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その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

メタエンジニアの眼シリーズ(190)民主主義からの逃走

2021年10月16日 07時20分35秒 | メタエンジニアの眼
メタエンジニアの眼シリーズ(190)
TITLE: 民主主義からの逃走
書籍名;「民主主義の未来、優位性後退、崩壊の瀬戸際に」[2021]
著者;成田悠輔  発行所;読売新聞 発行日;2021.9.30
初回作成日;2021.10.15 最終改定日; 
このシリーズは文化の文明化プロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分です。

 このミニ論文は、読売新聞朝刊の「Analysis」という欄の「民主主義の未来」の「上」として掲載された。
エール大学の研究室で纏められた世界各国のデータを集めた二つの表(散布図)が元になっている。第1は「100万人あたりのコロナの死者数」で、第2は「2001~2019年の平均経済成長率」で、いずれも横軸は「民主主義指数」になっている。
 
 ここでの「民主主義指数」とは、スウエーデンのV-Dem研究所によるもので、民主主義の多様性(Varies of Democracy)を意味している。民主主義を5つの原則(選挙、自由、参加、熟議、平等)で区別し、これらの原則を測定するためのデータを収集して、毎年発表している。特徴は、ゼロを起点としてプラスとマイナスに分かれるので、他の民主主義指数と比べて分かり易い。しかし、ここで「ゼロ」がどのような状態なのかは、はっきりしない。ちなみに、私個人は、日本は「参加、熟議」が不足のように感じますが、世界的に見れば「自由」の範囲が(米国やフランスと比べて)狭いのかもしれません。

 ここでは、2000と2019年の値が示されているが、例えば中国は、この20年間でマイナス1.5から1.9へと民主主義が後退したことが分かる。ロシアもマイナス0.4から1.1と後退している。ブラジルは、プラスだが、1.4から0.7へとやはり後退。米国は、1.3から1.2とわずかに後退。日本は1.2、フランスは1.4で、共に変わっていない。つまり、世界的に見ると、この20年間で民主仕儀が衰退していることが示されている。

 さて、問題の散布図なのだが、それは、回帰曲線(実際には回帰直線)が引けるほどに見事にある傾向を表している。まず、コロナの死者については、指数がマイナス2だとほぼゼロで、指数がプラス2だと100万人あたりの死者が1000人になる。世界中の国々の分布を見ても、指数がマイナスの国では500人以下で、プラスの国々ではゼロから1700人の間にほぼ均等に分散をしている。
 
 一方で、経済成長率はこの逆で、回帰曲線では、指数がマイナス2だと成長率は8%で、指数がプラス2だと成長率は1%になっている。このことは、民主主義の進んでいる先進国では、成長率が低く、民主主義が未発達の後進国が経済成長をしているという一般的な感覚と合致する。いずれにせよ、民主主義が進むと、経済成長率が低くなり、コロナの死者は増えるという傾向が明らかになっている。

 つまり、第1の結論は『民主国ほど経済成長もコロナ対策も失敗』となる。つまり、『超人的な速さと大きさで解決すべき課題が爆発する世界では、常人の日常感覚(=世論)に配慮しなければならない民主主義は科学独裁・知的専制に敗北するしかない。』となってしまうようだ。
 
 それに対して、この筆者は「二つの処方箋」を示した。すなわち、「民主主義との闘争」と「民主主義からの逃走」である。
 彼の結論は、民主主義である限り『政治家報酬や選挙制度の抜本的改革は困難』であり、『富豪が民主主義国から逃げ出す可能性』に言及している。つまり、「民主主義からの逃走」である。それは、将来、宇宙空間なり、海洋上に富豪者による国家が建設される可能性すらも示唆している。ビットコインなどの仮想通貨はその前触れのようにも思えるのだが、、、。