浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

雨の日

2018-05-30 12:58:00 | その他
3日前から親知らずが急に痛み始めた。6月1日に予約を入れてあったのでそれまで我慢しようとしたが、とても無理だと思い、10時頃歯医者に行って治療を受け、1日に抜歯することとなった。今は痛みもなく、パソコンにむかっている。

 今日は『法と民主主義』、『図書』(岩波書店)が届いた。抜歯するまでのあいだ、血流をよくするようなことはするなと言われたので、『図書』を読む。

 まず最初にドナルド・キーンの「雨」。キーンさんは「雨が好きだ」という。私は好きでも嫌いでもない。適度に降ってくれないと、農作業に支障がでるし、降り続いたりすると畑に行けなくなるし、豪雨だと野菜の葉に土がこびりつき、生長を押しとどめる。時々、優しく降る、そういう雨が好きだ。
 キーンさんの啄木の本、図書館から借りてきたが、いまだ読んでいない。読まなければならない。

 次は北方謙三の「わが青春の文学」。同人誌に書いたものが『新潮』に掲載されたことが契機となって作家になる道に進んだそうだ。編集者から「天才」だといわれてその気になって小説を書き続けたが、書いたもののほとんどがボツになったという。ここらは啄木とよく似ている。しかし10年ほどそういう時期を過ごした後は、仕事に追われるようになって忙しくなってきたとのこと。啄木には、しかしその10年間の余裕がなかった。金欠病と結核が、彼を26歳で死なせたからだ。

 北方の文中の、これ、まあよい文だ。

 青春というのは、人生で何かを成し遂げる時期じゃない。どれだけ馬鹿になれたか。どれだけ純粋になれたか。どれだけひとつのことを一途にできたか。命を賭けて突っ走る時期、それが青春なんですね。

 私は今でも馬鹿になり、純粋に生きているつもりでいるが、ひとつのことをずっと求め続けることはできない質で、他者の求めに応じて何でも引き受けて頑張ってしまうということをいまだにしている。研究テーマも、いろいろな分野にわたる。今年だけでも、近代天皇制の創出、石川啄木、天皇機関説、横浜事件と海野普吉、沼津市のコンビナート反対闘争など、直近は水道の民営化の問題であった。

 新井満の「第一回イランカラテ音楽祭」の文が、これまたよい。

 北海道に移住した新井は、アイヌの方と知り合いになった。その方から「イランカラプテ」(プは小文字である)ということばを教えてもらった。その意味は、「こんにちは。あなたの心にそっとふれてもいいですか」。素晴らしいことばだ、私はこのやさしさに大いに心を動かされた。

 アイヌ民族は、「静けさと微笑」が特徴だという。“ひかえめ”なのだという。

 その中の文。

 大自然には無数のいのちがあふれている。そのいのちたちのおかげで、人間は生きている。いや、生かしてもらっている。しかも様々ないのちは、どのいのちがどのいのちより偉いとか偉くないとかということはない。人間も含めて、あらゆるいのちがひとしく尊敬に価すると言ってよい。「だからアイヌは、いばらないのさ」

 よい文だ。ここには哲学がある。私は農業をしているから、ほんとうにそう思う。農業をしていると、自然に対して謙虚になれる。自然と会話しながら、農業は営まれる。その自然には、蛙もいるし、ミミズもいる、様々な鳥、蜘蛛、畑に生きるもろもろのいのち、そして風や雨、太陽など、自然のすべてのものとの関わりの中で農作物はできていく。そしてそこには、永年培ってきた農民の智恵がある。そういうものすべてに頭を垂れて、農業は行われる。

 またこういうアイヌ語もあるのだそうだ。

 カントオロワ(ロは小文字)
 ヤクサクノ(2番目のクが小文字)
 アランケプ(プは小文字)
 シネプカ イサム(プは小文字)

 意味は、全ての存在には、役割がある。役割なしに天からおりてきたものはひとつもない。

 よいことばだ。現実のあり方と切り離して、哲学的な面からだけみれば心から同意できる。なぜこんな事を記すかというと、アベや麻生も?って思ってしまうから。

 アイヌといえば、最近刊行された『現代思想6月臨時増刊号 明治維新の光と影』(青土社)のなかの、「「明治維新」を内破するヘテログラシア アイヌの経験と言葉」(平野克弥)は刺激的な論考であった。詳細は省くが、近代~現代の日本がおこなってきたアイヌに対する施策、そうしたものを今どう考えるべきかが記されている。私の歴史観に、たいへん響くものであった。

 今日は、雨。といっても小雨。家でじっと、これから啄木の日記を読む。



 
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