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西東京市・北海道富良野の森林を舞台にした遺伝,育種,生態などに関する研究ノートの一部を紹介します

うなぎ草

2008-05-02 | 研究ノート
・朝一番に再びハンカチノキを見に行く。今日は天気が悪いせいか、お客さんはいない。見れば見るほど珍妙な花(と思っているのは、葉が変化したものだけど・・)である。地面にいくつか”ハンカチ”が落ちているので、しげしげと見つめてみると、ステージが進むにつれておしべが脱毛(?)し、最後は実になっていく部分が残るようである。



・下の写真では、右から左へとステージが進んだ状態。ネットで検索すると、その実は想像以上に大きくて、これまた奇妙である。今後も経過を見守ることにしよう。



・部屋に戻り、トドマツ交雑論文の構成を再び考える。昨日、満員電車の中で斜め読みしていたWillimas (2001) Ecological Applicationsを、もう少し掘り下げてみる。この論文では海草のアマモ(英語ではeelgrass、つまり、うなぎ草)のrestorationにまつわる遺伝的多様性の重要性が示されている。Williams and Davis (1996) Restoration Ecologyで、導入集団の遺伝的多様性が自生のドナー集団に比べて低いことは既に明らかにされており、この論文では「なぜに遺伝的多様性が低いのか」、ということと「遺伝的多様性が低いとどういう問題があるのか」、ということにスポットを当てている。

・この論文は結構なボリュームがあり、実に色んなことをやっている。まず、南カリフォルニアのチェサピーク湾とニューハンプシャーに導入された集団が、移植元となったドナー集団よりも遺伝的多様性が低いことが示されている(ただし、アロザイムのせいか、著者が言うほど差がないようにも見える)。各集団の導入に際するかなり詳細な経緯が明らかにされているため、導入集団の遺伝的多様性が低くなった原因は、ドナー集団からの植物採取が非常に小さなユニットで行われたためだと結論されている。

・さらにこの論文では、遺伝的多様性が高い自然集団と遺伝的多様性が低い導入集団において、繁殖能力と栄養成長に差があるかどうかを調べ、導入集団では得られた種子の実験室内発芽率も低い、ことなどを明らかにしている。さらにすごいのは、遺伝子型を調べた個体を用いて、実験的に遺伝的多様性の高い集団と低い集団を作出し、移植実験でパフォーマンスを調べているところである。

・驚くべきことに、これまた綺麗な結果が得られていて、多様性の高い集団の方が時間がたつにつれて、シュート密度が高いという、多様性と成長の正の関係が見出されている。このように、集団内の遺伝的多様性が低いことが、集団全体や個体の適応度に及ぼす影響をクリアーに示した例はそんなに多くないのではなかろうか。これこそ、講義で使えそうなストーリーだ。これら以外の結果もなかなか興味深く、もう少しじっくりと読解する必要がありそうな論文である。

・2001年にこれほどの仕事を成し遂げるとは・・・このWilliamsという研究者(ちなみに女性)只者ではなかろう。それにしても、海草の移植というのはなかなかイメージが湧かない。サンプリングも、スキューバダイバーが3-4mの水深の9万m2のエリアからうなぎ草を採取した、とある。大変そう・・・だが、なにやら楽しそうだったりもする。