*記憶が不確かでしたのでグーグルで『勘定板』を検索したら予想を遥かに超えるサイトが見つかりました。上方と江戸では設定に若干の違いがありますが、都会へ見物に来たのは漁村の漁師の二人連れという点では一致していました。山の中から出て来たという私の記憶は一体何だったのでしょうか?
*以下大分長くなりますが、上方落語と江戸落語の両方を一つずつ引用します。(本来はせめて音源にでも頼った方が好ましいのですが、それはCDを買わないと無理のようです。)
*ネタ元はここ→とここ→です。
*江戸落語は上方落語をリメイクしたものが多いので、この場合も上方が本家本元と思います♪
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その昔、福井県の漁師町で便所のことを「かんじょ」と言ぅ土地があったんやそぉでございます。「かんじょ」どぉいぅ字を書きますかと言ぃますと門がまえに木、閑な所と書きまして「閑所」でございます。
向こぉへ行きますとお便所といぅ建物自体が無かった。どこで用を足すんかいなぁ、浜辺を歩いとりますと海岸に何本か杭が打ってございまして、そこにロープが結わえ付けてある。でこれ、海の方へロープが続いてるわけでございます。
用を足しますときにはこの紐をたくし上げてまいりますと、一枚のこれぐらいの大きな板が出てまいりまして、この板のことを「かんじょ板」と申しまして、汚い話ではございますが、この上で用を足します。
あとは放って置きますと潮が満ちて来て波がこれをさろぉていくといぅ、巨大な水洗便所みたいなもん。便所することを閑所する、この板のことを閑所板と言ぅたもんですから大阪とは全く意味が違ぉてまいります。
この漁師町から出てまいりました親子連れ、大阪見物を済ませまして明くる朝宿屋で……
●父っさまよぉ、わしゃ大阪見物来よったがみなの言ぅてることさっぱり分かりゃせんでのぉ■おぉ権助、お前(めぇ)だけじゃありゃせん、父っさまにしたかて分かるか。けどおめぇ、えれぇ顔色が悪いがどぉした?
●「どぉした」て、父っさまよ、わしゃ郷(くに)出ていっぺんも閑所(かんじょ~)しとらんでのぉ■そりゃいけん、早よぉ閑所して来い●けど大阪、どこで閑所すりゃえぇだ? 閑所板どこにあります?■そんなこと父っさまに聞ぃたかて分からん。番頭さん呼んで聞ぃてみるか……
■(パンパン)番頭さんよぉ(パンパン)番頭さんよぉ~◆は~い、二階の八番さん呼んだはるで……、いぃえぇな、わし今算盤忙しぃ、おい定吉、お前二階の八番代わりに行て来てくれるか▲行てまいりま……
▲へぇ~い(トントントン)……、お客さまお呼びでございますか?■番頭さんよぉ、せがれが閑所したいとよぉ▲何でございます?■いや、せがれが閑所したいと▲もぉお帰りでございますか?■何言ぅだ、あと三日は泊まっていきますでのぉ▲それでございましたら、勘定の方はどなたさまに限らず、帰りしなまとめていっぺんで結構でございます。
■何言ぅだ? うちの村さ日にいっぺん閑所せんと具合が悪いでのぉ▲日にいっぺん勘定せんと具合が悪い? なかなかお堅いこって■硬いか柔らかいか、やってみんと分からん。閑所板どこにあります?▲勘定板? へぇへぇ。
機転の利く定吉っとん、かんじょ~板と言われまして「算盤のこっちゃねんなぁ」昔の算盤といぃますのは裏に分厚い板が打ってございまして、これ表向きに出しゃ間違いは起こらんかった。トラブルっちゅうのは重なるもんで、わざわざ裏向けて……
▲お客さま、勘定板■えれぇ小せぇ閑所板じゃなぁこれ、こんなのではみ出すとか、こぼれるいぅ心配無いか?▲手前ども長年宿屋やらしていただいてますが、この勘定板からはみ出すとかこぼれるよぉな桁外れな勘定、見たことも聞ぃたこともございませんのんで、すっくりこれに納まるよぉになってます。
■納まるか……、どこでやりゃえぇだ?▲あいにく下の帳場がいっぱいでございまして、なんでしたらこのお部屋で……、あちらの床の間のあたりが日当たりがよろしゅございます。あちらでごゆっくりと■済みゃ~どぉすればえぇだ?▲(パンパン)手ぇ叩いていただきますと頂戴にあがります■ええッ、お前さんこれ取りに来るだか? 分かった、済みゃ~手ぇ叩くで……
■おぉ権助、やれ●「やれ」って、父っさまよぉ、こんな小せぇ板で大丈夫か?■大丈夫じゃ言ぅとった「はみ出すとかこぼれるいぅ心配無い」言ぅとった。向こぉの床の間あたりが日当たりがえぇで、そこでやれ言ぅとった●したら父っさまよ、わしゃ辛抱でけんでボチボチやるわ。
算盤またいでキバリだしよった。汚い話で申し訳ございません。大きぃ方は何とかかたちどりますが、小さい方は前へさしてジャジャ~ジャ~ジャ~ジャ~。
拍子の悪い、この二階の八番の真ぁ下がこの宿屋の台所になってございまして、みなが車座んなって遅い朝食、味噌汁か何ぞすすってなはった。
◆(ズ、ズズズゥ~)早いこと食べてしまいなはれ、いぃえぇな、いつ何時お客さんが来て箸持ったり置いたりせんならん(ズ、ズズズゥ~)……、冷たッ、なんやこれ? なんやポタポタと……。二階の八番やなホンマにもぉ、田舎もんが茶ぁこぼしよんねん、茶碗の中入ったがな(ズ、ズズズゥ)……、く、臭っさぁ~
一方二階の八番では、
●父っさま、終わりよったぞ■おぉ終わりよったか……、またおめぇ、長げぇこと辛抱したとみえてぎょ~さんやりよってこれ、またあの番頭さん嘘ばっかり言ぃよるなぁ「納まる」言ぅとったけど、ほとんど外こぼれたぁるがな。番頭さん取りに来る言ぅとった「済みゃ~手ぇ叩いてくれ」言ぅとった、呼んでみるか……。(パンパン)番頭さんよぉ(パンパン)番頭さんよぉ。
▲ヘぇ~い、二階の八番わたいの係になってまんのんで、何でも田舎の方きっちりしたはります。なんか日にいっぺん勘定せんと具合が悪い言ぅたはりましたんで、わたい行てまいります。へぇ~い(トントントン)
▲お客さま頂戴にあがり……、ちょっとお客さん、それ何をしなはんねん?
■お前さん、これ取りに来なさったんじゃろ?▲誰がそんなもん取りに来るかいな。天王寺さんの八卦見で見てもろたら「あんたこの先運が付く」言われたけど、運の意味が違いすぎるで……
「何、ゴジャゴジャ言ぅとるんじゃ。いま行くでよ」ポ~ンと突きますといぅと定吉っとんの方へ算盤がゴロゴロゴロゴロッ!
【さげ】
■おぉ権助、見てみよれ、大阪は便利なところじゃ。閑所板、紐引っ張らんかてちゃ~んとコマが付いとるわ。
==========
奥州仙台を入りますと立崎という海岸っ淵がございます。これは今ではございませんが、江戸の時分には便所の設備てぇものがなかった。どういう暮らしをしていたかと申しますと、海っ淵へこう長い杭を何本も立てまして、幅三尺長さが六尺くらいの板、これの真ん中を縄で縛って、この杭に結わえ付けてある。この板が始終海ん中へ浮いております。これが便所。用を足したくなるてぇと、この縄をたぐって板を引っ張り上げてその上へ用を済まして、足でひとつぽぉんとこの板を海に蹴りこんじまう。すると波がざっぷんざっぷんとこの板を綺麗に洗ってくれるという・・・誠にエコロジカルな、環境にやさしいシステムになっていた。
で、あちらの方へ行きますと、大変おかしな噺で申し訳ないのですが、便所へ行って用を足すことを「勘定する」ってんで。で、この海に浮いてる板のことを勘定する板で「勘定板」「勘定板」っていいまして。
漁師の男二人が、江戸見物に出てきまして、上野の辺りで宿を取ろうということになった。
「はい。お早いお着きで、どうぞお上がりを」
「いやぁわしら奥州のもんだけんどな。この際江戸さぁ見物すんべと思って仲のいい野郎と二人でみてぇな訳だが・・・泊めてもらいてぇんだがこちらん方はご都合どんなもんでごじゃんしょうか?」
「へいへいへい、江戸見物でございますか?」
「そうでござんす。江戸さぁ見物してぇと思って」
「ありがとうございます。えぇお客様の前でございますが江戸見物となりますと十日、二十日ばかりかかりますがいかがいたしましょう?」
「いやぁ俺達はハァたとえ一月かかっても江戸さ見物して帰りてぇとこう思っているだに」
「さいでございますか。どうもありがとうございます。どうぞ・・・ご案内を!!」
いらっしゃい、女中が案内して二階の部屋へ通します。
「お疲れさまでございます」
「いやぁ俺達ゃぁ田舎もんでね。右も左も分からねぇ、さっぱりはぁ言葉も分からねぇでまぁこらえてもらいてぇ」
「あの、早速でございますが、お湯になさいますか? お食事になさいますか?」
「あ。そうでございますか。ありがとうございます。なんでごぜえましょうかな?」
「いえ、あのお湯にお入りになりますか? お食事になさいますか? いかがいたしましょうか?」
「あ、あっはぁそうでごぜえましたか。いや済みませんハァ・・・で、なんでごぜえましょうかな?」
「困っちゃったわね、言葉が本当に通じない・・・あの、こうやってお湯になさいますか? それとも、お食事になさいますか?」
「あんでぇ? そりゃ風呂に入るかマンマぁ食うべかって話かえ? いや済まねぇおら言葉が分からねぇでこれぇてもらいてぇ。ちょっくら待ってくれ、今連れに聞いてみるだから。
いやさぁ太郎作。あの姐さんがぁなぁ、風呂に入るべかマンマぁ食うべかって聞いとるだがね。どうするべぇか?」
「おらお前の前だが困っているだ。さっきから勘定ぶちたくて困っているだ」
「勘定がしてぇ? べきゃあ事になっちまっただよ。待て待ておらが姐さんに聞いてみるだからよ。
姐さんどうもスマンこってすがこの野郎が勘定ぶちてえなんて言っとりますが、その辺ご都合どんなもんでございましょうか?」
「あの、お勘定でございますか? 少々お待ちを・・・。
ちょいと番頭さん。あのお客様方お部屋がお気に入らなかったみたいですよ。部屋に入ってすぐにお勘定したいって・・・」
「そんなはずはないだろう。お二人で一月かかっても江戸見物をしたいとおっしゃっていた。お前何かお客様にご立腹になるような事でもしたんじゃないのかい?」
「そんなこと・・・お湯になさいますか、お食事になさいますかって伺ったら勘定がしたいって」
「あぁいよいいよ。私が代わりに行こう。お前は下においで。
へい。お疲れさまでございます。手前どもの女中にご用件を仰せつかったようでございますが、どのようなご用件でございましょうか? ちょっくら伺いたいのでございますが」
「いやぁいけや誠に済まねぇんだけれどもな。おらぁちょっくら勘定してぇもんだから・・・お願ぇしたわけだが・・・そこんところご都合どんなもんでごぜえましょうか?」
「へい。へいへいへい。えぇ・・・お勘定でございますか?」
「いや、お勘定なんて大それたもんじゃぁねぇが、勘定をぶちてぇと・・・」
「へい。えぇお勘定といいますとこれはもう私どもの習慣でございまして、もうどなた様に限らずへぃ固めていただきまして、で、お発ちになる間際にまとめて勘定をしていただくということになっております。へぃ、どうぞよろしくお願いいたします」
「へい? ええ? ちょっと待ってもらいてぇ・・・あんでぇ? 勘定は、十日でも二十日でも溜めて、立つ間際にするでごぜぇますか? そんな事はそりゃいけやこと。そんなことしたらおらぁおっ死んじまうだから。助けると思ってどうか勘定させてもらいてぇ」
「へへっどうも。ご冗談を」
「冗談? 冗談かそうでねぇえかおらがの顔色見て分からねぇけ? 頼むにひとつ助けると思ってどうか勘定させてもらいてぇ」
「へへっ。ええー大変お堅うございますな」
「あんでぇ? そらま固いか軟らかいかは勘定ぶって見ねぇと分からねぇでごぜぇますが」
「へへっ、ごもっともさまで。ええ、じゃぁまぁせっかくでございますから、お勘定して頂きましょうか」
「へ? 勘定ぶっても構わねぇけ? はぁありがてぇ、おら一時はもうどうなることかと思った・・・はぁ済まねぇ、それじゃぁちょっくらひとつ勘定場へご案内願ぇてぇ」
「へ? 勘定場? ぇえ、勘定場は手前どもの下の帳場でございますが、いえいえお客様、わざわざ下のお帳場まで来て頂かなくても、お勘定ならこの部屋で結構でございます」
「・・・ありまこの、畳の敷いてあるここで、勘定ぶっても構わねぇでございますかね?」
「へいもう差し支えございませんで。こちらで十分にお勘定していただきまして・・・」
「ありまぁさすがは江戸だな。おらこれまで畳の敷いてあるところで勘定ぶったことはねぇけんどもな。じゃあ済まねぇけんどもぶたせてもらうで、勘定板をちょっくら貸してもらいてぇ」
「勘定板? はぁはぁ、へい。少々お待ちを・・・
旦那。二階の三番のお客がね、ハナから終いまで勘定の事ばかり言ってンですよ。で勘定していただきますって言ったら勘定板を貸せってんですが、なんです旦那、勘定板って?」
「なんですってお前ねぇ。何年宿屋の番頭をやっているんですか? 勘定板くらいのこと知らなくちゃぁ困りますよ」
「何です勘定板ってのは?」
「勘定をする板、算盤のことですよ」
「あぁはぁ・・・勘定板ってのは算盤のことですか?」
「そうだよ。だから田舎の方は堅いから、明細書きを見て算盤をはじいて帳尻がぴたっと合ったら勘定を払う、って寸法だ。だから算盤だけじゃ気が利かないよ、明細書きも一緒に持って行くようにおしよ」
「へいっ。
えぇお待ちどうさまでございました。ここに勘定板を持って参りました。どうぞよろしく」
「えきゃぁまぁ紙までもらっては済まねぇなこりゃ。どうでもいいけんどおっそろしいつーさな勘定板だこりゃぁ。あぁ番頭さんにちょっくらお伺いしたいんでごぜぇますが」
「へいへい。どういうご用件で?」
「いや他ではねぇけんども勘定済んだらどうしたらよかんべ?」
「へいへい。お勘定がお済みになりましたら、ぽんぽんと手を叩いて頂ければ、私が頂戴に伺いますんで、どうぞよろしく」
「え? あの、頂戴に伺うって・・・勘定を持っていってもらいますで?」
「へい。もうお済みになりますれば、手を叩いて頂ければ、頂戴に伺いますんで、どうぞよろしく」
「あーらそら済まねぇな、おら勘定なんか持っていって貰ったことはねぇけんどもな。どうなさる?」
「どうなさる? ・・・へぃ、帳場まで大切にお預かりいたします」
「こりゃぁ済まねぇな。そいじゃおらぁ勘定ぶったら手ぇさ叩いて呼ぶで取りに来て貰いてぇ」
「どうも。ご存分に、ごゆっくり、心ゆくまでお勘定願います」
「やい次郎作。こっちさ来てみぃ。おらぁこんな小さな勘定板に勘定ぶったことはねぇがな。これが江戸の習わしだってぇなら仕方なかんべ。おらが勘定ぶったあとにな、われが勘定ぶちたくなっても勘定板えきゃぁつーせいからな、われはまた手ぇさ叩いて別の勘定板借りたらいかんべ。
それじゃおらぁ勘定ぶつでな。いかくつーせいから難しいがな。おらぁ今からぶつでな、われぇそこで見とれ」
知らないってことはしょうがないもんで、誠に尾籠な話で恐縮ですが・・・勘定板の上に十分に勘定してしまって・・・
「番頭さんや。えきゃぁ済まねぇが勘定が済んだ、ちょっくら取りに来て貰いてぇんでございますがな」
「へい!! どうも!! ありがとう存じまし・・・・・・????? ええぇっ!!!!!
大変なことを・・・どうでもいいがちょっといたずらが過ぎますよ。いくら何でも算盤の上にこんな事を・・・いい加減にして下さい!!」
番頭腹立ち紛れに手でぐいっと払った。根が算盤ですから珠がついてる。勢いってのは恐ろしいもんでこれがつぅー・・・と座敷の上を滑って廊下の柱に当たるってぇととぉんとぉんとぉんと下の帳場まで・・・
「次郎作見たかさすがは江戸じゃのぅ。勘定板が車仕掛けになっとる」
勘定板でございました。
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♪パッパッパパドゥヤドゥヤ・・・♪軽くヤバイ♪
*以下は「明日使える!プチ雑学」 2005年06月29日号 からの引用です。
===言葉の元 その6 「やばい!」===
先日、TVの国営放送を見ていたら、女性アナウンサーが「ハハハッ!ヤバイですよ------本当にヤバイって!」と「やばい」という言葉を連発していました。
先日、渋谷を歩いていたら制服の女子高生が数人で歩きながら「夏なのにぃ、このおなかはヤバくない?」と言いながら歩いていました。
「やばい」という言葉の語源も諸説あり「夜這い」が変化したものという説もあります。
江戸時代には「矢場(ヤバ)」と呼ばれる遊び場がありました。
弓矢で的に当てて遊ぶところで、時代劇で「あた--り--」と言っている女の人のいる所です。
的に当てた点数でお金がもらえるシステムのところもあり、夢中で遊んでいるお客さんのところにお兄さんが寄ってきて「お客さん。もっと楽しい遊びがありますぜ!」と言って、連れて行かれる場所は「賭場」だったのです。
この賭場は当然「・・・・・一家」などと呼ばれるやくざの経営でした。
この図式を元に関係者を、一般的に「矢場の人」と呼ぶようになり「あの人は矢場に出入りしている人」=「矢場い人」となったようです。
(以下略。)
*以下大分長くなりますが、上方落語と江戸落語の両方を一つずつ引用します。(本来はせめて音源にでも頼った方が好ましいのですが、それはCDを買わないと無理のようです。)
*ネタ元はここ→とここ→です。
*江戸落語は上方落語をリメイクしたものが多いので、この場合も上方が本家本元と思います♪
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その昔、福井県の漁師町で便所のことを「かんじょ」と言ぅ土地があったんやそぉでございます。「かんじょ」どぉいぅ字を書きますかと言ぃますと門がまえに木、閑な所と書きまして「閑所」でございます。
向こぉへ行きますとお便所といぅ建物自体が無かった。どこで用を足すんかいなぁ、浜辺を歩いとりますと海岸に何本か杭が打ってございまして、そこにロープが結わえ付けてある。でこれ、海の方へロープが続いてるわけでございます。
用を足しますときにはこの紐をたくし上げてまいりますと、一枚のこれぐらいの大きな板が出てまいりまして、この板のことを「かんじょ板」と申しまして、汚い話ではございますが、この上で用を足します。
あとは放って置きますと潮が満ちて来て波がこれをさろぉていくといぅ、巨大な水洗便所みたいなもん。便所することを閑所する、この板のことを閑所板と言ぅたもんですから大阪とは全く意味が違ぉてまいります。
この漁師町から出てまいりました親子連れ、大阪見物を済ませまして明くる朝宿屋で……
●父っさまよぉ、わしゃ大阪見物来よったがみなの言ぅてることさっぱり分かりゃせんでのぉ■おぉ権助、お前(めぇ)だけじゃありゃせん、父っさまにしたかて分かるか。けどおめぇ、えれぇ顔色が悪いがどぉした?
●「どぉした」て、父っさまよ、わしゃ郷(くに)出ていっぺんも閑所(かんじょ~)しとらんでのぉ■そりゃいけん、早よぉ閑所して来い●けど大阪、どこで閑所すりゃえぇだ? 閑所板どこにあります?■そんなこと父っさまに聞ぃたかて分からん。番頭さん呼んで聞ぃてみるか……
■(パンパン)番頭さんよぉ(パンパン)番頭さんよぉ~◆は~い、二階の八番さん呼んだはるで……、いぃえぇな、わし今算盤忙しぃ、おい定吉、お前二階の八番代わりに行て来てくれるか▲行てまいりま……
▲へぇ~い(トントントン)……、お客さまお呼びでございますか?■番頭さんよぉ、せがれが閑所したいとよぉ▲何でございます?■いや、せがれが閑所したいと▲もぉお帰りでございますか?■何言ぅだ、あと三日は泊まっていきますでのぉ▲それでございましたら、勘定の方はどなたさまに限らず、帰りしなまとめていっぺんで結構でございます。
■何言ぅだ? うちの村さ日にいっぺん閑所せんと具合が悪いでのぉ▲日にいっぺん勘定せんと具合が悪い? なかなかお堅いこって■硬いか柔らかいか、やってみんと分からん。閑所板どこにあります?▲勘定板? へぇへぇ。
機転の利く定吉っとん、かんじょ~板と言われまして「算盤のこっちゃねんなぁ」昔の算盤といぃますのは裏に分厚い板が打ってございまして、これ表向きに出しゃ間違いは起こらんかった。トラブルっちゅうのは重なるもんで、わざわざ裏向けて……
▲お客さま、勘定板■えれぇ小せぇ閑所板じゃなぁこれ、こんなのではみ出すとか、こぼれるいぅ心配無いか?▲手前ども長年宿屋やらしていただいてますが、この勘定板からはみ出すとかこぼれるよぉな桁外れな勘定、見たことも聞ぃたこともございませんのんで、すっくりこれに納まるよぉになってます。
■納まるか……、どこでやりゃえぇだ?▲あいにく下の帳場がいっぱいでございまして、なんでしたらこのお部屋で……、あちらの床の間のあたりが日当たりがよろしゅございます。あちらでごゆっくりと■済みゃ~どぉすればえぇだ?▲(パンパン)手ぇ叩いていただきますと頂戴にあがります■ええッ、お前さんこれ取りに来るだか? 分かった、済みゃ~手ぇ叩くで……
■おぉ権助、やれ●「やれ」って、父っさまよぉ、こんな小せぇ板で大丈夫か?■大丈夫じゃ言ぅとった「はみ出すとかこぼれるいぅ心配無い」言ぅとった。向こぉの床の間あたりが日当たりがえぇで、そこでやれ言ぅとった●したら父っさまよ、わしゃ辛抱でけんでボチボチやるわ。
算盤またいでキバリだしよった。汚い話で申し訳ございません。大きぃ方は何とかかたちどりますが、小さい方は前へさしてジャジャ~ジャ~ジャ~ジャ~。
拍子の悪い、この二階の八番の真ぁ下がこの宿屋の台所になってございまして、みなが車座んなって遅い朝食、味噌汁か何ぞすすってなはった。
◆(ズ、ズズズゥ~)早いこと食べてしまいなはれ、いぃえぇな、いつ何時お客さんが来て箸持ったり置いたりせんならん(ズ、ズズズゥ~)……、冷たッ、なんやこれ? なんやポタポタと……。二階の八番やなホンマにもぉ、田舎もんが茶ぁこぼしよんねん、茶碗の中入ったがな(ズ、ズズズゥ)……、く、臭っさぁ~
一方二階の八番では、
●父っさま、終わりよったぞ■おぉ終わりよったか……、またおめぇ、長げぇこと辛抱したとみえてぎょ~さんやりよってこれ、またあの番頭さん嘘ばっかり言ぃよるなぁ「納まる」言ぅとったけど、ほとんど外こぼれたぁるがな。番頭さん取りに来る言ぅとった「済みゃ~手ぇ叩いてくれ」言ぅとった、呼んでみるか……。(パンパン)番頭さんよぉ(パンパン)番頭さんよぉ。
▲ヘぇ~い、二階の八番わたいの係になってまんのんで、何でも田舎の方きっちりしたはります。なんか日にいっぺん勘定せんと具合が悪い言ぅたはりましたんで、わたい行てまいります。へぇ~い(トントントン)
▲お客さま頂戴にあがり……、ちょっとお客さん、それ何をしなはんねん?
■お前さん、これ取りに来なさったんじゃろ?▲誰がそんなもん取りに来るかいな。天王寺さんの八卦見で見てもろたら「あんたこの先運が付く」言われたけど、運の意味が違いすぎるで……
「何、ゴジャゴジャ言ぅとるんじゃ。いま行くでよ」ポ~ンと突きますといぅと定吉っとんの方へ算盤がゴロゴロゴロゴロッ!
【さげ】
■おぉ権助、見てみよれ、大阪は便利なところじゃ。閑所板、紐引っ張らんかてちゃ~んとコマが付いとるわ。
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奥州仙台を入りますと立崎という海岸っ淵がございます。これは今ではございませんが、江戸の時分には便所の設備てぇものがなかった。どういう暮らしをしていたかと申しますと、海っ淵へこう長い杭を何本も立てまして、幅三尺長さが六尺くらいの板、これの真ん中を縄で縛って、この杭に結わえ付けてある。この板が始終海ん中へ浮いております。これが便所。用を足したくなるてぇと、この縄をたぐって板を引っ張り上げてその上へ用を済まして、足でひとつぽぉんとこの板を海に蹴りこんじまう。すると波がざっぷんざっぷんとこの板を綺麗に洗ってくれるという・・・誠にエコロジカルな、環境にやさしいシステムになっていた。
で、あちらの方へ行きますと、大変おかしな噺で申し訳ないのですが、便所へ行って用を足すことを「勘定する」ってんで。で、この海に浮いてる板のことを勘定する板で「勘定板」「勘定板」っていいまして。
漁師の男二人が、江戸見物に出てきまして、上野の辺りで宿を取ろうということになった。
「はい。お早いお着きで、どうぞお上がりを」
「いやぁわしら奥州のもんだけんどな。この際江戸さぁ見物すんべと思って仲のいい野郎と二人でみてぇな訳だが・・・泊めてもらいてぇんだがこちらん方はご都合どんなもんでごじゃんしょうか?」
「へいへいへい、江戸見物でございますか?」
「そうでござんす。江戸さぁ見物してぇと思って」
「ありがとうございます。えぇお客様の前でございますが江戸見物となりますと十日、二十日ばかりかかりますがいかがいたしましょう?」
「いやぁ俺達はハァたとえ一月かかっても江戸さ見物して帰りてぇとこう思っているだに」
「さいでございますか。どうもありがとうございます。どうぞ・・・ご案内を!!」
いらっしゃい、女中が案内して二階の部屋へ通します。
「お疲れさまでございます」
「いやぁ俺達ゃぁ田舎もんでね。右も左も分からねぇ、さっぱりはぁ言葉も分からねぇでまぁこらえてもらいてぇ」
「あの、早速でございますが、お湯になさいますか? お食事になさいますか?」
「あ。そうでございますか。ありがとうございます。なんでごぜえましょうかな?」
「いえ、あのお湯にお入りになりますか? お食事になさいますか? いかがいたしましょうか?」
「あ、あっはぁそうでごぜえましたか。いや済みませんハァ・・・で、なんでごぜえましょうかな?」
「困っちゃったわね、言葉が本当に通じない・・・あの、こうやってお湯になさいますか? それとも、お食事になさいますか?」
「あんでぇ? そりゃ風呂に入るかマンマぁ食うべかって話かえ? いや済まねぇおら言葉が分からねぇでこれぇてもらいてぇ。ちょっくら待ってくれ、今連れに聞いてみるだから。
いやさぁ太郎作。あの姐さんがぁなぁ、風呂に入るべかマンマぁ食うべかって聞いとるだがね。どうするべぇか?」
「おらお前の前だが困っているだ。さっきから勘定ぶちたくて困っているだ」
「勘定がしてぇ? べきゃあ事になっちまっただよ。待て待ておらが姐さんに聞いてみるだからよ。
姐さんどうもスマンこってすがこの野郎が勘定ぶちてえなんて言っとりますが、その辺ご都合どんなもんでございましょうか?」
「あの、お勘定でございますか? 少々お待ちを・・・。
ちょいと番頭さん。あのお客様方お部屋がお気に入らなかったみたいですよ。部屋に入ってすぐにお勘定したいって・・・」
「そんなはずはないだろう。お二人で一月かかっても江戸見物をしたいとおっしゃっていた。お前何かお客様にご立腹になるような事でもしたんじゃないのかい?」
「そんなこと・・・お湯になさいますか、お食事になさいますかって伺ったら勘定がしたいって」
「あぁいよいいよ。私が代わりに行こう。お前は下においで。
へい。お疲れさまでございます。手前どもの女中にご用件を仰せつかったようでございますが、どのようなご用件でございましょうか? ちょっくら伺いたいのでございますが」
「いやぁいけや誠に済まねぇんだけれどもな。おらぁちょっくら勘定してぇもんだから・・・お願ぇしたわけだが・・・そこんところご都合どんなもんでごぜえましょうか?」
「へい。へいへいへい。えぇ・・・お勘定でございますか?」
「いや、お勘定なんて大それたもんじゃぁねぇが、勘定をぶちてぇと・・・」
「へい。えぇお勘定といいますとこれはもう私どもの習慣でございまして、もうどなた様に限らずへぃ固めていただきまして、で、お発ちになる間際にまとめて勘定をしていただくということになっております。へぃ、どうぞよろしくお願いいたします」
「へい? ええ? ちょっと待ってもらいてぇ・・・あんでぇ? 勘定は、十日でも二十日でも溜めて、立つ間際にするでごぜぇますか? そんな事はそりゃいけやこと。そんなことしたらおらぁおっ死んじまうだから。助けると思ってどうか勘定させてもらいてぇ」
「へへっどうも。ご冗談を」
「冗談? 冗談かそうでねぇえかおらがの顔色見て分からねぇけ? 頼むにひとつ助けると思ってどうか勘定させてもらいてぇ」
「へへっ。ええー大変お堅うございますな」
「あんでぇ? そらま固いか軟らかいかは勘定ぶって見ねぇと分からねぇでごぜぇますが」
「へへっ、ごもっともさまで。ええ、じゃぁまぁせっかくでございますから、お勘定して頂きましょうか」
「へ? 勘定ぶっても構わねぇけ? はぁありがてぇ、おら一時はもうどうなることかと思った・・・はぁ済まねぇ、それじゃぁちょっくらひとつ勘定場へご案内願ぇてぇ」
「へ? 勘定場? ぇえ、勘定場は手前どもの下の帳場でございますが、いえいえお客様、わざわざ下のお帳場まで来て頂かなくても、お勘定ならこの部屋で結構でございます」
「・・・ありまこの、畳の敷いてあるここで、勘定ぶっても構わねぇでございますかね?」
「へいもう差し支えございませんで。こちらで十分にお勘定していただきまして・・・」
「ありまぁさすがは江戸だな。おらこれまで畳の敷いてあるところで勘定ぶったことはねぇけんどもな。じゃあ済まねぇけんどもぶたせてもらうで、勘定板をちょっくら貸してもらいてぇ」
「勘定板? はぁはぁ、へい。少々お待ちを・・・
旦那。二階の三番のお客がね、ハナから終いまで勘定の事ばかり言ってンですよ。で勘定していただきますって言ったら勘定板を貸せってんですが、なんです旦那、勘定板って?」
「なんですってお前ねぇ。何年宿屋の番頭をやっているんですか? 勘定板くらいのこと知らなくちゃぁ困りますよ」
「何です勘定板ってのは?」
「勘定をする板、算盤のことですよ」
「あぁはぁ・・・勘定板ってのは算盤のことですか?」
「そうだよ。だから田舎の方は堅いから、明細書きを見て算盤をはじいて帳尻がぴたっと合ったら勘定を払う、って寸法だ。だから算盤だけじゃ気が利かないよ、明細書きも一緒に持って行くようにおしよ」
「へいっ。
えぇお待ちどうさまでございました。ここに勘定板を持って参りました。どうぞよろしく」
「えきゃぁまぁ紙までもらっては済まねぇなこりゃ。どうでもいいけんどおっそろしいつーさな勘定板だこりゃぁ。あぁ番頭さんにちょっくらお伺いしたいんでごぜぇますが」
「へいへい。どういうご用件で?」
「いや他ではねぇけんども勘定済んだらどうしたらよかんべ?」
「へいへい。お勘定がお済みになりましたら、ぽんぽんと手を叩いて頂ければ、私が頂戴に伺いますんで、どうぞよろしく」
「え? あの、頂戴に伺うって・・・勘定を持っていってもらいますで?」
「へい。もうお済みになりますれば、手を叩いて頂ければ、頂戴に伺いますんで、どうぞよろしく」
「あーらそら済まねぇな、おら勘定なんか持っていって貰ったことはねぇけんどもな。どうなさる?」
「どうなさる? ・・・へぃ、帳場まで大切にお預かりいたします」
「こりゃぁ済まねぇな。そいじゃおらぁ勘定ぶったら手ぇさ叩いて呼ぶで取りに来て貰いてぇ」
「どうも。ご存分に、ごゆっくり、心ゆくまでお勘定願います」
「やい次郎作。こっちさ来てみぃ。おらぁこんな小さな勘定板に勘定ぶったことはねぇがな。これが江戸の習わしだってぇなら仕方なかんべ。おらが勘定ぶったあとにな、われが勘定ぶちたくなっても勘定板えきゃぁつーせいからな、われはまた手ぇさ叩いて別の勘定板借りたらいかんべ。
それじゃおらぁ勘定ぶつでな。いかくつーせいから難しいがな。おらぁ今からぶつでな、われぇそこで見とれ」
知らないってことはしょうがないもんで、誠に尾籠な話で恐縮ですが・・・勘定板の上に十分に勘定してしまって・・・
「番頭さんや。えきゃぁ済まねぇが勘定が済んだ、ちょっくら取りに来て貰いてぇんでございますがな」
「へい!! どうも!! ありがとう存じまし・・・・・・????? ええぇっ!!!!!
大変なことを・・・どうでもいいがちょっといたずらが過ぎますよ。いくら何でも算盤の上にこんな事を・・・いい加減にして下さい!!」
番頭腹立ち紛れに手でぐいっと払った。根が算盤ですから珠がついてる。勢いってのは恐ろしいもんでこれがつぅー・・・と座敷の上を滑って廊下の柱に当たるってぇととぉんとぉんとぉんと下の帳場まで・・・
「次郎作見たかさすがは江戸じゃのぅ。勘定板が車仕掛けになっとる」
勘定板でございました。
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♪パッパッパパドゥヤドゥヤ・・・♪軽くヤバイ♪
*以下は「明日使える!プチ雑学」 2005年06月29日号 からの引用です。
===言葉の元 その6 「やばい!」===
先日、TVの国営放送を見ていたら、女性アナウンサーが「ハハハッ!ヤバイですよ------本当にヤバイって!」と「やばい」という言葉を連発していました。
先日、渋谷を歩いていたら制服の女子高生が数人で歩きながら「夏なのにぃ、このおなかはヤバくない?」と言いながら歩いていました。
「やばい」という言葉の語源も諸説あり「夜這い」が変化したものという説もあります。
江戸時代には「矢場(ヤバ)」と呼ばれる遊び場がありました。
弓矢で的に当てて遊ぶところで、時代劇で「あた--り--」と言っている女の人のいる所です。
的に当てた点数でお金がもらえるシステムのところもあり、夢中で遊んでいるお客さんのところにお兄さんが寄ってきて「お客さん。もっと楽しい遊びがありますぜ!」と言って、連れて行かれる場所は「賭場」だったのです。
この賭場は当然「・・・・・一家」などと呼ばれるやくざの経営でした。
この図式を元に関係者を、一般的に「矢場の人」と呼ぶようになり「あの人は矢場に出入りしている人」=「矢場い人」となったようです。
(以下略。)