レイ子は結婚してもうすぐ30年になる。
夫婦仲は良くも悪くもない、と言ったところか。
妻として夫に尽くす良い女である。
レイ子は高校の頃から細々と日記を書いていた。
日常の出来事を細かく書いていた。
その日記は数々の引っ越し、もしくは結婚で失われることなく、いつもレイ子のそばにあった。
かといってしょっちゅう読み返していたわけではない。
……だって暗くて嫌なことしか書いてないんだもの……
さて、不意に日記を読んでみたくなったレイ子は、
始めの方から読み始めた。
『何これ』
誰が書いたの?私?
そこに登場する女の子は、
とにもかくにも男好きで女の子っぽくて、
今の貞淑な妻であるレイ子と同一人物とは思えなかった。
私は思った。
女は結婚と言う儀式で過去の出来事をリセットするのだ。
レイ子は日記の中の自分を、
まるで他人を眺めるかのように、
よく書けているなぁよく書いたよな、と、
他者として見ることが出来るようになっていた。