・列車でヌーシャテルまで行き,ETH大学の名誉教授Schutz教授にピックアップしてもらう。教授はPro Silva ForestというPlenterシステムの技術研究集会のチェアマンをされており,本システムに関する概念やモデルに関する多数の論文を書き記されている。しばらく走った後,クベェの技術者のトップOberson氏と合流。Schutz教授とObserson氏はフランス語で,我々と教授は英語で会話という図式。さて,いよいよ著名なクベェ照査法の第一試験林へ入る。クベェの照査法を体系的にまとめたのがHenry Biolleyで,林内には石碑が残されている。

・昨日訪れたエーメンタールに比べてさらに木の成長がよく,思ったよりも巨木がぽつんぽつんと分布している。後継樹も豊富だが,あちらこちらに集中分布し,スタンド全体として様々なサイズクラスが準備されている。そういう点では,まさしく択伐林型の典型といえる林である。ちなみに,50年以上択伐をしていない自然林ではヨーロッパトウヒの一斉林状態になっており,なんと蓄積は約1000m3/ha。これに対し,Plentering林は約半分である500m3/haで回している。“小さな森”で維持するというのは富良野も同じ考えなのだが,もともとのポテンシャルと目標蓄積にはだいぶ開きがある。

・ちなみに,昨年伐採したという場所では,枝条は林内に放置されている。特に処理はしないが,なんら問題はないそうだ(本当か!)。それにしても,材はサイズの大きさだけでなく,極めて通直で“勝てんなあ”という印象。Obserosn氏はしきりにPlenterシステムでは,年輪の詰まり方が最初は細かく,後から大きく均等になることを強調していた。これは富良野でもお馴染みの話ではあるのだが,とにかく150年以降の成長がすさまじい。

・樹種構成の推移グラフを見ると,これまでに徐々にであるが,トウヒが減少,ヨーロッパブナが増加している。Abies albaはそれほど変わらない。これは必然でもあるが,人為的な意図も働いている。トウヒが減少したのは,耐陰性が他よりも劣る(陽樹性が強い)ことと,生態的理由でヨーロッパブナを増やしたことによるらしい。
・生態的理由といえば,クベェではごく試験的ではあるものの,一部の倒木を残すという試みを行っている。これは別に,倒木更新を期待してるわけではなく,まさに生物多様性を高めるための手法だという。伐採で邪魔にならないのか?と聞いていみると,邪魔にならないくらい小数の倒木しか残していないらしい。なるほど,倒木は実生のセーフサイトとしてはたいして機能していなかったが,1本だけ実生を見つけて嬉しくなった(倒木ふぁん,としてはね・・・)。生物多様性維持のためであるという話だが,特に詳細な研究を行っている様子でもなく,感覚的・概念的な手法のように思える。

・第一試験林ではやはりエーメンタール同様に空中湿度が高いようで,着生植物は豊富である。着生植物の量で空中湿度を定量し,成長量や更新の多寡との関係を見たら面白いんじゃないか,と妙なアイデアが湧く。実生を探しつつ,林内をずしずしと歩く。ふと殺気がしたのでズボンを見ると,昔懐かしい(?)ダニだ(全く姿が一緒に見えた)。こんなところで食いつかれてはかなわんので,早々にお引取り願う。と,足元を見ると何か黒い塊がいる!一瞬ヒルかと思ったが,幸いにして違うようだが,これは・・・。う,ナメクジではないか・・・。でかい。くろい。気がつけばあちらこちらに泰然と“いる”。まるで,アメフラシのようである。フランス語では“Limace”というらしく,あまりにも印象に残ったのでObsersonから差し出された記帳ノートに,驚いたというコメントとイラストを書いておいた。

・クベェの第二試験林へ。第一試験林は北向き斜面だが,この試験林は南向き斜面である。距離はさほど離れていないのだが,北と南では樹種構成や更新パターががらりと異なるらしい。簡単に言えば,北向きでは針葉樹(ヨーロッパトウヒ)が優占し,南向きでは広葉樹(ヨーロッパブナ)の割合が多くなる。空中湿度はと着生植物をみると,なるほどこちらでは圧倒的に少なく,乾燥していることが分かる。それにしても,ヨーロッパブナは“わんわんと”更新しており,タカ&トシ的にいえば「ダケカバか!」とでも突っ込みたくなるほどである。ちなみに,ここでもヨーロッパブナは林業樹種としてはあまり認められておらず,あくまで生態的な理由によるようだ。また,日本のように森林のシンボル的な要素はあまり感じられなかった。

・Oさんが山林に書かれていた論文でも,クベェ照査法の成功はシステムが合理的であり,地位や更新の容易さが極めてシステムに向いていたことに加え,専門の高い技術を持ったスタッフが誇りをもって仕事に当たっていることによる,と紹介されている。トレーニングコースは3年間で,みっちりと理論,様々なテクニックを学べるようになっている。日本の場合,教育と職の乖離があり,教育は実践と必ずしも合っていないことが多く,また,実践する職人は教育よりも“目で盗め”的なところが強調されすぎているのかもしれないと感じたりした。Hekkiとも議論をしたが,この問題はもう少し具体的なトレーニングコースを知ってから考えた方が良さそうである。
・Shultz氏はPlenterシステムを持続させるにあたり,サイズ構造を安定させるための均衡モデルなるものを提唱し,それが実践でも利用されている。この原著論文はAnnals of Forest Scienceに発表されているので,一度,読んでみる必要がある。それにしても,これらのグループでは研究と現場が密接にリンクしているようで,アメリカのチャールストンでの会議を思い出させた。Schultz教授とObserson氏も二人でいつまでもしゃべっており,本当に仲が良い。

・午後から牧草地に1901-19007年に植林(ヨーロッパトウヒ)をして,ランドスケープを改変したというプロットを見せてもらう。標高は1150m程度。面白いのは,全体の3分の1程度のエリアで,10×10mのモザイク状(市松模様)に,植えた場所が今では混交状態になっていることである。最初,ストローブの格子状皆伐みたいなことをここでもやったのかと思ったのだが,そうではなく,植えるときに最初からモザイクにしたという。100年も前にそんなことを考えつくとは,スイス人は先を見通す力に長けているのであろうか。
・この森林は全体として,公園のようになっており,行きかう人たちとボンジュールと挨拶を交わす。そうそう,この地域は完全なフランス語圏である。言葉の問題には政治的な問題が付きまとう。ちなみに,植栽当時から比べて,カエデとヨーロッパトネリコがかなり増えており,ブナとハンノキは減っているということである。ヌーシャテル駅で教授と別れて,ICEでフライブルグへ。途中,Oさんと色んな話をする。久しぶりに日本語で話すと,やはりストレス解消である。もう少しレベルアップしないといかんのだけれど・・・。
・フライブルグでは,フロントのお姉さんのおススメに従って地ビールを飲みに行く。お約束のソーセージとザワークラフトとともに,フルーティな味を堪能しつつ,3人で再びエーメンタールとクベェの相違点などについて議論。とにかく,二日間の行程で分かったのは,ここの人たちはほとんど全くといってよいほど,更新を問題として捉えていないことである。そりゃそうだよねえ・・・。
・ところで,Hekkiによればフィンランドの方式は単純で,サイズ構造の逆J字型の最適曲線を推定し,曲線の上の部分を収穫するという。ちなみに曲線の下の部分は収穫できないので,その部分を担保するために,少し上のサイズクラスでその部分を残しておくらしい。また,Increment(増加)の定量とそれに基づいた伐採量の算定をする上で,どういうサンプリングデザインが適切なのかというような議論にもなる。とにかくサイトに応じたIncrementを正確に測ること,そして樹種の特性(耐陰性など)をよく考慮することが大切であることが強く印象に残った。

・昨日訪れたエーメンタールに比べてさらに木の成長がよく,思ったよりも巨木がぽつんぽつんと分布している。後継樹も豊富だが,あちらこちらに集中分布し,スタンド全体として様々なサイズクラスが準備されている。そういう点では,まさしく択伐林型の典型といえる林である。ちなみに,50年以上択伐をしていない自然林ではヨーロッパトウヒの一斉林状態になっており,なんと蓄積は約1000m3/ha。これに対し,Plentering林は約半分である500m3/haで回している。“小さな森”で維持するというのは富良野も同じ考えなのだが,もともとのポテンシャルと目標蓄積にはだいぶ開きがある。

・ちなみに,昨年伐採したという場所では,枝条は林内に放置されている。特に処理はしないが,なんら問題はないそうだ(本当か!)。それにしても,材はサイズの大きさだけでなく,極めて通直で“勝てんなあ”という印象。Obserosn氏はしきりにPlenterシステムでは,年輪の詰まり方が最初は細かく,後から大きく均等になることを強調していた。これは富良野でもお馴染みの話ではあるのだが,とにかく150年以降の成長がすさまじい。

・樹種構成の推移グラフを見ると,これまでに徐々にであるが,トウヒが減少,ヨーロッパブナが増加している。Abies albaはそれほど変わらない。これは必然でもあるが,人為的な意図も働いている。トウヒが減少したのは,耐陰性が他よりも劣る(陽樹性が強い)ことと,生態的理由でヨーロッパブナを増やしたことによるらしい。
・生態的理由といえば,クベェではごく試験的ではあるものの,一部の倒木を残すという試みを行っている。これは別に,倒木更新を期待してるわけではなく,まさに生物多様性を高めるための手法だという。伐採で邪魔にならないのか?と聞いていみると,邪魔にならないくらい小数の倒木しか残していないらしい。なるほど,倒木は実生のセーフサイトとしてはたいして機能していなかったが,1本だけ実生を見つけて嬉しくなった(倒木ふぁん,としてはね・・・)。生物多様性維持のためであるという話だが,特に詳細な研究を行っている様子でもなく,感覚的・概念的な手法のように思える。

・第一試験林ではやはりエーメンタール同様に空中湿度が高いようで,着生植物は豊富である。着生植物の量で空中湿度を定量し,成長量や更新の多寡との関係を見たら面白いんじゃないか,と妙なアイデアが湧く。実生を探しつつ,林内をずしずしと歩く。ふと殺気がしたのでズボンを見ると,昔懐かしい(?)ダニだ(全く姿が一緒に見えた)。こんなところで食いつかれてはかなわんので,早々にお引取り願う。と,足元を見ると何か黒い塊がいる!一瞬ヒルかと思ったが,幸いにして違うようだが,これは・・・。う,ナメクジではないか・・・。でかい。くろい。気がつけばあちらこちらに泰然と“いる”。まるで,アメフラシのようである。フランス語では“Limace”というらしく,あまりにも印象に残ったのでObsersonから差し出された記帳ノートに,驚いたというコメントとイラストを書いておいた。

・クベェの第二試験林へ。第一試験林は北向き斜面だが,この試験林は南向き斜面である。距離はさほど離れていないのだが,北と南では樹種構成や更新パターががらりと異なるらしい。簡単に言えば,北向きでは針葉樹(ヨーロッパトウヒ)が優占し,南向きでは広葉樹(ヨーロッパブナ)の割合が多くなる。空中湿度はと着生植物をみると,なるほどこちらでは圧倒的に少なく,乾燥していることが分かる。それにしても,ヨーロッパブナは“わんわんと”更新しており,タカ&トシ的にいえば「ダケカバか!」とでも突っ込みたくなるほどである。ちなみに,ここでもヨーロッパブナは林業樹種としてはあまり認められておらず,あくまで生態的な理由によるようだ。また,日本のように森林のシンボル的な要素はあまり感じられなかった。

・Oさんが山林に書かれていた論文でも,クベェ照査法の成功はシステムが合理的であり,地位や更新の容易さが極めてシステムに向いていたことに加え,専門の高い技術を持ったスタッフが誇りをもって仕事に当たっていることによる,と紹介されている。トレーニングコースは3年間で,みっちりと理論,様々なテクニックを学べるようになっている。日本の場合,教育と職の乖離があり,教育は実践と必ずしも合っていないことが多く,また,実践する職人は教育よりも“目で盗め”的なところが強調されすぎているのかもしれないと感じたりした。Hekkiとも議論をしたが,この問題はもう少し具体的なトレーニングコースを知ってから考えた方が良さそうである。
・Shultz氏はPlenterシステムを持続させるにあたり,サイズ構造を安定させるための均衡モデルなるものを提唱し,それが実践でも利用されている。この原著論文はAnnals of Forest Scienceに発表されているので,一度,読んでみる必要がある。それにしても,これらのグループでは研究と現場が密接にリンクしているようで,アメリカのチャールストンでの会議を思い出させた。Schultz教授とObserson氏も二人でいつまでもしゃべっており,本当に仲が良い。

・午後から牧草地に1901-19007年に植林(ヨーロッパトウヒ)をして,ランドスケープを改変したというプロットを見せてもらう。標高は1150m程度。面白いのは,全体の3分の1程度のエリアで,10×10mのモザイク状(市松模様)に,植えた場所が今では混交状態になっていることである。最初,ストローブの格子状皆伐みたいなことをここでもやったのかと思ったのだが,そうではなく,植えるときに最初からモザイクにしたという。100年も前にそんなことを考えつくとは,スイス人は先を見通す力に長けているのであろうか。
・この森林は全体として,公園のようになっており,行きかう人たちとボンジュールと挨拶を交わす。そうそう,この地域は完全なフランス語圏である。言葉の問題には政治的な問題が付きまとう。ちなみに,植栽当時から比べて,カエデとヨーロッパトネリコがかなり増えており,ブナとハンノキは減っているということである。ヌーシャテル駅で教授と別れて,ICEでフライブルグへ。途中,Oさんと色んな話をする。久しぶりに日本語で話すと,やはりストレス解消である。もう少しレベルアップしないといかんのだけれど・・・。
・フライブルグでは,フロントのお姉さんのおススメに従って地ビールを飲みに行く。お約束のソーセージとザワークラフトとともに,フルーティな味を堪能しつつ,3人で再びエーメンタールとクベェの相違点などについて議論。とにかく,二日間の行程で分かったのは,ここの人たちはほとんど全くといってよいほど,更新を問題として捉えていないことである。そりゃそうだよねえ・・・。
・ところで,Hekkiによればフィンランドの方式は単純で,サイズ構造の逆J字型の最適曲線を推定し,曲線の上の部分を収穫するという。ちなみに曲線の下の部分は収穫できないので,その部分を担保するために,少し上のサイズクラスでその部分を残しておくらしい。また,Increment(増加)の定量とそれに基づいた伐採量の算定をする上で,どういうサンプリングデザインが適切なのかというような議論にもなる。とにかくサイトに応じたIncrementを正確に測ること,そして樹種の特性(耐陰性など)をよく考慮することが大切であることが強く印象に残った。