本家ヤースケ伝

年取ってから困ること、考えること、興味を惹かれること・・の総集編だろうか。

噂の寅次郎。

2008-09-06 18:41:20 | 
 寅さんの映画を見ていていつも気になることがある。それはお金のこと、とりわけ寅やさくらの金銭感覚である。寅はいつも金がない。あればあったですぐマドンナのために使ってしまう。毎回そうだ。金がなくなると、今度は如何にも安そうな手土産一つ持ってとらやへ舞戻り、さくらやおいちゃんおばちゃんにたかる。あれは私にはどう見てもタカリにしか見えない。寅が滞在中にかかる食費だって決して安いものではない筈だ。

 おいちゃんおばちゃんはいいとして(はあ?)さくらはもう諏訪家の人間なんだから、幾ら血を分けた兄妹だと言ってあんなにしょっちゅうカンパしていたのでは(と言っても半年に一回くらいの設定だろうが)旦那・ひろしが黙ってはいないというのが、世間一般の普通の家族の経済感覚ではないのか。
 見れば別れの際さくらががま口から出して寅に与える金額も決して少ないものではなさそうだし、かと言って工員としてのひろしがそれほどの高給取りであるとはとても思われないから、つい「金の成る木でもあるのか」と言いたくなってしまうというのが何を隠そう、夢のない私の「糞リアリズム」なのである。

「これはメルヘンだからいいんだ、絵空事で盆暮れの夢物語だからそういう細けえことはどうでもいいんだ」とみんな笑って言うのだろうが、それなりのリアリティは欲しいと私は思うのである。
 いや、メルヘンならメルヘンで通してくれたら私もこんな苦言・嫌味など敢て申し上げることはないのだが、以前も書いたように山田監督はときに突如として俄然断然、「社会主義リアリズム(笑)」風な「能書きタラタラ」を混ぜ込んで来る人なので、見ているこちらは油断出来ないのである。
「おのおの方、ゆめゆめご油断めされるな」というわけである。ぁそ。

 このシリーズでは金のことで愚痴をこぼし、暗雲立ち込める世情を曝け出す役目は常にタコ社長の専科・専売特許として特化されている。彼はくどいくらいいつもいつもとらやへ寄っては金欠を嘆いているのだが、当然ながら零細企業とは言え工員らの生活を保障し、工場の回転資金を日々調達しなければならない役回りだから、こちらはとらや一家とは違って一転、こと金に関してはやけにリアルで、いつも銀行へ行くなど金策に走り回っている。世知辛い時代を映し出すのもタコの愚痴・雑談を通して行われることが多い。

 さて、現実には存在し得ない架空のテキ屋たる『フーテンの寅』は、今回第22作冒頭に於いては木曽路を行くバスの中で偶然ひろしの実父(志村喬)と出会い、彼に誘われたのをいいことに、彼の金で旅館に泊まり芸者を揚げどんちゃん騒ぎをした末、果ては東京迄の帰りの電車賃と『今昔物語』(文庫本)を無断で拝借するというとんでもない挙行に及ぶのである。

 好演・志村はこれを許し、ひろし宅に一泊して帰途に就く京成線柴又駅ホーム(←ここなどは小津安『東京物語』を彷彿とさせる)の最後の場面でも、さくらの返金の申し出を丁重に辞退する。これも人徳か、みんな寅のすること為すことに本当に甘いのである。私だととてもこうは行かないってか、あっちゃ。

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 というわけで、この第22作では寅はとらやの店員に来ていた別居中のマドンナ早苗(大原麗子)の離婚に介在し、彼女に「好きよ♪」などと告白までされてしまうのである。寅さえその気になれば二人がゴールインすることもあながちあり得ない話ではなかったが、そうはならないことを我々は知っている。
「最後には寅は振られるんだ、そういうことになっている」という、この「超マンネリズム」を観る方の側が数十年にも亘って支持し続けたというのも、考えてみれば奇妙な現象であるが、早苗には彼女を幼少の頃から慕い続ける幼馴染(室田日出男)がいて、それに気づいた寅は身を引くという結末である。

 志村喬というと『七人の侍』(黒澤明監督作品)だが先日なんば千日前の某ビックカメラへ寄ったついでに地下のパチンコ店へ見学に行ったら、なんとあの名作がパチンコ台になっていた。時代は変わる。w

cf.CR七人の侍

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