国民新党代表代行、幹事長等を務めた下地幹郎代表の沖縄県地域政党「そうぞう」と沖縄県米軍普天間飛行場の同県名護市辺野古への移設推進を盛り込んだ政策協定を今年5月(2013年)に締結した日本維新の会共同代表の橋下徹が6月3日、記者会見で沖縄配備のアメリカ軍新型輸送機「オスプレイ」の飛行訓練の一部を沖縄の負担軽減を目的に大阪の八尾空港で受け入れる検討を進めていることを、近く菅官房長官に伝える考えを明らかにしたと次の記事が伝えている。
《橋下氏 オスプレイ訓練一部を大阪で》(NHK NEWS WEB/2013年6月3日 23時13分)
橋下徹「沖縄の基地負担を軽減する話として、オスプレイの飛行訓練の一部を、本州で受ける方向性を検討してもらえないかとしっかり伝える。
訓練飛行のルートで大阪の八尾空港を使えないか検討しているところで、僕らが具体的に大阪のことを言わないと無責任になる。
(但し)防衛政策や安全保障上、きちんと検討し精査したわけではないので、実現できるかどうかは分からない。政府やアメリカ軍でなければ判断できないので、政府にボールを投げるレベルだ」
要するにあくまでも普天間基地本体の辺野古移設の姿勢の上に立って、オスプレーの訓練の一部を八尾空港受け入れの考えを示したということなのだろう。
〈八尾空港は国土交通省が管理しており、滑走路は2本。陸上自衛隊中部方面航空隊や大阪府警、大阪市消防局のヘリコプターが配備されているが、定期便は就航していない〉と「MSN産経」が伝えている。
因みに橋下徹が地域政党「そうぞう」と普天間の辺野古移設の政策協定を結んだ際、在沖縄米軍幹部に風俗業の活用を勧めたことを自ら明らかにし、そのことが批判の騒動を広げたと同「MSN産経」が伝えている。
では、八尾空港の周辺環境はどのような状況にあるのだろうか。次の記事から見てみる。
《オスプレイ:「大阪で訓練」に地元反発 八尾は米軍使えず》(毎日jp/2013年06月05日 13時40分)
〈想定される八尾空港(同府八尾市)は市街地にあって、危険性が高いと防衛省内でもみられている。頭越しに提案される地元も猛反発しており、実現性は疑問視されている。〉――
〈空港には陸上自衛隊八尾駐屯地が隣接し、周囲には住宅密集地が広がる。周囲約1キロ内には小中高校と支援学校が計11校ある。2002年以降、離着陸の失敗や陸自ヘリの敷地内への墜落など事故が計5件起きた。〉
防衛省関係者「危険性では普天間と変わらない。陸地の住宅地に囲まれた空港での訓練は危なすぎる」
記事は橋下徹と松井一郎日本維新の会幹事長と田中誠太八尾市長の発言も伝えている。
6月3日記者会見。
橋下徹「政府で検討してもらわないと。一応ボールを投げてみるというレベルだ。できるかどうか正直わからない」
6月4日記者会見。
松井一郎「日本全体で沖縄の基地負担軽減に協力しようと、みんな言っている。受け入れを検討のテーブルに乗せることは自然な話だ」――
田中八尾市長「何の説明もない。安全性が確認されていないと思っており、受け入れられない」
記事は訓練基地選定は日米間の協議事項で地元首長の了解は制度上は不要としていると紹介しているが、同時に別の防衛省関係者の了解必要の声も伝えている。
別の防衛省関係者「地元が『受け入れない』と言えば難しい。今回は根回しもないようだ」
小川和久軍事アナリスト・静岡県立大特任教授「地元の説得が受け入れの前提であり、技術的、軍事的な議論以前の問題で、進め方が拙い」――
八尾空港は日米地位協定に基づく「共同使用施設」ではなく、現状で米軍は使用できないが、日米間の協議など手続きを踏めば使用は可能となると解説。
但し地元が反対を貫いた場合、沖縄のオスプレー反対を押し切ってオスプレーを強行搬入し、強行訓練を開始したのと同じ強行姿勢を示すことになるはずだ。
記事は最後に八尾空港がオスプレーの訓練基地として持ち上がった経緯を解説している。
〈今回の構想の発端は沖縄の地域政党「そうぞう」の下地幹郎代表(前衆院議員)の提案だった。日本維新傘下の地域政党・大阪維新の会とそうぞうが5月1日に政策協定を結んだ際、下地氏が橋下氏に「本州で100日程度訓練を受け入れを」と持ち掛け、検討が始まった。今回は政党幹部としての提案というが、維新内にさえ「実現はあり得ない」という声が出ている。【深尾昭寛、野口武則、近藤諭】〉――
要するに八尾空港の周辺環境を把握した上で八尾空港オスプレー一部訓練受け入れを発案したのかどうか分からない。八尾市長に話を通してもいない。
尤も世界一危険と言われる、住宅地が周辺に密集した普天間基地でオスプレーの訓練が可能なら、八尾空港にしても訓練は可能という考えは成り立つ。
当然、普天間と同様に八尾空港でも地元住民の反対を押し切ってが一部訓練受け入れの条件となる。
6月6日午前、都内で橋下徹、松井一郎、下地幹郎、安倍晋三、菅官房長官が雁首を揃えて会談。《橋下氏 飛行訓練受け入れ提案》(NHK NEWS WEB/2013年6月6日 12時5分)
橋下徹「本州でしっかりと負担を分かち合うため、まずは大阪の八尾空港を検討のテーブルにあげてほしい。日本政府とアメリカ軍でしっかり検討してもらいたい」
橋下徹は日米地位協定の見直し等を盛り込んだ要請書も手渡したという。
安倍晋三「沖縄の負担の軽減は全国で考えるべき課題だ」
会談後の橋下徹と菅官房長官の発言。
橋下徹「大阪の八尾空港に限らず、本州の各地の空港を対象に検討を進めていけばいいのではないか。実現が可能かどうかは分からないが、その可能性ばかりを考えていては、沖縄の基地負担の軽減は100年たっても200年たっても進まない」
菅官房長官、「橋下氏らの提案は検討する。沖縄に集中している基地負担の軽減は、訓練の移転をはじめ日本全国で分かち合っていくことが極めて大事だ。去年9月の日米間での合意に基づいて日本国内の沖縄以外の場所で飛行訓練の可能性について検討しており、そういう意味でも歓迎したい」――
一つはっきりしたことはオスプレー飛行訓練の一部八尾空港受け入れ検討を通して安倍政権と日本維新側が沖縄基地負担軽減の姿勢一致をアピールすることができたということである。
安倍政権としたら党本部の普天間辺野古移設推進に反して沖縄自民党が普天間基地の県外移転を参院選の公約とする姿勢を示していて、そのようなねじれが炙り出すことになる政権自体に対する不都合なイメージを沖縄基地負担軽減の姿勢をアピールできることでカバーし得るメリットがあるし、日本維新の会側にしても全国的に見た場合、橋下徹の慰安婦発言でダメージを受けた党のイメージを、沖縄基地の負担軽減を考えているんだなという印象を与えることでカバーできるメリットが生じる。
但し橋下徹の普天間基地の移設に関わるこれまでの姿勢を見た場合、違った様相を見せることになる。
2009年9月の政権交代を受けて民主党鳩山政権が普天間の「国外最低でも県外」を模索して四苦八苦しながら迷走を繰返し始めていた頃の2009年11月30日朝、当時大阪府知事だった橋下徹は個人的見解としながらも、普天間移設先として関西国際空港を検討対象とすることと嘉手納基地の騒音軽減対策としての訓練の一部受け入れを視野に関空の軍民共用化や神戸空港の活用を検討事項に挙げている。
橋下大阪府知事「あくまで個人的な意見だが、政府から正式に話があれば、基本的に(議論を)受け入れる方向で検討していきたい」(毎日jp)
そして任期を3カ月余り残して 2011年10月31日に大阪府知事を辞職、2011年12月19日に大阪市長に就任。2012年2月14日、大阪維新の会は総選挙用公約に当たる全国版「維新版・船中八策」たたき台を発表。
普天間移設問題に関して次のように記述している。
〈2006年在日米軍再編ロードマップの履行
同時に日本全体で沖縄負担の軽減を図る更なるロードマップの作成着手〉――
〈2006年在日米軍再編ロードマップの履行〉とは自民党時代に米国と取り決めた普天間の辺野古移設のロードマップのことで、一旦は掲げた普天間移設先としての関西国際空港検討対象を1年と3カ月余りであっさりと撤回したことを意味する。
2012年2月14日にたたき台を公表してから約4カ月半後の2012年7月5日に維新八策改訂版を発表している。
そこでは叩き台で示した〈2006年在日米軍再編ロードマップの履行〉は削除され、〈日本全体で沖縄負担の軽減を図るさらなるロードマップの作成〉とのみ記述、再び県外移設の姿勢へと転じている。
普天間の辺野古移設から県外移設へとクルクルと変わる猫の目さながらのせわしなさで回帰したのである。
だが、こうも終始一貫しないのも珍しい。普天間の県外移設勢力にとっては好ましい態度変更だが、ホントかいなと疑いたくなる、信用できない印象を与えかねない。
そして2012年8月31日公表の大阪維新の会を全国展開するための次期衆院選挙用マニフェスト(選挙公約)「維新八策最終案」でも、沖縄基地問題に関して、〈日本全体で沖縄負担の軽減を図るさらなるロードマップの作成〉のみの記述にとどめている。
いわば普天間の県外移設の姿勢を堅持してる。総選挙用マニフェストなのだから、猫の目は見納めとなるはずだが、「維新八策最終案」2012年8月31日公表から1カ月も経たないうちの2012年9月23日の大阪維新の会第2回政策公開討論会。
橋下大阪市長「(沖縄県名護市辺野古以外の)代替案が僕にはない。(県内移設の場合には大阪)維新の会として県民にお願いに行く」(別毎日jp)
猫の目は見納めではなかった。このようにコロコロと政策を変える政治家としての無節操をどう表現したらいいのだろうか。
大阪維新の会第2回政策公開討論会から5日後の2012年9月28日に日本維新の会を正式に発足させている。
そして前述したように今年5月に下地幹郎代表の沖縄県地域政党「そうぞう」と沖縄県米軍普天間飛行場の同県名護市辺野古への移設推進を盛り込んだ政策協定をに締結したのに続いて、普天間基地の辺野古移設を前提とした態度で6月3日、沖縄の負担軽減を目的に八尾空港への沖縄オスプレー飛行訓練一部受け入れ検討を記者会見で公表、6月6日午前、安倍晋三、菅官房長官と会談、受け入れ検討を提案し、現在に至っている。
八尾空港受け入れ検討が真に沖縄の基地負担軽減を目的としていると言ったとしても、普天間の基地本体の移転に関しては県外だ、県内だとコロコロと態度を変える終始一貫しない無節操を示してきた中でのことで、基地負担軽減のみが終始一貫しているからといって、基地本体無節操を免罪し、解消することが果たしてできるだろうか。
普天間の基地本体を県外移転できない身代わりとして残された基地負担軽減への熱意ということをあり得るし、慰安婦発言のダメージを払拭するための沖縄基地負担軽減のクローズアップということもあり得る。
後者だとすると、既に触れたように参院選に向けたイメージ回復という意味合いも出てくる。