フィクション『同族会社を辞め、一から出直しオババが生き延びる方法』

同族会社の情けから脱出し、我が信ずる道を歩む決心をしたオババ。情報の洪水をうまく泳ぎ抜く方法を雑多な人々から教えを乞う。

兄を持つと…

2018-12-15 22:25:00 | ショートショート

・最近、私がお兄ちゃん怒るのとおんなじようにワーワー言うから面白くって。

・よく見ているのね。じっと。

・どうしても、弟はすれるよね。

・そうだね、本当、よく見ている。お兄ちゃんの事だけじゃなくて、親のこともね。

・うちの子もそうだったね。よく見てたんだね。

・親は自分の事で精いっぱいだから、自分の面倒まで見てくれない、と感じていたみたい。

・親を心配させたくない、と言うか、いちいち怒らすのも面倒だから、物わかりのいい子どもを演じていたみたい。

・それさえやっていれば、親は何も言わないしね。

・で、ある時、いい加減腹が立って、俺がどれだけ我慢しているか教えてやろうか?って気持ちになったんだよ。

・親がお金を出した塾に行っても、先生の言うことを聞かなかったり、宿題しなかったり、とにかくいい加減な事をして、親にはちゃんとやってます、みたいな顔をしていた。

・そのうち塾から電話がかかってきて、問題行動があり、成績が伸びません、と言うから、やめます、と言ったら、今やめたらぐれますよ、と言われたの。

・で、やめて個別塾にしたんだけど、やっぱり駄目で、先生も『がんばらせてください』と言ってくれたけど、無駄がね使いたくないからやめさせた。

・塾をやめても、部活動の顧問の先生や、友達、先輩、後輩が、とてもよくしてくれて、それでうちの子は本当の意味でぐれることはなかったの。

・時々、友達と多少の面倒は起こしたけどね、どんどん坂を転げ落ちる、とか、そんな感じの悪さではなかった。

・学校の先生と話をしたり、困った顔の親を見て、面白がったり、もっと騒いだり、と言ういわゆる馬鹿ではなかった、ラッキーなことに。

・自分だって、不良になるとか、喧嘩したり、暴れたり、と言うような事をして、親に対してもだけど、自分に対しても、そんなことをしてもいいことはない、と言うことが分かっていたんだね。そういう意味で、自分の今の立場を高い位置から見下ろすことが出来る子だったのかもしれない、ラッキーなことに。

・きっと、得体のしれない気持ち悪さとか、親の八方美人的な態度とか、自分に対してのいい加減さとか、腹の煮えくりかえるような事があったにせよ、こんな親だけど、しょうがない、自分の親はこいつらなんだから、一生懸命に生きて、自分を育ててくれているんだから、我慢してやろうと、思っていたんだと思う。

・親の未熟なところとかもすっかり見抜いていたよ。私は、何かあると子どもいじめゲームをしかけて子どもの心を傷つけてきたのだけれど、その子は、はっきり私に言うんだよ、結局俺が悪いことになるから、頼まない。私はそれを言われて、ハッとした。

・馬鹿で未熟で無責任でどうしようもない奴らだったのにね。どうしてうちの子は私らを見放さなかったのだろう。

・無邪気だったからかな、子どもを傷つけているとは知らずに、いいことをしていると一生懸命だったから、逆に哀れさを感じさせて、子どももついホロリとなってしまったのかもしれない。

・ようするに、子どもの方が親よりも大人ってことだね。

・そうそう、単に経済力がないだけさ。

 

・このように、きょうだいの下の者は、親からの圧力をのらりくらりかわしながら上手に生きていく。

・では上の者はどうなるのか?もろに親からの圧力や暴力を浴びてへなへなになってしまうのだろうか。

・だから、上の者は一見強そうだがもろいのである。

・かわす技術を身につけないまま大人になる。なんせ、目の前に立ってくれる兄貴とか姉貴とかがいないのだから。かわしようがない。あんまり攻撃を受けすぎると、固まってしまって、もうどんな攻撃でも跳ね返すようになる。

・いわゆる、心の鎧だね。愛情だって駄目なんだよ。誰のメッセージも攻撃と受け取るから、相手に対して攻撃しかしなくなる。

・下の者は、心の鎧は必要ない。幼少のころから何をすれば怒られて何をすれば褒められるか知っているから、攻撃されないし、誰も攻撃する必要がないことを知っている。

そして私ははたとその子の顔を見るのだった。こいつは私の心を読んでいるのだろうか?否、読んでいるというより、分かってしまうのだろうか。

何もかも想定内、だとしたら可愛い奴らではないか。せいぜいいい子どもでいてやろう、そんな考えなのだろうか?

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