ささやかな幸せ

SUPER EIGHT、本、美術鑑賞、俳句、お茶が好き!
毎日小さな幸せを見つけて暮らしたい。

『マジカルグランマ』『三つ編み』

2019-12-06 22:49:40 | 
『マジカルグランマ』 柚木麻子 朝日新聞出版
 若い頃に女優になったが結婚してすぐに引退し、主婦となった正子。映画監督である夫とは同じ敷地内の別々の場所で暮らし、もう五年ほど口を利いていない。ところが、75歳を目前に先輩女優の勧めでシニア俳優として再デビューを果たすことに!大手携帯電話会社のCM出演も決まり、「日本のおばあちゃんの顔」となるのだった。しかし、夫の突然の死によって仮面夫婦であることが世間にバレ、一気に国民は正子に背を向ける。
さらに夫には二千万の借金があり、家を売ろうにも解体には一千万の費用がかかと判明する。亡き夫に憧れ、家に転がり込んできた映画監督志望の杏奈、パートをしながら二歳の真実ちゃんを育てる明美さん、亡くなった妻を想いながらゴミ屋敷に暮らす近所の野口さん、彼氏と住んでいることが分かった一人息子の孝宏。様々な事情を抱えた仲間と共に、メルカリで家の不用品を売り、自宅をお化け屋敷のテーマパークにすることを考えつくが――
 おばあちゃんが晩年の波瀾万丈の人生を驚異的に生き抜いていくから、魔法使いのようなおばあちゃん「マジカルグランマ」だと思っていたら、違った。「マジカルニグロ」(ハリウッド映画などで白人を救済するためだけに存在する、魔法使いのようになんでもできる白人に献身的な黒人)からきた、ステレオタイプのやさしく面倒見のいい理想のおばあちゃんだったのだ。外から属性を決められ、はみ出したら一斉に制裁を受ける。「マジカルニグロ」が白人に優しく忠実なのは、そうしなければ存在を許されないからなのだ。
 ステレオタイプと戦う正子は、痛快。そしてなによりも「マジカル」は、自分の属性を助けないが、正子は自分の属性であるシニアを助けるのだ。「たくさんの側面を持つことができたら、一つが破綻しても、絶望することはない」という言葉は、まさに金言。
 最後の杏奈の「どこかで、おばあさんは、女というものは、自分を後回しにして、他人のために尽くすべきだとかんがえてはいないでしょうか?誰かの犠牲や献身で生まれた幸せはある日突然、終わってしまうことに、もうみんな気付きはじめているのに」が「マジカル」の答えになるだろう。自分の幸せを追求して何が悪いのか。ステレオタイプの「マジカルグランマ」は、驚異的な「マジカルグランマ」になった。

『三つ編み』 レティシア・コロンバニ 齋藤可津子訳 早川書房
 3つの大陸、3人の女性、3通りの人生。唯一重なるのは、自分の意志を貫く勇気。インド。不可触民のスミタは、娘を学校に通わせ、悲惨な生活から抜け出せるよう力を尽くしたが、その願いは断ち切られる。イタリア。家族経営の毛髪加工会社で働くジュリアは父の事故を機に、倒産寸前の会社をまかされる。お金持ちとの望まぬ結婚が解決策だと母は言うが…。カナダ。シングルマザーの弁護士サラは女性初のトップの座を目前にして、癌の告知を受ける。それを知った同僚たちの態度は様変わりし…。3人が運命と闘うことを選んだとき、美しい髪をたどってつながるはずのない物語が交差する。
 インドのスミタの話は強烈だ。夫や兄弟の罪を償うために女性が強姦される世界って・・・。
 最後に三つの話が三つ編みのように一つにまとまる構成はすばらしい。そして、その三つの話の間にはさまれる詩のようなもの。「なんじゃこりゃ」と思っていたが、最後にその意味がわかったとき、深い味わいが生まれた。
 よかった。未来に向かって進む彼女たちの姿に勇気をもらった。
コメント
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