一平のペンとギター

僕らしい小説を書き、僕らしい歌をうたう、ぞ♪、ペンとギターの一平です。ギター弾き語りと小説書きの二刀流。

一年を振り返って-「人」:(6)魔法のジュウタン

2007-02-08 21:09:49 | Weblog

   ○魔法のじゅうたん。そして、出番♪

 

 がんばってくださーい!

 天使の声に思えた。背中に聞こえた八木さんと女の子の声が。Gパンの尻の右ポケットの中の「財布」が、、自転車を漕ぐたびに、尻に当たる。 

 一寸前は、谷底にまっさかさまに落ちてゆく僕。あー、もう駄目だ、と思ったとたん、空飛ぶジュウタンが現れ、僕を拾った。そして、今、空を飛んでいる。自転車のペダルが軽やか。このペダルを漕いでいると、何処までも飛んでゆけるような気がする。脳梗塞になり、会社を辞めざるをえなくなり、治療、リハビリ後、ホテルの従業員になって、高校生の息子のために頑張っている八木さん、の、がんばってくださーい、がまた耳元で聞こえる。ありがとー。がんばるぞー、八木さん!と僕は、叫ぶ。やがて、見えた。白い十字架が、青空にくっきりと。

「北上聖書バプテスト教会」。自転車を飛び下り、後輪に鍵をかける。その後輪の覆いに「グリーンホテル北上用」の小さな白い文字が目に入った。八木さんの顔が、よぎる。

 礼拝堂から、低音のゆったりした太い響きが、聞こえた。あの大きなカタツムリが発する音。縄のような太いメロデイー。教会の玄関に、そおっと入る。聞いたことがあるメロデイー。忍び足で、礼拝堂に入る。急に、低音の太い音が、腹に響く。あっ、アメイジング・グレイス、だ♪

 会堂内を恐る恐る見る。ひとつだけ空いている一番後ろの末席。その上に、プログラムと紙切れが、無造作に置いてある。思い出した!僕は、あの席にプログラムと歌う順を書いた紙切れ、を置いて、トイレに行ったこんだ、、、、、、。そして、それから、、、、、、、、、、。ずいぶん、昔のことのような気がした。まるで、僕は浦島太郎になったみたいだった。

 椅子に、そおおっと、坐る。また、恐る恐る顔を上げ、講壇を見た。宮田さんが、あのでっかいカタツムリを、ほっぺを膨らませて、目をつぶって、吹いている。目をつぶって、、。僕は、ほっとして、席に坐りなおし、背筋を伸ばして、宮田さんの演奏に集中した。

 ぶぶぶー、ぶぶぶぶ、ぶぶぶー、ぶぶー ♪

(I once was lost but now I'm found) のところだ。 

全く、僕の頭の中から消えていた記憶が、蘇った。この曲を僕は、弾き歌うんだ、そうだ、、、。

 ぶぶぶー、ぶぶぶぶー、ぶーぶー。♪

(Was blind but now I see.) 最後のところ。

 アメイジング・グレイスの演奏が終わった。宮田さんが、目を開けて、お辞儀をしている。会場内を、見回して、また、お辞儀をした。その時、僕を、一瞬、見た様な気がした。が、宮田さんは、何もなかったように、今度は、マイクの前で、語りだした。

「次の曲は、前半、最後の曲になりました。「誰でも」という曲です。福音を知らせるラッパの響き、をお聞きください。皆さん、福音、とは、よい知らせ、グッドゥ、ニュース(good news)という、意味です。良い知らせ、とは、救い主キリストがあなたとともにおられる、というようなことです。皆さん、路上で、救世軍が、鍋を持って、トランペットを吹いているのをお聞きにになったことありませんか?今日は、ホルン、聖書に出てくる、角笛、でお聞きください。」

 聞いたことがあるような気がする、賛美歌だった。

 この曲が終わったら、僕の出番だ、とその事ばかりが気になって、ソワソワしだしている僕がいる。そっと、手に握っていた紙切れを見る。

《「北の国から」「エデンの東」・語り-自己紹介、歌の紹介・「Amazing Grace」「月の砂漠」「母さんの歌」・語り-歌の紹介・「夢見る人」「イムジン河」・語り-歌と僕・「シェフ」「千の風になって」。終わり》と走り書きで書いてある。喫茶店で、考えたイメージと選曲、を思い出した。そう、ハンバーグの味を思い出した。美味かった。遠い昔のような気がする。でも、はっきり、思い出した。

 拍手が鳴っていた。講壇で、ホルンを持ったまま、宮田さんが何度もお辞儀をしている。しばらく、拍手が止まなかった。

 僕は、控え室の奥の部屋にいた。テーブルの上に、僕のギター、ハーモニカ、譜面、が並んでいる。

 宮田さんが、演奏を終え、長い拍手が止み、10分、休憩です、と言って、僕を見て、奥の部屋を、指差してから、僕は、トイレに2度も行った。あれから、ソワソワ、が始まった。心臓が、ドキドキ、鳴っている。ふわっと、体が浮いているような感覚。顔が、ほてっている。サイフ、さいふ、財布、と自転車を走らせた時、弾き語りのことは、頭から、ぶっ飛んでしまった、ように、今度は、ポケットの財布、のことは、頭から、全く消えていた。

 そろそろ、時間だ。出番だ。僕は、深呼吸を、3度して、首を2,3回、まわした。肩からギターを掛け、首にはハーモニカをぶら下げ、譜面を、手に持つ。

 会堂が、静かになった。シーンとなった。宮田さんの声がする。

「皆さん、今日は、飛び入りで、特別ゲスト、をお迎えしています。」

 会堂で話している宮田さんの声が、ドア越に、聞こえて来る。

「横浜からいらした、ギター弾き語りシンガー、の、音一平、さんです。では、御呼びしましょう。音一平さーん!」

 さ、来た!時が来た!いざ、出番。

 僕は、ギターを持ち、ハーモニカを首にかけ、譜面を持って、ドアを開けた。拍手が鳴った。講壇に登って、中央に進む。直立のスタンドマイクと「く」の字に曲がったマイクの前に、置いてある、椅子に坐る。

 お辞儀をする。拍手が、一段と大きくなる。頭を上げ、ハーモニカを銜(くわ)えて、ギターを抱えた。

 拍手が止み、会場がシーンとなる。水を打ったように静かだ。僕は、この、空気が好きだ。この静けさの中に身を、しばし置く。会場の観客を見る。顔顔顔・・頭頭頭・・目目目・・。この人たちの、心に向かって歌おう、と心の中で呟く。

 僕は、口に銜えたハーモニカを、吹き始めた。ハーモニカの、糸を引くような音が、会堂一杯に響き渡る。その音が会堂を一周して、また、僕の耳に戻ってくる。右指が弦を弾く。ギターの流れ星のようにすぐ消える弦の音が、加わって、会堂の空気が、虹色になる。ステンドガラス越しに差し込む光に、ハーモニカとギターの和音が、弾ける。

  ♪「北の国から」続けて、♪「エデンの東」

 吹き,弾き終える。会堂に拍手が起こる。

 僕は、口に銜えていたハーモニカを口から放し、ギターは抱えたまま、お辞儀をし、

「おと、いっぺい(音一平)です。よろしく」

 と言った。

 拍手が、一段と大きくなる。僕は、首輪をつけられて、つながれた犬みたいに、観念して、腰が坐っていた。会堂を見渡せる。観客の顔顔顔が見える。観客全員の視線が、僕に集中して耳を澄ませている。中には、僕の眼を見ている人もいる。観客の心、心、心と、僕は今向き合っている。僕の口から、言葉が出る。

 「当年とって、30プラス、31才、の61才です。路上で、ライブハウスで、童謡、唱歌、日本のなつかしのメロデイー、世界の民謡、ポップス、を歌っています。飛び入りで、皆さんの前で、弾き語り、弾き歌いが出来ることを感謝します。宮田さんは、ホルンの、吹き語り、でしたが、僕は、ギターの弾き語り引き歌いを、します。まずは、童謡と唱歌から。月の砂漠、母さんの歌。」

  ♪つきのー、さばくをー、はーるーばると 

   たびのー、ラクダがー、ゆーきーました

   きんとー、ぎんとのー、くらー、おいてー

   ふたつー、ならんでー,ゆきー、ました♪

ギターの弦を弾く、ポロンポロンという音が、僕の歌声を支えてくれる。

 ♪かあさんが、よなべをして、てぶくろあんでくれたー

  こがらしふいちゃ、つめたかろうて

  せっせと、あんだだよー

  ふるさとのたよりもとどく

  いろりのにおいがした♪

 僕は、弾き歌いながら、耳を澄ませて聞いている、観客席の人々の心の呼吸や気配を感じた。

 「ふるさとのたよりもとどく♪」のところに差し掛かったとき、観客席の中の、3列目に坐っているおばあさんの顔が目に入った。おばあさんの頭が、僕の歌のリズムに乗って、ゆっくり左右に揺れている。眼をパッチリ開いて、僕を見ている。時折、手に持ったハンカチを眼に当てる。「いろりのにおいがした♪」と歌い終わった時、おばあさんの眼が潤んでいた。その時、僕の心に、こみ上げてくるものがあって、僕は、また「囲炉裏の臭いがした♪」をもう一度、ゆっくり繰り返して歌った。一番だけ歌おうと思っていたが、ギターの伴奏をつづけて、2番も、3番も歌ってしまった。僕は、僕の前に坐って、聞いているあのおばあちゃんと、この時間を共有している、と感じて歌っていた。この、共有感、この刹那・・・。 

                     ・・・つづく。

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1 コメント

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ぼけ? (一平)
2007-02-08 21:12:39
全く、気ずかず、でした。ありがとう!何で、八木さんになっちゃったのか?ボケ、、かな?

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