太郎(下川辰平)
アッコ=矢島明子(木村理恵)
山さん=山村精一(露口 茂)
☆☆☆☆☆
視聴率レースのトップを走る「国民的」人気番組となった『太陽~』は、社会的影響を考慮して内容をより健全化せざるを得ず、それを象徴するのがテキサスという爽やか一直線の優等生キャラでした。
また4年間も苦楽を共にして来たレギュラー俳優陣のチームワークも鉄壁で、七曲署捜査第一係室はもはや職場というよりお茶の間の様相を呈してました。
それは観てて心地好いもんだけど、ドラマとしては刺激が足らず面白くない。いずれ視聴者に飽きられてしまうだろうと危惧した制作陣は、ここで一匹狼のスコッチという爆弾を投入するワケです。
藤堂チームが推奨する「愛と信頼」を真っ向から否定し、テキサスが死んだのは「あんた達のせいだ」とまで言ってのけたスコッチは、みごとに波乱を巻き起こして番組を活性化させ、マンネリから救ってくれました。
その役になり切った沖雅也さんの演技もパーフェクトで、なおかつ誰よりも美しい容姿とシャープなアクションで番組のクオリティーそのものを数段アップさせ、これまで「子供だましの刑事ドラマ」とバカにしてたインテリ層をも唸らせてくれました。
まさに『太陽にほえろ!』絶頂期の到来。やんちゃ坊主のマカロニ、ワイルド系のジーパン、模範生のテキサス、現代っ子のボン、そして一匹狼のスコッチと、実に見事な新陳代謝の軌跡。
ちょっと冷めた言い方をすれば、これで使える手は全て使い切っちゃった。後から出てくる新人刑事たちは、前述の5人いずれかのバリエーションに過ぎず、スコッチ登場時のインパクトを超えることは最後までありませんでした。違う意味でマイコン(石原良純)だけは衝撃的だけどw
すでに売れっ子だった沖さんは最初から半年限定の出演契約で、スコッチが過去のトラウマを克服して本来の優しさを取り戻していく再生のドラマを演じきり、#244をもって転勤という形で降板。
それから後任のロッキー(木之元 亮)が登場する#256まで約3ヶ月のブランクがあり、ボンが1人で新人刑事枠を担う唯一のクールとなりました。
若者たちのカリスマだったマカロニやジーパンとはまた違う、お茶の間からの支持で絶大な人気を集めたテキサスは殉職がひとまず回避され、もう1年活躍することになりました。
『太陽にほえろ!』4年目のシーズン(#168~#216)における藤堂チーム=七曲署捜査第一係のメンバーは、以下の通り。
☆☆☆☆☆
ボ ス=藤堂俊介(石原裕次郎)
テキサス=三上 順(勝野 洋)
ボ ン=田口 良(宮内 淳)
ゴリさん=石塚 誠(竜 雷太)
殿 下=島 公之(小野寺 昭)
長さん=野崎太郎(下川辰平)
アッコ=矢島明子(木村理恵)
山さん=山村精一(露口 茂)
☆☆☆☆☆
まずは「剛」のテキサスとの組み合わせから生まれた「柔」のキャラクター、ボンが城南署より転入。1年目は頼りなさばかりが強調され、あくまで「テキサスの引き立て役」でしかなかったボンも、4年という長い任期の中で成長を遂げ、番組の絶頂期を支える存在にまでなっていきます。
そして#173から登場する、3代目マスコットガールのアッコ。岡田晋吉プロデューサーの回顧によると、大竹しのぶさんか木村理恵さんかの二者択一で、悩んだ末に木村さんを選んだとのこと。理由は、大竹さんより美人だからw
当時はまだ大竹さんも無名の新人でしたから、もし選ばれたら喜んで引き受けたでしょうけど、アッコみたいに長く(3年間)勤めることは無かっただろうと思います。なにせ天才女優ですからマスコットガールに収まる器じゃない。
そう書くと木村理恵さんに対して失礼になっちゃうけど、これは女優としての力量よりも向き不向きの問題。木村さん以外にあのポジションを完璧にこなせる女優さんは、なかなかいなかった筈です。
かくして、ムードメーカーのボンと可憐なアッコが加わったお陰で、藤堂チームはぐっと明るく華やかになりました。本当に良かった!
いくらドラマとして良く出来てても、やっぱり華が無いと私は観る気になれません。まだ子供だった当時は別のところ(単純にカッコ良さやアクションの迫力)に惹かれてたように思うけど、今となってはオッサン6人だけの捜査一係は、ちょっとキツイですw
ジーパン(松田優作)が殉職し、シンコ(関根恵子)が退職して3代目新人刑事を迎えることになった藤堂チーム=七曲署捜査第一係3年目(#112~#167)のメンバーは、以下の通り。
☆☆☆☆☆
ボス=藤堂俊介(石原裕次郎)
テキサス=三上 順(勝野 洋)
ゴリさん=石塚 誠(竜 雷太)
殿 下=島 公之(小野寺 昭)
長さん=野崎太郎(下川辰平)
チャコ=長山久子(浅野ゆう子)
山さん=山村精一(露口 茂)
☆☆☆☆☆
正確には、チャコ=浅野ゆう子さんは#118~#130、僅か1クールのみのご出演。#115あたりまでは前任のクミ=青木英美さんが残っておられました。
青木さんはモデルの仕事に本腰を入れるべく、テキサスの登場を見届けてフランスへと旅立たれました。制作側は引き留めたかったのに、裕次郎さんが「行っちゃえ」ってけしかけたんだそうですw
で、ピンチヒッター的に急遽キャスティングされ、あっという間に姿を消すことになるのが、当時アイドル歌手としてデビューされたばかりの浅野ゆう子さん。
まだ14歳という若さで「そんな子供が警察署で働くのはおかしい」とのクレームにより……っていう降板理由はもちろん建前で、実際は女性視聴者たちから凄まじいバッシングを食らい、その攻撃から彼女を守る為やむなく降りて頂いた、っていうのが真相らしいです。
長身で衣裳も基本ミニスカートで、華やかすぎるチャコは確かに目立ってました。刑事たちの後方で机を拭いてるだけでも眼を引いちゃう。それに加え、あの若さでベテラン刑事相手にタメグチですからw、反感を買うのも無理なかったかも知れません。
そんなワケで#131以降、ボン(宮内 淳)そしてアッコ(木村理恵)が加入する'75年秋までの3クール、七曲署捜査一係はオッサンばかり6人という、何ともむさ苦しい職場になっちゃいました。
しかも新登場したテキサス刑事=勝野洋さんは、前任の優作さんやショーケンさんと比べてお世話にもカリスマ性があるとは言えず、これは番組史上最も地味なメンバー構成と言わざるを得ません。
だから視聴率は下がっていくのかと思いきや、これが意外にも逆でした。ジーパン期に先輩刑事たちをフィーチャーしておいたお陰でそれぞれにファンが付き、最初は華も実力も無かった勝野さんがみるみる成長していく姿もまた共感を呼び、数字は下がるどころか右肩上がりに上昇。いよいよ『太陽にほえろ!』というタイトルがブランド化し、TVドラマ界を牽引する「国民的人気番組」あるいは「お化け番組」とも呼ばれるようになりました。
そしてボスはますます超人化し、山さんには刑事コロンボが憑依し、ゴリさん、長さん、殿下のキャラクターも掘り下げられ、脚本家チームの充実もあって名作が次々と生まれて行きます。
柔道の段を持つテキサスの豪快アクションも大きな見所で、マカロニやジーパンとは異なる従順なキャラクターと相まって、番組に体育会系の匂いがプンプンするようにもなりましたw これぞまさに「ワンチーム」!
そう、テキサス時代は『太陽~』の歴史上、最も熱くて、最も暑苦しかったシーズンw だからこそ大衆のハートを掴んだワケだけど、私はちょっと苦手かも知れませんw
マカロニ(萩原健一)の衝撃的な「殉職」を経てスタートした『太陽にほえろ!』2年目のシーズン(#053~#111)における藤堂チーム=七曲署捜査第一係のメンバーは、以下の通り。
☆☆☆☆☆
ボス=藤堂俊介(石原裕次郎)
ジーパン=柴田 純(松田優作)
シンコ=内田伸子(関根恵子/高橋惠子)
ゴリさん=石塚 誠(竜 雷太)
殿 下=島 公之(小野寺 昭)
長さん=野崎太郎(下川辰平)
ク ミ=永井久美(青木英美)
山さん=山村精一(露口 茂)
☆☆☆☆☆
基本は「萩原健一ショー」だった1年目のスタイルを引き継ぎ、当時はまだ無名の新人だった松田優作さんを大々的にフィーチャーしつつ、その実力や人気の不足をカバーすべく先輩刑事たちの活躍も同等に描くようになり、集団刑事ドラマ『太陽にほえろ!』のフォーマットがこのシーズンで確立されていきます。
だけど皆さんご存知のとおり、先輩たちがカバーするまでもなく優作さんはこのジーパン刑事役で大ブレイク、昭和のカリスマを代表するスターに化けていきます。
当初は日陰の存在だった殿下=小野寺昭さん等も女性人気を集めるようになったけど、世間の話題はもっぱら「ジーパン刑事」に集中、この2年目はやはり「松田優作ショー」のシーズンだったと言えましょう。ここで視聴率がいよいよ30%を超え、番組そのものも不動の人気を誇るようになりました。まさに飛躍の年。
そして番組後期まで度々登場されるセミレギュラーのお二人、ジーパンのお母さん=柴田たき(菅井きん)と七曲署2代目署長=西山警視(平田昭彦)の登場も大きなトピック。
事なかれ主義の鼻持ちならないエリート、っていうのが歴代署長の基本キャラなんだけど、署長室でふんぞり返ってたイメージしかない先代(南原宏治)と違って、西山警視は事あるごとに「これは一体どういう事だね藤堂くん!」ってw、一係室までマメに足を運んではガミガミ言う、ある意味熱心な署長でした。悪役顔だった先代よりもハンサムだしw、なにげにマダムたちの人気者だったかも知れません。
そして何より、ジーパン刑事と同時に登場したマスコットガール第1号=庶務係のクミちゃんこと永井久美(青木英美)の存在は大きかった。
映画出演で忙しく欠場が増えた関根恵子さんの穴埋め、っていうのが本来の役割だったと思うんだけど、生真面目なシンコとは対照的な天真爛漫キャラで刑事部屋のムードメーカーとなり、番組を明るくしてくれたクミちゃんの功績は大きいと思います。
シンコが出場する回は女性キャラが2人で、そりゃもう眩しいくらいに華やかでした。後年、マミー刑事(長谷直美)登場後はマスコットガールの枠が廃止されちゃうんだけど、個人的には女性2人体制を復活させて欲しかった。シンコとクミちゃんみたいにキャラが違えば、役割が被ることも無いんだから。
そういう意味でも2年目の『太陽にほえろ!』は特に輝いてます。まさに黄金期!
さて、『太陽にほえろ!』レビューもようやく折り返し地点が近づいて来たところで、藤堂チーム=七曲署捜査第一係の歴史をざっと振り返りたいと思います。
その目的は、捨てるに捨てられない未使用ショットの数々を処分することw 要するにボツ画像集です。
奇しくも本日(2020.3.18)は『太陽にほえろ!伝説/増補決定版』以来、実に17年ぶりのリリースとなる『太陽にほえろ!』公式本=『ショーケンと優作、そして裕次郎/太陽にほえろ!レジェンドの素顔』(KADOKAWA) の発売日。ですが通販サイトから発送通知が来るまで私は忘れてましたから、これは全くの偶然。不思議な縁を勝手に感じてます。
そんなワケで、まずは1972年7月から翌年7月まで(#001~#052)の最初期メンバー。
☆☆☆☆☆
ボス=藤堂俊介(石原裕次郎)
マカロニ=早見 淳(萩原健一)
シンコ=内田伸子(関根恵子/高橋惠子)
ゴリさん=石塚 誠(竜 雷太)
殿 下=島 公之(小野寺 昭)
長さん=野崎太郎(下川辰平)
山さん=山村精一(露口 茂)
☆☆☆☆☆
正確にはシンコが捜査一係に配属されるのは'73年の4月、第38話から。それまでは少年係の婦警でしたが、なぜかいつも一係室に入り浸ってましたw
そのシンコを「女性の社会進出アピール」を理由に捜査一係に推薦したのが、七曲署の初代署長(南原宏治)。
ほか、シンコの父親で藤堂チームいきつけの飲み屋「宗吉」を経営する元ボスの同僚刑事=内田宗吉(ハナ肇)、マカロニの下宿先のおばちゃん=武田ウタ(賀原夏子)、雑誌「タイムス」記者の優子(山東昭子)、東西新聞の記者(片岡五郎)等がセミレギュラーとして絡んで来ます。
また、名物ゲストとして長期に渡り藤堂チームと絡むことになる、麻薬Gメンの村岡房江(浜 美枝)、城北署刑事の鮫島勘五郎(藤岡琢也)もこの1年目に登場してます。
一係のメンバー個々についてはもう語り尽くした感があり、あらためて記すべきことは無いんだけど(とにかく山さんが別人ですw)、この当時の映像を観直すたびに思うのが、「それにしても暑そうだな」あるいは「寒そうだな」ってことw
当時は撮影スタジオ(国際放映)に冷暖房設備が無かったもんで、夏場は扇風機が回りっぱなしでも刑事たちは汗を拭ってるし、冬場は室内でも吐く息が白い!
エアコンがあって当たり前の現在から見れば異様な光景に思えるけど、当時はそれが当たり前。黒電話や木製のデスク&イス、車やファッション、メイク等にも時代を感じるけど、何よりこの実にハッキリした季節感が「昭和」を象徴してますよね。あと、シンコ以外は全員、四六時中タバコを吸ってることもw
1年目の『太陽~』を総括すると、これはもう「萩原健一ショー」ってことに尽きると思います。裕次郎さんの存在も無論大きいけど、番組のスタイルとイメージを決定づけたのが「ショーケンのワガママ」の数々であることは、過去のレビュー記事にも繰り返し書いてきた通り。
そして唯一無二、空前絶後のあの演技! いろんな俳優たちが影響を受けながら誰も再現できなかった、あの時代のショーケンさんの演技を一度も観たことが無い方がもしおられるなら、何を置いても是非、今すぐ観て頂きたいです。そして「こんな演技があり得るのか!?」と驚き、圧倒されて欲しいです。その新鮮さは現在でも全く色褪せてません。