民主党は野党中一番質問持間が長く与えられていながら、安保法案を成立阻止する言葉の能力を持たなかった

2015-09-21 10:32:06 | 政治


 安全保障関連法が9月19日未明の参議院本会議で採決が行われ、自民・公明両党と次世代の党などの賛成多数で可決され、成立した。

 この前日9月18日の本会議は午前0時11分に開会されて、民主党提出の防衛相の中谷元に対する問責決議案や山崎正昭参院議長の議長不信任決議案、安倍晋三に対する問責決議案等の提出で採決に対する抵抗を図ったが、自民党が決議案の趣旨説明や討論の時間を1人10分以内に制限する動議を提出、賛成多数で可決、全ての決議案が反対多数で否決された。

 そして9月19日未明、最終的に法案を強行採決に持っていき、可決・成立させた。

 9月19日の法案に対する賛成・反対の討論が行われ、民主党の福山哲郎の発言を「asahi.com」記事が伝えている。      

 福山哲郎「与党の暴力的な強行採決は断じて認められない。三権分立の我が国で、立法府で審議中の法案にOBとはいえ最高裁長官が『違憲』と言うのは極めて異常な事態だ。安倍首相は、この国の法治国家としての基盤を崩してしまうことをなぜ理解しないのか。法律のできの悪さや矛盾を、なぜ修正したりすることを考えないのか。立憲主義と平和主義と民主主義を取り戻す闘いはここからスタートする」

 自身の、そして民主党の衆参共に質問持間を一番長く与えられていながら、安保法案成立を阻止するだけの言葉の能力を持たなかったことを証明するに余りある発言となっている。

 「三権分立の我が国で、立法府で審議中の法案にOBとはいえ最高裁長官が『違憲』と言うのは極めて異常な事態だ」と言っている。

 この発言はOBの最高裁長官の違憲だという主張を借りて、「法案は違憲だ」と言っているだけのことで、自らが自身の言葉で政府に対して法案が違憲であることを証明させているわけではない。

 証明することができていないから、最後の最後までOBの最高裁長官の違憲だという主張を借りなければならない。

 いくら他人の言葉を借りても、自身の言葉で違憲であることを相手に認めさせる証明を果たさなければ、違憲だとすることにはならない。

 2015年6月4日の衆議院憲法審査会で自民党の推薦で参考人として招致した3人の憲法学者が集団的自衛権を行使可能とする新たな安全保障関連法案はいずれも「憲法違反」との見解を示したことを鬼の首でも獲ったかのように法案が違憲であることの証明として政府を追及したが、「憲法の番人は最高裁判所であり、憲法学者ではない」とか、「100の学説より1つの最高裁判決」とかわされて、違憲だと認めさせることはできなかった。

 「1つの最高裁判決」とは断るまでもなく、集団的自衛権を認めているとしている1959年の砂川事件最高裁判決を指し、安倍内閣はこの最高裁判決と1972年の個別的自衛権を認めた政府見解を合憲であることの根拠とし、その根拠に基づいて海外派遣だ、後方支援だ、武器使用だと様々な新たな自衛隊の運用や安保法制の新たな取り組みを組み立てている。

 であるなら、もし民主党や他の野党が集団的自衛権を違憲だとするなら、砂川事件最高裁判決を集団的自衛権行使の合憲の根拠としている、その妥当性を先ず第一に論破する以外に道はなかったはずだ。

 そうすることはせず、憲法学者やその他の著名な識者、あるいは世論調査が示していた「違憲」の声を借りて、違憲だと政府を追及する繰返しに終始した。

 何もかも違憲であることを政府に認めさせる言葉の能力を自分たちが持たなかったからである。

 持たなかったことの反映として現れた特別委員会での委員長席を取り囲んだりの身体的な阻止行動であり、最終的には本会議での安保法案の可決・成立に繋がっていった。

 言葉の能力を持たなかったことは特別委員会での混乱を民主党の辻元清美と自民党の稲田朋美が非難し合った9月20日のNHK「日曜討論」にも現れていた。

 辻元清美「(特別委員会での)採択の遣り方もカマクラ方式と言うらしいけど、自民党の屈強な男性たちが委員長を囲んで、委員以外の人がですね。そして議事録を見ても、聴取不能という状態が今続いている。

 修正合意と言っているけど、そのことも議事録に残っていない」

 稲田朋美「採決の前は理事会室に委員長を閉じ込めて、廊下には女性陣が鉢巻をして、議院総会でセクハラですよ叫ぶとか、計画的に審議を妨害する。

 特別委員会で暴力行為や器物破損行為などがなされたことに私は国権の最高機関の国会で良識の府と言われる参議院で、しかも予算等が行われる第1委員会でこのようなことがなされということは私は恥ずかしいと思う」

 辻元清美「与党の立場として余りおっしゃらない方がいいと思いますよ。法案を通して頂くという立場が与党なんです。その与党の皆さんが、私は20年くらい国会におりますけども、今回は本当に屈強な男子を揃えて、委員長の周りを取り囲んで――」

 安倍政権は強行採決であろうとなかろうと法案を通すという強い意志で国会に臨んでいるのに、辻元清美は「法案を通して頂くという立場が与党なんです」などと、ないものねだりの謙虚さを求める。

 衆参の審議を通して、安倍晋三や中谷元、その他の安倍内閣の閣僚の答弁に「法案を通して頂くという」謙虚さを感じ取ることのできる機会があっただろうか。質問に満足に答えない、関係ないことを長々と答弁する、言い間違いをする、大臣席からヤジを飛ばす等々、謙虚さのカケラもない態度に終止していたはずだ。

 それを稲田朋美が特別委員会での民主党議員の態度を批判した途端に、「法案を通して頂くという立場が与党なんです」と言う。小賢しさだけが目立って、自分が何を言っているのか気づいていない。

 違憲だと言うなら、法案を決して通させないという立場に民主党はあったはずである。いわば通すか・通させないかの闘いであった。審議持間が衆議院で約116時間、参議院で約100時間、その中で民主党が野党第1党として最も長い質問時間を与えられていながら、違憲だと認めさせる言葉の能力も持たなかったために決して通させないという強い意志を発揮できないままに政府に屈した。

 もし辻元清美が法案の可決・成立後であっても、違憲を証明する言葉の能力を自身、あるいは民主党が欠いていたことが招いた結果だと少しでも反省していたなら、「日曜討論」の冒頭で批判合戦を演ずることはなかったろう。

 言葉の能力の欠如をそのままに反映させた「日曜討論」の冒頭の遣り取りだったということである。

 参考までに――

 2015年6月22日当ブログ記事――《砂川事件最高裁判決が安倍政権の集団的自衛権憲法解釈行使容認の根拠となるかどうかは国会で集中審議すべき - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》

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