そよかぜ日記

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「酥」について考える

2010年01月20日 | 日常
中国に旅行した人からお土産をいただきました。
箱の表には「北京酥糖」とあり、Beijing Sutang は読み方でしょうから、ベイジンスータンとでも読むのでしょうか。左上に「北京特産」とありますから、北京はいいとして、「糖」も分かりますが「酥」とは何でしょうか。



箱の中身を取り出すと、下の写真のようなお菓子が入っていました。縞模様のある白い部分は硬く、中に褐色の柔らかいものが入っています。



箱には「北京酥糖」とあったのですが、中身は「北京酥」に変っています。もしかしたら中国では「酥」というものは誰でも知っていて、「北京の酥」の表面を糖(砂糖)で覆って硬くしたのが「北京酥糖」なのかな、と、思いました。

「酥」を手元にあった漢和辞典『新版 漢語林』(大修館書店)で調べますと、
 【酥】ソ
  ①牛や羊の乳を精製した飲料。乳酸飲料の類。
  ②酒の別名。
  ③清く滑らかなもののたとえ。
とありました。
①と②は「発酵」という点で共通であり、その結果できたものの性質から③の意味が生じたのでしょう。
でも、いただいたお菓子は、①や②のような液体ではありません。

「酥」という漢字には見覚えがあります。なんだかはるか昔に日本史で習ったような気がして少し調べてみました。
『延喜式』には「乳大一斗煎得蘇大一升」とあります。蘇は酥と同じ(いただいたお菓子の箱の裏にも「蘇」の字があります)でしょうから、乳(=牛乳)一斗を煎じ(=煮詰めて)酥一升(=一斗の 1/10 )を得るわけですから、酥は濃縮乳ということになります。
でも、いただいたお菓子は濃縮乳というイメージでもありません。

ここでふと思いました。同じ漢字で日本と中国とで違うものを指していることはよくあることです。漢字は中国から入ってきたのでしょうが、意味が似たものではあるが違うものにすり替わってしまうのです。
中国のことについては何の文献も手元にありませんから、インターネットに頼るしかありません。
調べてみますと、中国ではパイに酥(スゥ)という文字が当てられているようで、鳳梨酥、北京酥、菊花酥、栗子酥など、いろんなパイがあるようです。
「北京酥」という文字を見つけてヤッター!と思ったのですが、載っている写真はパイで、いただいたお菓子とは全く違います。共通点は外側がパリッとしていて、内側が柔らかいことぐらい。でも、もしかしたら、「北京酥糖」はパイに似せてパイの皮のパリッとした部分を砂糖で作ったお菓子ということなのかもしれません。
さらに調べていくと、Wikipedia の「鳳梨酥」の項に、次のような記載がありました。

「酥」(スー)は、本来バターを指すが、現代では「小麦粉に脂肪や砂糖を混ぜて作った柔らかい菓子」 ( 蔡治平主編『永大簡明中日辭典』(永大書局)から引用 ) のことをいい、・・・

いただいたお菓子に近くなってきました。「酥」という柔らかい菓子の表面を砂糖で硬くしたのが「酥糖」なのでしょう。
バターなら『延喜式』の「酥」の濃縮乳ともつながります。
パイとバターでは違いすぎる気もしますが、パイの生地も小麦粉にバターや砂糖を混ぜて作りますから、できたものとその材料の関係と理解すればいいのでしょう。

そこまで調べて、何となく理解できたと、何気なく箱の裏を見ると、原材料名が載っているではありませんか!
細かい字で、製造者や住所らしきものなど中国語でびっしり書かれているので、全部中国語で書かれているものと思い込み、よく見なかったのですが、下の方には、小さな字ですが、日本語でもいろいろ書かれています。
これを見ると、中身の柔らかい部分の原材料は、中国名で「果仁○」(○の部分は「将」の下に「酉」と書く漢字の略字だと思われますがPCでは出てきません)で、それに相当する日本名は「さねジツャム」??? 
でも、英語でも書かれていました。 それによると、何と peanut butter !
そう言われてみると、お菓子の中身はピーナッツバターと思えないこともありませんが・・・ 少なくとも日本で通常販売されているピーナッツバターとは、色も味も異なります。

(理解したこと)
・日本では殆ど使われなくなった「酥」という漢字だが、中国ではよく使われている。
・日本と中国とでは、漢字の意味がずれていることがある。
・中国でも時代と共に漢字の意味が変化している。
・中国でも1つの漢字がいろんな意味に使われている。
いずれもあたりまえのことでしょうが、いただいたお菓子でこれらの点を再確認させてもらった気がします。