20年前に日本主導で始まったアフリカ開発会議(TICAD)の第5回会議が6月1日から3日間、横浜市で開催された。この会議でアフリカが日本にとっての援助対象国という位置づけから投資や貿易の相互交通性を持たせた対等なパートナーへの位置づけへと変化したという。
それだけアフリカが、格差問題や貧困問題を内包させていながら、政治的・経済的に力をつけてきたことを意味する。
大体が今回の会議のテーマ自体が「躍動のアフリカと手を携えて」となっていって、対等なパートナーシップ(友好的な協力関係)を両者関係に置いている。
当然、安倍晋三も6月1日のオープニングスピーチで対等なパートナーシップの位置づけを謳うことになる。
安倍晋三「日本とアフリカは、いまや、『よきパートナー』であることさえ超え、より多く、『コ・マネジャー(共同経営者)』です。『コリーグ(同僚)』であって、『コ・ワーカー(仕事仲間)』なのです。互いに成長し合い、それによって、世界を成長させる仲間になりました。
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より一層、ダイナミックなアフリカへ向け、ハンド・イン・ハンド、手に手を携えて、いっしょに駆け抜けよう。アフリカの未来は、明るく、日本とパートナーシップを組むアフリカは、もっと明るいのである」――
要するに安倍晋三は日本とアフリカとの間のウィン・ウィンの関係(互恵関係)の幕開きを高らかに宣言した。直径2メートルもあるような大きなくす玉を割って色取々の色紙の紙吹雪と共に「日本とアフリカはウイン・ウインの関係」と大書した垂れ幕をこれ見よとばかりに世界に向けて披露したといったところなのだろう。
だがである。5月17日(2013年)、日本アカデメイアで「成長戦略第2弾スピーチ」と題した講演は「世界に勝つ」をテーマとしていた。
日本の優れたシステムや技術を「日本から世界に展開する」と言い、「世界の技術や人材、資金を日本の成長に取り込む」と、日本と世界との発展的な相互依存関係の構築によるウィン・ウィンの関係(互恵関係)を謳いながら、「世界で勝って、家計が潤う」と宣言している。
「世界に勝つ」とは日本を世界の頂点に置くことの謂(いい)であるのは断るまでもない。共に勝ってウィン・ウィンの関係を築く対等性を目指すのではなく、ウイン・ルーズの関係(日本一人勝ち)のみを目指す、日本を頂点に置いた世界との上下関係性を宣言したのである。
さらに、「人材も、資金も、すべてが世界中から集まってくるような日本にしなければ、『世界で勝つ』ことはできません」と、「世界に勝てる大学改革」を謳うことで、ウィン・ウィンの関係(互恵関係)とは正反対のウイン・ルーズの関係(日本一人勝ち)を求めている。
さらに「意欲と能力のあるすべての日本の若者に留学機会を実現させ」、「国際的な大競争の時代にあって、『世界に勝てる』人材を育成していきたい」と提唱しているが、そこには「世界に通用する」とする相互性を置いたウィン・ウィンの関係への視点はなく、あくまでも世界に勝つことを目標としたウイン・ルーズの関係への視点に囚われている。
かくこのように安倍晋三が思想とする日本を頂点に置いた世界との上下関係性からのウイン・ルーズの関係欲求からしたら、第5回アフリカ開発会議のオープニングスピーチで言っている日本とアフリカとのあるべきだとする「よきパートナー」の対等関係、「コ・マネジャー(共同経営者)」の対等関係、「コ・ワーカー(仕事仲間)」の対等関係、「互いに成長し合い、それによって、世界を成長させる仲間」という対等関係等々に基づいたウィン・ウィンの関係は前者の関係欲求に反するがゆえに否定要素としなければならない関係性でなければならない。
だが、自らが欲求する「世界に勝つ」ウイン・ルーズの関係性を隠して、堂々と対等なパートナーシップを求めるウィン・ウィンの関係性を宣言した。
今や世界は日本に対して互恵関係を許すことはあっても、日本が「世界に勝つ」ことを許す状況にはない。過去に於いて戦争を手段として一度は目指したものの、許すことはなかった。
しかし安倍晋三の中では「世界に勝つ」を自らの思想としている。でありながら、対等なパートナーシップを基盤としたウィン・ウィンの関係性を口にする。
このご都合主義は欺瞞に彩られている。
このような欺瞞に彩られたご都合主義は他にも見ることができる。日本の戦争の侵略性を否定する歴史認識を自らの思想としながら、安倍内閣として植民地支配と侵略を認めている村山談話を引き継ぐとしている姿勢を代表例として挙げることができる。
このようなご都合主義にこそ、安倍晋三の人となりを見て取ることができる。決してどこまでも通用するご都合主義には見えない。