橋下徹日本維新の会共同代表が6月23日(2013年)沖縄県糸満市で開催の沖縄全戦没者追悼式に自主参加したそうだ。従軍慰安婦発言や在沖米軍司令官に対する風俗活用のススメで沖縄県民の反発を受けていながらの全戦没者追悼式への敢えての乗り込みだから、そのような沖縄の反発に対する自分では「発言は正しいと思っている」としていることを突きつける一つの挑戦――示威行動なのかもしれない。
沖縄の米兵が風俗を活用しようがしまいが米兵個人の問題であって、また沖縄の風俗産業が米兵個人の問題をどのように受け入れるかは各風俗店、あるいは風俗に携わる女性個人が決める問題であって、両問題は対等な個別的相互性で成り立っているが、戦前の大日本帝国軍隊のように軍が上からの指令で全体的に決め、兵士及び女性に従わせる非対等な全体的上下関係性(この関係は兵士と女性との間にも当然のこととして生じていた)で成り立たせる問題ではないにも関わらず、戦前の構造が頭から抜けないのか、あるいは橋下徹の個人的資質として戦前と同様の全体主義の血に染まっていたからなのか、風俗利用を米軍としての正式な全体的行動とすべく働かけて、その働きかけが実現した場合、結果としてその全体性に沖縄の風俗に携わる女性を従わせることになる両者間の非対等な全体的上下関係性を認識もせずにつくり出そうとした。
兵士は軍が決めたこととして行動することになるから、個人性を離れて、軍の全体性を負うことになり、否応もなしに女性を下に置く意識を働かせることになる。
このようなことを以って各方面から、沖縄の女性の人権のみならず、広い意味で女性の人権を無視する発言だと批判を受けたはずだ。
ところが記事――《橋下氏、風俗業活用発言は「女性の人権守るため、米軍は命がけでやってほしかったから」》(MSN産経/2013.6.23 21:31)によると、本人は沖縄全戦没者追悼式に出席後、大阪維新の会が政策協定を結ぶ沖縄地域政党「そうぞう」主催のシンポジウムに参加し、在沖米軍司令官に風俗利用を勧めたことを「女性の人権を守るために(米軍に取り組みを)命がけでやってほしいという思いがあった」と、自身がしようとしたこととは正反対のことを言って、平然としている。
この理解の感度は相変わらずのものがある。
沖縄地域政党「そうぞう」主催のシンポジウムで基地問題については次のように発言している。
橋下徹「日本の平和が沖縄の負担でつくられているという実感が、沖縄以外の日本人にはない。
基地をすぐに県外に移すのは不可能。第一歩としてオスプレイの訓練の一部を本州に移転させる。1つずつ現実的なことを積み重ねていく」――
言っていることに様々な矛盾がある。沖縄が「日本の平和」を負担することを本土の日本人が当たり前の意識としていたということは、政治が沖縄の負担を当たり前としてきたことの反映としてある本土日本人の意識であるはずで、そういった意識を持たせてきたのは政治の怠慢であり、その責任でもあるはずである。
それを最近になって訓練の一部を本土に移転させて、それを以て基地負担軽減だとする。このような微々たる基地負担軽減策で本土日本人の沖縄負担を当たり前としている意識を変えることができるのだろうか。
政治は微々たる基地負担軽減策で基地の沖縄負担が当たり前となっている構造――日本の安全保障負担の構造を決定的に是正できると思っているのだろうか。
政治が決定的に是正できなければ、政治がつくり出したその相互反映としてある本土日本人の沖縄負担を当たり前とする意識にしても決定的な是正は期待できないはずだ。
仲井真沖縄県知事は沖縄全戦没者追悼式の平和宣言で次のように訴えている。
仲井真沖縄県知事「私たちは68年前の戦争で多くの尊い命を失い、生涯癒やすことのできない深い痛みを負いました。しかし沖縄は今もなお、アメリカ軍基地の過重な負担を強いられており、日米両政府に対して一日も早い普天間基地の県外移設、そして日米地位協定の抜本的な見直しを強く求めます」(NHK NEWS WEB)
沖縄の総体的意思は普天間基地の県外移設にある。沖縄県民は普天間基地の県外移設で戦っている。当然、普天間の県外移設を負担軽減獲得の象徴としているはずだ。
訓練の一部本土移転などで終わらないということである。あるいはそれだけで終わらせないということである。
だが、橋下徹は普天間「基地をすぐに県外に移すのは不可能」だと言っている。だから、訓練の一部本土移転だと。「1つずつ現実的なことを積み重ねていく」ことだと。
自分の言っていることの現実性に気づいているのだろうか。
訓練の一部の本土移転に成功したとしても、普天間基地が辺野古に移設されたなら、基地は辺野古に固定化されることになり、沖縄が「日本の平和」を負担することに本質的な変化はないことになって、沖縄県民は納得するわけはない。
沖縄の負担に本質的な変化がないことは次の記事が証明してくれる。《基地面積軽減0.7% 首長ら批判》(沖縄タイムス/2013年4月7日 10時17分)
小野寺五典防衛相が4月6日、那覇市内のホテルで開いた米軍嘉手納基地より南の6施設・区域(計約1048ヘクタール)の返還計画に関係する11市町村の首長らへの説明会で翁長雄志那覇市長の質問に政府側が答えた内容だという。
全国土の0・6%の沖縄県に在日米軍基地の73・8%が集中している現実に対して上記返還計画がすべて実行された場合、沖縄の在日米軍基地面積割合は現在の73・8%から73・1%へと0・7%減るのみだという。
訓練の一部本土移転が実現したとしても、在日米軍基地面積割合そのものは変化はないし、負担意識や危険性も本質的には大きな変化はないことになる。
さらに小野寺防衛相は米軍普天間飛行場(481ヘクタール)のみの返還の場合は0・3%減の73・5%になると説明したという。
記事には書いてないが、政府の計画では普天間基地を辺野古へ移設する予定だから、辺野古へ移設した場合の面積を含めていると思うが、政府提出の辺野古移設のための公有水面埋め立て承認申請書には埋め立て面積が160ヘクタールと明記されているそうである。
これが二次の埋め立て申請、三次の埋め立て申請へと続くのかどうか分からないが、これだけで終わるとしても、辺野古移設の場合は基地面積は3分の1に減るものの、沖縄県民が米軍普天間飛行場の県外移設を負担軽減獲得の象徴としているだろうことを考えると、やはり辺野古移設ではなく、県外移設でなければ、目に見える負担軽減とは見做さないはずだ。
見做さないからこそ、仲井真沖縄県知事は沖縄全戦没者追悼式の平和宣言で普天間基地の県外移設を訴えた。
結果として沖縄を含めた女性の人権を無視することになることも気づかずに在沖米軍司令官に米軍として風俗を利用するよう勧めた感度と言い、沖縄の総体的意思が普天間の県外移設にあること、普天間の県外移設が沖縄の負担軽減獲得の象徴となっていることにも気づかずに米軍訓練の一部本土移転を以って沖縄の負担軽減が適うと考えている感度と言い、あるいは負担軽減が適うとする以上、本土がその負担を肩代わりすることを意味することになるのだから、当然、本土日本人の「日本の平和」の沖縄負担を当たり前としている意識の是正に役立つとしていることになり、そういった意識の回路を持つことのできる感度と言い、そのような感度でどのツラ下げてなのか招待されているわけでもないのに沖縄全戦没者追悼式にノコノコと自主参加できる感度と言い、その心性を疑いたくなる。
普段から言っていることだが、自分を常に正しい何様だと思っているからこそできる、これらの数々の発言であり、行動に違いない。