安倍晋三の設備投資減税がアベノミクスつまずきの予兆となり得る可能性

2013-06-28 06:35:56 | Weblog

 〈安倍晋三は2013年6月5日昼、東京都内のホテル開催の内外情勢調査会全国懇談会で「成長戦略第3弾」を発表したものの、成長戦略の柱とした各政策の公表が「新鮮味に欠ける」とか、「想定の範囲内」、「踏み込みが欠ける」とかの理由で株の失望売りにつながり、6月5日の東京株式市場での日経平均株価が大きく値下がりした。

 そして安倍晋三はたった4日後の6月9日日曜日の「日曜討論」で、「成長戦略第3弾」では一言も触れていない「思い切った投資減税」を打ち出した。〉――

 以上は2013年6月12日の当ブログ記事――《新たに打ち出した設備投資減税は参院選に勝てばいいのなり振り構わないバラマキ政策 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に書いた冒頭部分である。

 安倍晋三が設備投資減税を言い出すと、茂木経産相も言い出し、麻生太郎も言い出し、甘利経済再生担当も言い出し、設備投資減税の一大合唱となった。

 麻生太郎と甘利は6月21日の閣議後記者会見でも言っている。《麻生副総理 法人税より投資減税を》NHK NEWS WEB/2013年6月21日 11時36分)

 自民党は6月20日に発表した参院選公約に韓国等と比較して高い水準の法人税について「大胆な引き下げを実行する」としたことに対してである。

 麻生太郎「法人税による税収のうち、国際競争を強いられている製造業が占める割合は25%程度に過ぎない。むしろ、国内で設備投資を行った企業に対し、即時償却などの税の優遇を考える方が企業にとってはありがたい」

 甘利明「ことし秋には企業の設備投資を後押しするような対応を行うが、法人税全体の引き下げは将来の課題として捉えるべきだ」――

 二人とも、経済再生には法人税減税よりも設備投資減税が最善策だと太鼓判を押している。

 自民党幹事長の石破茂も葛飾区での街頭演説で設備投資減税の花火を打ち上げている。多分、例の如くに尤もらしげなゆっくりとした口調だったのだろう。

 石破茂「企業がお互いに足を引っ張り、安売り合戦、値引き合戦。下請けをいじめて、労働者の賃金を下げて、何かいいことがあるのか。企業が金を使わなければ経済は強くならない。設備を新しく、工場を新しくしていく設備投資がもっとできる税制に改める。あれをやってはいかんこれはやってはいかん。そんな規制ばかりやって日本が元気になるはずがない」(asahi.com

 「企業がお互いに足を引っ張り、安売り合戦、値引き合戦。下請けをいじめて、労働者の賃金を下げて」といった状況は前の自民党政権時代につくり出し、それ以後続いてきた伝統である。

 麻生太郎はこの設備投資減税として6月18日の閣議後記者会見で、「一括償却とか即時償却とか、いろいろ表現はあるが、1つの手段として考えられる」(NHK NEWS WEB別記事)と発言している。

 「一括償却」とは、他の記事を参考にすると、通常は5年以上かけて税務上の費用(損金)として算入する減価償却費を投資した年度に一括計上できる仕組みだそうだ。いわば1年以内に工場の建設を含めた設備に投資したカネが戻ってくる形の減税を行うことによって設備投資の拡大を図るということだろうと思う。

 素人考えかもしれないが、設備投資は実体経済についてまわるものだと思っているから、実体経済が動かなければ、設備投資に飛びつく企業が出てくるのだろうかと疑いたくなるが、別の理由で設備投資の拡大に疑義を呈する識者が存在する。

 《コラム:設備投資拡大にこだわるアベノミクスの勘違い=村田雅志氏》ロイター/2013年 06月 13日 14:53)
  
 簡単に説明すると、日銀短観の「設備過剰判断DI」(DI=diffusion index=景気動向指標)を例に取って、企業は現在設備過剰の状態にあるから、政府がいくら尻を叩いても設備投資には走らない、〈仮に設備投資ニーズがあれば、企業は政府による減税などなくても自主的に設備投資を拡大しているはずだ。〉と解説している。

 企業が設備過剰判断をするのは実体経済が冷え込んでいるからであり、モノが売れるという実体経済が動く状況となれば、企業自身が必要に迫られて設備投資の方向に向くということなのだろう。

 パン屋を始める場合は自身が考えるパン製造の最小限の初期的な設備投資は欠かすことはできないが、それ以上の設備投資はパンが売れて初めて可能となる。パンが売れなければ初期的な設備投資もムダとなりかねない。

 そこで日銀短観の「設備過剰判断DI」をインターネットで調べてみた。

 《日銀短観(要旨)》日本銀行調査統計局/2013年4月1日) 

[生産・営業用設備判断DI(製造業)](「過剰」-「不足」・ポイント)

    2012/12月 2013/3月   12→3月  2013/6月まで  3→6月
                    変化幅     (予測)     変化幅
  
大企業     14       13       - 1       11      - 2

中堅企業  15       15        0       14       - 1

中小企業  15      15       0       11     - 4

全規模合計 14      14        0        12     - 2

 大企業は2013年3月時点で設備の過剰感が13ポイント、2013年6月予測でなお11ポイントの過剰感があり、3月から6月までの変化幅は2ポイント減のみである。

 2013年6月予測で中堅企業が最悪の14ポイントの過剰感、中小企業が大企業と等しい11ポイントの過剰感となっている。

 「業況判断DI」は大企業製造業の場合、2013年3月時点で - 8ポイントで、2012年の-12ポイントから4ポイント改善しているものの、2013年6月予測でなお-1ポイントとなっている状況下での大企業製造業の11ポイントの設備過剰感である。

 実体経済が激しく上向きに動いて設備に不足感が出て来なければ、設備投資に走るとは思えない。いわばあくまでも順序は実体経済が先で、設備投資はその後だということではないだろうか。

 だが、安倍晋三を筆頭に設備投資減税に一大合唱となっている。これまでに3回に分けて発表してきた「成長戦略」の評判が芳しくなく、アベノミクスの評判が参院選まで萎んでしまうことを避けるためになりふり構わずに打ち出した設備投資減税の一大合唱としかどうしても思えない

 参考までに7月1日の日銀短観発表前に民間の経済研究所10社が行った「製造業景気判断」を伝えている記事がある。《日銀短観 大企業製造業は大幅改善か》NHK NEWS WEB/2013年6月25日 9時33分)

 「景気が良いと答えた企業の割合」-「景気が悪いと答えた企業の割合」

 「大企業・製造業」
 最も低い予測―― -4ポイント(4社の予測)
 最も高い予測―― +5ポイント(6社の予測)

 日銀の3月発表の3月の「業況判断DI」は-8ポイントだから、「最も低い予測」で+4ポイントの改善、と言っても、マイナスであることに変りはない。

 「最も高い予測」で+13ポイントの大幅改善を示すことになって、改善に向かってはいるが、たったの5ポイントの上昇という見方をすることもできる。

 改善の理由を記事は、〈円安やアメリカを中心とした海外経済の回復で、「自動車」や「電気機械」など幅広い業種で業績が上向いているためです。〉と書いている。

 要するに外需型企業を中心とした改善ということになる。

 何よりも円安が力になっているのだろうが、全体的に改善に向かっているものの、設備投資に関して言うと、企業全体で見た場合、日銀短観の製造業の「過剰」から「不足」を引いた「生産・営業用設備判断DI」の6月予測、大企業の11ポイントの過剰感、中小企業の14ポイントの過剰感を補って、安倍内閣の設備投資減税に乗って設備投資に走る状況にはないように思える。

 上記ロイター記事の村田雅志氏は過剰状態にある設備への投資減税よりも企業の内部留保を家計部門に移転、いわば給与として吐き出して家計部門の可処分所得を増やし、消費に向かわせることを提案しているが、既に承知しているように安倍晋三等の給与引き上げ要請に対して企業は用心してボーナス等の一時金でゴマ化している。

 やはり上記ブログに書いたように、安倍晋三は「成長戦略第3弾」発表の評価が良くなかったから、参院選用にその場の思いつきで打ち出した投資減税にしか思えない。モノが売れる実体経済が先で、設備投資はその後だという順序の点から言っても、適正とは言えない気がする。

 各企業の設備投資競争はまだまだ先に思えて仕方がない。

 もし設備投資減税が方向オンチな政策と言うことなら、財政健全化の失敗や長期金利の上昇が後に控えていて、そのときになって投資減税がアベノミクスのつまずきの予兆だったと気づくこともあり得る。

 いわば一つのつまずきがその後の全体の成り行きを占う場合がある。

 そもそもからして妥当性を欠いた政策を打ち出すこと自体が客観的判断能力を欠いていることの証明としかならないからだ。それも大事な場面で必要とする大事な政策に反してということになると、その能力欠如は他にも影響しないでは置かないはずだ。

 要するにアベノミクスは安倍晋三という政治家の資質・能力に応じた結果しか生まないのではないだろうかという予測である。

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